「ゼロから学ぶ 分析法バリデーション」
■ 本の概要
「ゼロから学ぶ 分析法バリデーション」
香取 典子/著
2023年7月25日 発行
B5判 136ページ
6,600円(税込)
じほう社による書籍紹介 (概要、目次、序文を掲載)
42ページまでが本文で、ICH Q2に沿った分析法バリデーションの解説です。次にAppendixとして統計的な解析の解説が16ページ、用語解説が9ページ、資料編(ICH Q2(R2)分析法バリデーションガイドライン案、第十八改正日本薬局方第一追補よりクロマトグラフィー総論とシステム適合性)が56ページという構成です。
■ ICHって何?
私のブログの読者で医薬品分析をしている人は少ないと思うので簡単に説明します。
ICHとは「医薬品規制調和国際会議」の略称です。医薬品の承認申請のルールを日米欧の3極間で調和させる活動をしています。詳しくは下記を参照してください。
ICH 医薬品規制調和国際会議 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
ICHでは色々なガイドラインを合意していますが、それぞれのガイドラインには記号が付けられています。例えば品質に関するものにはQ、安全性に関するものにはS、有効性に関するものにはEといった具合です。
Q2は分析法バリデーションに関するガイドラインです。これは1990年代に合意されたものですが、30年近くぶりの改正という大きな節目に差しかかっています。また、新たにICH-Q14が合意されようとしており これは分析法の開発に関するものです。このように分析法バリデーションに関わるICHのガイドラインが大きく変わる時期であるために、「ゼロから学ぶ 分析法バリデーション」が刊行されたと思われます。
現時点で2つのガイドライン案は、各極におけるパブコメや寄せられた意見に基づく修正段階のようです。案(原文、和訳)や最新の進捗状況は下記を参照してください。
ICH-Q2 分析法バリデーション (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
ICH-Q14 分析法の開発 (同上)
■ 何が変わるの?
というわけで、「ゼロから学ぶ 分析法バリデーション」には、ICH-Q2の変更点と新設されるICH-Q14の内容が解説されています。主なポイントを紹介します。
・「分析法のライフサイクル」という概念の追加
・多変量分析法(近赤外分析など)に対応
・「特異性」は「特異性/選択性」に
・「直線性」「検出限界」「定量限界」は「稼働範囲」に
・「範囲」は「報告値範囲」に
・「頑強性」「システム適合性試験」はICH-Q14に
個人的には「報告値」という概念が新しいと感じました。これは、「測定値」が必ずしもそのまま報告されるわけではないからだそうです。言われてみれば確かに…と思います。
■ 食品分析や環境分析への影響は?
では、ICHにおける分析法バリデーションの変更は、食品分析や環境分析の分野にはどのように影響するのでしょうか?
ひとことで言えば、そんなにすぐに影響するわけではないと思います。ICHは医薬品の承認申請のためのガイドラインなので、直接関係があるのは製薬会社とその分析委託先です。いずれ日本薬局方に反映されるはずなので、そうなれば薬剤師の国家試験を受験する人も直接影響を受けるでしょう。
食品分析のGLPは厚労省の管轄ですし、薬品分析との技術的共通点も多い(ガスクロ・液クロが多用される、有機化合物の分析が多いなど)ので、日本薬局方が変わればそれに呼応した変更はあり得ると思います。環境分析はJISになっているものが多いので、薬局方は無関係と私は考えています。なお、私が知る限りJISに分析法バリデーションの規格はありません。(真度、併行精度、再現精度等の定義や求め方の規格はあります。)
■ 基本の解説もあり
ICHの変更点だけが解説されているなら読者対象はICHを熟知している人に限られそうですが、この本には「ゼロから学ぶ」と書名にある通り、変更点理解の前提となる基礎事項の説明があります。真度や精度の意味、統計の基礎(平均、標準偏差、母集団と標本、分散など)が書かれています。
■ 本を買うべき?読むべき?
それでは、この本を買うかどうか迷っている方のために、判断材料になりそうなことを書きます。書店で手に取ってみるのが一番ですが、それができない方は参考にしてください。なお、医薬品分析関係の方は職場で購入されるでしょうから、それ以外の分野を念頭に置いています。あくまで個人の見解です。
【買う価値がありそうな人】
〇分析法のバリデーションをする立場の人
〇分析法の論文を書く人
〇検量線の点数や精度評価の試行数をどうするか根拠がほしい人
〇分析法バリデーションに関する知識を整理したい人
【買うまでもないと思われる人】
△ICH Q2(R2)案 と ICH-Q14案 を解説無しで理解できる人
△分析法のバリデーションをしない人
△自分の分野に波及してから対応すれば良いと思われる人
なお、ページ数のおよそ4割は「資料編」で、ここにはネットで無料公開されている文書が掲載されています。
ICH Q2(R2)分析法バリデーションガイドライン案(e-Govパブリック・コメント)
第十八改正日本薬局方第一追補
個人的には色々な情報を整理できて得るところが多かったです。このブログに書きたいトピックもあるので、おいおい記事にしていきます。
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