分析化学/化学分析

2017.06.18

GC不要論!?

「ガスクロマトグラフィーは不要になる。残る用途は異性体の識別程度」という、ちょっと過激な予測です。

前記事で書いた興味深い講演をされた津越敬寿さん、その後の懇親会でもう一つ面白い話をうかがいました。

「ソフトなイオン化を使えばGC/MSのGCは不要でMSだけあれば十分になると思う。フラグメンテーションが起こらなければマススペクトル上のピークはすべてイオン付加分子のピークとなり、基本的に化学成分が1ピーク1成分として情報分離されるから。GCは手間と時間がかかるがMSだけなら短時間で結果が得られる」
とのことです。

通常のGC/MSではハードなイオン化(電子イオン化)を行うので1物質から多数のフラグメントイオンができます。こういうマススペクトルがいくつも重なったら解析は非常に難しくなります。
1物質が1ピークになるなら、それはまさにクロマトグラムのようなものでしょう。

津越さんの論文を2報教えていただいて読んでみました。「イオン付着イオン化」というソフトなイオン化を利用して、植物油脂の種類やコーヒー豆の品種を推定するという内容です。どちらの論文にもGCが不要であることの優位性が述べられています。

確かに、GCに注入できる溶液を調製するにはそれなりの手間がかかり、1回の分析にも数分から数十分かかります。ライナーやカラムやMSとの接続部などのメンテナンスも必要です。
別のソフトなイオン化であるDARTがこれだけ普及したのも「試料をかざすだけ」という圧倒的な手軽さゆえ。

共存物質がイオン化効率に影響しないか、定量性はどうなのか、フラグメンテーションが無いとスペクトルライブラリが利用できない・・・といった疑問もすぐに思い浮かびます。でも、GCが不要な分析でGC/MSをやって手間とコストを余計にかけているケースは結構あるのかもしれません。

津越さんとの会話から、「クロマトは当たり前」という自分の固定観念と、ある程度の時間がどうしても必要なクロマトの宿命に気がついたのでした。

参考文献
三島有二ら,「ソフトイオン化質量分析法と多変量解析法を用いる植物油脂の定性分析」,分析化学, 60, 409-418 (2011)
奥村亮平ら,「ダイレクトインレットプローブ/イオン付着イオン化質量分析法を用いるコーヒー豆のアラビカ種及びロブスタ種の識別と配合比率の推定」, 分析化学, 63, 825-830 (2014)

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2017.05.27

「技能試験」「標準物質」の用語に疑問

日本は母国語で自然科学をかなり深く学習できる恵まれた国です。
しかし用語の日本語訳に疑問があると不都合が生じるという話。昨日参加したセミナーで聞きました。

5月26日に龍谷大学で、分析化学会近畿支部の提案公募型セミナー「分析化学試験報告書の信頼性-刑事司法における分析化学鑑定書」が開催されました。
セミナー全体がたいへん密度が高い内容でしたが、ここでは産総研計測標準研究部門の津越敬寿さんが最後に話されたワンポイントをご紹介。

まず「技能試験」の語。外部精度管理として実施されるproficiency testingの訳語です。
津越さんによれば、これは分析試験所がどの程度正確に分析結果を出せるかを明らかにするために行われるもので、「試験」と言っても合否判定のためのものではなく、PDCAサイクルのCheckに相当するものとのことです。
それなのに「試験」の語が使われているために入学試験のように受け取られがちで、秘密裏に試験所間で打ち合わせて結果の数値をそろえるような「談合」が疑われるケースもあるとか。これでは分析の改善に結びつきませんね。

中国語では「能力験証」(験証は日本語の検証に相当)と訳されており、この方がproficiency testingの本質をよく表しているとのことでした。

次に「標準物質」の語。これはreference materialの訳語です。
referenceは通常は「参照」と訳される場合が多い語なのに、なぜか標準物質に関しては「標準」と訳されている。その結果どうなるか。
海外での学会発表などで「標準物質」を「standard material」と誤って表現する学生がいたりするそうです。

「技能試験」「標準物質」の2つ、言われてみれば確かにそうかも・・・と思いました。
ではどうしたらいいのでしょう?
津越さんからは特に示されませんでした。

私の考えとしては、現状の日本語訳に問題があったとしても、複数の訳が存在する状況よりはましではないかと思います。信頼性関係は特に複数の訳語が流通している用語が多いので、これ以上増えるのは勘弁してほしいというのが正直な気持ちです。
そういうわけで、「試験」「標準」の語から生じがちな誤解に気をつけて使うようにすればいいかなと思います。津越さんの講演は、気をつけるきっかけとなりました。

