分析化学/化学分析

2012.05.12

「分析化学のべからず171」

最近、実務的な分析化学の本がちょくちょく出版されるようになりました。そんな中でも「ついに出た!」という感じの本です。
Bekarazu
日本分析化学専門学校 編
「分析化学のべからず171 準備から実験までの“やってはいけないこと”がわかる!」
JIPMソリューション
A5判、192ページ、定価1,890円(税込)

 主要目次(出版社のサイト)
 せんせのブログ(4/18)
 せんせのブログ(4/28)

編者の日本分析化学専門学校は、我が国で唯一の分析化学の専門学校で、桜の通り抜けと分析化学 でご紹介したように、校舎は大阪・造幣局にほど近いところ。一度訪問したことがあります。見学の高校生も白衣を着て、1セント硬貨を金ピカにしたり、きれいな炎を作る実験を体験していました。実験を重視する学校だと思います。

この本は、1項目が1ページにおさめられ、本文は簡潔で文字は大きく、下半分はイラスト、という構成です。イラストは執筆者(10名)の一人が描いておられます。漫画風のユーモラスな絵です。だいたい1時間もあれば楽に全部読めます。

「基本の所作」「実験操作」「器具の扱い」「試薬の扱い」「機器の扱い」の5章で構成されています。
機器の章で取り上げられているものは、液クロ、ガスクロ、分光光度計、原子吸光、赤外分光光度計、pH計、NMRです。

どんな「べからず」が挙げられているか、ふんだんに例を挙げながらご紹介したいところですが、これらの「べからず」の選び方こそがこの本の核心ですので、ほんの少数にとどめ、ネタバレなしにしておきます。

レベル的にはごく基本的なことから書かれており、特に安全面の注意が多いです。分析化学だけでなく化学実験一般の事項がかなり入っています。私にとっては、デシケーターのフタの閉めかた、アセチレンガスのボンベの内部がどうなっているか等の項目が新しい知識でした。また、あいまいになっていた事項の再確認が色々できました。

面白いのが「ティッシュをキムワイプ代わりに使うべからず」です。内容は「キムワイプをティッシュ代わりに使うべからず」だと思いますが・・・。いずれにしても、化学・バイオ系ならニヤリとしてしまう「べからず」ではないでしょうか?

対象読者は、社会人よりは学生向けのように思います。「実験室で大きな声を出すべからず」「実験室で走るべからず」といった項目があります。ガスバーナーがしばしば登場します。一方、手順書の順守・サンプルの取扱い・納期を守る・試薬や消耗品の在庫や交換時期確認といったことは書かれていません。機器については、オートサンプラーに関することと質量分析計に関することは触れられていません。

新人が試験室に配属されてくるこの時期、それぞれの職場で気になることが何かとあるのではないでしょうか。
わかりやすく親しみやすいのが本書の特徴です。心がけたい項目のページを拡大コピーして、月替わりでラボの壁に貼るといった使い方もできそうです。

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2012.01.21

壷から出てきたヘビの正体は?

今週届いた「ぶんせき」の表紙を見て、思わずほっこりうれしくなりました。
分析機器を一通り勉強した人なら、この絵が何を表わすかわかるでしょう。
答えは下のほうに、スクロールすれば見えるようにします。ヒントはインド人。

Bunsekishi
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
では答え。表紙の説明を「ぶんせき」1月号から引用します。

表題「光ぶんせきスネークショー」
グラフィックデザイン:松本堅太郎(株式会社堀場製作所)
この作品は、粘土製作から撮影、編集、そしてレイアウトまで、すべての作業を松本堅太郎氏が一人で行いました。
今回のデザインは、ノーベル物理学賞受賞者であるチャンドラセカール・ラマン博士が、ラマン効果を発見した時の博士の驚きがテーマです。ラマン分光の原理をスネークショーに見たてました。インド人であるラマン博士が笛を吹くと(入射光をイメージ)、壷が振動して(分子振動をイメージ)、3色のヘビ(ストークス散乱、レイリー散乱、アンチストークス散乱をイメージ)が出てきて、博士が驚く(新たな発見)というストーリーです。

