化学分析員の10年(4)大企業に勤務する人の比率
賃金構造基本統計調査(厚生労働省) を読み込んで、40代男性化学分析員の給与が下がった原因を究明しています。
ところでこの統計ですが、注意しておかなければならないことがあります。
それは、全数調査ではなく抽出調査だということです。まず調査対象の事業所を抽出します。それらの事業所から調査対象の労働者を抽出しています。
調査の概要(令和元年) によれば、この調査の母集団は、16大産業の常用労働者5人以上の事業所で、全国で約148万事業所、労働者数は約4,200万人だそうです。抽出した事業所数は約7万8千事業所、抽出した労働者数は約163万人だそうです。
単純に計算すると、実際に調査した事業所数は全体の約5.3 %、労働者数は約3.9 %ということです。
ただし抽出された事業所が全部回答してくれるわけではなく、回答しないところもあります。 産業、事業所規模別母集団数、標本数、有効回答率 には残念ながら令和元年の有効回答率は未掲載ですが、平成30年は72.4 %だったそうです。令和元年も同程度だったとすると、事業所数の4%弱、労働者数の3%弱からデータが取れたと考えられます。
十分に母集団が大きければ3~4%の抽出率でも問題になりませんが、化学分析員というあまり多くない職種で、しかも年齢階層別・企業規模別などと細分化したら、どんな事業所や労働者が調査対象になったかによって結果が大きく変動するでしょう。この点を念頭に置きながらデータを読んでいきましょう。
前回の解析 で、40代後半の男性化学分析員の給与は、どの企業規模でも2015年前後から下がり始め、開始時期は大企業→中企業→小企業の順だったとわかりました。しかし40代前半の給与は、平均給与は2008年から下がったのに、企業規模別統計では明確な傾向がありませんでした。「もしかしたら40代前半では大企業の労働者数が減って中小企業の労働者数が増えたのではないか」と考察しました。
これを確かめるため、40代前半男性化学分析員の勤務する事業所規模をグラフ化してみました。いかがでしょう。
2006年から2013年にかけて減ったようにも見えますが、2014年には最高値になるなど、同じ傾向とは言えないと思います。つまり、考察は当たっていなかったようです。
ついでに40代後半男性化学分析員についても同じグラフを作ってみました。
40代後半男性化学分析員が実数として何人くらいいるかですが、2019年では1690人と推定されています。この方たちから3%弱が抽出されているので、調査人数としては50人以下、さらに企業規模別ではもっと少人数です。こんな少ない人数の調査でも、大企業・中企業・小企業のすべてではっきり給与低下の傾向がつかめるのですから、相当深刻だと思います。
以上、40代後半についてはさらに原因究明が進んだのに対して、40代前半についてはよくわからないまま、これが今回の結果です。
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