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June 2016

2016.06.21

「MRM」は使ってもよいか

MS/MSを利用している人にしか関係がないので相当マイナーな話になりますが、「MRM」もまた微妙な立場の言葉です。

日本質量分析学会の用語集には「多重反応モニタリング (multiple reaction monitoring) という語は推奨されない」と書かれています。

これに対してIUPACの2013年の勧告では非推奨とまでは書かれておらず、「連続反応モニタリング(津村注:MSnのこと)と混同しないこと」と注意書きがあるだけです。

雑誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」の「質量分析に関する刊行物で避けるべき用語と略語」ではMRMは「避けるべき語」です。そして「IUPACは許容しているが」と注が付いています。
この注が付いている語は計8個ですが、日本でよく使われている語はGC-MSとLC-MSとMRMくらいです。RCMがIUPACに刃向かって(?)使用に反対する・・・それなりの理由があるのでしょう。

ところが実は私はMRMという言葉が好きです。

「選択反応モニタリング (selected reaction monitoring, SRM)」を使うことが推奨されていることを知りつつ、公式な文章以外ではついMRMと言ってしまいます。語呂がいいからでしょうか。どうもやめられません。
IUPACの勧告によればMSnと混同しなければいいので、三連四重極型の装置を使う限り問題ないことになりますが、この語は今後どうなっていくのでしょう。

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2016.06.18

本館サイトをスマホ対応に

毎日見ているネットの世界が知らないうちに進歩していて驚きました。

一見したところ普通のパソコン向けのサイトのように見えます。でも、ウィンドウの横幅を狭めていくと、あるところでレイアウトが変わってタブレット向けに、さらに狭めていくとスマホ向けに変わります。そういうウェブサイトが増えています。

まだそんな仕組みを見たことがなくて、いまパソコンを使っている方は、私の 本館サイト で試してみてください。

横幅960ピクセル固定の2段組み → ウィンドウ幅に合わせて幅が変わる2段組み → 1段組みでメニューは末尾に

このように3段階に変化して、画面の大きさに合わせたレイアウトになります。

スマホ向け(モバイルフレンドリー)サイトの作り方としては、まったく別々のページを構築する方法もありますが、同じページの見え方だけを変える方法をGoogleは推奨しているそうです。その方がウェブ制作者側の管理の手間が減り、また、Googleにとってもデータ更新の負担が減るからです。

そんな高度なことが素人にできるはずないと最初は思いましたが、ちょっと調べたら意外に簡単にできることがわかりました。
具体的には、HTMLという個別のファイルに1行ずつ書き足します。そしてCSSというファイルに10行ほど書き足します。
これだけで、ウィンドウの幅に合わせてレイアウトが変わっていくページができてしまうのです。

やり方を調べてレイアウトを試行錯誤するのに10時間くらいかかりました。それから、個別のファイルに1行ずつ書き足すのも30分くらいかかりました。(私のサイトのHTMLファイル数は80ほどです。)

Googleにモバイルフレンドリーと認められると、スマホでの検索結果に「スマホ対応」と表示されるようになります。私のサイトも認めてもらえたようです。
Smapho

スマホを使えばすきま時間に情報収集や勉強ができますから、今後はレイアウトだけでなく内容もスマホで読みやすい長さや見出しを意識しようかなと思います。

画面の横幅に合わせてレイアウトが変わる仕組みになっている他のサイトの例を載せておきます。

 日本分光
 株式会社ワイエムシィ
 東京化成
 秀和システム

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2016.06.15

m/z は「質量電荷比」ではない件

日本国内のルールと国際的なルールが異なっている件で前回まで長い連載になってしまいました。

こういう例はまれです。基本的に国内のルールは国際的なルールに合わせるよう努力されていますので、ほとんどのルールは国内外で一致しています。

国内外で一致して誤りとされているのに、なかなか無くならない言葉がありますので、知っている人には耳タコでしょうが書いておきます。「質量電荷比」です。この言葉をm/z と同じ意味で使うのは推奨されません。

なぜなのか。日本質量分析学会の 「マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)」 には

「マススペクトルの横軸の量はイオンの質量をイオンの電荷で割った商ではないので」

と書かれています。

ちょっとこれだけではピンと来ないかもしれませんので、もう少し詳しく説明してみます。

例えば分子量100の物質が電子イオン化によって1価のプラスの電荷を持つ100 Da(ダルトン)のイオンになった場合を考えます。

質量を電荷で割った商はどうなるでしょう。1価のプラスの電荷は電子1個の電荷と絶対値が等しい、つまり約1.6×10-19 C(クーロン)ですから、

 100÷(1.6×10-19)= 6.25×1020 (単位:Da/C)

となります。
しかし、このイオンのm/z は100です。数字がまったく違いますね。単位も違います。m/z は無次元量です。

こういうわけですから、質量電荷比という言葉をm/z の意味で使っている人は即刻やめましょう。

【参考】MS学会の用語集より

m/z (m オーバーz):イオンの質量を統一原子質量単位で割り,さらにイオンの電荷数で割って得られる無次元量.表記に際しては,必ず小文字の斜体(イタリック体)で,空白を挿入しないで記述する.電荷数(charge number)および統一原子質量単位(unified atomic mass unit)参照.