ラマン分光の絵なんですね。分子と光と思えば、壷もヘビもかわいいこと!
ヘビのクネクネが短波長の光ほどこまかくちゃんと作られているのも心にくいです。
「ぶんせき」の表紙は一年間同じですから、この表紙の冊子が12回届くことになります。
毎月、こちらで記事の一部のPDFが公開されています:日本分析化学会「ぶんせき」

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2011.10.31

○×問題、誤報はどれか(キログラム原器後の新標準)

昨日、キログラム原器に関する朝日新聞(2011/10/22)の報道が正確でなかったと書きました。(キログラム原器に替わる新標準は?
他のメディアはどう伝えたか気になったのでチェックしてみました。
並べたらなかなか面白い問題集になりました。どれが○でどれが×でしょう? 1号決議に照らして・・・。

日本経済新聞 重さの国際基準、120年ぶり見直しへ 「キログラム原器」から(2011/10/22 10:04)
現時点では記事は削除されているのでGoogleのキャッシュより。

新たな基準には複数の案が浮上しており、加盟国は今後、協調して調査研究を進める。日本の産業技術総合研究所(茨城県つくば市)が研究を進めているレーザー技術を用いた手法も有力案の一つ。早ければ4年後の総会で新基準が採用される。

読売新聞 キログラムの定義、120年ぶり見直しへ

そのため定義の見直しの必要性が指摘されていた。今後は、質量の単位を原子の数、エネルギー量など普遍的な形で定義し、それをもとに分銅を作製する。

産経新聞 「重さ」120年ぶり新基準 高精度測定へ複数案

新たな基準には技術的に異なる複数の案が浮上しており、加盟国は今後、協調して調査研究を進める。日本の産業技術総合研究所(茨城県つくば市)が研究を進めているレーザー技術を用いた手法も有力案の一つ。早ければ4年後の総会で新基準が採用される。

NHK キログラムの定義を見直しへ(10月17日 20:50更新)

それでは、今後検討されている新たな基準とは、どのようなものでしょうか。
これまでのように分銅に頼るのではなく、物理現象に基づいた、より普遍的な国際基準となります。もう少し具体的に言いますと、物理定数に基づいて、物体の原子の数から重さを決める方法などが検討されることになっています。

NHK 「キログラム」国際基準見直し(10月22日 4時6分)
現時点では記事は削除されているのでGoogleのキャッシュより。

今後は、日本の独立行政法人の産業技術総合研究所が進める最先端の研究に基づいた物体の原子の数から重さを決める方法などを用いることで3年後の次の総会に向けて、「キログラム」の新たな基準作りを急ぐことになりました。

答えは(ちょっと甘い採点ですが)
正確:日経、産経、NHK
不正確:読売

ポイントは、「定義」と「基準」のどちらの言葉を使っているか。
今回の総会では、キログラムの定義はプランク定数によることが決議されました。ただし、プランク定数を正確にどんな数値にするかはまだ決まっていません。今後何年もかけて多くの科学者が実験をして値を決めます。
さらに、その値を実験的に求めるためには、原子の数を数えるアプローチも重要です。つまり、産総研の研究も基準作りの一翼を担います。

ついでに言えば、CGPMのプレスリリースで、今までの総会は4年ごとに開催してきたけれどこれからは3年ごとに開くと書かれていますので、「4年後」と書いている産経の記述は間違い。NHKの「3年後」が正しい。

それにしても、新定義はプランク定数に基づくとする決議を明確に書いたのは、四大紙とNHKの中では毎日新聞だけのようです。プランク定数6.62606… ×10-34 Jsの最後のほうの数字がどうなるかよりも、これがキログラム原器にとって代わることのほうが、よほど大事件だと思うのですが。

プランク定数という言葉が難しすぎるなら、「(質量とエネルギーは等価なので)キログラムは光子のエネルギーとして定義されるようになる」でも良いと思います。

検索した中で、シェーマさんが作られたまとめページが光っていました。毎日新聞の記事を的確に選んだ引用。さすがです。
キログラム原器とプランク定数(Togetter)

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2011.10.30

キログラム原器に替わる新標準は?

