分析化学/化学分析

2019.05.24

サイレントチェンジとバーチャルタンデムMS(!)

今回のキーワードは「サイレントチェンジ」、そして「バーチャルタンデムMS」です。

先の土日に北九州市で開催された第79回分析化学討論会に行ってきました。
学会名の看板を撮影するのは忘れましたが、これは会場(北九州国際会議場)の外観です。小倉駅直結の便利な場所で海に面しています。当日はあいにく低気圧が近づいていて強風が吹いていました。

Photo

産総研計測標準研究部門の津越敬寿さんとは2年前に分析化学会近畿支部のセミナーで知り合ったのですが、とても面白い着想をする方で、3回もこのブログでネタにさせていただきました[1-3]。今回も何か面白い話が聞けないかと、懇親会でお姿を探しました。

期待通りうかがうことができた話によれば、
「最近サイレントチェンジが問題になっています」
とのことです。
サイレントチェンジ? 初めて聞きました。

製造業で、納品される部品や原料の素材がこっそり安いもの等に変更されることだそうです。メーカーが知らない間に耐熱性や絶縁性が変化するのですから、重大な事故やリコールに結びつきかねないと、素人にも想像できます。
検索したら経済産業省が2017年にウェブサイトを作って注意喚起していました。
サイレントチェンジに注意

いかにも分析化学の出番です。津越さんたちはサイレントチェンジへの対策としても使用できる質量分析計について発表するとのことだったので、ポスター[4]を見に行きました。
内容は、以前から津越さんたちが研究しておられる「イオン付着イオン化(IA)質量分析法」[2]に関することです。今回のポイントは、IAに加えて電子イオン化(EI)と光イオン化(PI)も可能な、3つのイオン化法を兼ね備えた質量分析計を試作したことです。筆頭発表者の三島さんの許可をいただいて装置構成図を掲載させていただきます。

Photo_1

3つのうちIAとPIは同時測定が可能、さらにEIでの測定も行うことで、試料に含まれる有機化合物を網羅的にスクリーニングできるとのことです。こちらはスペクトル例です。(上からIA、PI、EIのスペクトル、EIについてはNISTライブラリから)

Photo_2

津越さんによれば
「僕は『バーチャルタンデムMS』と呼んでるんですよ。IAでリチウムイオン付加分子を見て、PIでフラグメントイオンが見られます」
とのことでした。

なるほど!
PIについては、
「GC/MSで手軽に分子イオンが見える」
との触れ込みに期待したものの、フラグメンテーションが起こる物質も少なからずあることにやや失望した経験があります。PIとIAが同時に可能であることを利用して、PIで起こるフラグメンテーションを逆に役立てるという発想ですね。

で、本当に「バーチャルタンデムMS」と呼べるかについては、額面通り受け取るわけには行きません。タンデムMSでは質量分離した後のイオンをさらに壊すのに対して、この試作装置は分離せずに壊すわけですから。

でも「バーチャルタンデムMS」という呼び名にはちょっと浮き立ちます。同じ呼び方は、開裂の程度が異なる測定を組み合わせた手法全般に対して可能です。
GC/MSのイオン化電圧は70 eV固定の機種が多いですが、LC/MSでは可変の装置が多いですよね。シングルのMSであっても、低い電圧でイオン付加分子を、高い電圧でフラグメントパターンを、同時に観測することが可能です。
最近廉価で取り扱いが簡易なシングルMSが出てきていますが、これを「どうせシングルMS」と考えるか「バーチャルタンデムMS」と考えてみるかで、装置の値打ちが違って見えてきませんか?

