分析化学の世界を絵にしたら
各分析手法はバラバラなようにも見えますが、何かの秩序で整理できそうにも思えます。
「世の中に数ある分析手法を一枚の絵にまとめたい!」
と私はずっと考えてきました。
たとえば電磁波を使う分析法は、波長が短いγ線・X線から長波長のマイクロ波まで、つまりGe半導体検出器からNMRまでを一本の線の上に並べるとか。クロマトグラフィーと質量分析はすごく相性が良いから太い線で結ぶとか。ICPとXRFとボルタンメトリーはそれぞれ全く違う原理の手法だけど、無機元素の分析に使われる点では共通してるねとか。
そんな断片的なアイデアを温めつつ、出張の新幹線の車内などで手帳を広げて何回も落書きのような図を描いてきました。液クロの川、ガスクロの風、ICP-OESの星…という感じのイメージ的なものやら、原子・低分子・高分子・生体分子…などサイズを縦軸に、波長を横軸にしたマトリックス方式のものやら。
似た構想を持った人はこれまでたくさんいたろうと思いますが、私が知っているのは「なっとくする分析化学」と「マススペクトロメトリー」の絵だけです。
斎藤恭一(著)、武曽宏幸(絵)「なっとくする分析化学」(講談社、2010)
この本は分析化学の計算問題の解説書で、巻頭に2枚の図があります。
「図1 分析化学の海中絵」は、分析という概念のプレートの上に活量や濃度の海底があり、沈殿生成や酸化還元などの海域が広がり、滴定船が浮かび、機器分析の飛行船が飛ぶという図です。
「図2 分析化学の山脈絵」は各章の数学レベルを表すもので、溶液調製は低く、酸化還元は高く、酸塩基や錯形成は中くらいの高さに描かれています。
J.H.Gross(著)、日本質量分析学会出版委員会他(訳)「マススペクトロメトリー 原書3版」(丸善、2020)
この本の原書はなぜか無料で読むことができるので、ぜひp.152の絵(1987)とp.154の絵(2014)を見比べてみてください。とても楽しい。質量分析の世界が約30年でどれほど華やかになったか、海に浮かぶ群島として描かれています。
Mass Spectrometry ― A Textbook, 3rd ed.
ただしこれらはそれぞれ分析化学計算と質量分析の絵であって、分析手法全体の絵ではありません。全体像はどうなるんだろう?と私は考えてきました。
そしてこのほど、「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み[第3版]」で長年の願いをかなえることができました。絵というよりは図で、各分析手法と分析対象の関係を表しているので「分析手法マップ」と名づけました。
本当はネットで公開して批評されたり、いろいろな人が自分の絵を発表するようになれば面白いなと思います。しかし、私のぐちゃぐちゃの下絵は出版社がきれいに仕上げ、図を彩るカラー画像は多くのメーカーに提供していただきました。私が勝手にネットに上げられません。
まだ完成には遠いし、漏れている手法が多いし、不正確な点もあると思いますが、現時点では精一杯、という図になっています。書店でこの本を見かけたら、ぜひ口絵2~3ページの見開きの図を見てみてください。
(この記事冒頭の絵は液クロの川、ガスクロの風、ICP-OESの星です。ChatGPTに描いてもらいました。)
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