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May 2020

2020.05.24

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(21)まとめ:使い分け回避派!

全国の多くの府県で緊急事態宣言が解除され、首都圏と北海道もあと少しで解除される見込みです。長かったステイホームの日々も一応の区切りがつきそう。録画や動画配信サービスで映画やドラマを観て過ごした人も多かったようですが、私は結局ハイフンとスラッシュばかりでした。なんとも絶妙なタイミングで日本質量分析学会の用語集が改訂されたものです。

このブログで書いてきた調査結果を踏まえて、私のサイトの方針を示すページ ハイフンとスラッシュについて に加筆しました。

思い起こせば4年前には、雑誌 Rapid Communications in Mass Spectrometry が影響力を発揮してスラッシュへの統一が進むのではないかと予想していました。しかし相変わらず世界ではハイフンが圧倒的多数派です。
国内では日本食品衛生学会「食品衛生学雑誌」の 編集規定・投稿規定 がハイフン派と知りました。

いっぽうGC/MSの規格(JIS K 0123)はスラッシュで踏ん張っています。この規格も次の改訂で「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けを行うだろうと予想していたのに、2018年の改訂では「スラッシュだけ」が維持されました。

私の願いは一つです。どちらでもいいからどちらかに統一されてほしい。好みはハイフンですが、統一されればどちらでも従います。ただ「両方を使い分ける」はしたくない。だから当面はスラッシュだけ使います。ハイフンが好きですが、日本国内ではハイフンは「装置」を表すと考える人が一定数いるわけなので、「分析法」を意味するスラッシュの方が私にとって使い勝手がいいのです。

ハイフン派のみなさん、ごめんなさい。私はスラッシュ派というわけではないのです。「使い分け回避派」です。そこんとこよろしくお願いします。

また何年か先に、新たな動きがあればシリーズ記事を再開します。その時にはどんな表記が優勢になっているのでしょうね。

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2020.05.23

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(20)IUPAC勧告2013「先取り」の経緯

あくまで個人の感想ですが、略語を作るならハイフンが普通でスラッシュは特殊だと思います。ましてや両方を使い分けて装置と分析法の意味にするなんてややこし過ぎます。
そのややこしい、IUPAC勧告2013が採用しなかったルールを、日本質量分析学会(MS学会)は2009年に「先取り」したわけですが、どんな経緯があったのか気になります。今回は、その頃の経緯を示す文書を読み込んでみます。

紹介するのは内藤康秀さん(光産業創成大学院大学)の3つの文書です。この方はIUPACのプロジェクトの7人のメンバーの一人だったそうです。

 日本質量分析学会会誌:2006

内藤康秀「Letter to the Editor: 国際純正・応用化学連合委託プロジェクト「質量分析関連用語の標準定義」について」J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 54, 25-31 (2006)

(プロジェクトは)Louisiana State University (USA)のKermit K. Murrayを代表とする作業グループが遂行している.作業グループの他のメンバーはRobert K. Boyd (Institute for National Measurement Standards, Canada), Marcos N. Eberlin (State University of Campinas, Brazil), G. John Langley (University ofSouthampton, UK), Liang Li (University of Alberta,Canada), Jean Claude Tabet (Universite Pierre et Marie Curie, France), 内藤康秀(光産業創成大学院大学)である.

最終的な IUPAC勧告2013 の著者は6名です。Jean Claude Tabetさんの名前が無くなっています。

以下に,原稿第2案で提案されている用語(見出し語)の一覧を示す.
1.2 Acronyms
―列挙されたものから抜粋―
 GC-MS

えっ、これだけ!?
GC/MSもLC-MSもLC/MSもありません。GC-MSの正式名称もありません。

2006年度は「マススペクトロメトリー関係用語集」の全面改訂を行うので,本資料を題材にして用語集改訂に関する議論が活発に行われることを切に願う.

「本資料」とは「原稿第2案」ですが、原文はIUPACのサイトでリンク切れになっていて読むことができません。この時点ではMS学会の用語集の改訂を2006年に行うことになっていたようです。実際に改訂されたのは2009年ですから、おそらく3年程度はIUPACの勧告を待ったのですね。

 日本分析化学会会誌:2007

内藤康秀「話題:IUPAC委託プロジェクトによる質量分析の標準用語の改訂」ぶんせき, 2007, 362-363 (2007)

質量分析用語についての新しい勧告は,IUPACのオフィシャルジャーナルPure and Applied Chemistry誌の掲載記事として公表される。その原稿は作業部会によって約3年かけて準備され,投稿された原稿は世界各国の約30名の査読員によって審査される。2006年12月現在では,査読意見に基づく改訂稿の準備が行われている段階である。

ここまで来ればあと一歩で勧告が出せると誰でも思いますよね。まさかここからさらに7年もかかるとは…
この解説にはIUPACの組織や活動についてやや詳しく書かれているので、IUPACがどういうものか基礎知識を得たい方には一読の価値があります。ただしMS用語そのものについては一覧でなく抜粋だけが載っています。一覧は次に紹介する解説に載っています。

 日本質量分析学会会誌:2007

内藤康秀「COMMENTARRY: 質量分析関連用語の基礎知識 」J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 55,149-156 (2007)

国内ではIUPAC委託プロジェクトの動向を反映しながら用語集の改訂を進めており、IUPAC勧告後に速やかに新用語集が発行される予定である.
日本側は準備を整えてIUPAC勧告の正式決定を待っていたようです。