「そうだ バーチャルタンデムMS、やろう。」
と思って装置に向かえば新しい発見があるかもしれません。また津越さんから面白い話が聞けた学会でした。

ところで会話でのMSの発音は「マス」です。この件についても当ブログで書いています[3]。

[1] 「技能試験」「標準物質」の用語に疑問(2017.05.27)
[2] GC不要論!?(2017.06.18)
[3] 質量分析(計)のことをマスと呼びたいっ!(2018.01.10)
[4] 三島有二, 津越敬寿「有機化合物の迅速スクリーニング分析のためのダイレクトインレットプローブ-マルチイオン化質量分析装置の試作開発」第79回分析化学討論会, 2019.5.18-19, 北九州市

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2018.09.22

分析化学会&質量分析学会 合同講演会

Godosympo 9月12~14日に仙台で開催された日本分析化学会第67年会に行ってきました。

部分的にしか参加できませんでしたが、聴講した一つは14日の日本質量分析学会との合同講演会です。私は両方の学会の会員になっており、両者がどのような関係を持とうとしているのか興味がありました。

時間は1時間で、両学会の歴史や研究領域などについて、質量分析学会の高山光男会長及び分析化学会の岡田哲男会長が、それぞれじきじきに講演されました。そして最後に産総研の津越敬寿さんが両学会の組織や学術集会の開催方法、用語の違いなどについて講演されました。

どちらの学会も会員数が減っているとのことで、合併の話題も上がりました。しかしそれはうまく行かないだろうとのことで、雑誌の編集やイベントの共同開催などで協力していくそうです。また岡田会長によれば、分析化学会には現在21もの研究懇談会があるのに質量分析研究懇談会が無いので、設立を模索したいとのことでした。研究懇談会は外部への窓口の役割も持っており、無いと不都合だそうです。

意外だったのは、質量分析学会の設立が分析化学会のわずか1年後、1953年だったということです。失礼ながら、そのように歴史のある学会とは知りませんでした。私が日常的にGC/MS装置を使い始めたのは1980年代後半。質量分析は数ある分析法の中でも新しい手法だと思っていました。

しかしよく考えてみれば、質量分析そのものの始まりは100年以上前と教科書に書いてあったような・・・

質量分析学会の歴史が長いというより、むしろ分析化学会の歴史が短いと言えるかもしれません。なにしろ分析化学の歴史は化学の歴史と言ってもいいくらいなのですから。

日本化学会の設立は1878年だそうです。分析化学会は、日本化学会会長であり日本学術会議会長でもあった亀山直人氏の強い要請により1952年に設立されたそうです。
翌年に質量分析学会が設立されたわけですが、いずれも日本で戦後の復興と発展が加速しつつあった時代のニーズに応じたものだったのでしょう。
これまで知らなかった学会の歴史を学べた講演会でした。

なお、コーディネーターの津越敬寿さんは両学会でご活躍で、当ブログでもそのユニークな御意見を3回も記事にさせていただいています。

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2018.09.11

分析化学会の女性Analyst賞をいただくことになりました

公益社団法人 日本分析化学会が今年から「女性Analyst賞」を新設し、最初の2名の受賞者の一人に選んでいただきました。たいへん光栄で恐縮しています。
明日から東北大学で開催される第67年会で授賞式があります。
表彰内容は ぶんせき2018年8号 に掲載されていて、ウェブでも読むことができます。
これまで一緒に仕事させていただいた皆様、推薦してくださった分析化学会近畿支部の皆様、その他たくさんの関係者の皆様に深謝します。

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2018.01.21

pHをペーハーと読むのは誤り(JISでは)

Ph
個人的には「ペーハー」が好きです。
発音しやすい、響きが美しい、紛らわしい類似語がない、言うことありません。

しかし2012年の環境計量士(濃度関係)国家試験でこんな問題が出題されました[1]。

「JIS Z 8802 pH測定方法」に規定されているpH測定方法に関する以下の記述の中から、正しいものを一つ選べ。」

回答の選択肢は5つ挙げられていて、その一つが
「pHはピーエッチ又はペーハーと読む。」
でした。実はこの選択肢は間違いです。JIS Z 8802には
「pHはピーエッチ又はピーエイチと読む。」
と規定されています。

つまり2012年以降に環境計量士試験を受験した方たちは、過去問として「ペーハーは誤り」と勉強しているわけです。

MSをマスと読まないことについては、質量分析学会の用語集(最新版)[2]でもMS/MSの項目でエムエスエムエスの読みを付けるに留まっており、マスを直接否定する文言はありません。

