Rf値(TLCの)は何の略?(3)
しかし、Rf値は最初から「retardation factor」だったんでしょうか?
Rf値という言葉を最初に作った人は、「retardation factor」から命名したのでしょうか?
IUPAC勧告 Nomenclature for chromatography (IUPAC Recommendations 1993) を読んでも、この疑問は解決できませんでした。
そこで、Rf値の元の語が書かれている書籍の中で最も古い「薄層クロマトグラフィー」(橋本庸平 著、廣川書店、1963)をひもといてみました。この本のp.5に次のように書かれています。
この方法(沪紙分配クロマトグラフィー)によると溶媒が沪紙上を移動した先端 Solvent front までの距離で試料物質が出発線 Start Line から展開溶媒(ふつう移動相)にともなって移動した距離を除してえられる比率,つまり移動比 Rate of Flow が通常Rf*(またはRf )であらわされる.
これが書かれた時点では、Rf値の元の語は「retardation factor」でなく「Rate of Flow」だったようです。この部分の引用文献は
Lederer, E. and M. : Paper Chromatography (1955) Elsevier Pub. Co.
という夫婦か親子で書いたらしき単行本です。残念ながらこの本の入手法は見つかりませんでした。
他に手がかりが無いか探しました。「薄層クロマトグラフ法 (機器分析実技シリーズ)」(滝谷昭司 他著、共立出版、1985)にクロマトの歴史が書かれています。平面クロマトグラフィーは1944年、ConsdenとGordonとMartinのペーパークロマトの論文が最初のようです。
Biochem J, 38, 224–232 (1944)
にこう書かれています。
However, R is not conveniently measurable in paper chromatograms, so a new symbol, RF is introduced.*
おぉっ! Rf値誕生の瞬間です。これは興奮もの。
R は他の論文からの引用ですが、Fはこの時に付けられたもの。では、どの語から? 定義の式はこうなっています。
RF = (movement of band) / (movement of advancing front of liquid)
この中でfで始まる語はfrontのみです。日本語で言えば「溶媒先端」の「先端」ですね。「Rf値のfはfrontのfだった」との解釈が可能です。
ではRは? 注を読んでみましょう。
* The symbol RF is equivalent to the symbol R used by LeRosen (1942) who apparently received the paper of Martin & Synge (1941) too late to avoid using the symbol R in a different sense.
どうもRはLeRosenが1942年に使った符号のようです。では、Rの元の語は?
その論文はこちらです。平面クロマトでなくカラムクロマトの論文です。
J Am Chem Soc, 64, 1905–1907 (1942)
閲覧は有料ですが1ページ目だけ無料で読むことができます。ありがたいことに、1ページ目にRが出てきているので、ここだけでもRが何なのかわかります。式を引用します。(原文には単位が付いているが省略。)
R = (rate of movement of adsorbate zone) / (rate of flow of developing solvent)
現在普通に行われているカラムクロマトは湿式充填ですが、この論文は乾式充填について述べています。乾いた担体に移動相の溶媒がしみこみながら進んでいく・・・TLCと同じですね。
そして、式の中でrが付く語はrateだけなので、Rの元の語はrateと考えられます。
rateとfront
これこそがRf値の元の語ではないでしょうか?
でもこの2語、つながりにくいですね。rate of frontとかfront rateとか、並べてみても意味を成しません。rate to frontなら何となく通じそう? でもそのような用例は知りません。
そこで、安易なようですが私が出した暫定的な答えはこれです。
Rf値のもともとの語はrateとfront。でもこれらは熟語にすることができないので、後世の人たちは勝手にいろいろな熟語を当てはめた末、5通りもの解釈が生まれた。
この推測が合ってるかどうかわかりません。知っている人がいたら教えてください。
冒頭の画像は「1940年代、化学者、ペーパークロマトグラフィー、定規」等のキーワードでChatGPTに生成してもらいました。初めてRf値が定義された論文で行われたのは、実際には二次元クロマトです。





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