不思議なことに、用語の一覧の中にはGC-MS, GC/MS, LC-MS, LC/MSの略号も正式名称もいっさい入っていません。この時点の勧告原稿でどう扱われていたのかわかりません。
しかし内藤さんのこの解説ではハイフンとスラッシュについて詳しく書かれています。長くなりますが引用します。

2.10 ハイフン“-”とスラッシュ“/”の使い分けについて
 ハイフネーテッドマススペクトロメトリー hyphenated mass spectrometry という言葉があるにもかかわらず,複合技法の略語における区切り記号の意味のハイフン(-)は使用されなくなりつつある.その代わりスラッシュ(/)で区切るのがより一般的になっている.
 複合技法の区切り記号にはスラッシュを用い,異なる装置間の接続を意味する記号にはハイフンを用いる使い分けが提唱されている18).例えば,液体クロマトグラフィー質量分析 liquid chromatography/mass spectrometry (LC/MS) の場合はスラッシュ,液体クロマトグラフ質量分析計 liquid chromatograph-mass spectrometer (LC-MS) の場合はハイフンとする.また,(複合技法ではない)単一の分析法の略語にはスラッシュやハイフンを用いない.例えば,飛行時間型質量分析 time-of-flight mass spectrometry の略語表記はTOFMSとする.一方,MS を質量分析計 mass spectrometer の略語として用いる場合,飛行時間型質量分析計 time-of-flight mass spectrometer の略語は TOF-MS とする.さらに,イオン化法の略語の後ろにはスペース(空白)を入れる.例えば,エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析計 electrospray ionization time-of-flight mass spectrometry の略語は ESI TOFMS,電子イオン化飛行時間型質量分析計 electron ionization time-of-flight mass spectrometer の略語は EI TOF-MS とする.この表記ルールはIUPACによって正式に採用されたものではないが,用語を略語にする場合に統一性をもたせるのに有益な見解である.
 なお,現行のIUPACでは略語 GC/MS と LC/MS を,それぞれガスクロマトグラフィー質量分析 gas chromatography / mass spectrometry と液体クロマトグラフィー質量分析 liquid chromatography/mass spectrometry の意味の正式な用語として認めているが,次回のIUPAC勧告ではこのような特例はなくなり,他の略語と同様に扱われる予定である.

まず赤字のところにびっくり!2013年以前は、IUPACはGC/MSとLC/MSを正式な用語にしていたんですね! 知りませんでした。

最初のほうの太字のところ「ハイフン(-)は使用されなくなりつつある.その代わりスラッシュ(/)で区切るのがより一般的になっている」は、私が英語論文の現状を調査した限りでは事実でありませんが、2007年ごろにはそうだったのかもしれません。何しろ当時はIUPACがスラッシュの方だけを正式な用語にしていたらしいので。

それから下線のところ「IUPACによって正式に採用されたものではない」とありますが、では何なのかといえば、引用文献18番、David Sparkmanの本「Mass Spectrometry Desk Reference」で書かれているルールですね。

以上3つの解説からわかることは、
1 IUPAC勧告の原稿に「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」のルールが書かれていたかどうかは不明
2 使い分けを含むSparkmanのルールを「有益な見解」と紹介する文章が用語集編纂時期のMS学会の会誌に掲載された

ということです。

これだけを見ると、MS学会はIUPACの態度があいまいなのでSparkmanに従うことにしたと思われるのですが、IUPAC勧告の当時の原稿を読めないのでよくわかりません。

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2020.05.17

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(19)私が考える理想形

GC/MSとLC/MSに関わるほとんどの方が一度は悩んだと思われるハイフン/スラッシュ問題、結局皆さんどうしてますか?私は既に自分のサイトでの方針を決めていますが、あらためて白紙から理想を語ってみます。

白紙と言っても既定の状況がいろいろあって、現実は自由ではないのですが、仮想の自由な状態から順番に制限を増やして考えてみます。

 第1段階:世界中に何も制約がない場合

あり得ない話ですが、世界にまだ略語GC-MSもGC/MSも存在しておらず、私が決められる立場だとします。略語創造主の津村はどうするでしょうか?

それはもう、
「ハイフンを使ってGC-MS及びLC-MSと書く。これらは分析法の意味でも装置の意味でも使える。特定する場合は『法』『装置』などを付けること。」
の一択です。

これ、特に珍しくも何ともない発想ですよね。GCもLCもMSもそういう使われ方をしている略語で、それがハイフンで結ばれただけ。また、略語を作る際にはハイフンを使うのが普通でしょう。こんな略語を「創造」しても分析化学史に名前は残らないと思います。

こうしてみると、最初にスラッシュを使った奴だれ?と言いたくなりますが、調べるのはたいへんそうなのでやめておきます。

 第2段階:現状の世界で私が決められる場合

これまたあり得ない話ですが、現状の世界で、私が独裁的に決められるとすればどうするでしょうか。

この場合でも第一段階と同じで、
「ハイフンを使ってGC-MS及びLC-MSと書く。これらは分析法の意味でも装置の意味でも使える。特定する場合は『法』『装置』などを付けること。」
にしますね。

私の想像ですが、2013年のIUPAC勧告の審議過程でもこのように主張した人がいたのではないでしょうか。世に出ている論文の圧倒的多数はハイフンを使用しているのですから。

しかしこのようには決まらず、ハイフンもスラッシュも使える混沌とした状態を追認する形になりました。勧告が決まる過程でどんな力関係が働いたんでしょう。知りたいものです。

 第3段階:世界の現状を踏まえて私が日本の方針を決められる場合

では、世界がハイフン/スラッシュ混在状態の中、私が日本の方針を決められるとしたらどうでしょう。例えば文部省「学術用語集 化学編」(1986)のような事業がまた行われて、多くの学会や公定法や行政用語に影響を与えられるとしたら?