しかしペーハーに関しては国家試験の選択肢で誤りになっているわけで、さすがに抵抗できない気がします。私が「ペーハー」の読みを使うことで、それに慣れた人が将来JIS関係の国家試験を受ける場合不利になる可能性だってあるからです。

そういうわけで、私は業務上はできるだけピーエッチと言うようにしています。

しかし分析の新人が「ペーハー」と聞いて理解できずに困る場面も考えられるので、入門書[3]の執筆ではJISの説明をした上で、
「ドイツ語読みのペーハーも一部で使われています。」
と書きました。表現に非常に気を使いました。

よく見ると冒頭の環境計量士試験の問題文でもJIS規定の範囲内と絞った書き方です。JISを離れればペーハーは間違いではありません。私の好みはペーハーの方ですから、他の人がペーハーと言うのは心地よく聞いています。

[1]日本計量振興協会 "環境計量士(濃度関係)国家試験問題 解答と解説 2.環化・環濃 平成24年~26年", コロナ社 (2014)
[2]日本質量分析学会 "マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)"
http://www.mssj.jp/publications/books/glossary_01.html
[3]津村ゆかり "図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版", 秀和システム (2016)

画像はPd4Pic Clipartより

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2018.01.10

質量分析(計)のことをマスと呼びたいっ!

「マス」という言葉。質量分析をやっている人なら聞いたことがあるはずです。普通に使っている人も多いでしょう。
質量分析(mass spectrometry)または質量分析計(mass spectrometer)を表すMSの読みとして使われます。
単独で使われるだけでなく、他の略語と組み合わせても使います。

GC/MS → ガスマス または ジーシーマス
LC/MS → 液マス または エルシーマス
MS/MS → マスマス
TOF-MS → トフマス

MSと関係が無い人も、これらの語で「エムエス」でなく「マス」と発音するとどんなに便利で聞き取りやすいか想像がつくのではないでしょうか?

こんなに有用なのですが、「マスという言葉を使ってはいけない」と言われたことがある人、聞いたことがある人もいるはずです。
私が知っている最も詳しく強力な主張は、2007年に日本質量分析学会の機関誌に掲載された文章[1]です。

確かに禁止論にも一理あるのですが、非常に便利な言葉ですし、分析の新人が聞いて理解できるほうが良いだろうと考え、2016年執筆の入門書[2]ではコラムとして「マス」を紹介しました。
しかし一抹の後ろめたさのようなものを抱いてきたのも事実です。

ところが昨年の記事(5/276/18)でも引用させていただいた津越さんが、非常に興味深い意見を日本分析化学会の機関誌に書かれました[3]。

日本質量分析学会用語集では,MSをマスと読まないようにとしているが,mass spectrometryの略がMSであるように,日本語でのペクトロメトリーの略であるから,マスは真っ当な略語である。

「マス」の語に市民権を与えようと主張されているのです!
この心意気に私は大いに共感しました。ご本人に確認したところ、この説は津越さんのオリジナルで今回が初出だそうです。

感動のあまり、このブログで紹介すると共に、私の意見も付け加えたいと思います。

率直なところ、日本語の略語の作られ方としてマとスの組み合わせでマスになるかといえば、ちょっと無理があるような気がします。

ナス型コルベン → ナスコル
メスフラスコ → メスフラ
パーソナルコンピュータ → パソコン

のように2音節を組み合わせて4音節にする略語が典型的であり、1音節を組み合わせた略語はかなり特殊ではないでしょうか。

一方で、日本語では頭文字の組み合わせでなく冒頭部分を抜き出す略語も一般的です。

スーパーマーケット → スーパー
携帯電話 → 携帯
コンビニエンスストア → コンビニ
リハビリテーション → リハビリ

ですから、「マス」は「マススペクトロメトリー」の冒頭を抜き出した語と考えるほうが自然な気がします。
分析化学に関連する語でも、あくまで口語ですが、

ラマン分光分析(装置) → ラマン
赤外分光分析(装置) → 赤外
エバポレーター → エバポ

といった使い方がされています。
どの程度公式な場面まで認められるかは議論の余地があるでしょうが、少なくとも日常語として「マス」を使うことに支障は無いのではないでしょうか。

