化学分析にかかわる資格(3)関係がある国家資格
今回は、化学分析と何らかの関係がある国家資格を紹介します。これが3回シリーズの最終回です。
■ 公害防止管理者(国家資格)
公害防止管理者は「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」という長い名前の法律に基づく国家資格で、経済産業省と環境省の管轄、一般社団法人 産業環境管理協会が指定試験機関です。歴史的な背景など、詳しい紹介や受験案内がこちらに書かれています。
公害防止管理者(産業環境管理協会)
法律で定められている「特定工場」では公害防止管理者の選任が義務づけられています。公害防止管理者には大気関係第1種~4種、水質関係第1種~4種、騒音・振動関係・・・など13種があり、公害発生施設の区分ごとに選任できる資格者の種類が決まっています。国家試験の試験区分も13種類です。試験科目数は18で、13種類の区分ごとに18の中から必要な科目を受験します。試験科目は「公害総論」「大気概論」などで、直接化学分析を意味する科目名はありません。
ぶんせき誌2012年3号の解説では、公害防止管理者が行う業務が色々挙げられていますが、その中には「使用する燃料や原材料の検査」「排ガスや排出水等のモニタリング及びデータの管理」が含まれています。このあたりが化学分析に関係すると思われます。
■ 技術士(化学など)(国家資格)
化学分析にかかわる資格(1) で紹介したとおり、ぶんせき誌2012年5号の解説によれば、技術士の21の技術部門の中で環境部門にだけ「環境測定」という化学分析の比重高めの選択科目があります。この他にも化学、金属、資源工学、衛生工学、農業、林業、応用理学、生物工学、原子力・放射線、技術総合監理の10部門に化学系及び分析技術者・研究者に関わりの大きい選択科目が含まれるとのことです。
ミニファイル 分析がかかわる資格 技術士
受験方法などは 化学分析にかかわる資格(1) の技術士(環境)をお読みください。
■ エックス線作業主任者(国家資格)
エックス線作業主任者は、労働安全衛生法及び労働安全衛生法施行令の規定に基づく「電離放射線障害防止規則」に定められている国家資格です。厚生労働省の管轄で、指定試験機関は作業環境測定士と同じ、公益財団法人 安全衛生技術試験協会です。
エックス線作業主任者(安全衛生技術試験協会)
この資格はX線を発生する機器を安全に使用するための資格です。つまり、分析をする資格ではなく、分析に使う機器の安全のために必要な場合がある資格、ということです。
ぶんせき誌2012年10号の解説によれば、X線を発生する装置としてX線透過試験装置、X線回折装置、蛍光X線分析装置、X線マイクロアナライザー、X線応力測定装置が挙げられています。ただし、これらの装置で必ずエックス線作業主任者の選任が必要というわけではないようです。
■ 放射線取扱主任者(国家資格)
放射線取扱主任者は「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づく国家資格で、文部科学省が管轄、公益財団法人 原子力安全技術センターが指定試験機関です。受験案内はこちらです。
放射線取扱主任者試験(第1種、第2種)(原子力安全技術センター)
放射性同位元素(RI)や放射線発生装置を使用する施設では、放射線取扱主任者(国家資格保有者)を選任しなければなりません。放射線取扱主任者には第1種~第3種があります。大雑把に言えば、第1種は密封線源も非密封線源も放射線発生装置も管理でき、第2種は密封線源だけを管理でき、第3種は小さな密封線源だけを管理できます。第1種と第2種は試験がありますが、第3種は講習の受講のみです。
化学分析との関係ですが、ラジオイムノアッセイや同位体希釈分析など、RIを使って高感度に分析する手法があります。また、放射性物質の分析を行う際に標準物質としてRIが必要です。
私は第1種放射線取扱主任者の資格を持っていますが、取得した目的は研究所の生物部門で使われるRIの管理のためでした。自分自身はRIを利用する分析をしたことはありません。ただ、ガスクロマトグラフの電子捕獲型検出器(ECD)には63Ni線源が使われていて、古い装置で第1種または第2種の資格が必要だったため、これも管理していました。
第1種放射線取扱主任者の試験は物理・化学・生物(放射線の生体への影響)・測定技術・管理技術・法令と盛りだくさんで難しかったです。試験には2回落ちて3回目にやっと合格しました。
30年以上前には生物の実験でRIを使うのは珍しくないことでしたが、他の技術への置き換えが進んでRI利用は減っていると思います。免状交付数を調べてみました。
