「すべて分析化学者がお見通しです!」

2011.08.10

それでも分析屋ははかり続けるしかない

放射性物質による食品汚染が広がりを見せています。
各界の専門家・非専門家が続々意見や解説を発表し、現在食品分析から離れている私は、追いかけるだけで精一杯です。
ただ、「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」は何年か後に改訂することになると思います。そのときには放射性物質の分析のページを書き加えることになりそうです。
最も短く、最もわかりやすく、それでいてほどよく幅広い範囲の解説を書くために、情報を咀嚼しているところです。

さて、「すべて分析化学者がお見通しです!」の出版の経緯をふり返っています。
今回は分野と著者がどう決まったかについて。

環境食品。この二つは絶対にはずせませんでした。普通に暮らしている人が目にする分析値は、この二つに関わるものが圧倒的に多いからです。
(あと、健康診断や病気のときの検査値もありますが、これはちょっと事情があって対象外としました。)

それから、一般の人の手に届く製品やサービスの多くで、開発や品質管理に分析がからんでいます。それらの代表として、材料系の分析はぜひ入れたいと思いました。

材料にも、プラスチック・電子材料・繊維・化学薬品・コンクリート・・・色々あります。その中で鉄鋼はとりわけ歴史が古く、日本工業規格(JIS)の分析関連規格も鉄鋼業界が主になって作ったものが多くあります。

それから医薬品は情報集約型の産業で、研究開発に多大なお金がかけられ、分析機器も常に最先端のものが導入されています。

これで4分野・著者4人の輪郭ができました。

あと、既刊書でよく取り上げられているのは、考古学や犯罪捜査のように謎解き系の分析です。
これは私が2分野を書くことで、合計5分野になりました。

著者が集まったのは表紙に並んでいる順でした。まず、もともとMS/MSつながりで知り合いだった業界有名人の立木さんに声をかけました。それから、分析化学会つながりで高山さんを紹介していただきました。業界人口が多いはずなのに意外に難航したのが環境の著者探しで、少し遅れて堀野さんにたどり着きました。

4人というのはなかなかバランスの良い人数でした。
どちらかというと高山さんと立木さんは研究寄り、堀野さんと私は現場寄りの発想ですから、2対2で均衡した感じです。
また、執筆会議後のワインを楽しむときも、テーブルにおさまる実に都合の良い人数でした。

分析業界というのは決して明るいことばかりでありませんが、重要なうえに結構面白いんだ!それをわかってもらうように書こう!
と私たちの意見は一致しました。
大震災後の空気の中で読むと、少し緊迫感が足りなく思われるかもしれません。

本の中で私は、「問題発生の2歩くらい手前を察知できるようにコントロールされている状態、そのあたりを分析屋が監視する状態であってほしい」と書きました。

今の原発の状況は、問題が起こるラインがどこなのかがわかっておらず、当然「2歩手前」がどこなのかも不明です。測定値が出ても、それで大丈夫なのか大丈夫でないのか、健康評価の専門家たちの意見が分かれています。はかってもはかっても「不安」な人はゼロにならない状況。

それでも分析屋ははかり続けるしかないのですが・・・

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2011.07.22

本の共著を成功させるには

今までにない形の分析化学の読みもの本。それは単著でないことは明らかでした。取材でなく自分の体験として書くのですから、一人では分析の多様性を語れません。

それでは何人で書くか。Wさんから、編集者としての「苦々しい思い出」に基づくアドバイスを色々もらいました。
(本にはフルネームでWさんへの謝辞を書きましたが、あまり何度も名前を出すとご迷惑かもしれないのでイニシャルにしておきます。)

まず、実際問題、人数は少なければ少ないほど進行はスムーズだそうです。
共著で混乱・破綻するケースはやはりあるようです。その理由は、

  • 転勤
  • 病気
  • だれかの原稿がずっと来ない
  • だれかが音信不通
  • 著者どうしの考え方の違いから人間関係悪化

といったもので、人数が多いほど確率は高まるそうです。

本作りの手順は、「まず共著者を決めてから話し合って構成・項目を決める」と、逆に「主著者が構成・項目を決めてからそれに合わせて共著者を選ぶ」が考えられます。

原稿ができてからの仕上げ段階でも、著者どうしが相互の原稿を読んで意見し合う場合と、自分の原稿以外には口を出さない場合があります。

素人でも想像できることですが、どちらの段階でも、著者どうしが良いチームプレーをできて相乗効果を生み出すなら協同作業のほうが良いのでしょう。それぞれが完全に独立して書いたら、トピックの羅列になって雑誌のようなテイストの本になりがちだそうです。
でも、話し合うことが多いほどトラブルも起こりやすいのでは・・・と、やはり素人でも考えます。