津越さんの一文に大きな勇気をもらいました。さて、今日もガスマスを使って仕事してきます。

2018/1/12 追記
MSをマスと読まないとの記述が日本質量分析学会用語集のどこにあるか探しましたが、第3版のウェブ版[4]、冊子版[5]とも見つけられませんでした。第2版以前の記述かもしれません。

[1]吉野健一 "目から鱗のマススペクトロメトリー 第10回 「マス」と「MS」? 「マス」って何ですか??", Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan, 55(4), 298-309 (2007).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/massspec/55/4/55_4_298/_article/-char/ja/
[2]津村ゆかり "図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版", 秀和システム (2016).
[3]津越敬寿 "入門講座 分析機器の正しい使い方 熱分析", ぶんせき, 2017(12), 568-574 (2017).
http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201712nyuumon.pdf
[4]日本質量分析学会 "マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)"
http://www.mssj.jp/publications/books/glossary_01.html
[5]日本質量分析学会 "マススペクトロメトリー関係用語集(第3版)", 日本質量分析学会 (2009)

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2017.06.18

GC不要論!?

「ガスクロマトグラフィーは不要になる。残る用途は異性体の識別程度」という、ちょっと過激な予測です。

前記事で書いた興味深い講演をされた津越敬寿さん、その後の懇親会でもう一つ面白い話をうかがいました。

「ソフトなイオン化を使えばGC/MSのGCは不要でMSだけあれば十分になると思う。フラグメンテーションが起こらなければマススペクトル上のピークはすべてイオン付加分子のピークとなり、基本的に化学成分が1ピーク1成分として情報分離されるから。GCは手間と時間がかかるがMSだけなら短時間で結果が得られる」
とのことです。

通常のGC/MSではハードなイオン化(電子イオン化)を行うので1物質から多数のフラグメントイオンができます。こういうマススペクトルがいくつも重なったら解析は非常に難しくなります。
1物質が1ピークになるなら、それはまさにクロマトグラムのようなものでしょう。

津越さんの論文を2報教えていただいて読んでみました。「イオン付着イオン化」というソフトなイオン化を利用して、植物油脂の種類やコーヒー豆の品種を推定するという内容です。どちらの論文にもGCが不要であることの優位性が述べられています。

確かに、GCに注入できる溶液を調製するにはそれなりの手間がかかり、1回の分析にも数分から数十分かかります。ライナーやカラムやMSとの接続部などのメンテナンスも必要です。
別のソフトなイオン化であるDARTがこれだけ普及したのも「試料をかざすだけ」という圧倒的な手軽さゆえ。

共存物質がイオン化効率に影響しないか、定量性はどうなのか、フラグメンテーションが無いとスペクトルライブラリが利用できない・・・といった疑問もすぐに思い浮かびます。でも、GCが不要な分析でGC/MSをやって手間とコストを余計にかけているケースは結構あるのかもしれません。

津越さんとの会話から、「クロマトは当たり前」という自分の固定観念と、ある程度の時間がどうしても必要なクロマトの宿命に気がついたのでした。

参考文献
三島有二ら,「ソフトイオン化質量分析法と多変量解析法を用いる植物油脂の定性分析」,分析化学, 60, 409-418 (2011)
奥村亮平ら,「ダイレクトインレットプローブ/イオン付着イオン化質量分析法を用いるコーヒー豆のアラビカ種及びロブスタ種の識別と配合比率の推定」, 分析化学, 63, 825-830 (2014)

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2017.05.27

「技能試験」「標準物質」の用語に疑問

日本は母国語で自然科学をかなり深く学習できる恵まれた国です。
しかし用語の日本語訳に疑問があると不都合が生じるという話。昨日参加したセミナーで聞きました。

5月26日に龍谷大学で、分析化学会近畿支部の提案公募型セミナー「分析化学試験報告書の信頼性-刑事司法における分析化学鑑定書」が開催されました。
セミナー全体がたいへん密度が高い内容でしたが、ここでは産総研計測標準研究部門の津越敬寿さんが最後に話されたワンポイントをご紹介。