そのような場合は、
「ハイフンを使ってGC-MS及びLC-MSと書く。これらは分析法の意味でも装置の意味でも使える。特定する場合は『法』『装置』などを付けること。ただし科学教育においては、国際的にスラッシュを使ってGC/MS及びLC/MSと表記する場合もあることを教えること。」
にすると思います。

国際論文誌に出てくるGC/MSやLC/MSの意味がわからなかったら困りますし、「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」のようにGC-MSやLC-MSを禁止している雑誌もあります。

それから、忘れてならないのは、
「国際情勢がスラッシュ優勢になってきた場合、または新たなIUPAC勧告でスラッシュ使用が決められた場合は、GC/MS及びLC/MSに切り替える。」
です。
そんな事態になるのかどうかは不明ですが、あくまで日本の規格や日本語論文を統一するための暫定的なルールであると明記しておきます。

なお、現実の学術用語集には「gas chromatograph-mass spectrometer (GC-MS)」だけが掲載されており、分析法はどう表すのか、液クロはどうなのか、まったくわかりません。

 第4段階:世界と日本の現状を踏まえて小規模な組織での方針を決める場合

このあたりになるとかなり現実的です。皆さんも、手順書や報告書などでどう書くべきか悩んだことがあるのではないでしょうか。

私が考える一番無難な道は、
「自分たちの分析業務において一番影響力の大きい公定法や団体の方針に従う。ただしハイフンまたはスラッシュのどちらかだけを使用することにする。」
です。

私が調べた範囲では、日本質量分析学会、日本分析化学会、クロマト用語のJIS、そしてLC/MSのJISは、「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けを定めています。
これをそのまま使うと、同じ組織内の文書にハイフンとスラッシュが混在することになり、事務方から誤植を疑われるなどの面倒が起こりかねません。

そこで、これらの学会やJISの影響力が大きいと考えるのであれば、自分たちの組織としてはハイフンまたはスラッシュのどちらかだけを使用することに決めて、
 GC-MS(装置) GC-MS法(分析法)
   または
 GC/MS(分析法) GC/MS装置(装置)
の組み合わせのどちらかを選んで組織のルールにしてしまいます。

日本食品衛生学会はハイフンの使用だけを投稿規定で決めているので、この学会の影響力が大きいなら、
 GC-MS(装置) GC-MS法(分析法)
の一択です。

GC/MSのJIS本文はスラッシュだけを使用しているので、このJISだけを重視するなら
 GC/MS(分析法) GC/MS装置(装置)
となります。(ただしGC/MSのJISはクロマト用語のJISも含むことになっているのでハイフンでもよい。)

 第5段階:現実の中で個人の方針を決める場合

私自身の方針は4年前と変わりません。「ハイフンとスラッシュについて」で表明している通り、
 GC/MS(分析法) GC/MS装置(装置)
です。

好みとしてはハイフン派ですが、使い勝手などを考えてスラッシュを選びました。
また、本当はいちいち「装置」を付けたくはありません。私が書く文章はたいてい分析法が中心なのですが、時には装置が中心になることもあります。そんな時には「装置」の意味でGC/MSと書きたい。特に図表の中で使う場合は、2文字多いだけでも窮屈になります。

それでも質量分析学会やJISが決めていることに反することをしたくはないので、やむを得ず「GC/MS装置」と書くことにしています。

 まとめ

私の願いとしては、ハイフンかスラッシュのどちらかに早く世界が統一されてほしいです。RCMがスラッシュ推しでがんばっているのは確かですが、4年前に期待したほど浸透していないようです。まだまだ統一までは遠い道のりのように思えます。

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2020.05.16

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(18)使い分けのメリットとは?

そろそろ一連の調査と考察をまとめたいと思っています。すると「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けのメリットについての考察が抜けていたことに気づきました。

私はこの使い分けに疑問を感じていますが、何ごともメリットとデメリットのバランスで考える必要があります。世界で一般的でないのに日本ではJISにまでなっている使い分け、何かメリットがあるに違いありません。今回はこの点を深めてみます。

 日本質量分析学会(MS学会)の会誌に掲載された見解

そもそもの始まりは、2009年にMS学会の用語集でこの使い分けが採用されたことです。IUPAC勧告を先取りしたはずだったのに、2013年に出たIUPAC勧告では使い分けしないことになりました。しかしMS学会は軌道修正はせず、使い分けを続ける立場をとりました。その経緯を説明したコメンタリーをもう一度読んでみました。

吉野健一「ハイフンとスラッシュの使い分けについて(コメンタリー)」 J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 62(5), 61-64 (2014)

一部の専門家がハイフンとスラッシュの使い分けを提案した最大の理由は,“LC-MS”や“LC/MS”という略語が定義なしに用いられた場合,その略語が装置である液体クロマトグラフ質量分析計(liquid chromatograph-mass spectrometer)を表しているのか,分析法である液体クロマトグラフィー質量分析(liquid chromatography/mass spectrometry)を表しているのか,区別ができないという問題を解消させるためである.
“LC-MS”や“LC/MS”に限らず,同一の文書内で同じ略語を複数の用語に対して使用することは,読み手の混乱を招くことから,これを避けなければならないことはIUPAC recommendations 2013であえて言及する必要のない科学的な文献を記述するルールの一つである.