Wさんのアドバイスは、

  • 中心・窓口は必ず一人にしておくほうがうまくいく
  • これは連絡のためでなく、最終的な本の「通し」のテイストを守るため
  • 相互に原稿を読むのも、チェックするのが目的でなく、特定の章や項目が明らかに"浮く"のを防ぐため
  • 共著者の分担を明確にしておく

といったことでした。

それから人数ですが、これは私の気持ちの中で、かなり早い段階から4人と決まっていました。

その理由は単純で、Amazonの書籍検索(たとえば ジャンル:分析化学)では著者の表示が4人までなのです。5人目以下の著者はカットされます。また、本の背表紙に並べて印刷できる人数も4人が限界ではないかと思いました。

理系の仕事をしていると、分担執筆を頼まれたりして一応本を書く機会はそれなりにあります。でも、そのようにして製作にたずさわっても、自分の本という実感はほとんどありません。やはり、Amazonや背表紙に名前が出るあたりが、自分の本として考えられるかどうかの境界では?
こんな理由で、著者は4人と考えました。

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2011.07.16

分析化学の読みもの本

学業や仕事や生活上の必要に迫られて何かを勉強するとき、私は読みもの的な関連本を探します。標準的な教科書を用意するのはもちろんですが、できれば、くつろぎながら読めて、生の手ごたえがあって、その分野の全体像がおぼろげにわかる・・・そんな本があれば教科書の理解が進みます。

分析化学の読みもの本は、そういったきっかけで手に取られるような気がします。分析化学そのものに興味を持つというより、食品や環境の問題に興味があったり、分析関連の資格や仕事をめざしていたりで、半分勉強・半分楽しみで読んでみようと思うものではないでしょうか。

そんな本の中では、分析化学会近畿支部の「はかってなんぼ」シリーズが不動の地位を占めていると言って良いでしょう。

最初の 「はかってなんぼ 分析化学入門」 が出版されたのは2000年。日本分析化学会近畿支部のメンバーが各章を執筆。科学史から説き起こし、ダイオキシン、環境水、表面分析、生薬などの分析を紹介。誤差・単位・濃度などについての解説も。レベルは高いですが各章が10ページ余にまとめられていて読みやすい本です。
続いて 「はかってなんぼ 学校編」 は、学校教育の面から分析化学を解説。「はかる」を哲学する話で始まり、小中高校での分析化学的な内容の取り扱われ方、実験例、実験を行う際の注意点などを紹介。
そして 「はかってなんぼ 環境編」 は、環境分析に特化した内容。CO2、エアロゾル、ダイオキシン、トリハロメタン、農薬、排ガス、海水などの分析について。
「はかってなんぼ 職場編」 は、産業の現場での各種分析を紹介。DNA鑑定によるウナギの産地推定、近赤外分光法によるミカンの味の測定、においの分析、美しい髪をつくるための分析など。田中耕一さんのノーベル賞受賞研究の紹介も。
2004年の 「はかってなんぼ 社会編」 は化学分析以外にも範囲を広げ、「はかる」の切り口で幅広い科学の分野を紹介。ルミネッセンスによる年代測定、地図の作製、心理学による心の測定、気象観測、地震、血液検査なども。ページ数としては海水や湖水の分析の章が多いです。

「はかってなんぼ」シリーズは以上5冊が刊行されています。シリーズではありますが、それぞれが個性的です。

いっぽう日本分析機器工業会は、2001年に 「よくわかる分析化学のすべて」 を刊行しています。専門外の人にも配慮した書き方でわかりやすい。第1章で分析概論(電気分析・光分析・分離分析・X線分析)、第2章で分析例紹介(考古学、南米での大気調査、科学捜査など)、第3章でデータの扱い方という構成です。

堀場製作所コーポーレート・コミュニケーション室の 「「はかる」と「わかる」 くらしを変える分析の話」 は、縦書き。美しいイラストが多数挿入され、親しみやすい誌面。シックハウス、pH測定、導電率測定、オゾン、フロン、ダイオキシン、排気ガス、血液、放射線、ナノテクノロジー、半導体など。分析への熱意が感じられます。