2017/6/7 追記

「proficiency test」としていましたが津越さんにご指摘いただき、「proficiency testing」に改めました。ありがとうございました。

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2017.04.19

液クロの「HILIC」はどう略してこうなるのか

「ヒリック」は液クロのユーザーにとって一般教養といっていいほど普及してきました。

HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)は順相モードの一つです。古典的な順相が主に低極性の化合物に使われるのに対して、HILICは高極性の化合物に適しています。
私も普通のC18カラムを使う逆相で保持が不満という分析種でHILICを試してみたことがあります。その時は安定化までの時間に難があってルーチンへの採用にまで至りませんでしたが・・・

ところで親水性相互作用クロマトグラフィーの元の語はhydrophilic interaction chromatographyですが、これをどう略したらHILICになるのか?というのが今回のテーマです。

普通に略せば
Hydrophilic Interaction Chromatography
でHICとなります。

「LC/MS, LC/MS/MS Q&A100 虎の巻」には
HydrophILic Interaction Chromatography
の部分が略語の元であると書かれています。(p.131)

ネットで簡単に検索できる情報源としては

PC HILIC(資生堂)

HPLC基礎講座 第5回 分離モードとカラム(2)(日立ハイテクサイエンス)

が見つかりました。

日本工業規格の「JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)」にもHILICの語は収載されていますが、残念ながらどの部分の略かは書かれていません。

ところで、これらの資料とは異なる情報が「LC/MS,LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決」に書かれています。
hydropHILIC interaction chromatography
の部分が略語の元だそうです。(p.109)

そうか~!ここもHILICになってる!
と感心してしまいました。

この説に気づいたのはごく最近です。私の「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版」では第1刷で略語の由来を示していませんでしたが、増刷で多数派のHydrophILicを索引に書きました。
hydropHILIC説の信憑性は今後注意してみたいと思います。なんだか楽しい異説です。

ここで紹介した書籍の著者・刊行年・ネット書店リンク等はこちら
LC/MS,LC/MS/MS Q&A100 虎の巻
LC/MS,LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決
LC/MS,LC/MS/MSの基礎と応用

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2016.09.06

「LC/MS, LC/MS/MS Q&A100 虎の巻」

Lcms
LC虎の巻シリーズ(2001年から2006年に刊行)は液体クロマトグラフィーの定番解説書です。このほどLC/MSについても虎の巻が出ました。

この本がどんな本でどんな人に合いそうか、ご紹介します。

LC虎の巻シリーズは「虎の巻」が入門編で「龍の巻」「彪の巻」…と内容が高度になっていますが、「LC/MS, LC/MS/MS Q&A100 虎の巻」は入門編ではありません。ある程度LC/MSに関する知識を持っている人向けの内容です。

2014年刊の「LC/MS,LC/MS/MSの基礎と応用」、2015年刊の「LC/MS,LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決」に続く姉妹編の3冊目とのことです。
つまり、この虎の巻は前2冊の内容を理解している人向けと言えます。初学者の方にはまず「基礎と応用」を読むことをお勧めします。

何しろ、こういう質問から始まっています。

Q1 「エンドフィッティング」「カラム栓」などの呼び方をされる部品は、「カラム」に含まれるのでしょうか?

Q2 送液ポンプの「プランジャー」はメーカーによっては「ピストン」とも呼ばれているようですが、どちらが正しいのでしょうか?

単に分析手法としてLC/MSを見るのでなく、全編「LC/MS愛」にあふれています。

個人的には次の質問が「そうだったのか!」でした。

Q14 最近、「四重極型質量分析計」などの表現が「四重極質量分析計」などのように「型」が取れたものに変わっていますが、その背景・理由は何ですか?

Q4 「質量分析」と「質量分析法」は同じものを指すのでしょうか?

マニアックとも言える設問は前半に多く、後半は意外に基礎的な質問が並んでいます。

Q93 四重極質量分析計の原理
Q94 飛行時間質量分析計の原理
Q95 イオントラップ質量分析計の原理
Q98 「選択イオンモニタリング」とは?
Q99 「選択反応モニタリング」とは?