注:質量電荷比(mass-to-charge-ratio)という語は推奨されない.マススペクトルの横軸の量はイオンの質量をイオンの電荷で割った商ではないので,質量電荷比ではなくm/z を推奨する.m/z の数値を示す際は,m/z =100のように等号を用いるよりも,m/z 100のような表記を推奨する.また,m/z の単位として提案されているトムソン(thomson, 単位記号Th)は現時点では未公認である.

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2016.06.12

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(11)最終回

Kuchiku1
クロマトグラフィーと質量分析の複合をどう表すか、ここまで書いてきたことを集約し、私のサイトでの運用方針を示したページ ハイフンとスラッシュについて を作りました。

今後私のウェブサイトではGC/MS及びLC/MSの略語を使用し、GC-MS、LC-MS、LC-MS/MSなどは使用しないことにします。

いろいろ調べた中で「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」の姿勢には感じ入りました。他の雑誌はハイフン使用が圧倒的に多い状況の中、この雑誌はGC-MSとLC-MSを「避けるべき略語」に指定して使用をやめさせようとしているのです。

アニメにもなった人気漫画で、主人公が「駆逐してやる!!」と叫んで最大60メートルもある巨人たち(たくさんいる)を絶滅させようとする話があります。
戦闘機や大砲がない世界という設定で、人類は「立体機動」を使って、建物やら大木やらの高さを利用して巨人の急所を狙うのです。

しかし体の大きさが極端に違いますので、人類は苦戦を強いられます。

そんな戦いに勝ち目はないし、私はハイフンが好きなのよというのもいいですし、「ほぅ・・・悪くない」と賛同してみるのもいいかもしれません。
分析化学業界、なかなか面白いではないですか。5年後、10年後はどうなっているのでしょう。次のIUPAC勧告にはどう書かれるのでしょう。

ハイフンとスラッシュの使われ方をウォッチしながら読めば、論文や参考書も参加型アミューズメントになるかもしれません。

Kuchiku2
画像はフリー素材サイトからいただきました。
建物の画像:フリー写真de小旅行 木組みの町並み~ドイツメルヘンの象徴~
森の画像:フリー素材屋Hoshino

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2016.06.11

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(10)

ハイフンかスラッシュかなんて適当にやってるからどちらでもいいよ──というユーザーも多いかもしれません。実際、「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けの認知度は、2009年の用語集刊行以後もあまり高いとは言えません。しかし今後は状況が変わってくるかもしれません。

影響が大きいのは何といってもJISの通則です。

 JIS K 0136:2015 高速液体クロマトグラフィー質量分析通則
 JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)

で使い分けを定めています。今後、2006年改訂の

 JIS K 0123:2006 ガスクロマトグラフィー質量分析通則

が次の改訂を迎える時に使い分けを採用すれば、JISによる使い分け方針は完成です。

JISに規定されるということは、環境計量士などの関連国家資格の試験で出題される可能性があることを意味します。
環境計量士の国家試験はけっこう用語へのこだわりがあるようです。「pH」の読みを問う問題が出されたこともあります(2012年3月実施、濃度関係、ペーハーの読みは×)。私が知る限りでは2013年3月実施の濃度関係の試験中、略号の意味を問う正誤問題で「LC/MS 液体クロマトグラフ質量分析計」という選択肢があります。この回答は○だったようです。まだJISが今の形になる前だったからでしょう。

国家試験で出題される可能性がある以上、関係する大学や専門学校では教育内容に採り入れる必要があると思います。つまり、大学や専門学校の定期試験でも「GC-MSとGC/MSの意味の違いを説明せよ」といった問題が出ることになるかもしれません。

ただしIUPACの2013年勧告では使い分けをしていませんし、(8)に書いた通り、国際的な学術雑誌においては、一つの文書中ではハイフンだけ、もしくはスラッシュだけを、装置の意味でも分析法の意味でも使うのが主流です。ということは、少なくとも将来英語論文を書くような学生には、使い分けしない立場についても説明しなければならないでしょう。