もう一つ、放送大学教材の 「分析によって知る世界」 があります。読みものとして読むのは苦しいかもしれません。かっちりして字が細かいです。考古学、犯罪捜査、食の安全など最先端を紹介。

このように並べると、分析化学の読みもの本は既に多数出版されています。ここにもう1冊増やそうとは、ニッチの中のニッチを狙うようなものでは? とも思えました。

ただ、ここに挙げた本は、個人でなく企業や団体が企画して出版されたものばかりです。私に連絡してきた編集の渡邉さんは、分析化学というより「分析屋」、つまり分析をする職業に着目したのでした。
それから、既刊本は最先端のトピックスを取り上げたものが多いですが、普通の暮らしに関わる分析は、技術としては既に確立したものが広範に繰り返し使われています。そういう分析は研究者にとっては興味が薄いでしょうが、一般の人にとっては身近に感じられるのでは。

すなわち、人を語る、普通の分析を(も)語る、自分の体験として語る―こういう本なら、既刊書になかった価値を生み出せるのではないかと考えました。

ちなみに、上記の本の中で私が気に入っているのは「はかってなんぼ 職場編」です。分析がどう役立つかダイレクトにわかります。放射性核種分析の章もあります。それから「はかってなんぼ 分析化学入門」も好きです。基礎的なことを思い起こさせてくれるからです。

(それぞれの書名は 分析化学のおすすめ本 にリンクしています。簡単な目次やAmazonへのリンクがあります。)

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2011.07.14

世の中には本が多すぎる

2010年の書籍新刊は約7万5千点だったそうです。(新刊点数の推移(書籍)日本著書販促センター

貴重で大切にされる本がある一方で、粗製乱造、2匹目のドジョウ狙い、前著の焼き回し・・・ではないかと感じる本も残念ながら目につきます。「家の中で増え続ける本を思い切って捨てるには」と書かれた本がいくつも出ています。

出版不況と言われながら新刊が多いのはなぜか、私が見聞した範囲で知ったことを サラリーマンと商業出版(11)出版という業界 で書きました。

新刊を出そうという原動力は、著者でも読者でもなく出版社だ―私が1冊目の本を書いて感じたことです。

そう考えれば、化学分析の本の企画に対して編集会議で言われたという「ニッチだ」の意味は、分析業界がニッチという意味でなく、そんなものを取り上げることがニッチだ、という出版社側の営業上の評価だったとわかります。

なるほどなるほど。

しかし、出版社は本を出すのが仕事ですからニッチを狙うのもいいですが、私の本業は分析です。今の時代、言いたいことがあればウェブで言える。出版はたいへんな手間がかかります。しかも紙にして流通させるのは環境負荷を伴います。

その企画が出版に価するならいいですが、既に類似のコンセプトの本があるなら、それらの本を普及させる方が資源の有効利用ではないか―と考えました。というわけで、次回は既刊書の紹介です。

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2011.07.11

ニッチな職業?

皆さんは現在・過去・未来、どんな仕事に就いている(いた・いる予定)でしょうか。その仕事は、他人にひとことでわかってもらえる仕事ですか。

化学分析という仕事は、ときに説明に困りますが、マイナーすぎるわけでもないと思っていました。化学系の人ならこの認識に異論はなかろうと思います。

ところが、世間的にはあまり知られていないようです。

「すべて分析化学者がお見通しです!」を企画した技術評論社の編集者、 渡邉さんが私にメールして来られたのは2年前のことでした。
渡邉さんは実用的な科学本を企画しようと、食品の成分について色々調べていて、私の分析化学のページに行き当たり、興味を引かれたそうです。
「よくある社会的な?安全性の話とは一線を画すサイエンスの切り口で、とても新鮮で、企画にしたいと思った次第です」
とのことでした。

出版の企画というものは、まず社内の会議で通らないと始まらないようです。渡邉さんが企画を出すと、社内の理系の人(化学出身者)は、「分析自体はとても普通に行うものだ」と言い、サイエンス好きな文系の人は「まったくもってニッチだ」という意見だったそうです。

 分析がニッチ! すきま産業!

