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2017.07.17

マニアックな元素本「元素をめぐる美と驚き」

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文庫版の「元素をめぐる美と驚き──アステカの黄金からゴッホの絵具まで」(ヒュー・オールダシー=ウィリアムズ著、安部恵子ら訳、早川書房)を読みました。

実は2012年刊行の単行本も読んでいましたが、最後までしっかり読む気になれず後半は斜め読みでした。
今年4月に文庫版が出て、上下巻に分かれているため電車の中などでも読むことができ、きちんと読み終わりました。

化学、特に元素の読みものが好きな方のために、どんな本か紹介します。

まず、初心者向けではありません。既にかなり元素に対する思い入れを持っている人向けだと思います。
その上、本当に楽しむためにはかなり欧米、特にヨーロッパの芸術や文学や歴史に関する予備知識が必要です。

著者は1959年ロンドン生まれのジャーナリスト。学生時代から元素の実物を集めることを趣味とし、芸術や文学や日用品がいかに元素と関わっているかを探求し、元素発見にちなむ各地へ旅をします。

絵画、銅像、彫刻、建築物、ドラマ、映画、詩、小説、果ては化粧に至るまで、元素がどのように活躍しているか述べられます。さらに、元素の命名に神話が使われていることなども。文化と化学を結びつけた膨大なエッセイ集になっています。

Amazonの宣伝文句には「古今東西の逸話を満載した科学ノンフィクション」とありますが、「古今」はあるものの「東西」はどうでしょう。ほぼヨーロッパです。著者が言うには、自然界にある元素のほとんどはヨーロッパで発見されたそうなので仕方ないかもしれませんが。ヨーロッパの文化の素養が無い私にとっては、興味を持続させながら読むのは骨が折れました。

そういうわけで、あまり元素マニアでない方には、まず「スプーンと元素周期表」をお勧めします。元素の面白さがストレートに来ます。このブログでも紹介を書きました(読み応えのある元素本「スプーンと元素周期表」)。これも文庫版が出ています。

が、しかし、「元素をめぐる美と驚き」の元素への思い入れには学びたいと思います。「私たちは元素との必然的な関わりを大事にし、楽しむべきだ」がこの本のメインテーマです。

「へぇ~」と思った内容を箇条書きにしてみます。

  • 炭素が経済の中心に余裕で居座っていられるのは、燃やすとあとかたもなく消え失せる唯一の固体燃料だから

  • メンデレーエフが最初に発表した周期表には、リスク分散のためにさまざまなレイアウトが含められていた。最終形に収まったのは何十年もあとのこと。

  • ジョゼフ・ライトが描いた「リンの発見」の絵。暗い部屋の中でフラスコの中のリンが輝いて神秘的。(参考リンク:3分でわかるジョセフ・ライト

  • アルゼンチンは元素にちなんで名づけられた唯一の国(銀を意味するラテン語argentumから)

  • 硫化カドミウム顔料には青色を除いた虹のほぼすべての色があり、この発見によってゴッホの時代の画家たちは、様々な色を突然使えるようになった。

  • スウェーデンの化学者が使った携帯型の道具「吹管」。分光器に取って代わられるまで使われた。鉱物を熱し、変化する炎の色から金属元素、蒸気の臭いから硫黄などの非金属、音から水の存在などがわかる。

一番印象に残ったのは、最終章、著者がスウェーデンの島にあるイッテルビー鉱山へ旅した話です。この鉱山はイットリウムの語源で、さらに他の6つの元素の発見につながった鉱物の産地です。歴史的な場所であるにもかかわらず今ではひっそりとしていることがうかがえました。
著者が誰もいない道を分け入って小さな鉱山跡にたどり着き、夢中で鉱物のかけらを拾い集める様子は、元素の発見をたどるようでワクワクしました。

冒頭に掲げたのはウィキメディア・コモンズで提供されているイッテルビー鉱山の写真です。

File:Ytterby gruva 2769.jpg
Description
Deutsch: Die Grube Ytterby auf der Insel Resarö in der schwedischen Gemeinde Vaxholm
Svenska: Ytterby gruva på Resarö
Sevärd.svg
Date May 2004
Author Svens Welt

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