10月21日にパリ近郊で開かれた第24回国際度量衡総会で、キログラム原器廃止の方針が決議されました。すぐに廃止というわけでなく、第25回総会(2014年)以降になるようです。

何がキログラム原器に替わる質量の新標準になるのでしょう?
この報道をめぐって、朝日新聞と毎日新聞の間に一見食い違いがありました。どちらが正しいのかちょっと調べて、ついでにあれこれ考えました。

 アボガドロ定数かプランク定数か

朝日新聞朝刊(10月22日)の「ニュースがわからん!キログラム原器 なぜ廃止なんじゃ」(Web版)では次のように書かれています。

ホ 質量の新しい定義は、どうするんじゃ?

A 検討されている有力な方法が二つある。一つは、純度の高いケイ素の結晶に含まれる原子の数を正確に数え上げ、一定数をもって1キログラムと定義する方法。ケイ素は半導体材料として研究が進み、純粋で大きな結晶を作りやすいから選ばれた。日本と米国、英国、ドイツなどが協力して研究を進め、原子の数をどれだけ正確に数えられるか精度を競っている。

ア もう一つは?

A 非常に精密なてんびんをつくり、コイルに電流を流した際に生まれる磁場の力と、分銅を正確に釣り合わせる。コイルの動く距離とスピード、電流と電圧を極めて精密に測り、1キログラムを定義する。米英で研究が進められているよ。

これらのうち「原子の数を正確に数え上げ、一定数をもって1キログラムと定義」とは、アボガドロ定数を使うことを意味します。

毎日新聞の紙面は私は読んでいませんが、ウェブでは次の記事が掲載されています。国際質量基準:200年ぶり見直し ゲンキがなくなる キログラム原器ですが…(2011年10月22日 東京朝刊)

質量の単位「キログラム」を定義する国際基準が約200年ぶりに見直される。目安となる人工物を使ってきたが、ミクロの世界を記述する量子論に登場する「プランク定数」をもとに決めるという。21日までパリで開かれていた国際度量衡総会で検討が始まった。

つまり、新しい基準を朝日新聞は「未定」毎日新聞は「プランク定数」と書いています。いったいどっち?

 本家のサイトを読んでみたら

国際度量衡局(BIPM)のサイトを読んでみました。結論的には毎日新聞が正確のようです。
1号決議の中で、新しい定義が次のように提案されています。(2ページの最後のほう、大雑把に意訳しました。)

・まず133Csの放射の周期から秒を定義する。
・次に真空中の光の速さcからメートルを定義する。
・そしてプランク定数hは正確に6.62606… ×10-34 ジュール秒と定義する。(…のところは数桁の数字)

アボガドロ定数は使わないようです。しかし、どうしてこれで質量を定義したことになるのでしょうか?

 プランク定数と質量の関係

ここからの説明は、中央公論新社「<はかる>科学」の中の「第2章 キログラムの再定義」(藤井賢一)を参考にしています。
高校の物理で「エネルギーと質量は等価」と勉強しました。静止質量mの物質のエネルギーE
 E = mc2
と表せるのでしたよね。
この物質と同じエネルギーEを持つ光子を考えると、そのエネルギーは、やはり高校で勉強したとおり、振動数νにプランク定数hをかけたものです。
 E = hν
これら2つの式をνについて解くと
 ν = mc2/h
となります。mが1キログラムならν = c2/hですから、

1キログラムは周波数がc2/hヘルツの光子のエネルギーと等価な質量である。
とも表現できます。定義済みの光速とプランク定数で質量を表せるのですね。

 アボガドロ定数で定義するとどうなる?

化学を専門にしている人にとっては、アボガドロ定数と質量のほうがはるかに直感的に結びつきやすいでしょう。こちらを使えば、例えばこんな定義になるそうです。

1キログラムは、5.018… ×1025個の炭素原子12Cの質量に等しい。(…のところは数桁の数字)

どうしてこちらが採用されなかったのか。先の本では、「相対論的量子論の立場から、あるいは、電圧や電気抵抗などの電気量を物理的に決める際の実用性の立場から、プランク定数による定義を支持する関係者も多い」と書かれています。

私には物理のことはよくわかりませんが、時間の定義で133Csを使う上、さらに別の原子12Cも出てくるのは美しくないかなという感じがします。プランク定数のように、より普遍的なもので定義するほうがきれいでしょう。

 実験的にはアボガドロ定数が先行?