という具合です。

全100問の設問をネットで読めないかと探しましたが、残念ながら 出版社の書籍紹介 には大まかな目次だけが掲載されています。
上の例のような用語の厳密な解説が含まれていますので、多くの人には何問か「そうだったのか!」という設問と答えが見つかると思います。

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2016.08.10

質量分析のイオン化は「電離」と呼ばない?

何年か前のことですが、GC/MSについて話していた時に相手がイオン化のことを「電離」と言いました。

「質量分析では『電離』とは言いませんよ」
「じゃあ、なんて言うんですか?」
「イオン化と呼んでますね」

話し相手は、化学系ではあるが質量分析は専門外というかたでした。
質量分析をずっとやっている人は「電離」という言葉は思いつかないかもしれません。(少なくとも私はそうです。)

電子イオン化の場合は分子から電子がはじき出されてイオンになりますから「電離」とも言えそうですが、実用されるイオン化はどんどんソフト化していて、電子捕獲やプロトン付加など、何かがくっつくイオン化がメジャーになってきています。
「電離」の語はプラスのものとマイナスのものに分かれる意味になりますから、イオン化全体を包含できません。

ところで、誰が、いつごろ、「電離」という日本語を作ったのでしょうか?もともとはどんな語の訳語だったのでしょうか?

元の語がionizationだったとすると、「離」という漢字を使ってしまったのは残念だったのかもしれません。イオンになることを表すなら「電化」のほうが良かったかも?

そう考えながら「文部省 学術用語集 化学編 増訂2版」(1986)を紐解いてみました。
「電離」の項には2つの英語が書かれていました。
 電離 electrolytic dissociation
 電離【物理】 ionization

なるほど。化学では、NaClがNa+とCl-に分かれるような現象を電離と呼び、物理学ではイオン化を電離と呼ぶということですね。

同じ用語集で「ionization」も引いてみました。
 ionization イオン化【化学】
 ionization 電離【物理】
とありました。

どうやらionizationを電離と訳すのは物理学の分野のようです。物理学では何かがくっついてイオン化する現象をあまり扱わないのかもしれません。だから「電離」で良いのかもしれません。あくまで想像ですが。

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2016.07.23

「分析化学のおすすめ本」について

7年前からはてなダイアリーを使って 分析化学のおすすめ本 を公開しています。これは化学分析の実務にたずさわる方のための入門書を私なりに努力して選んだものです。

最新の分析機器・分析手法ほど進歩のスピードは速く、高価な書籍を購入しても情報は古くなってしまいます。一方で、分析機器メーカー・試薬メーカー・学会などが提供する無料のセミナーやウェブ情報がかなり充実してきています。

そのため 「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版」 では、これらの無料情報の利用を勧め、参考文献としては基本的に各分析法の日本工業規格(JIS、無料で閲覧できる)を挙げています。(掲載したJISのリスト

でも独学で各分析法の原理や利用法や注意点を包括的に学びたい場合、やはり書籍は有効な媒体です。たいていの執筆者は各分析法のユーザーでもありますから、ユーザー視点での使用感や注文が書かれていたりして、実感のわく知識が得られます。

そういうわけですから、真剣に勉強したいと思った分野についてはぜひ1冊は本を購入してください。そして、積ん読するのでなく、流し読みでもいいからできるだけ早く目を通すことをお勧めします。情報が一番新しいのは買ったその時なので。

分析化学のおすすめ本 の作成方針は次のとおりです。

1.分析実務に携わる人向け
 分析装置の開発や分析原理の研究等をする人向けではありません。コメントも実務の観点から付けています。

2.刊行日の新しいものから順に表示
 Amazonが記載している発売月(日)または奥付の日付の順に表示しています。発売月までの情報に基づいたものは日付が「00日」になっています。

3.右サイドバーに「カテゴリー」を表示
 「よくわかる分析化学の基本と仕組み」の目次に対応したカテゴリー分けをしています。ここをクリックすれば「前処理」「質量分析」などのカテゴリーごとの本を探せます。

4.「よくわかる分析化学の基本と仕組み 第2版」でおすすめした書籍には のタグを付けています。入門書が2冊以上ある場合は使いやすさや記載項目で選びました。入門書が1冊しか出版されておらず選ぶ余地がなかった分野や、入門書が1冊もなくて高度な書籍を選んだ分野もあります。