このように書かれているのですが、具体的にどのような「問題」や「混乱」が起こるのかに触れていません。

 具体的に考えてみる

それではということで、私自身が考えてみました。
私はGC/MSやLC/MSの専門家ではなく、一ユーザーに過ぎません。ですから、分析法や装置そのものについて極めて専門的な表現が必要になることはありません。
しかし私はこれらを使用した研究の論文を書くことがありますし、これらに関する書籍も出版していますから、用語はきちんと使いたいと考えています。このような立場での考察であることをお断りしておきます。

よく使う表現から思い浮かべていくと、そもそも区別が不要なシーンがけっこう多いことに気づきました。
 「GC/MSで分析した」
 「GC/MSの条件は」
これらは分析法なのか装置なのか、どちらで解釈されても支障ないでしょう。

次に、文脈から意味がわかるケースも多いと思います。
 「GC/MSのデータによれば」(たぶん分析法)
 「GC/MSの結果では」(たぶん分析法)
 「このGC/MSの大きさは」(たぶん装置)
もしかしたら書き手の意図は違うかもしれませんが、違っていたとしても大きな違いではないと思います。

こうなるとどんな場合に使い分けが必要でメリットがあるのか困ってきますが、こんな例はどうでしょうか。
 「GC/MSが必要」
これだけでは分析法なのか装置なのかわかりません。
でも普通の文章の中だったら・・・?
 「この試験室にはGC/MSが必要」(たぶん装置)
 「この成分の同定にはGC/MSが必要」(たぶん分析法)

あれこれ考えた挙句、こんなのを思いつきました。
 「GC/MSの費用は」
これは装置の価格なのか分析を行う際のコストなのか、前後の文脈を多めに読まないとわからないと思われます。まあ、1,000万円なら装置で1万円なら分析単価でしょう。

 「装置」や「法」を付ければ区別できる

以上のような簡単な事例では、問題も混乱も特に思い浮かびませんでした。ただし、より複雑な記述になるほど、区別すべきシーンもあるかもしれません。その場合には「GC/MS装置」「GC/MS法」のように書くことができます。

すなわち、ハイフンとスラッシュで区別しなくても別の方法があることを考えに入れる必要があります。ハイフンとスラッシュはそれぞれ半角1文字であるのに対して「装置」「法」は文字数が多いですが、使うのが不便なほど長いわけではありません。

 使い分けの不徹底

考察する中で逆に
「そんなに使い分けが必要なら、もっと徹底しなければおかしいのでは?」
と思ったことがあります。

まず、GC、LC、MSの語が使い分けられていないことです。これらはそれぞれ装置の意味でも分析法の意味でも使われますが、必要性が極めて高いのであれば、これらも使い分け法が工夫されているはずです。あるいは、結合した時だけ使い分けなければならないのであれば、その理由を知りたいところです。

さらに、ハイフンとスラッシュは表記だけの違いであり音では区別できないことにも疑問を感じます。GC/MSもGC-MSも読みは同じ「ジーシーエムエス」です。これまた、必要性が極めて高いのであれば音でも区別できるようにするべきでしょう。音で区別できるという意味では「GC/MS装置」「GC/MS法」の方がすぐれています。

 ハイフンとスラッシュが混在するデメリットはある

以上の通り、少なくとも私の経験では「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けによるメリットを感じたことはありませんが、使い分けのデメリットを感じたことはあります。私もほんの短期間ですが、使い分けを実践してみた時期があるのです。

まず、書き分けがわずらわしい。前半で述べたように装置・分析法の区別が不要な文脈もあるのに、いちいち判断しなければなりません。

自分が面倒なだけならまだ良いのですが、誤植を疑われて説明が必要になる、これが一番困りました。読み手は分析の専門家でないクライアントだったり装置を調達する事務方だったりもします。同じ文書内にGC/MSとGC-MSが混在していたら「どちらかが間違いだろう」と推定するのが人情です。冒頭でそれぞれの正式名を書いたとしても、すべての文書が冒頭から丹念に読まれるわけではありません。世間の人たちは忙しいです。

質量分析の専門誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」はスラッシュだけを使用していますが、これは同じ論文誌の中でハイフンとスラッシュが混在することにデメリットがあると判断したからではないかと思います。

 結論

使い分けのメリットを探すという私の試みは成功しませんでした。まあ、「装置」「法」を付けるより文字数が少ないというメリットはありますが、デメリットに見合う大きさのメリットでしょうか。もっと他にメリットがあるのではないでしょうか。ご存知の方がおられたら教えてほしいと思います。

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2020.05.09

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(17)日本語論文誌では?

