先週書いた 「組織の人のblog」という話題 の続き。blogに限らず、ネットで組織の人が発言することに関する意見を整理して、知っている範囲内の過去ログもリンクしておこうと思う。
二分される姿勢
いろいろな人がいろいろなことを書いているが、基本姿勢は主に2通りある。組織の人が発言することに慎重さを求める意見と、あまり規制をかけるべきでない(日本社会の特質から来る「自主規制」も含めて)という意見だ。
規制すべきでないという意見は、どんな立場の人から出てもおかしくない。それに対して、慎重さを求める意見では、まず発言者の立場が明らかにされる(はず)。
というのは、他人が自由意志でする表現に干渉するわけだから、対象となっていない人まで「自分が言われた」と受け取ったり、強制力があるわけでもないのに強制されたと感じる人がいると、ネットでお決まりの反応になりがちだから。
発言者の立場として一番ソフトなのは「私はこのように心がけています。参考になると思う人だけ参考にしてください」だろう。一番きついのは「こうするのが正しい。こうしないやつは社会正義に反している」といった主張の仕方だ。中間に、いろいろな立場がある。
私の姿勢
私はずっと、慎重派の発言をしている。自分が保身を心がけながらネット活動しているから、それを方法論としてまとめると当然慎重なものになる。
しかも、単に「参考になれば」より踏み込んだ干渉をする場合がある。というのは、「組織の専門家がウェブで発言すること」を勧める文章を何度も書いているからだ。これらの文章を読んでサイトを開く気になった人がいるとすれば、私は多少なりとも責任を感じる。あらかじめ予測されるトラブルならできるだけ避けて、快適なネット活動をしていってほしい。
また同業の人に対しては、化学分析業界への不信を招くことは書かないでほしいという気持ちがある。そういうことがあると、私にもデメリットが及ぶ。
それから、すべての組織の人に対して、他業界にまで影響するほど大きな問題は起こさないでほしいという気持ちもある。私自身が所属組織から規制を受けるようになったら困る。
というわけで、私が書く内容には、単なる方法論以上に差し出がましいところがある。しかし、もちろん強制力はないので、うるさいことを言うヤツめと感じる人は、読まないようにしてください。
業種による違い
業界の性質によって、組織の人の発言に慎重さが求められる度合いはかなり違うように見える。問題があってもやり直しのきく業界・娯楽や文化的要素の強い業界・個別構成員の問題が組織全体につながりにくい業界・ユーザーが簡単にサービス等の良否を見分けられる業界ほどオープンなほうへ意見が傾く。逆に、やり直しのきかない業界・人命や財産に関わる業界・組織的に仕事する業界・ユーザーがサービス等の良否を見分けるのが困難で信用が重んじられる業界ほど慎重な意見になる。(ちなみに 私がいる業界の場合 は最大限慎重にならざるをえない。)
それから、「ウチの業界(会社)の情報は漏らしたくない。でも、他の業界(会社)の情報が漏れてくるのは大歓迎」という立場もある。私だってそうだ。私がいる業界と、他業界で扱われている個人情報、これだけが守られるなら、残りはすべてオープンになってもらいたい、というのが本音だ。
どんな問題が考えられるか
「組織の人のネット活動」に慎重な意見が出るのは、なんらかの問題が予測されるからだ。私が考え付く限りでは、些末なものまで入っているが、下記のような問題が起こる可能性がある。(あくまで可能性。)
- 個人的な意見が組織の見解であるかのように受け取られる。(特に行政関連の組織の場合問題。)
- 顧客情報、新製品開発情報など、組織外へ出るべきでない情報が流出する。
- ウェブ上で表現されている道徳性や職業倫理観が特殊で、組織の製品やサービスへの不信感を招く。
- ウェブ上で表現されている専門的技量が低いために、組織の製品やサービスへの不信感を招く。
- 組織内の様子の描写が、組織の製品やサービスへの不信感を招くような内容である。
- 長期間・高密度の情報発信が続くと、本業に専念しているのかと疑われる。(これは、特に給料が税金から支払われる公的立場の場合問題。)
- 組織の資金や勤務時間を使って得た研修、文献、学会等の情報を私的に流すことを問題視される。(公的立場の場合は、むしろ推奨されることかも。)
- たとえ既に公開されている情報であっても、組織として実施した事業内容に当事者の立場で言及するのは情報管理上好ましくないとして問題視される。
他にも色々とありそうだ。
こういう問題の可能性を含みつつも、組織の人が発言する「意義」もあるはずだが、それについてはあまり考えていない。そのうちまとめるかも。
組織のトップの人のblog
「組織の人」って、当然サラリーマンと思い込んでいたが、経営側の人にとっても(経営側だからこそ)重くのしかかってくる問題らしい。前回の記事にトラックバックをいただいた 「Sunの社員ブログ」 (中小企業診断士/ITコーディネータ 春日一秀さんのブログ)によれば、経営者の場合、ブログでの発言が株価に影響を与えたりすることもあるそうだ。春日さんの最近の記事に 社長ブログをひさびさに巡回してみました。というのもある。技術系blogで使えそうな芸風 で紹介した矢澤到さんのコラムも、経営者による情報発信だ。
私が知っている過去ログ
今の時点で知っているものだけピックアップ。
● 専門家は個人の責任で情報発信するな
徳保隆夫さんの記事に対して、多数の人が意見を書いた。徳保さんは丁寧にリンクを張ってコメントしておられて、議論の流れを追いやすい。「極端なタイトルと実名風ハンドルネームと硬派な文体」という道具立てから、普通は関わらないような層まで関わってしまったような気もするけれど(あくまで私見)、だからこそ、各界のかたがたによるそれぞれの発言は興味深い。
ところで徳保さんは 本名で Web サイトを開こうと思う とのことで、現在のサイトの更新頻度は今後激減するそうだ。「私の本名を知らない方も、徳保隆夫という名前から容易に本名を推察できるはず」って、できませんよ。どう検索したらいいんですか。本名を教えてください。
● 匿名かハンドルか
高木浩光さん主宰の Java House メーリングリスト 内での議論にて、YAMADA Takeoさんの発言
だから私は、所属組織を明らかにすべきではないと思うし、所属組織ドメインのメールアドレスで参加すべきではないと考えます。
に対して、高木さん自身が多数回にわたるメールのやり取りをして発言撤回を求められたもの。他の参加者からの意見や体験談もあり、興味深い議論になっている。一参加者の発言に主宰者自身がここまで執拗に撤回を求めるのはなぜ?という印象も持ったのだが、最近の高木さんの日記
6月12日付け を読んで納得した。メーリングリストでは「反論がなければ同意したものとみなされる」「『最後の主張が正しいらしい』と済ます読者がいる」可能性があるらしい。
(余談だが、この日記の後半は崎山伸夫さんの記事への長い反論になっている。内容は技術的なことで私には理解できないが、崎山さんは上記徳保さんの一件でも登場しておられた。)
● 技術系メーリングリストで質問するときのパターン・ランゲージ
結城浩さんの「心がけ」の一つ。肩書き ―― 会社の名前を背負っていることを忘れないように の項がある。
● 真・技術系メーリングリスト FAQ
「私はISO9000シリーズの認定を受けた社会的に品質保証に信用のある企業に勤める者です。そのような会社に勤めている私がメーリングリストでマニュアルを調べればすぐに分かるような初歩的な質問をしても問題はないでしょうか?」といった項目がある。
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