まず「技能試験」の語。外部精度管理として実施されるproficiency testingの訳語です。
津越さんによれば、これは分析試験所がどの程度正確に分析結果を出せるかを明らかにするために行われるもので、「試験」と言っても合否判定のためのものではなく、PDCAサイクルのCheckに相当するものとのことです。
それなのに「試験」の語が使われているために入学試験のように受け取られがちで、秘密裏に試験所間で打ち合わせて結果の数値をそろえるような「談合」が疑われるケースもあるとか。これでは分析の改善に結びつきませんね。

中国語では「能力験証」(験証は日本語の検証に相当)と訳されており、この方がproficiency testingの本質をよく表しているとのことでした。

次に「標準物質」の語。これはreference materialの訳語です。
referenceは通常は「参照」と訳される場合が多い語なのに、なぜか標準物質に関しては「標準」と訳されている。その結果どうなるか。
海外での学会発表などで「標準物質」を「standard material」と誤って表現する学生がいたりするそうです。

「技能試験」「標準物質」の2つ、言われてみれば確かにそうかも・・・と思いました。
ではどうしたらいいのでしょう?
津越さんからは特に示されませんでした。

私の考えとしては、現状の日本語訳に問題があったとしても、複数の訳が存在する状況よりはましではないかと思います。信頼性関係は特に複数の訳語が流通している用語が多いので、これ以上増えるのは勘弁してほしいというのが正直な気持ちです。
そういうわけで、「試験」「標準」の語から生じがちな誤解に気をつけて使うようにすればいいかなと思います。津越さんの講演は、気をつけるきっかけとなりました。

2017/6/7 追記

「proficiency test」としていましたが津越さんにご指摘いただき、「proficiency testing」に改めました。ありがとうございました。

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2017.04.19

液クロの「HILIC」はどう略してこうなるのか

「ヒリック」は液クロのユーザーにとって一般教養といっていいほど普及してきました。

HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)は順相モードの一つです。古典的な順相が主に低極性の化合物に使われるのに対して、HILICは高極性の化合物に適しています。
私も普通のC18カラムを使う逆相で保持が不満という分析種でHILICを試してみたことがあります。その時は安定化までの時間に難があってルーチンへの採用にまで至りませんでしたが・・・

ところで親水性相互作用クロマトグラフィーの元の語はhydrophilic interaction chromatographyですが、これをどう略したらHILICになるのか?というのが今回のテーマです。

普通に略せば
Hydrophilic Interaction Chromatography
でHICとなります。

「LC/MS, LC/MS/MS Q&A100 虎の巻」には
HydrophILic Interaction Chromatography
の部分が略語の元であると書かれています。(p.131)

ネットで簡単に検索できる情報源としては

PC HILIC(資生堂)

HPLC基礎講座 第5回 分離モードとカラム(2)(日立ハイテクサイエンス)

が見つかりました。

日本工業規格の「JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」にもHILICの語は収載されていますが、残念ながらどの部分の略かは書かれていません。

ところで、これらの資料とは異なる情報が「LC/MS,LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決」に書かれています。
hydropHILIC interaction chromatography
の部分が略語の元だそうです。(p.109)

そうか~!ここもHILICになってる!
と感心してしまいました。

この説に気づいたのはごく最近です。私の「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版」では第1刷で略語の由来を示していませんでしたが、増刷で多数派のHydrophILicを索引に書きました。
hydropHILIC説の信憑性は今後注意してみたいと思います。なんだか楽しい異説です。

ここで紹介した書籍の著者・刊行年・ネット書店リンク等はこちら
LC/MS,LC/MS/MS Q&A100 虎の巻
LC/MS,LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決
LC/MS,LC/MS/MSの基礎と応用