プランク定数で質量を定義できるようになるためには、プランク定数の正確な値を求めなければなりません。既にキログラム原器に基づいて築かれてきた科学的な知見の体系とずれるようなことがあっては、後に修正を迫られたりするかもしれません。

そのために、実験的に求められるプランク定数と、まったく別の実験で求められるアボガドロ定数、この2つが質量またはエネルギーを介して矛盾なく整合するのを確かめる必要があります。

今のところ、理論値との整合性ではアボガドロ定数が先を行っているようです。
国際度量衡局のプレスリリースでは、目標の不確かさは1kgに対して20μg以下だが、現在求められているプランク定数の不確かさは44μgであると述べています。
(2011/11/2追記 このプレスリリースからリンクしている CODATAの定数調整2010の概要 を読んだら、アボガドロ定数の不確かさは30μg相当、プランク定数の不確かさは36μg相当、両者の値が一致していないからどちらの不確かさも44μg相当にしたと書かれています。これらは相互に計算で導くことができるので、不可分のものとして考えるようです。)

プランク定数の求め方は私にはよくわかりませんが、実験的にアボガドロ定数を求める方法は、極めて高純度の28Si結晶から1kgのシリコン球を切り出し、その体積と結晶構造から28Si原子の数を数えるというものです。2004年から始まった国際プロジェクトでは、日本も大きな役割を果たしているそうです。

朝日新聞の報道はよく読むと、新しい定義を裏づける実験の経過を説明しているようです。どうも、「裏づけ」でなく「定義」と書いてしまったために紛らわしくなったのかもしれません。

 モルはアボガドロ定数で定義されることに

今回の総会では、キログラムの定義以外にもいくつかの再定義が提案されました。モルも再定義されることになります。現在の定義では1モルは「0.012kgの12Cの中に存在する原子の数に等しい数の要素粒子を含む系の物質量」ですが、新しい定義では具体的な個数が述べられます。この定義のためにも、アボガドロ定数を実験的に求めることは重要です。

新しい定義が採用されたら、12Cのモル質量は、現在のようにぴったり12 g/molではなくなります。12に極めて近い値ですが、ある不確かさを持った値になります。個人的にはなんだか寂しいです。


 ところで1kgの物質のエネルギーって?

最後に、キログラム原器の替わりに、プランク定数を介してエネルギーとして定義される質量単位、それはどんな大きさでしょうか?
E = mc2m = 1と光速(1秒に30万キロメートル。つまり3 × 108m/s)を代入すると、9 × 1016ジュールです。
私たちが1日に食べる食事がだいたい2000kcalとすると、1 cal = 4.2 J なので、約8.4 × 106ジュール。物質1kgのエネルギーは、私たちの食事の約1010日分、約3000万年分ということになります。
また、あまり使いたくない例えですが、広島型原爆のエネルギーは約5 × 1013ジュールだそうですから、1000個分以上となります。

こんな途方もない大きさのエネルギーが、あの手のひらサイズのかわいい分銅に取って代わるわけですね。直感的には、炭素原子からの定義のほうが親しみが持てたかも…と、やはり化学派の私は若干アボガドロ定数からの定義に未練があるのでした。

<参考文献>
阪上孝、後藤武 編著「<はかる>科学 計・測・量・謀…はかるをめぐる12話 (中公新書)」中央公論新社 (2007) 目次(分析化学のおすすめ本)

無料で読めるPDFファイルなら
日高洋、ぶんせき、2005, 72 「アボガドロ定数はどこまで求まっているか」

(2011/10/31 追記)
プランク定数の単位に「秒」を付け忘れていたので付けました。「原子質量」と書いていましたが「モル質量」に改めました。

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2011.05.22

国際分析科学会議(ICAS2011)公開講座

5月22日から26日の日程で、国立京都国際会館において国際分析科学会議 (ICAS2011)が開催されます。初日の今日は 公開講座 が開かれたので行ってきました。
第1部は高校生や大学生を対象に最先端分析機器を体験できる企画が行われました。私が参加したのは第2部の講演会から。第3部は、歓迎レセプション(中止)が予定されていた時間帯に組まれた特別企画(福島原発関連)でした。
Icas1
Icas2

