第84回分析化学討論会
■ スペクトルの塔
会場の京都工芸繊維大学は初訪問でしたが、討論会ウェブサイトのイメージにも使われているこの塔がひときわ目立っています。絶対「スペクトルの塔」という名前だろうと思って説明板を読んだところ、『大学の塔「時を超えて」』という名称で、「スペクトル」の語はまったく出ていませんでした。「虹」の語はありましたが…。分光器によるスペクトルなら分析化学会にぴったりなのですが。
キャンパス内は大きな木が多く、あちこちに木陰とベンチがあり、比叡山が近くに見えて、心地よかったです。
■ 市民公開講演会「宇宙と分析化学」
太陽系内での生命探査、SPring-8による小惑星試料の分析、地球外文明SETIの探索、というテーマで3つの講演がありました。はやぶさ1と2についてはニュースでたびたび見聞きして、断片的な情報はいろいろ持っていました。イトカワとリュウグウがどう違うか、それぞれの試料から何がわかったか、二つの小惑星についてどのような成り立ちが推定されるか、まとめて聞いてよく理解できました。
リュウグウの試料(微小)は、コンタミや紛失を防止するために、カーボンナノチューブの毛で作ったブラシのようなものに載せて保管・運搬されたそうです。接着剤など使わなくても分子間力でくっつくそうです。こういう細かなノウハウの話が分析化学らしくて楽しかったです。
小学生から高校生までの若い人たちも聴きに来ていて、質問が多く出ました。
■ 市民公開講演会「文化財をはかる,なおす,まもる分析化学」
こちらは京都らしい企画でした。文化庁が京都へ移転したところでもあり、職員の方の講演から始まりました。
寺院などに使われる赤色顔料にはベンガラ(Fe2O3)、朱(HgS)、鉛丹(Pb3O4)の3種類があり、さらにベンガラにも6種類あるそうです。なるほど文化財を調べて修復するにも分析化学は必須だなと思いました。
分析手法としてはXRFが圧倒的に多いようです。XRDも一部使われているようです。非破壊分析となると、やはりX線が主役のようです。
■ その他の発表で聞いたことメモ
○基盤技術が大切という話
コベルコ科研の方がものづくりを支える分析化学のテーマで話され、
「新人には前処理や重量分析や容量分析といった基盤技術をまずやらせる。それなしで最先端の分析をやってもわからない」
と言っておられました。物質量を体感できるのは、確かに重量分析や容量分析ですね。
○顕微FT-IRではウール1本も破壊分析
犯罪捜査で単繊維を分析する話の中で、赤外の透過測定では衣類の繊維もつぶさなければ測れないと言われてました。発表自体は放射光によるXRFの話でしたが、あんな細いものでも透過IRは無理なのかと、変なところで感心しました。
○定量NMRで使う同軸チューブ
ポスター発表より。NMRチューブの中にもう1本の細いNMRチューブを入れ、その中に定量用標準物質の溶液が入っているというもの。標準物質を試料と混合しないので、繰り返し利用でき、吸湿性の試料には特に有利。これは便利そう。
○HPLC用フェニル系カラム
ナカライテスクのポスター発表。フェニル系のカラムには芳香環が一つのものだけでなく二つとか四つのものがありますが、環が増えるほど芳香族化合物の保持が強くなるかと思いきや、環の数だけが影響するわけではなかったという話。環のつながり方も大事で、ナフチル基やピレニル基のように平面的なものと、ビフェニル基のように自由回転するものとでは違っていたとのこと。多置換ブロモベンゼンを使って実験し考察した過程が面白かった。
■ 女性研究者ネットワークカフェ みんなのキャリアデザイン交流会
お弁当を食べながら、たまたま着席した場所が近い4人ずつが話す、というシンプルな企画でした。特にテーマは設定されておらず、各グループに運営側が入って話題提供するといったこともなく、完全に自由なおしゃべりの会でした。
私のグループはM1の学生さん2名と理研の研究者の方でした。こういう機会が無ければ話をすることなどないと思われる方々でした。
当然それぞれの仕事や研究の話をして、それが一とおり済んだところで理研の方が
「いま若い人たちには何が流行ってるの?」
と言われました。ゲームやSNS?と私は勝手に想像していましたが、意外に「麻雀」という答えでした。オンラインではなく、全自動卓でもなかったです。徹夜の測定の待ち時間中に行う麻雀で、誰が寝られるかを賭けて勝負するので、真剣だそうです。
■ 京都なのに「大阪締め」
懇親会は分析化学会近畿支部のいつもの雰囲気が色濃く、多くの種類の地酒の提供と紹介、「うーちまひょ」で始まる大阪締めと、にぎやかで和やかでした。
討論会を運営されたみなさま、お疲れさまでした。ありがとうございました。
参加者に配布されたバッグ。「おもしろおかしく」は堀場製作所の社是。字体が味わい深い。
各プログラムの発表者名や所属は討論会ウェブサイトで見ることができます。
第84回分析化学討論会
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