英語で書かれた論文は、「GC-MS」「LC-MS」で分析法も装置も表現したものが多い―これが前記事の調査結果でした。日本国内で発行されている日本語の論文はどうでしょうか?
4年前にはこんな調査はしませんでしたが、今は全国的にステイホーム。私も時間があります。やってみました。

最初に私の立場を書いておきます。
こんなにしつこくハイフンvsスラッシュ問題を取り上げるのは、国際的にほとんど行われていない「ハイフン=装置、スラッシュ=分析法」の使い分けを日本国内だけで推し進めることに疑問を感じるからです。

したがって、英語論文の調査は
「国際的な動向をありのままに読み取る」
姿勢で、できるだけ中立的に結果を解釈しましたが、日本語論文については
「使い分けを推奨している論文誌に対して懐疑的」
な姿勢になります。中立でありません。色々な立場があると思いますが、これが私の本心ですので、最初にお断りしておきます。

 調査の方法

国立情報学研究所の CiNii(サイニィ) を使いました。
全論文を対象に「クロマトグラフィー 質量分析」で検索し、ヒットした最新60報の掲載誌を調べ、その投稿規定・執筆要領を見に行きました。

紀要、所内報、研究助成団体などが発行しているもの、それから要旨集は除きました。

 全体的な傾向

予想していたことですが、独自に略語の使い方まで決めている学術誌はそれほど多くありませんでした。
用語については特に定めがないか、JIS、文部省「学術用語集」、日本化学会「化学便覧」等に従うよう書かれていました。これらの中で「学術用語集(化学編)」は1986年刊で古書でしか手に入りません。また「化学便覧」は2004年刊、定価5万円以上です。
現実的にはJISを参照する人が多いのではないでしょうか。やはりJISの影響は大きそうだと感じました。

なお、IUPACに従うように書いているものは少数でした。(ただし化合物名はIUPAC準拠が多い。)

 明確に使い分けを規定している学術誌

「ハイフン=装置、スラッシュ=分析法」を掲げる用語集を発行している日本質量分析学会の「質量分析」(Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan)はどうでしょうか。投稿規程 には「8. 略語の使用について」という項があり、

略語の使用は著者と専門が異なる読者が内容を理解する際の障害となるおそれがありますので,文中に頻出する用語以外での略語の使用はできる限り避け,使用する際は必ず初出時に定義をして下さい.また同じ語句を異なる用語の略語として用いることは認められません.
と書かれています。

直接ハイフンとスラッシュの使い分けが書かれているわけではありませんが、「同じ語句を異なる用語の略語として用いる」を禁止しています。

それから日本分析化学会の「分析化学」は、もっと明確に使い分けを要求しています。
投稿 のページに「論文題名に使用できる略語の例」が掲載されています。

論文、および論文タイトルで使用できる略語の例です.これら以外でも一般的と認められる略語は使用することができます.

―列挙されたものから抜粋―
 GC-MS(装置)
 GC/MS(分析法)
 LC-MS(装置)
 LC/MS(分析法)


上記の中でカッコ内には英語正式名が書かれていますが、わかりやすくするため装置・分析法と書きました。

以上の通り、日本質量分析学会と日本分析化学会は足並みをそろえて「ハイフン=装置、スラッシュ=分析法」の使い分けを推進しています。

 ハイフン推しの学術誌

日本食品衛生学会「食品衛生学雑誌」の 編集規定・投稿規定 は非常にユニークです。

「本誌で定義なしで用いることができる略語の例を別表3に示す.なお,表題,ランニングタイトルでは,原則として定義を要する略語は使用しない.

―別表3に列挙されたものから抜粋―
 GC-MS(装置)
 GC-MS/MS(装置;分析法)
 LC-MS(装置)
 LC-MS/MS(装置;分析法)

これはびっくりです!定義なしで用いることができる略語はハイフンの方だけ。スラッシュを使うこともできますが、その場合は正式名称を書く必要があり、表題とランニングタイトルには使えないというのです。
しかも、タンデム質量分析に関しては「*C-MS/MS」で装置も分析法も兼ねるそうです。

私がこの雑誌に投稿するなら、スラッシュだけを使って「*C-MS:装置、*C-MS法:分析法」と書くでしょう。個人的にはめちゃくちゃ好みに合ってます。国際的に主流になっている使い方ともよく一致しています。

ただし上記は私の推測です。食品衛生学会にはかつてたいへんお世話になりましたが、今は会員でないので掲載論文を読むことができず、残念ながら実際の文章はわかりません。

 読者にゆだねている学術誌

略語の使い方を決めている学術誌はそれほど多くありません。その中で「日本プロテオーム学会誌」は 投稿規程 に「別表2 題名,要旨及び本文に用いることのできる略語」が付いています。
この中にはGCもHPLCもLCもMSもあるのに、これらを組み合わせた略語はリストされていません。

私の深読みかもしれませんが、あえて執筆者が自由に選択できる仕組みのようにも思えます。IUPACの勧告は大きな自由度を持たせていますが、それに沿っていると解釈することもできます。

 意図がわからない学術誌

日本薬学会「薬学雑誌」の 投稿規定 には略語の項目があり、このように書かれています。

スペルアウトしないで使用できる略語は次のとおりです.