5.各々の紹介記事には自動的にAmazonの商品ページへのリンクが挿入されています。

(この記事は2009年8月16日作成の 「分析化学のおすすめ本」を公開 を大幅に修正して作成しました。)

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2016.06.21

「MRM」は使ってもよいか

MS/MSを利用している人にしか関係がないので相当マイナーな話になりますが、「MRM」もまた微妙な立場の言葉です。

日本質量分析学会の用語集には「多重反応モニタリング (multiple reaction monitoring) という語は推奨されない」と書かれています。

これに対してIUPACの2013年の勧告では非推奨とまでは書かれておらず、「連続反応モニタリング(津村注:MSnのこと)と混同しないこと」と注意書きがあるだけです。

雑誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」の「質量分析に関する刊行物で避けるべき用語と略語」ではMRMは「避けるべき語」です。そして「IUPACは許容しているが」と注が付いています。
この注が付いている語は計8個ですが、日本でよく使われている語はGC-MSとLC-MSとMRMくらいです。RCMがIUPACに刃向かって(?)使用に反対する・・・それなりの理由があるのでしょう。

ところが実は私はMRMという言葉が好きです。

「選択反応モニタリング (selected reaction monitoring, SRM)」を使うことが推奨されていることを知りつつ、公式な文章以外ではついMRMと言ってしまいます。語呂がいいからでしょうか。どうもやめられません。
IUPACの勧告によればMSnと混同しなければいいので、三連四重極型の装置を使う限り問題ないことになりますが、この語は今後どうなっていくのでしょう。

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2016.06.15

m/z は「質量電荷比」ではない件

日本国内のルールと国際的なルールが異なっている件で前回まで長い連載になってしまいました。

こういう例はまれです。基本的に国内のルールは国際的なルールに合わせるよう努力されていますので、ほとんどのルールは国内外で一致しています。

国内外で一致して誤りとされているのに、なかなか無くならない言葉がありますので、知っている人には耳タコでしょうが書いておきます。「質量電荷比」です。この言葉をm/z と同じ意味で使うのは推奨されません。

なぜなのか。日本質量分析学会の 「マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)」 には

「マススペクトルの横軸の量はイオンの質量をイオンの電荷で割った商ではないので」

と書かれています。

ちょっとこれだけではピンと来ないかもしれませんので、もう少し詳しく説明してみます。

例えば分子量100の物質が電子イオン化によって1価のプラスの電荷を持つ100 Da(ダルトン)のイオンになった場合を考えます。

質量を電荷で割った商はどうなるでしょう。1価のプラスの電荷は電子1個の電荷と絶対値が等しい、つまり約1.6×10-19 C(クーロン)ですから、

 100÷(1.6×10-19)= 6.25×1020 (単位:Da/C)

となります。
しかし、このイオンのm/z は100です。数字がまったく違いますね。単位も違います。m/z は無次元量です。

こういうわけですから、質量電荷比という言葉をm/z の意味で使っている人は即刻やめましょう。

【参考】MS学会の用語集より

m/z (m オーバーz):イオンの質量を統一原子質量単位で割り,さらにイオンの電荷数で割って得られる無次元量.表記に際しては,必ず小文字の斜体(イタリック体)で,空白を挿入しないで記述する.電荷数(charge number)および統一原子質量単位(unified atomic mass unit)参照.

注:質量電荷比(mass-to-charge-ratio)という語は推奨されない.マススペクトルの横軸の量はイオンの質量をイオンの電荷で割った商ではないので,質量電荷比ではなくm/z を推奨する.m/z の数値を示す際は,m/z =100のように等号を用いるよりも,m/z 100のような表記を推奨する.また,m/z の単位として提案されているトムソン(thomson, 単位記号Th)は現時点では未公認である.

