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2024.07.05

分析技術で一人起業(4)SFCを活用する農薬分析法

では、即日分析結果が出るfiroの農薬分析法がどんなものかご紹介します。

 分析法の概要
全体の手順はざっと次のとおりです。

試料をドライアイスと共に粉砕 → QuEChERS法で抽出 → 膜精製キットで精製 → 機器分析(SFC/TOF-MS、LC/TOF-MS、GC/MS/MS)

膜精製キットを使っていること、濃縮工程が無いこと、SFC(超臨界流体クロマトグラフィー)をメインに使うことが特徴だと思います。
膜精製キットとは、三浦環境科学研究所の SPEEDIA という製品で、膜ろ過と固相抽出が組み合わされています。通液は遠心分離で行い、多数検体の同時処理が可能です。
濃縮工程を要しないのは分析装置が高感度、高選択性だからです。この方法によって、6検体を約1時間で前処理することができます。

前処理工程ごとの試料液の外観(検体:イチゴ)
左からQuEChERS後、膜ろ過後、固相抽出後
Firo12

 SFCを使うメリット
firoのTOF-MSにはSFCとLCが接続されていて切り替えが可能で、基本的にSFCを使い、LCは補助的な使用だそうです。残留農薬分析でSFCを使うところは珍しく、通常はLCメインだと思います。
安藤さんによれば、SFCの方が分析できる物質が幅広く、きれいに分離するそうです。LCの移動相は粘性が高くて分析対象物がカラム固定相の微細孔に入りにくいのに対し、SFCの移動相である超臨界流体状態のCO2は微細孔に入り込んで相互作用がより強く働き、ピークがシャープになるそうです。また、質量分析計のイオン化においても、LCでは移動相の水の気化にエネルギーを使うが、SFCはCO2なのでそのようなことがなく、イオン化効率が高いため感度は3倍程度に上がるとのことです。

ただ、私個人はSFCをあまり使っていませんが、私が分析したことのある物質ではLCの方がよく分離でき、SFCは分離が良くないと感じました。また、LCとSFCはそれぞれ別の質量分析計に接続していたので、感度の比較はできませんでした。

 標準添加回収検量線
firoの農薬分析法は検量線用の溶液調製にも特徴があります。それは、農薬の標準溶液を分析の最初の段階で試料に添加し、前処理のすべての段階を反映させた検量線を描くことです。具体的には5段階の濃度添加+無添加の合計6ランを同時に試験操作します。この方法は血中薬物濃度の測定などでは行われていますが、多品目の試料を扱い試験工程も長い農薬分析ではほとんど行われていません。しかし、理論的に最も正確に定量できる方法です。これを可能にしているのが、シンプルで迅速な前処理工程です。

SFCとLCを切り替えて接続可能なTOF-MS
左からLC、SFC、質量分析計
Firo05

TOF-MSのフライトチューブの首にかかっているのは、農薬残留分析研究会ポスター発表最優秀賞のメダルです。

Firo13

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