第2部 『社会を支える分析科学』 ~著名研究者からのメッセージ~
「The Challenge of Sustainability」 Richard N.Zare氏(スタンフォード大学)
「緑色蛍光たんぱく質の誕生」 下村 脩氏(ウッヅホール海洋生物学研究所)
「電子顕微鏡でカーボンナノチューブを見つける」 飯島澄男氏(名城大学・産総研・NEC)

第3部 『追加特別企画』
「福島第一原子力発電所事故による環境の放射能汚染:過去の放射能汚染と比較して」廣瀬勝己氏(上智大学・埼玉大学)

Zare先生はクリントン政権下で科学顧問を務めた方とのことで、主にエネルギーの視点から、持続可能な社会をいかに築くかという話でした。政治経済的な観点に固まることなく、「化学が鍵」と断言。化学を志す人向けの語りでした。二酸化炭素分子の逆対称伸縮の物まねが面白かったです。宴会の小ネタになりそう。

下村先生の業績については改めて説明するまでもないですが、オワンクラゲからの蛍光たんぱく質の抽出と構造解明の話はやはりすごいです。クラゲ2万匹から抽出したというGFP溶液の実物を持ってきておられて、会場の照明が落とされたら、ペンライトよりずっと強く光りました。その明るさに聴衆は感嘆しました。

飯島先生はカーボンナノチューブの発見者です。電子顕微鏡の画像を動画として見せるスライドが多く、生物でもないのにこんなに動きがあるのかと驚きました。それから、X線回折の説明では、中国刺繍を取り出して、レーザーポインタの光を透過させ、天井に投影すると回折像が!こんな実演もあるのですね。

このように各先生ともちょっとしたパフォーマンスがあり、スライドは画像が多く親しみやすい内容でした。第2部までは高校生も多く聴いていて、特に下村先生に積極的に質問していました。

第3部の廣瀬先生の講演は、既に公開されているデータのまとめでした。過去の大気圏核実験、チェルノブイリ原発事故、海洋汚染で起こった放射能汚染と福島第一原発の事故による汚染を比較するものです。私にとって新しかった話は次のとおりでした。

・大規模な核実験による放射性物質は成層圏に打ち上げられ、1年程度循環する。
・循環した放射性物質はいずれ降下するが、降下量は中緯度地域で多い。特に降雨量の多いところで多い。従って過去の核実験において日本付近は世界的にも多量の降下物があった。
・気象研究所は1957年から放射性降下物を観測しているが、1963年をピークに下がってきている。ただし中国による核実験とチェルノブイリ事故のときは一時的に上昇した。(チェルノブイリ事故でさえ、過去の核実験のトレンドと比較すれば少量でしかないことが、グラフを見るとよくわかる。)
・福島の原発事故後の空間線量率は放射性ヨウ素と放射性セシウムでほぼ説明できる。(この他の核種が少ないことを意味しますので安心材料です。)
・チェルノブイリの汚染地図に同縮尺の福島の汚染地図を重ね合わせると、福島の汚染範囲の小ささがよくわかる。(これは気がつきませんでした。チェルノブイリの汚染範囲が広いとも言えますが。)

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2011.05.07

「SI単位系」っておかしくないですか

国際単位系またはSIと同じ意味で「SI単位系」とする言葉使いをときどき見かけます。これはおかしいのでは? というのが今回のテーマです。

私は「当然おかしい」と思ってきました。しかし最近、科学用語の使い方についてかなり厳密な姿勢で書かれた書籍の中でこの言葉が使われているのを見て自信が揺らいでしまい、ちょっと記事にしておく気になりました。

まず、おかしいと考える理由です。
SIはフランス語 Le Système International d'Unités (*)の略称ですから、Sは「系」を意味します。ということは、「SI単位系」は「国際系単位系」となり、重複します。

