分析技術で一人起業(8)起業して良かったことと今後の展望
安藤さんが設立された 株式会社 食品検査・研究機構(firo)についてご紹介してきたシリーズは今回が最終回です。起業して良かったこと、今後の展望などお聞きしました。
■ 起業して良かったこと
安定な公務員の職を辞しての起業ですが、官から民への変化については非常に満足しておられる様子でした。公務員は仕事を選べませんが、独立後は自分の判断で仕事を即断即決できるのでストレスが無いそうです。また、共同出資でなく一人の起業ですが、これも気が楽だそうです。
firoでは農薬分析以外の仕事も受注しています。それらは単発で多様な依頼で、香り成分、うまみ成分、機能性成分などさまざまな分析がからむ仕事です。手間がかかる割にあまり収益には結びつかないようですが、未知のものを探求する面白さがあるようです。これらを受けるかどうか自分で判断できるのは、確かにやりがいに結びつきそうだと感じました。
■ 次にやりたいこと
会社の残留農薬分析法は順調に稼働しているので、SFCの価値を示す学術的な活動が次にやりたいことの一つだそうです。具体的には、o,p’-DDTはGC/MSによる分析の際に注入口で一部がo,p’-DDDやo,p’-DDEに変化するので、SFCでの解決に取り組んでいるそうです。o,p’-DDT がLC/MSではイオン化せずSFC/MSではイオン化する現象を発見していて、今後はこのメカニズムの解明と分析条件の最適化を行い、「SFC/MSでしかできない分析」を一例でも多く確立したいそうです。
また経営面では、輸出用農産物の産地増加をめざしており、各地の生産者を訪ねて輸出のメリットやノウハウを伝えたいとのことです。
■ 会社の将来
安藤さんは7年後に70歳で引退するつもりで、適当な時期に若手の事業継承者を探して、まずは社員になってもらいたいそうです。ラボの場所は次代経営者が自由に決めれば良いとのことです。
firoの現状のビジネスは台湾の市場動向や検疫の姿勢に大きく依存しています。政治的・地政学的リスクは気になるところです。現在の台湾政権は相手国によらず公正で厳しい検疫をしていますが、もし日本に対して好意的でない政権に変われば公正が保たれるかどうかわかりません。すべてのビジネスと同様、firoのビジネスにもリスクがあります。
いっぽうで、安藤さんが最初の一年で全国行脚してニッチ(すき間)を見つけたように、目に見えていないニーズはそこここに隠れているはずです。今後の安藤さんも次の社長さんも、小回りの良さを生かしてチャンスを発見していかれることでしょう。
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