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2016.06.12

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(11)最終回

Kuchiku1
クロマトグラフィーと質量分析の複合をどう表すか、ここまで書いてきたことを集約し、私のサイトでの運用方針を示したページ ハイフンとスラッシュについて を作りました。

今後私のウェブサイトではGC/MS及びLC/MSの略語を使用し、GC-MS、LC-MS、LC-MS/MSなどは使用しないことにします。

いろいろ調べた中で「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」の姿勢には感じ入りました。他の雑誌はハイフン使用が圧倒的に多い状況の中、この雑誌はGC-MSとLC-MSを「避けるべき略語」に指定して使用をやめさせようとしているのです。

アニメにもなった人気漫画で、主人公が「駆逐してやる!!」と叫んで最大60メートルもある巨人たち(たくさんいる)を絶滅させようとする話があります。
戦闘機や大砲がない世界という設定で、人類は「立体機動」を使って、建物やら大木やらの高さを利用して巨人の急所を狙うのです。

しかし体の大きさが極端に違いますので、人類は苦戦を強いられます。

そんな戦いに勝ち目はないし、私はハイフンが好きなのよというのもいいですし、「ほぅ・・・悪くない」と賛同してみるのもいいかもしれません。
分析化学業界、なかなか面白いではないですか。5年後、10年後はどうなっているのでしょう。次のIUPAC勧告にはどう書かれるのでしょう。

ハイフンとスラッシュの使われ方をウォッチしながら読めば、論文や参考書も参加型アミューズメントになるかもしれません。

Kuchiku2
画像はフリー素材サイトからいただきました。
建物の画像:フリー写真de小旅行 木組みの町並み~ドイツメルヘンの象徴~
森の画像:フリー素材屋Hoshino

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2016.06.11

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(10)

ハイフンかスラッシュかなんて適当にやってるからどちらでもいいよ──というユーザーも多いかもしれません。実際、「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けの認知度は、2009年の用語集刊行以後もあまり高いとは言えません。しかし今後は状況が変わってくるかもしれません。

影響が大きいのは何といってもJISの通則です。

 JIS K 0136:2015 高速液体クロマトグラフィー質量分析通則
 JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)

で使い分けを定めています。今後、2006年改訂の

 JIS K 0123:2006 ガスクロマトグラフィー質量分析通則

が次の改訂を迎える時に使い分けを採用すれば、JISによる使い分け方針は完成です。

JISに規定されるということは、環境計量士などの関連国家資格の試験で出題される可能性があることを意味します。
環境計量士の国家試験はけっこう用語へのこだわりがあるようです。「pH」の読みを問う問題が出されたこともあります(2012年3月実施、濃度関係、ペーハーの読みは×)。私が知る限りでは2013年3月実施の濃度関係の試験中、略号の意味を問う正誤問題で「LC/MS 液体クロマトグラフ質量分析計」という選択肢があります。この回答は○だったようです。まだJISが今の形になる前だったからでしょう。

国家試験で出題される可能性がある以上、関係する大学や専門学校では教育内容に採り入れる必要があると思います。つまり、大学や専門学校の定期試験でも「GC-MSとGC/MSの意味の違いを説明せよ」といった問題が出ることになるかもしれません。

ただしIUPACの2013年勧告では使い分けをしていませんし、(8)に書いた通り、国際的な学術雑誌においては、一つの文書中ではハイフンだけ、もしくはスラッシュだけを、装置の意味でも分析法の意味でも使うのが主流です。ということは、少なくとも将来英語論文を書くような学生には、使い分けしない立場についても説明しなければならないでしょう。

しかし、将来英語論文を書く可能性がまったくない学生ばかりの授業というのはあまり考えられませんので、大学や専門学校ではJISのルールとIUPAC勧告の双方を教える必要があると私は考えます。国家試験さえ受かればいい、論文を書くほどになる頃には本人も自分で情報を集められるようになっているだろう…という考え方もありますが。

そういうわけで 「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版」 では両方のルールについて書きました。

ちなみにこの分野の近刊には「LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用」(2014年)と「LC/MS, LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決」(2015年)があります。どちらの書籍もJISと同じルールのみを掲載し、IUPACの2013年勧告には触れていません。これらの書籍は日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会が編集作業を行っていますので、私のような個人の出版物よりもよほど影響力は大きいです。

このような情勢下でJISの規則のみを知っている新人が入社してくると、これまで通りGC-MSとGC/MSのどちらかを装置・分析法両方の意味で使っている先輩社員に対して「オッサン、古い。ちゃんと勉強していない」と考えるかもしれません。IUPACの勧告、そして国際的な論文誌の動向に照らせば先輩社員の方が合理的なのに…。そして社内で無用の葛藤を生むかもしれません。

それではどうしたらいいのか?
私の結論を次回書きたいと思います。やっと最終回になりそうです。

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