―列挙されたものから抜粋―
 GC-MS(分析法)
 LC/MS(分析法)

これは驚きの使い分けです!どちらも分析法なのにガスクロはハイフン、液クロはスラッシュを使うんですね。私にはこの意図がわかりません。

この投稿規定でもう一つ変わっているのが
MS(mass spectrum)
です。通常は質量分析(分析法)もしくは質量分析計(装置)をMSと定義しますが、なんとマススペクトル(データ)にMSを割り当てています。

日本薬学会は140年の歴史を持つ学会ですから、何か深遠な理由があるのかもしれません。

 早いもの勝ち?の学術誌

日本水道協会「水道協会雑誌」の 投稿規定 に「キーワード一覧表」が付いています。

令和元年12月現在までに使用されたキーワードの一覧表です。キーワードの類似を避けるため、なるべく下記の一覧表よりお選びください。

―列挙されたものから抜粋―
 HS-GC/MS
 ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)
 GC-TOFMS
 熱分解GC-MS
 PT-GC/MS
 LC-MS
 LC-MS/MS

これは、各論文に5個まで付けるキーワードを、できる限り統一するためのリストだそうです。このリストに無い語をキーワードにすることもできますが、その場合は「※」を付けて独自の語であることを示すことになっているようです。

並んでいる語の中でGC/MSだけ意味が書かれていますが「装置」です。その他の語が何を意味しているかは書かれていません。ハイフンとスラッシュの両方が使われています。もしかしたら「早いもの勝ち」で、誰かがキーワードとして使用したら、以後の執筆者は既存の中から選ぶのかもしれません。

 用語集が高価すぎる学術誌

日本栄養・食糧学会は「日本栄養・食糧学会誌」を発行しています。この学会のサイトに 用語管理 のページがあり、

本学会では学会誌など学会活動で用いる用語を、栄養・食糧学用語辞典〔第2版〕(公益社団法人日本栄養・食糧学会編, 建帛社(2015))により管理しています。

と書かれています。用語辞典の出版後の修正を毎年公開するなど、用語をとても大切にしている姿勢がわかります。しかしこの用語辞典は税込み定価 12,100円だそうで、気軽に買えるようなものでありません。これだけ用語にこだわる学会がハイフンvsスラッシュをどう扱っているか知りたいですが、手が出ません。

 特に方針を示していない学術誌

以下の学術誌は検索にヒットした論文が最低1報ありますが、クロマトグラフィーと質量分析の結合を表す略語に関する規定が見つかりませんでした。特に決めていない学術誌が大部分ということでしょう。

医学書院「臨床検査」
環境技術学会「環境技術」
強化プラスチック協会「強化プラスチックス」
国際環境研究協会「地球環境」
室内環境学会「室内環境」
日本アロマ環境協会「アロマテラピー学雑誌」
日本エネルギー学会「日本エネルギー学会誌」
日本化学会「化学と教育」
日本環境測定分析協会「環境と測定技術」
日本空気清浄協会「空気清浄」
日本接着学会「日本接着学会誌」
日本透析医学会「日本透析医学会雑誌」
日本塗装技術協会「塗装工学」
日本乳業技術協会「乳業技術」
日本法科学技術学会「日本法科学技術学会誌」
日本防錆技術協会「防錆管理」
日本水環境学会「水環境学会誌」
日本木材学会「木材学会誌」
日本臨床検査医学会「臨床病理」
日本臨床衛生検査技師会「医学検査」

 まとめ

今回調査した中で学会としての姿勢が明確なのは3つと思われます。

日本質量分析学会、日本分析化学会
「ハイフン=装置、スラッシュ=分析法」

日本食品衛生学会 
「ハイフンのみ使用」

Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)に追随してスラッシュだけを使用する学術誌が一つくらいはあるのではないかと思っていましたが、見つかりませんでした。

それにしてもクロマトとMSを使う分野は本当に幅広いんですね。あらためて驚きました。多くは、暮らしに身近な環境や製品の分野のようです。
日本の科学技術のあらゆる現場で、技術革新や分析値の質向上に励む人たちがいるんだと実感しました。

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2020.05.05

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(16)最新の英語論文では?

ハイフン=装置、スラッシュ=分析法、この使い分けが世界的にメジャーなのかどうか、4年前に調べました。結果は、使い分けている論文は一つも見つかりませんでした。

現時点ではどうでしょう? 4年前の検証 と同じことをしてみました。

 スラッシュ派の旗手のあの雑誌

Wileyの雑誌Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)の 執筆者ガイドライン は4年前と変わっていません。Use of abbreviationsの項目で Rapid Commun. Mass Spectrom. 2014; 28: 1853-1854 に従うように強く勧めており、その中ではGC-MSもLC-MSも「避けるべき略語」とされています。

この雑誌の今年の刊行分(34巻)を1号から12号(最新)までチェックして、無料公開の論文24報の用語を検索しました。GC、LC、TLCとMSを組み合わせた分析法について述べた論文が14報ありました。すべてスラッシュで表記されており、GC-MSやLC-MSの語はありませんでした。RCMは4年前と変わらず徹底してスラッシュだけを使用しています。意味は「分析法」「装置」両方あり、「分析法」がかなり多いです。

 その他の学術誌

4年前にPubMedで「chromatography mass spectrometry」で検索をかけ、上位60位までにヒットした無料論文をチェックしたところ、RCM掲載分以外はすべてハイフン使用でした。

