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2020.05.05

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(16)最新の英語論文では?

ハイフン=装置、スラッシュ=分析法、この使い分けが世界的にメジャーなのかどうか、4年前に調べました。結果は、使い分けている論文は一つも見つかりませんでした。

現時点ではどうでしょう? 4年前の検証 と同じことをしてみました。

 スラッシュ派の旗手のあの雑誌

Wileyの雑誌Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)の 執筆者ガイドライン は4年前と変わっていません。Use of abbreviationsの項目で Rapid Commun. Mass Spectrom. 2014; 28: 1853-1854 に従うように強く勧めており、その中ではGC-MSもLC-MSも「避けるべき略語」とされています。

この雑誌の今年の刊行分(34巻)を1号から12号(最新)までチェックして、無料公開の論文24報の用語を検索しました。GC、LC、TLCとMSを組み合わせた分析法について述べた論文が14報ありました。すべてスラッシュで表記されており、GC-MSやLC-MSの語はありませんでした。RCMは4年前と変わらず徹底してスラッシュだけを使用しています。意味は「分析法」「装置」両方あり、「分析法」がかなり多いです。

 その他の学術誌

4年前にPubMedで「chromatography mass spectrometry」で検索をかけ、上位60位までにヒットした無料論文をチェックしたところ、RCM掲載分以外はすべてハイフン使用でした。

今回も無料全文公開されている論文を同じ検索語でPubMedサーチしました。サーチ日時は昨日(2020年5月4日)です。上位(最新)60報は4月10日ごろから30日ごろの日付の論文でした。(PubMedの表示順は日付と完全には一致していません。)日本の機関に所属する日本人と思われる氏名の著者による論文も複数ありました。60報の略語使用状況の内訳は次の通りです。

 -だけ    43
 /だけ     2
 連続(GCMS等) 1
 -/両方    5
 -/連続全部  1
 略語なし   8

スラッシュだけを使用している2つの論文は、いずれもRCM以外の雑誌に掲載されたものです。4年前にはゼロだったのに今回2報見つかったということは、スラッシュ派が少し広がってきたと言えるかもしれません。しかしハイフンのみ使用は43報ですから、まだまだハイフン派が圧倒的に優勢です。この2つの論文へのリンクを付けておきます。

Kritikos, et al, Molecules., 25(8), pii: E1981 (2020)

Alberdi-Cedeno, et al, Antioxidants (Basel), 9(4), pii: E312 (2020)

では、ハイフンとスラッシュを両方使用した論文、さらに、GCMSやLCMSのようにハイフンもスラッシュも入れない使用方法まで出てくる論文はどうでしょう。こういう論文は6報ありました。これらは、

・使用した装置の機種名に「GC/MS」等が入っていて、その周辺の文中だけ機種名以外の記述もスラッシュ

・分析方法を参考にした元文献で「GC/MS」等が使われていたらしく、直接の文章の引用でないと考えられるのにスラッシュ使用

・ほとんどハイフン使用で1~2か所スラッシュ使用(誤植の疑い)

・混用した理由も意味も不明

といったのものばかりで、著者が意図して複数を使ったと考えられるものはありませんでした。すなわち、調査したすべての論文はハイフン=装置、スラッシュ=分析法の使い分けをしていませんでした。この結果は4年前と同じです。

 もっと大規模に調べたいけど…

ところで、「無料公開論文60報全文調査」で見つかったスラッシュ派の数、増えたと言えるのでしょうか?2報だけでは何とも心もとないです。
もっと大規模に調査できないかと、PubMedで期間を区切ってのフレーズ検索を試みました。しかし、"GC/MS"のようにダブルコーテーションで囲んで検索しても、スラッシュは特別な文字とみなされるのか、意図した結果になりません。どう見てもGC-MSの語しか使っていない論文までヒットしてしまいます。

GC/MSとGC-MSの使用状況を比較できる検索方法をご存知の方、ぜひ教えてください。

 まとめ

私の印象ですが、ハイフン派もスラッシュ派もだいたい論文の冒頭で「分析法」の意味でGC-MSやGC/MSの語を定義しています。そして装置を表す場合は「GC-MS system」等を使うのが主流と思われます。
しかし「LC with mass spectrometry (LC-MS)」のように「分析法」であることを定義しておきながら、本文中ほとんどすべての略語にmethod, analysis, protocolの語を付けている論文もありました。

Olech, et al, Molecules, 25(8), pii: E1804 (2020)

ここまで行かなくても、methodやanalysisを付けている論文は多数ありましたので、「冒頭で定義したけど、略語は分析法とも装置とも解釈され得るので念入りにしておこう」という気持ちが著者たちにあるように思われました。

使い分けする派vsしない派で単純に分けるとこうなります。

 する派 日本質量分析学会・JISクロマトグラフィー通則・JIS LC/MS通則

 しない派 IUPAC・英語論文ほとんど全部・JIS GC/MS通則

今回の調査結果からも、4年前と同じように、略語にハイフンとスラッシュのどちらを使うかは国際的に統一されていないが、ハイフン=装置、スラッシュ=分析法の使い分けは国際的にかなり特殊なルールと言えると私は考えます。

日本質量分析学会の用語集第4版ではこのルールが維持されましたが、少なくとも学生や新入社員の教育に携わる皆さんは、使い分け以外の立場もあることを教えるほうが良いのではないかと思います。

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