このことを指摘した意見がネット上にないかと探したら、Wikipediaの 「国際単位系」のノート にありました。

「SI」という略語自体がフランス語で「国際単位系」という意味なので、「SI単位系」は「国際単位系の単位系」という「Mt.FUJI-san」「Houryuji Temple」みたいな重複した表現になり、百科事典としては好ましくないと思いました。ウィキペディアでは「NHK」も「日本放送協会」、「JR東日本」も「東日本旅客鉄道」としてますから、「国際単位系」でよいと判断しました。るがこむ 14:50 2003年3月29日 (UTC)

この後にも議論が続いていて、なかなか興味深いです。

Wikipediaのノートでは「SI単位系」に対して否定的な意見が優勢なようですが、ネット上でフレーズ検索すれば、この言葉が多数ヒットします。また、アマゾンのサイトで検索したら、少なくとも4冊、この語を書名に使った本が見つかりました。

私の仲間内でちょっと話題にしたら、重言は案外定着してしまうケースがあるという話になりました。
例えば「排気ガス」はもともと重言で、古くは「排気」か「排ガス」だったそうですが、現在は広辞苑にも載っており違和感はないとか。
私自身が使っている言葉でも「S/N比」は重言かもしれません。「SN比」「S/N」で足ります。
さらに、頻度は少ないですが「HIVウイルス」という言葉も見かけます。HIVのVはウイルスの意味ですから重なっていますね。

公的な文書では「SI単位系」は使われませんが、これから広がっていくのでしょうか。私は今のところ「SI単位系」と聞くと気持ち悪さを感じる派です。皆さまいかがでしょう。

これを機会にSIについておさらいしたい方にコンパクトな資料:
「国際単位系(SI)は世界共通のルールです」パンフレット完成(産総研)

もう少し突っ込んでおさらいできる解説:
量の表しかた(入門講座 化学分析のしかた)(「ぶんせき」2011年2号掲載)

* Le Système International d'Unités の Système の e に付いている綴り字記号は「アクサングラーヴ」、d'Unités の e のは「アクサンテギュ」というらしいです。(これらの文字が表示されない方のために。)

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2011.05.03

分析士2段試験(液体クロマトグラフィー)

日本分析化学会が設けた新資格「分析士」について、昨年 分析有段者! で紹介しました。

トップをきって実施された液体クロマトグラフィー分析士初段の試験(2010年10月)では合計300名弱の方が資格を取得されたとのことです。登録者名簿や試験の参考問題は 分析士認証制度のページ に掲載されています。

この資格に興味を持つ方もおられるでしょうが、学会のサイトには今後の予定について今のところ掲載されていません。そこで、学会の情報誌「ぶんせき」の記事から拾ってご紹介します。分析士の資格は学会の会員でなくても取得できます。

液体クロマトグラフィー分析士2段試験

「ぶんせき」2月号の「お知らせ」欄に実施案内が載っています。
ただし、受験資格は初段資格保有者のみです。
日時 2011年6月5日(日)14時~16時
会場 受験申込者に通知
受験料 6,000円
登録料 3,000円
2段資格のイメージ
・HPLC装置とそれぞれのパーツの内容や原理の理解が十分にある。
・HPLCを用いた試験を、SOPに沿って、正確な操作を行うことができる。
・簡単な部品の交換が自分でできる。

今後の予定

中村洋会長(分析士認証委員会委員長でもある)が「ぶんせき」2月号p.114に書かれた記事によれば

2011年10~11月 液体クロマトグラフィー分析士初段試験
2011年12月 LC-MS分析士初段試験
2011年度内 イオンクロマトグラフィー分析士初段試験

とのことです。その後も分野は拡充される見込みです。

あれこれ

第1回の初段試験の問題は全50問で、満点は1名だったそうです。(株)三菱化学技術研究センターの矢田信久さんという方で、体験記が「ぶんせき」4月号に掲載されています。満点とはすごいです。