放射線取扱主任者免状の公布状況(昭和33年度~令和元年度)(原子力規制委員会) (平成15年度までは5年ごとの合計であることに注意。また、「公布」は「交付」の誤りと思われる)
長期的には減少傾向ですが、平成24年度(2012年度)に第1種が急に増えました。2011年に福島第一原子力発電所の事故が起きたことによると思われます。
■ 危険物取扱者(国家資格)
危険物取扱者は消防法に基づく国家資格で、指定試験機関は一般財団法人 消防試験研究センターです。甲種、乙種、丙種があり、乙種には第1類から第6類があります。受験方法などはこちらです。
危険物取扱者試験(消防試験研究センター)
一定数量以上の危険物を貯蔵し、または取り扱う化学工場やガソリンスタンドなどには危険物取扱者を置かなければなりません。
危険物取扱者は身近な資格で、私の以前の勤務先では同僚に複数の資格保有者がいました。研究所で扱っていた危険物はたいした量ではなかったため危険物取扱者が必要というわけではありませんでしたが、資格を持っているだけで化学系としてカッコ良くていいな~と思いました。私の危険物取扱者に関する知識はこの程度です。ぶんせき誌の連載「ぶんせきがかかわる資格」で危険物取扱者は取り上げられなかったので、薄い内容になりすみません。
■ 薬剤師(国家資格)
薬剤師は薬剤師法に基づく国家資格で、厚生労働省が試験を行っています。受験案内はこちらです。
薬剤師国家試験(厚生労働省)
薬剤師という職業はヨーロッパでは歴史が古く、街の化学者という性格があったようです。現代の日本でも「薬局等構造設備規則」というものがあり、薬局にはビーカー、メスピペツト、メスフラスコまたはメスシリンダー、ロート(または、それぞれ同等以上の性質を有するもの)を備える必要があります。薬剤師と分析化学にどのような関係があるかは下記の解説に詳しく書かれています。
向日良夫「話題 資格試験から見る分析化学」ぶんせき, 2007, 145 (2007)
国家試験では滴定やクロマトはもちろん、原子吸光、NMR、熱分析、旋光度、導電率などなどが出題されます。薬剤師資格は2006年度から6年制に移行し、2012年度からそれに対応した国家試験になっています。それでも薬学部のコアカリキュラムを見る限り、分析化学の幅広い分野を履修することに変わりはないようです。
薬学教育モデル・コア・カリキュラム-令和4年度改訂版-(文部科学省)
薬剤師といえば医療職であることは間違いないですが、薬剤師なのに病院にも薬局にも勤務せずに化学分析に携わっている人は多いです。私もその一人です。健康に関わる分析においては、化学がわかって生物もわかる人材が重宝されるからではないかと思います。
■ 臨床検査技師(国家資格)
臨床検査技師は「臨床検査技師等に関する法律」に基づく国家資格で、厚生労働省が試験を行っています。「臨床検査技師等」の「等」がどういう意味か気になりますが、「衛生検査技師」が入っているようです。「衛生検査技師」は既に新規免許が廃止されている資格ですが、この資格を持って業務をしている資格者が引き続き業務をできる条項が「臨床検査技師等に関する法律」に含まれているようです。
臨床検査技師国家試験の受験案内はこちらです。
臨床検査技師国家試験の施行(厚生労働省)
ぶんせき誌2012年7号の解説によれば、民間資格で「臨床検査士」「緊急臨床検査士」があるようです。また、2007年3号の解説 によれば、国家試験では確認試験、各種分光法、クロマトグラフィー、免疫測定法、電気泳動法、画像診断法が出題されるそうです。
■ 診療放射線技師(国家資格)
診療放射線技師は診療放射線技師法に基づく国家資格で、厚生労働省が試験を行っています。受験案内はこちらです。
診療放射線技師国家試験の施行
ぶんせき誌2012年7号の解説によれば、X線写真撮影や造影検査のほか、放射線治療や核医学の分野で診療放射線技師が活躍しているとのことです。また、2007年3号の解説 によれば、国家試験では放射線測定、画像診断法、イムノアッセイ、クロマトグラフィー、電気泳動法が出題されるそうです。
以上、3回にわたって化学分析にかかわる資格をご紹介しました。私自身の知識に偏りがあるため、いずれの資格についても最適な解説にはなっていないと思います。興味のある資格が見つかったら、自分で調べてみてください。
なお、国家資格の場合、資格の名称で検索すれば非常に行き届いた解説も見つかりますが、有料で通信教育などを提供しているサイトにはリンクしませんでした。私がお勧めしているように受け取られたら良くないと考えたからです。ただし指定試験機関は有料のサービスがあってもリンクしました。
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