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2020.05.17

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(19)私が考える理想形

GC/MSとLC/MSに関わるほとんどの方が一度は悩んだと思われるハイフン/スラッシュ問題、結局皆さんどうしてますか?私は既に自分のサイトでの方針を決めていますが、あらためて白紙から理想を語ってみます。

白紙と言っても既定の状況がいろいろあって、現実は自由ではないのですが、仮想の自由な状態から順番に制限を増やして考えてみます。

 第1段階:世界中に何も制約がない場合

あり得ない話ですが、世界にまだ略語GC-MSもGC/MSも存在しておらず、私が決められる立場だとします。略語創造主の津村はどうするでしょうか?

それはもう、
「ハイフンを使ってGC-MS及びLC-MSと書く。これらは分析法の意味でも装置の意味でも使える。特定する場合は『法』『装置』などを付けること。」
の一択です。

これ、特に珍しくも何ともない発想ですよね。GCもLCもMSもそういう使われ方をしている略語で、それがハイフンで結ばれただけ。また、略語を作る際にはハイフンを使うのが普通でしょう。こんな略語を「創造」しても分析化学史に名前は残らないと思います。

こうしてみると、最初にスラッシュを使った奴だれ?と言いたくなりますが、調べるのはたいへんそうなのでやめておきます。

 第2段階:現状の世界で私が決められる場合

これまたあり得ない話ですが、現状の世界で、私が独裁的に決められるとすればどうするでしょうか。

この場合でも第一段階と同じで、
「ハイフンを使ってGC-MS及びLC-MSと書く。これらは分析法の意味でも装置の意味でも使える。特定する場合は『法』『装置』などを付けること。」
にしますね。

私の想像ですが、2013年のIUPAC勧告の審議過程でもこのように主張した人がいたのではないでしょうか。世に出ている論文の圧倒的多数はハイフンを使用しているのですから。

しかしこのようには決まらず、ハイフンもスラッシュも使える混沌とした状態を追認する形になりました。勧告が決まる過程でどんな力関係が働いたんでしょう。知りたいものです。

 第3段階:世界の現状を踏まえて私が日本の方針を決められる場合

では、世界がハイフン/スラッシュ混在状態の中、私が日本の方針を決められるとしたらどうでしょう。例えば文部省「学術用語集 化学編」(1986)のような事業がまた行われて、多くの学会や公定法や行政用語に影響を与えられるとしたら?

そのような場合は、
「ハイフンを使ってGC-MS及びLC-MSと書く。これらは分析法の意味でも装置の意味でも使える。特定する場合は『法』『装置』などを付けること。ただし科学教育においては、国際的にスラッシュを使ってGC/MS及びLC/MSと表記する場合もあることを教えること。」
にすると思います。

国際論文誌に出てくるGC/MSやLC/MSの意味がわからなかったら困りますし、「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」のようにGC-MSやLC-MSを禁止している雑誌もあります。

それから、忘れてならないのは、
「国際情勢がスラッシュ優勢になってきた場合、または新たなIUPAC勧告でスラッシュ使用が決められた場合は、GC/MS及びLC/MSに切り替える。」
です。
そんな事態になるのかどうかは不明ですが、あくまで日本の規格や日本語論文を統一するための暫定的なルールであると明記しておきます。

なお、現実の学術用語集には「gas chromatograph-mass spectrometer (GC-MS)」だけが掲載されており、分析法はどう表すのか、液クロはどうなのか、まったくわかりません。

 第4段階:世界と日本の現状を踏まえて小規模な組織での方針を決める場合

このあたりになるとかなり現実的です。皆さんも、手順書や報告書などでどう書くべきか悩んだことがあるのではないでしょうか。

私が考える一番無難な道は、
「自分たちの分析業務において一番影響力の大きい公定法や団体の方針に従う。ただしハイフンまたはスラッシュのどちらかだけを使用することにする。」
です。

私が調べた範囲では、日本質量分析学会、日本分析化学会、クロマト用語のJIS、そしてLC/MSのJISは、「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けを定めています。
これをそのまま使うと、同じ組織内の文書にハイフンとスラッシュが混在することになり、事務方から誤植を疑われるなどの面倒が起こりかねません。

そこで、これらの学会やJISの影響力が大きいと考えるのであれば、自分たちの組織としてはハイフンまたはスラッシュのどちらかだけを使用することに決めて、
 GC-MS(装置) GC-MS法(分析法)
   または
 GC/MS(分析法) GC/MS装置(装置)
の組み合わせのどちらかを選んで組織のルールにしてしまいます。

日本食品衛生学会はハイフンの使用だけを投稿規定で決めているので、この学会の影響力が大きいなら、
 GC-MS(装置) GC-MS法(分析法)
の一択です。

GC/MSのJIS本文はスラッシュだけを使用しているので、このJISだけを重視するなら
 GC/MS(分析法) GC/MS装置(装置)
となります。(ただしGC/MSのJISはクロマト用語のJISも含むことになっているのでハイフンでもよい。)

 第5段階:現実の中で個人の方針を決める場合

私自身の方針は4年前と変わりません。「ハイフンとスラッシュについて」で表明している通り、
 GC/MS(分析法) GC/MS装置(装置)
です。

好みとしてはハイフン派ですが、使い勝手などを考えてスラッシュを選びました。
また、本当はいちいち「装置」を付けたくはありません。私が書く文章はたいてい分析法が中心なのですが、時には装置が中心になることもあります。そんな時には「装置」の意味でGC/MSと書きたい。特に図表の中で使う場合は、2文字多いだけでも窮屈になります。

それでも質量分析学会やJISが決めていることに反することをしたくはないので、やむを得ず「GC/MS装置」と書くことにしています。

 まとめ

私の願いとしては、ハイフンかスラッシュのどちらかに早く世界が統一されてほしいです。RCMがスラッシュ推しでがんばっているのは確かですが、4年前に期待したほど浸透していないようです。まだまだ統一までは遠い道のりのように思えます。

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