ところで、主に利用する分析手法が1~2種類に限られるユーザーの場合は、初段・2段・・・とグレードアップしていくのも励みになりそうですが、3つ以上を利用するユーザーにはちょっと負担が大きいかもしれません。
例えば私の場合、液クロ、ガスクロ、LC-MS、GC-MS、IRの5つは日常的に使います。段位は5段回、飛び級は認められない、それぞれ受験料+登録料が約1万円・・・となると、自己負担でチャレンジする気にはちょっとなれません。

TOEICのように点数制にするとか、飛び級受験を認めるとか、受験回数が無駄に多くならない制度設計のほうが利用しやすいかもしれません。

そのかわり、これまたTOEICのように「有効期限5年」といった条件を付けてもいいかもしれません。分析手法は日進月歩ですから、期限があるのはむしろ当然のように思います。

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2011.04.06

日中農薬残留分析交流会セミナー(2011)講演要旨集配布

中国産の農産物は、日本の食卓で大きな比重を占めるようになりました。日本の企業が中国に農産物の検査拠点を持つ例も増えています。

「日中残留農薬分析交流会」は、2008年11月に日本の農薬残留分析研究者の有志十数名による中国視察を初年度として設立されました。日本または中国でセミナーを開催したり、農産物の生産・流通・検査現場の見学ツアーを実施したりしています。

最近では2011年2月9日に東京都渋谷区でセミナーが開催されました。その要旨集が送料実費のみで配布されていますのでお知らせします。この会はまだ自前のウェブサイトを持っていません。
Jpnchina
「残留農薬分析における最近の話題 -2011日中農薬残留分析交流セミナー- 講演要旨集」
 A4版 190ページ
 配布可能数 20冊

目次-------------------------------------

<2011年セミナー資料>

コーヒー輸入における残留農薬の現状と課題
 石光商庫株式会社 石脇智広

生薬・漢方薬中の残留農薬分析における現状
 東京都健康安全研究センター 永山敏廣

中国における農薬管理制度及び残留農薬分析法について
 東海コープ事業連合会 斎藤 勲

加工食品中の残留農薬分析法について
 国立医薬品食品衛生研究所 根本 了

<企業によるプレゼンテーション>

<中国側参考資料(2010年シンポジウム)>

漢方薬中の農薬残留検査技術研究発展
 上海市食品薬品検験所漢方薬天然薬物室 王 柯

農薬残留分析の信頼性保証
 上海市食品薬品検験所 毛秀紅

中国農薬管理制度及び残留安全標準制度
 中国農業部検定所残留室 簡 秋

農産品農薬残留検査方法
 中国農業部蔬菜品質監督検験測試センター 劉 粛

<日中残留農薬分析交流会について>

目次ここまで-----------------------------

2011年セミナーの中に、厚生労働省の「加工食品試験法Ⅰ」「加工食品試験法Ⅱ」の解説があります。

また、2010年シンポジウムの資料が再録されています。中国の残留農薬規制、検査体制、モニタリングの実施状況などがわかります。中国からの演者ですが資料は日本語です。ただし見覚えのない熟語や字体がところどころに出現します。
中国でも日本と同様真剣に分析をしている様子がわかります。

要旨集をご希望の方は下記へ連絡してください(できるだけE-mailで)。送付方法を案内していただけます。
ただ、ちょっとお願いですが、この会は分析機器や試薬会社からの広告料で印刷費用などをまかなっているようですし、残留農薬分析の学術的交流が目的ですので、分析に携わらない方の請求は控えていただければと思います。

連絡先
林 純薬工業株式会社 マーケティング・商品企画部内
日中農薬残留分析交流会・事務局
〒540-0037 大阪市中央区内平野町3-2-12
TEL: 06-6910-7290    FAX: 06-6910-7340
担当:田代彩子さん
E-MAIL:a-tashiroアットhpc-j.co.jp
(アットを半角の@にしてください。)

2011/9/23 追記
配布可能部数がなくなったので配布は終了したとご連絡をいただきました。

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2011.02.02

ヘリウムがなくなる?