今回も無料全文公開されている論文を同じ検索語でPubMedサーチしました。サーチ日時は昨日(2020年5月4日)です。上位(最新)60報は4月10日ごろから30日ごろの日付の論文でした。(PubMedの表示順は日付と完全には一致していません。)日本の機関に所属する日本人と思われる氏名の著者による論文も複数ありました。60報の略語使用状況の内訳は次の通りです。

 -だけ    43
 /だけ     2
 連続(GCMS等) 1
 -/両方    5
 -/連続全部  1
 略語なし   8

スラッシュだけを使用している2つの論文は、いずれもRCM以外の雑誌に掲載されたものです。4年前にはゼロだったのに今回2報見つかったということは、スラッシュ派が少し広がってきたと言えるかもしれません。しかしハイフンのみ使用は43報ですから、まだまだハイフン派が圧倒的に優勢です。この2つの論文へのリンクを付けておきます。

Kritikos, et al, Molecules., 25(8), pii: E1981 (2020)

Alberdi-Cedeno, et al, Antioxidants (Basel), 9(4), pii: E312 (2020)

では、ハイフンとスラッシュを両方使用した論文、さらに、GCMSやLCMSのようにハイフンもスラッシュも入れない使用方法まで出てくる論文はどうでしょう。こういう論文は6報ありました。これらは、

・使用した装置の機種名に「GC/MS」等が入っていて、その周辺の文中だけ機種名以外の記述もスラッシュ

・分析方法を参考にした元文献で「GC/MS」等が使われていたらしく、直接の文章の引用でないと考えられるのにスラッシュ使用

・ほとんどハイフン使用で1~2か所スラッシュ使用(誤植の疑い)

・混用した理由も意味も不明

といったのものばかりで、著者が意図して複数を使ったと考えられるものはありませんでした。すなわち、調査したすべての論文はハイフン=装置、スラッシュ=分析法の使い分けをしていませんでした。この結果は4年前と同じです。

 もっと大規模に調べたいけど…

ところで、「無料公開論文60報全文調査」で見つかったスラッシュ派の数、増えたと言えるのでしょうか?2報だけでは何とも心もとないです。
もっと大規模に調査できないかと、PubMedで期間を区切ってのフレーズ検索を試みました。しかし、"GC/MS"のようにダブルコーテーションで囲んで検索しても、スラッシュは特別な文字とみなされるのか、意図した結果になりません。どう見てもGC-MSの語しか使っていない論文までヒットしてしまいます。

GC/MSとGC-MSの使用状況を比較できる検索方法をご存知の方、ぜひ教えてください。

 まとめ

私の印象ですが、ハイフン派もスラッシュ派もだいたい論文の冒頭で「分析法」の意味でGC-MSやGC/MSの語を定義しています。そして装置を表す場合は「GC-MS system」等を使うのが主流と思われます。
しかし「LC with mass spectrometry (LC-MS)」のように「分析法」であることを定義しておきながら、本文中ほとんどすべての略語にmethod, analysis, protocolの語を付けている論文もありました。

Olech, et al, Molecules, 25(8), pii: E1804 (2020)

ここまで行かなくても、methodやanalysisを付けている論文は多数ありましたので、「冒頭で定義したけど、略語は分析法とも装置とも解釈され得るので念入りにしておこう」という気持ちが著者たちにあるように思われました。

使い分けする派vsしない派で単純に分けるとこうなります。

 する派 日本質量分析学会・JISクロマトグラフィー通則・JIS LC/MS通則

 しない派 IUPAC・英語論文ほとんど全部・JIS GC/MS通則

今回の調査結果からも、4年前と同じように、略語にハイフンとスラッシュのどちらを使うかは国際的に統一されていないが、ハイフン=装置、スラッシュ=分析法の使い分けは国際的にかなり特殊なルールと言えると私は考えます。

日本質量分析学会の用語集第4版ではこのルールが維持されましたが、少なくとも学生や新入社員の教育に携わる皆さんは、使い分け以外の立場もあることを教えるほうが良いのではないかと思います。

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2020.05.03

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(15)GC/MSのJIS新旧比較

JIS K 0123 ガスクロマトグラフィー質量分析通則の2006年版と2018年版を比較します。

ウェブで公開されている2018年版には「目次」と5つの「附属書(AからE)」が付いています。いっぽう私が持っている2006年版は、日本規格協会「JISハンドブック 49 化学分析 2016」に掲載されているものです。これには目次と附属書は掲載されていません。ですから目次と附属書を除く部分について比較します。

 略語の使用方法と使用回数

まずはGC-MSとGC/MSの語の使われ方と使用回数から。
旧版の使用箇所はすべて引き継がれ、新たに5か所追加されたようです。ただ、ウェブ版には検索機能がありますが紙ではその機能が使えないので、2006年版の方は私が見落とした箇所があるかもしれません。それぞれ次の通りです。

 GC/MS    旧1 新6
 GC/MS/MS   旧1 新2
 GC/MS法   旧1 新1
 GC/MS/MS法 旧1 新0
 GC/MS装置  旧6 新5
 GC/MS接続部 旧5 新5
 GC-TOFMS  旧0 新1
--------------------------
 回数合計  旧15 新20

目立つのは2018年版では「GC/MS」の使用回数が増えたことです。
それから、スラッシュで一貫しているかと思われましたが、一か所だけハイフンを使った略語(GC-TOFMS)が登場しています。

 「GC/MS」の意味

「GC/MS」が何の略称であるかについては、どちらの版も本文の最後のほう「個別規格に記述すべき事項」にカッコ書きがあります。

 2006年版 ガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)
 2018年版 ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)