これには思わず笑ってしまいました。たいていの分析屋は、社会の根幹を支える重要な仕事と信じて働いているでしょう。何度も書いていますが、分析値によって大量の食品が廃棄されたり工場の操業が止まったりします。

分析という仕事が、身近でありながらあまり知られていないことに気づいた渡邉さんは、一般の人にわかりやすく伝えたい、という思いで企画をふくらませたそうです。

本の発売の2週間後に東日本大震災が起こりました。4か月が経っても復興の歩みは遅く、支援の届かなさが歯がゆいです。
中断していた執筆の背景など、これからしばらく書こうと思います。

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2011.05.04

「すべて分析化学者がお見通しです!」正誤表と100点フェア

書籍の発売から2ヶ月半。残念ながら5箇所のミスが見つかりました。申し訳ありません。「すべて分析化学者がお見通しです!」サポートページ に正誤表が掲載されました。幸い軽微なものばかりでした。

Shirisaifair
この本は技術評論社の「知りたい!サイエンス」シリーズの93冊目です。
同じシリーズで、佐藤健太郎さん「有機化学美術館へようこそ―分子の世界の造形とドラマ」「化学物質はなぜ嫌われるのか―「化学物質」のニュースを読み解く」、中西貴之さん「なにがスゴイか?万能細胞―その技術で医療が変わる!」「食品汚染はなにが危ないのか―ニュースを読み解く消費者の科学」などが刊行されています。

出版社によれば、このシリーズは2006年8月に1冊目が出版され、この4月21日に通算100冊になったそうです。
それを記念して全国の下記書店で「知りたい!サイエンス100点フェア」(または50点フェア)が開催されます。大多数の書店は搬入済みとのことです。

詳しい内容は技術評論社サイトの
知りたい!サイエンスシリーズ
に連休明けに掲載されるそうです。
現時点では開催書店の情報がありませんので、ここに載せておきます。
(追記:技術評論社のトピックス に書店リストが掲載されましたのでここで載せていたリストは削除しました。)

冒頭の写真は本日(5月4日)のジュンク堂書店大阪本店のフェアの様子です。MARUZENジュンク堂書店梅田店と紀伊國屋書店梅田本店にも行ってみましたが、まだ陳列されていませんでした。

このシリーズはブルーバックスなどのシリーズよりも判型が大きく、内容も価格も新書でなく単行本仕様となっています。ですからお気軽に何冊でも・・・と薦めるわけにいかないのですが、装丁画が美しいものが多く見るだけでも楽しいです。ジャンルも化学だけでなく生物・物理・数学・医学などいろいろ。興味を引かれるタイトルが並んでいます。書店に寄る機会があったら一目ご覧ください。

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2011.03.10

鋼の火花試験師

薬作り職人さん の感想

「鋼の火花試験」って、名前がかっこいいぞ。

しばらく笑いが止まりませんでした。何だかアニメになりそうな連想がわいてきて。
TsumuRiさんの感想 も鉄鋼分析のところがポイント高かったようです。

この本で一番オリジナリティが高いのは鉄鋼分析ですからねー。環境や食品や医薬品と違って極端に一般向けの情報が少ない。ほとんどの人にとって新鮮でしょう。

火花試験が何かについては、著者紹介・高山さん編 を見てください。

(タイトルは適当に付けたものです。火花試験師という資格はありません。)

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2011.03.09

「悪に巣くう業種」と呼ばれたこともある

製薬会社の品質管理部門勤務の分析屋 TsumuRiさん が、安全性の判断は分析屋の領分であるか否か というエントリーを書いています。畝山さん発「騒ぎを引き起こす分析屋」という業種イメージ関連です。

TsumuRiさんのエントリーには興味深い話題がいくつもありますからまた何度かリンクするつもりですが、今回は、分析屋へのネガティブな言及は別に珍しくない件について。

2年前に 分析屋と「誇らしげな態度」 で、某NPOの公式ブログに、食品検査業界をさして悪に巣くう業種と書かれていたことを取り上げました。

この記事には瀬戸智子さんがトラックバックを付けてくれまして(「技術系サラリーマンの交差点」から、ちょっと考えたこと。)コメント欄には技術開発者さんも書き込んでいます。「『過失による汚染などなどがあって商売が成り立つ分析稼業』の技術開発者」だそうです。