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2016.09.06

「LC/MS, LC/MS/MS Q&A100 虎の巻」

Lcms
LC虎の巻シリーズ(2001年から2006年に刊行)は液体クロマトグラフィーの定番解説書です。このほどLC/MSについても虎の巻が出ました。

この本がどんな本でどんな人に合いそうか、ご紹介します。

LC虎の巻シリーズは「虎の巻」が入門編で「龍の巻」「彪の巻」…と内容が高度になっていますが、「LC/MS, LC/MS/MS Q&A100 虎の巻」は入門編ではありません。ある程度LC/MSに関する知識を持っている人向けの内容です。

2014年刊の「LC/MS,LC/MS/MSの基礎と応用」、2015年刊の「LC/MS,LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決」に続く姉妹編の3冊目とのことです。
つまり、この虎の巻は前2冊の内容を理解している人向けと言えます。初学者の方にはまず「基礎と応用」を読むことをお勧めします。

何しろ、こういう質問から始まっています。

Q1 「エンドフィッティング」「カラム栓」などの呼び方をされる部品は、「カラム」に含まれるのでしょうか?

Q2 送液ポンプの「プランジャー」はメーカーによっては「ピストン」とも呼ばれているようですが、どちらが正しいのでしょうか?

単に分析手法としてLC/MSを見るのでなく、全編「LC/MS愛」にあふれています。

個人的には次の質問が「そうだったのか!」でした。

Q14 最近、「四重極型質量分析計」などの表現が「四重極質量分析計」などのように「型」が取れたものに変わっていますが、その背景・理由は何ですか?

Q4 「質量分析」と「質量分析法」は同じものを指すのでしょうか?

マニアックとも言える設問は前半に多く、後半は意外に基礎的な質問が並んでいます。

Q93 四重極質量分析計の原理
Q94 飛行時間質量分析計の原理
Q95 イオントラップ質量分析計の原理
Q98 「選択イオンモニタリング」とは?
Q99 「選択反応モニタリング」とは?

という具合です。

全100問の設問をネットで読めないかと探しましたが、残念ながら 出版社の書籍紹介 には大まかな目次だけが掲載されています。
上の例のような用語の厳密な解説が含まれていますので、多くの人には何問か「そうだったのか!」という設問と答えが見つかると思います。

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2016.08.10

質量分析のイオン化は「電離」と呼ばない?

何年か前のことですが、GC/MSについて話していた時に相手がイオン化のことを「電離」と言いました。

「質量分析では『電離』とは言いませんよ」
「じゃあ、なんて言うんですか?」
「イオン化と呼んでますね」

話し相手は、化学系ではあるが質量分析は専門外というかたでした。
質量分析をずっとやっている人は「電離」という言葉は思いつかないかもしれません。(少なくとも私はそうです。)

電子イオン化の場合は分子から電子がはじき出されてイオンになりますから「電離」とも言えそうですが、実用されるイオン化はどんどんソフト化していて、電子捕獲やプロトン付加など、何かがくっつくイオン化がメジャーになってきています。
「電離」の語はプラスのものとマイナスのものに分かれる意味になりますから、イオン化全体を包含できません。

ところで、誰が、いつごろ、「電離」という日本語を作ったのでしょうか?もともとはどんな語の訳語だったのでしょうか?

元の語がionizationだったとすると、「離」という漢字を使ってしまったのは残念だったのかもしれません。イオンになることを表すなら「電化」のほうが良かったかも?

そう考えながら「文部省 学術用語集 化学編 増訂2版」(1986)を紐解いてみました。
「電離」の項には2つの英語が書かれていました。
 電離 electrolytic dissociation
 電離【物理】 ionization

なるほど。化学では、NaClがNa+とCl-に分かれるような現象を電離と呼び、物理学ではイオン化を電離と呼ぶということですね。

同じ用語集で「ionization」も引いてみました。
 ionization イオン化【化学】
 ionization 電離【物理】
とありました。

どうやらionizationを電離と訳すのは物理学の分野のようです。物理学では何かがくっついてイオン化する現象をあまり扱わないのかもしれません。だから「電離」で良いのかもしれません。あくまで想像ですが。

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