2006年版は「GC/MS」が1回しか使われていないのでわかりますが、2018年版は5回も説明なしで「GC/MS」を使用し、6回目にやっと明らかにされる文書となっています。

それはともかく、新旧版とも「GC/MS」を分析法の意味で使用していると言えます。

なお、2006年版では和文に「/」が入っていましたが2018年版では削除されました。JIS名にはもともと「/」が入っていないので、これは単純な誤植だったのかもしれません。

 「GC/MS法」の意味

「GC/MS法」は新旧とも同じ箇所で1回だけ使用しています。最初の方の「概要」に

 ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS法)

とあります。えっ?同じ日本語に対して「GC/MS」「GC/MS法」2つの略語が割り当てられています。これはちょっと気になります。

好意的に解釈すれば、「GC/MS」は基本的に分析法の意味であるが、そのことを念入りに示す場合は「GC/MS法」を使うということですかね。

2006年版で「GC/MS/MS法」が1回だけ使われていましたが2018年版では「GC/MS/MS」に置換されました。ここは念入りにしなくてもよいと判断されたのかもしれません。

 装置は基本的に「GC/MS装置」

2018年版で「GC/MS装置」の語の使用回数は1回減りました。これは電子イオン化法の説明のところで、装置の観点での説明を分析法の観点での説明に変えたことによるものです。「GC/MS装置」が5か所残っています。

つまり、GC/MSのJISは2006年版も2018年版も普通の装置を表すときは「GC-MS」でなく「GC/MS装置」の語を使用していると言えます。

 突如出現した「GC-TOFMS」

さて、そこでがぜん目立ってくるのが2018年版で初めて登場した「GC-TOFMS」の語です。この部分を抜き出してみましょう。

一般のGC-TOFMSは,イオンが直進し,検出器に到達するリニア形,リフレクターをもつリフレクトロン形及び同一軌道上を周回させる多重周回形がある。

説明はありませんが内容は明らかに装置の話です。この直前に「飛行時間形質量分析計(TOF-MS)」とあるのに、TOFとMSの間にハイフンが無いのが気になります。

他の部分で使われている規則性を当てはめるなら「GC/TOF-MS装置」と書くほうが一貫していると思いますが、ここであえてハイフンを使ったのはなぜなのでしょうか。わかりません。

 結局GC/MSのJISはどっち派なの?

ハイフンは装置、スラッシュは分析法、この使い分けをする派としない派に単純に分けるとすれば、GC/MSのJISはどちらなのでしょうか?

今回の比較から私が感じたのは、

2006年版ではGC/MSだけを使う「しない派」だったように見える。2018年版も大部分はその方針を踏襲している。しかし飛行時間形質量分析計だけは例外らしい。

です。前記事で「GC/MSのJIS頼もしい」と書きましたがTOF-MSについては頼もしくなかったですね。
余談ですが個人的にTOF-MSはトフマスと読むのが好きです。(質量分析(計)のことをマスと呼びたいっ!

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2020.05.01

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(14)JISはどうなった?

化学分析業界にとって影響が大きいのは日本産業規格(JIS)です。理由はズバリ、国家試験の問題として出題されるからです。詳しくは GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(10) に書きました。

ハイフンvsスラッシュに関わるJISは現在どうなっているか見てみましょう。ちなみに「日本工業規格」は2019年7月1日の法改正によって「日本産業規格」になりました。略称はJISのままです。

JISは日本産業標準調査会の JIS検索 で読むことができます。各JISへの直リンクを作ることができないので、必要な方はJIS名をコピペして自分で検索してください。

 JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)

私が前回調査した2016年以降改訂されておらず、「ハイフン=装置」「スラッシュ=分析法」と規定しています。日本質量分析学会用語集第4版で加えられたような例外を許容する記述はありません。
LC/MS、LC-MS、GC/MS、GC-MSの項目があり、すべて装置と分析法の意味に使い分けています。

 JIS K 0136:2015 高速液体クロマトグラフィー質量分析通則

これも前回調査以降改訂されていません。LC-MSは装置、LC/MSは分析法と使い分けています。
LC/MSは初出の部分で分析法の略称であることが書かれているのに対して、LC-MSについてはなぜか説明がありません。しかし最新のJIS K 0214 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)に従うことが規定されていますので、意味は明白です。

 JIS K 0123:2018 ガスクロマトグラフィー質量分析通則

このJISは前回調査時点では2006年版で、GC/MSに「装置」「法」を付けて表現していました。2018年に改訂されてどうなったでしょうか?

読んでびっくり!なんと改訂前のままなのでは!?

「GC/MS法」「GC/MS装置」「GC/MS接続部」のように別の言葉を付けた使い方が多いですが、「(高速GCは)GC/MSへの適用も多い」「GC/MSとしてAPCIを用いる場合」といった単独での記述もあります。

一方でこのJISには、最新のJIS K 0214 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)に従うことも規定されています。矛盾している?大丈夫か!?と思わないこともないですが、GC-MSは一度も使わずにGC/MSだけを貫いています。実に頼もしい。

これは単に2006年版をいじらなかっただけなのか、それとも何か意図があるのでしょうか。気になります。紙で持っている2006年版のJISと詳細に比較して、またここで報告したいと思います。

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