そのとき自分で書いたコメントが今の気持ちにもぴったりなので引用しておきます。

故意または過失による汚染などなどがあって商売が成り立つ分析稼業も結構多いわけですが、そういうものが全部無くなったら何を分析しようかと考えて楽しめる分析屋でありたいものです。

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2011.03.08

フタル酸エステルは環境ホルモンだから規制されたのではない

「すべて分析化学者がお見通しです!」の「第2章 食品を分析する」の中のフタル酸エステルと塩ビ手袋の部分に、小比良さん からtwitterで次のようなご指摘をいただきました。

私もあの部分については少し違和感のようなものを感じました。知らない人が読むと「環境ホルモン」は怖いもので、その使用が分析によってストップしたと読めそうな気がしました。

(twitterはページがいくつにも分かれてしまって全部をリンクするのはたいへんです。この他の部分はecochemさん作成のまとめ 「すべて分析化学者がお見通しです!」@Togetter の3月5日周辺を読んでください。)

小比良さんにダイレクトメッセージでより詳しくご意見をおききしました。たしかに、次のように間違って読まれるかもしれないと思われました。私の見解とともに書いておきます。

A DEHP(フタル酸エステルの一つ)は環境ホルモンだから規制された。
 → 違います!従来どおりの毒性試験の結果から規制されました。
 DEHPの環境ホルモン作用(内分泌かく乱性)は、環境省の報告書でも否定されています。(本の脚注及び参考文献に挙げた 化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応― EXTEND 2010

B やっぱり環境ホルモンは怖いんだ。
 → 違います!人に対して内分泌かく乱性による害が証明された物質はありません。

C (環境ホルモン問題に詳しい人)無用の騒ぎや研究費や製品忌避を生んだ環境ホルモンの規制をいまさら肯定的に取り上げるなんて・・・
 → 前半には賛成しますが、後半は正確でありません。環境ホルモン問題はDEHP溶出発見のきっかけではありましたが、規制そのものは内分泌かく乱性とは無関係です。

このような誤解を生んだのなら私の筆力不足です。ブログでの補足には限界がありますが、誤解があるなら少しでも解いておきたいので強調します。DEHP規制の根拠は、従来の枠組みでの毒性試験です。環境ホルモンとは全然関係ありません。

小比良さん、ご指摘ありがとうございました。

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2011.03.06

分析屋 vs 毒性屋2

twitterやブログで本の感想や意見を書いてくださったみなさん、ありがとうございます。
通常のこのブログの更新ペースは月に1、2回ですが、できる限り頻度を上げてお返事書いていきます。twitterの速度と比べたら亀以下になりそうです。すみません。

前記事「分析屋 vs 毒性屋」にuneyamaさん、Nameさんからコメントをいただきました。
それを読んで、ちょっと書いておきたいと思いました。
もしかしたら、広い世の中には次のような専門家が存在するかもしれません。

  • とにかく論文を出したい。研究業績を出したい。
  • 手持ちの実験機材は各種分析装置のみである。
  • (大学の場合)学生に分析技術を身につけさせるのは有意義である。
  • 何らかの毒性があるもので、環境や食品から検出されるものを分析する。
  • 検出したものの危険性を述べる。(論文でにおわせる程度からマスコミ発表するところまでレベルは様々)
はっきりおことわりしておきますが、このような専門家については、私たちの本でいう「分析屋」とは全く考えません。
分析屋はそれぞれの分野で必要とされて、プロとして分析を行っています。化学分析をする人すべてが分析屋というわけではありません。分析は化学の広い範囲で行われます。例えば合成屋さんも様々な分析をやりますが、あくまで合成屋さんです。

上に挙げたような目的で分析をする専門家は、そもそも目的が「研究(成果)」の方にあるので、分析屋と呼ばれたくないでしょう。たぶんもっとかっこいい○○学者を名乗ると思います。
とにかく、「分析しか実験手段を持っていないから必要性は適当にこじつけて分析する」という専門家を「分析屋」の範疇に入れて考えないでいただきたいです。

ただ、本当に人々の幸せにつながると考えて、必要なことを分析する研究者もたくさんいると思います。見分けるのはなかなか難しいかもしれません。

以上のことはNameさんご紹介のリンクを読んで考えました。
2009-12-22 環境リスク研究の周辺に関する私的考察
この「K」というブログは記事が一つしかなくて背景がまったくわかりませんので、これを根拠にして何か言うのは控えますが、「大いにありうる話」と思いました。

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