ガスクロマトグラフィーの利用者にとっては気になる記事です。ナショナルジオグラフィック日本版 2011年2月号に、次のように書かれています。

しかし、米国学術研究会議(NRC)によれば、ヘリウムは枯渇しつつあるという。現在、世界中で利用されているヘリウムのほとんどが米国産だ。米国は1960年代にヘリウムの備蓄を始めたが、96年になって、備蓄している全てのヘリウムを2015年までに売却することを決めた。

その後は、ロシアやアルジェリア、カタールといった産出国が、世界の市場を支配することになるだろう。ただし、こうした国々のヘリウムも40年ほどで底をつくと言われている。

今日もガスクロのキャリアガスとしてヘリウムを使っている私は焦りました。
ヘリウムって、空気の中に無尽蔵に含まれているんじゃないの? 備蓄とか底をつくとかどういうこと?

この記事にはヘリウムの生産法が書かれていない。ネットで検索して、次のようなページを見つけました。

ヘリウムのつくられ方(一般社団法人 日本産業・医療ガス協会)

「ヘリウムは空気中にはごく微量しか含まれていないため、空気から分離することは経済的ではありません。天然ガスの井戸から採取される成分は主にメタンですが、時々ヘリウムを0.5%~1%程度含むガスが出る井戸があります。このガスを分離してヘリウムをつくる方法が、商業ベースで行われています。」だそうです。

ヘリウムって地下資源だったんですか! それは知りませんでした。

液クロでは2年ほど前にアセトニトリル不足が起こって難儀しました。ヘリウムの枯渇はそこまで差し迫った問題ではないようですが、気になります。

ヘリウムを消費する分析装置はいくつかあります。NMRでは超伝導磁石を液体ヘリウムで冷却します。液体ヘリウムは価格が高いので、その外側を液体窒素で冷却する仕組みだったと思います。
それから、かつて液クロの移動相の脱気のためにヘリウムガスでバブリングする方法がありました。もったいない使い方です。あれが出回った時期はそんなに長くなかったような。今ではデガッサーが普通です。

それにしても、なぜ天然ガスの井戸からヘリウムが出るのでしょうか。天然ガスの起源が古代の生物であるならば、生物がヘリウムを蓄積したりするものでしょうか?
と思って検索したら、天然ガスには「無機起源説」もあるようです。
地球深部に大量の炭化水素があるそうですが、それは地球創生期に隕石によって取り込まれた、あるいは地球深部のマントルの中で岩石と水が反応して生成された、といった説のようです。隕石に起源があるならヘリウムが含まれるのも不思議でない気がします。

天然ガスができるまで(財団法人天然ガス導入促進センター)

宇宙から来たのかもしれないヘリウム。ガスセーバーを確認ながら大事に使いましょう。将来的には、キャリアガスは水素への代替がさらに進むのかもしれません。

2011/2/3 追記

y_ohtaさんからコメントをいただきました。放射性の元素も起源だそうです。そういえばα線はヘリウムの原子核ですね!

「HeはUやThなど放射壊変によるα線起源の4Heと、地球形成時に地球内部に取り込まれた3Heの2種類が地下に眠っています。地下資源としてどちらが多いのか知りませんが、同位体分析によって4が多ければ前者、3が多ければ後者が集まったものだと思います。
天然ガスと一緒に、というのは単純にガスが溜まる場所に一緒にHeが濃集されただけなのかなという気がします。」

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2010.12.22

「分析展」「科学機器展」合同展の名称募集

2010年から合同で開催されるようになった「分析展」と「科学機器展」。その統一名称を募集するそうです。
条件は「国際的に通用する統一名称として、アルファベットを用いていること」。
こう聞けば、業界人の多くは ピッツコン (Pittsburgh Conference) に対抗する名前を考え始めることでしょう。

私はピッツコンに行ったことがありませんが、なんとも言えず軽やかで未来的な名だと思います。これに匹敵する印象的な名称があるのか?
ちょっと楽しみです。

安易にピッツコンをもじれば、幕張で開催されるから「MAKKON」とか。意味もなくかわいいかも。

募集期間は
平成23年1月20日(木) ~ 1月31日(月) 17:00受付終了
(はがきの場合の締切は、1月30日(日)の消印有効)

詳しくは
「分析展」「科学機器展」合同展の新しい統一名称を募集します!

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