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2024.04.14

資格について~LC分析士の出現は予想されていた?

先週 化学分析にかかわる資格(1)(2)(3) を書きましたが、実際に資格取得ってどの程度お勧めできるものなんだろう?とあらためて考えました。
私としては、あくまでどんな資格があるか紹介しただけで、個別の資格取得の価値については個人が判断すれば良いとの立場です。とはいえ、世の中には「資格ビジネス」「資格商法」「資格マニア」といった言葉が悪い意味で出回っている現実もあります。資格取得に当たって注意しなければならないことがあるならば、それも書いておこうと思い立ちました。

個人で大したことができるわけではないですが、図書館で資格に関する本を借りて読んでみました。次の6冊です。(刊行年の新しい順)

①『THE21』編集部『会社に頼れない時代の「資格」の教科書』PHPビジネス新書 (2019)
②佐藤留美『資格を取ると貧乏になります』新潮新書 (2014)
③高島徹治『40歳からは「この資格」を取りなさい』中公新書ラクレ (2013)
④須田美貴『資格ビジネスに騙されないために読む本』鹿砦社 (2012)
⑤佐々木賢『資格を取る前に読む本: 資格社会の秘密』三一新書 (1996)
⑥今野浩一郎・下田健人『資格の経済学: ホワイトカラーの再生シナリオ』中公新書 (1995)

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大雑把に言って、①③は資格取得を推奨、②④⑤は資格ビジネスや資格礼賛に批判的、⑥は経済学部の先生による資格研究です。

 「資格商法」について
一番気になったのは、「資格商法」なるものが、私が紹介したような化学系資格にも存在するのか?という点でした。これについては、②④⑤を読む限り、どうも無さそう、または、あっても目立ってはいないようだと感じました。
④『資格ビジネスに騙されないために読む本』に書かれていることですが、資格取得のための学校が
「資格を取れば開業できる」
と宣伝して生徒を集め、合格者に対しては「開業講座」を勧め、実際には修了者が開業しても一向に顧客がつかない・・・という事例があるそうです。開業講座は俗に「ヒヨコ食い」と呼ばれており、特に社会保険労務士と行政書士向けが多いと書かれています。「ヒヨコ食い」の語は②『資格を取ると貧乏になります』でも紹介されています。

このような話がどの程度本当なのかはわかりませんが、こういう商法が成り立つためには、資格取得そのものは超難関というほどでなく、目指したいと考える人(客)が多く、開業できそうな期待感がある・・・という条件が必要でしょう。私が紹介した資格はほとんど開業につながるようなものではありません。例外は技術士くらいですが、技術士は難関資格なうえに、受験資格として実務経験が必要です。というわけで、化学分析にかかわる資格は、商法のネタに向かないものばかりだと思います。
2024/4/16追記 なんと自分自身が統計の資格に関連して「資格商法」にはまっていたことを思い出しました。現代統計実務講座を受講して (2004/6/20)

 資格の分類
化学分析にかかわる資格(2) で資格を「国家資格」と「民間資格」に分けました。⑥『資格の経済学』によれば、もう一つ、「公的資格」に分類されるものもあるそうです。これは「資格付与の一定の基準を所管庁が認可し、それに関わる業務を外部の財団法人等の団体に実施させているもの」で、具体的には実用英語技能検定、消費生活アドバイザー、秘書技能検定などが該当するそうです。知りませんでした。
さらに、資格は「職業上、どのような機能をもっているか」という基準から「業務独占資格」と「能力認定資格」に分類できるそうです。
「業務独占資格」は資格がないと当該業務に従事できない資格。これはさらに「職種型」と「職務型」に分かれ、職種型は税理士、公認会計士、弁護士など、職務型は危険物取扱者、毒物劇物取扱責任者などです。
「能力認定資格」は一定の技能・知識を有していることを認定する資格で、技術士、技能士などです。世の中の資格の大多数は能力認定資格だそうです。

 資格重視は事務系より技術系?
「資格商法」など負の側面から資格を取り上げた書籍ではもっぱら事務系の資格が挙がっていました。資格といえば事務系がメジャーなのかなと思いましたが、『資格の経済学』では、技術系こそ資格が重視されていると述べています。
その理由は受験者の多さで、この本のまとめによれば、技術系主要資格の受験者数は事務系のそれを上回っているそうです。古い本なので1992年の数字ですが、技術系の受験者数は約92万人、事務系は約31万人だったそうです。
ただしその内容は、技術系は危険物取扱者41万人、情報処理技術者39万人など、事務系は宅地建物取引主任者約20万人、行政書士約3万6千人などなので、技術系VS事務系というより、危険物取扱者と情報処理技術者の受験者が際立って多いことを示しているだけかもしれません。
それから、挙げられた資格から気づいたのは、技術系は会社に言われて受験するような資格が多く、事務系は本人が独立開業できるような資格が多いということです。この点からも、技術系の資格は資格商法のターゲットになりにくそうだと思いました。

 これからの技術系資格を担うのは学会や専門機関?
『資格の経済学』は30年も前に出版された本ですが、興味深いことが書かれています。ちょうどバブルが崩壊して日本型の年功序列や終身雇用が変化し始めた頃で、新しい資格体系の整備が必要だと書かれています。そして誰がそれを主体的に進めるかについて、次のように書いています。
「当該の資格に直接関与する業界団体やホワイトカラーの職能団体が重要な役割を果たすことが期待される。」
「ホワイトカラーの分化した高度な専門能力は、その道の専門家集団しか評価できないからである。」
「技術者の場合には、幸いなことには、学会という一種の専門分野別の職能団体がある。」
「技術系ホワイトカラーの資格制度の整備は、専門家が集まる学会等の機関に任せてはどうであろうか。」
化学分析にかかわる資格(2) で紹介したとおり、日本分析化学会などの学会やその他の専門組織がいろいろな資格制度を運用しています。紹介した中では2006年に開始された環境測定分析士が最も早く、次いで2007年に検査分析士、2010年に液体クロマトグラフィー分析士が始まりました。
学会等が認定する資格制度・・・その必要性を訴える本が1995年に出ていたとは。制度を支えるみなさまに、あらためて敬意を持ちました。

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