しかし、将来英語論文を書く可能性がまったくない学生ばかりの授業というのはあまり考えられませんので、大学や専門学校ではJISのルールとIUPAC勧告の双方を教える必要があると私は考えます。国家試験さえ受かればいい、論文を書くほどになる頃には本人も自分で情報を集められるようになっているだろう…という考え方もありますが。

そういうわけで 「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版」 では両方のルールについて書きました。

ちなみにこの分野の近刊には「LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用」(2014年)と「LC/MS, LC/MS/MSのメンテナンスとトラブル解決」(2015年)があります。どちらの書籍もJISと同じルールのみを掲載し、IUPACの2013年勧告には触れていません。これらの書籍は日本分析化学会液体クロマトグラフィー研究懇談会が編集作業を行っていますので、私のような個人の出版物よりもよほど影響力は大きいです。

このような情勢下でJISの規則のみを知っている新人が入社してくると、これまで通りGC-MSとGC/MSのどちらかを装置・分析法両方の意味で使っている先輩社員に対して「オッサン、古い。ちゃんと勉強していない」と考えるかもしれません。IUPACの勧告、そして国際的な論文誌の動向に照らせば先輩社員の方が合理的なのに…。そして社内で無用の葛藤を生むかもしれません。

それではどうしたらいいのか?
私の結論を次回書きたいと思います。やっと最終回になりそうです。

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2016.06.10

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(9)

113番元素の名称候補ニホニウムが発表され、いま、国際純正・応用化学連合(IUPAC)の名がTVや新聞で流れています。元素の名前を決める権限があるIUPAC。そのIUPACの勧告とも主要な学術雑誌の方針とも異なるルールを日本質量分析学会(以下MS学会)とJISが決めています。
自然に2つの疑問が浮かんできます。

1.なぜハイフンとスラッシュを使い分けることにしたのか?

2.今後もこの方針を続けるのか?

時系列ではこのようになっています。
2004 IUPACの質量分析用語プロジェクトが始まる
2009 MS学会の最新の用語集出版
2013 IUPACの質量分析用語プロジェクト完了、勧告発表
   JISの分析化学用語(クロマトグラフィー部門)改訂
2015 JISのLC/MS通則改訂

JISのLC/MS通則はIUPAC勧告の2年後に出ていますから、勧告を踏まえたうえで、あえてMS学会の用語集の方針を守ったと考えられます。

2009年刊行のMS学会「マススペクトロメトリー関係用語集」の最初のページには「改定第3版の出版にあたって」という文章があり、その中で、この用語集はIUPACの勧告にできる限り準拠させる方針で作業を進めてきたと書かれています。「しかし」と続く説明を引用します。

しかし、IUPACの作業の遅れにより、出版のタイミングをIUPAC勧告の更新に合わせることができませんでした。用語の過渡期での出版になってしまいましたが、IUPACの最新の作業結果に基づいておりますので、新しいIUPAC勧告を先取りした内容としてご理解ください。

IUPACのプロジェクトは2004年に始まり、この時点で既に5年経過していました。結果的には2013年に勧告が出たので、待たずに用語集を出したのは賢明な判断だったと思います。

この文章から察するに、2009年の時点では、用語集の編纂者はIUPACの勧告が「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けを推奨すると予測していたのでしょう。これがたぶん、1つめの疑問への答えです。

ところが実際にはIUPACの勧告はハイフンとスラッシュ双方を装置・分析法の意味で使えるという内容になりました。これに対するMS学会の対応は、2015年6月の通常総会における事業報告に書かれています。学会の機関誌に掲載された2014年度事業報告中、用語委員会の部分には、
 本会用語集第3版に掲載された用語(見出語)のうちIUPAC Recommendations 2013で定義等が変更された用語の改訂定義文とその解説を学会誌に掲載した。

とあります。今年の総会における2015年度の事業報告ではもうこの件に触れていないので、「改訂定義文とその解説を学会誌に掲載」が学会の対応のすべてと考えられます。掲載された解説とは、

「ハイフンとスラッシュの使い分けについて」J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 62(5), 61-64 (2014)

のことでしょう。これは個人執筆のコメンタリーという形をとっていますが、総会で用語委員会の事業として報告されていますので、質量分析学会の公式な見解に近いと考えてよいと思います。

この中で今後の学会の対応を示すと思われる部分を引用します。

本稿で解説してきたハイフンとスラッシュの問題についてIUPAC recommendations 2013では最終的に使い分けを行わない方法を勧告したが,近々改定される日本工業規格(Japanese Industrial Standards: JIS)「高速液体クロマトグラフィー質量分析通則」 (JIS K 0136) では装置はハイフン,分析法はスラッシュを使用することが明記される予定である.(中略)IUPAC recommendations 2013ではいずれの方法も認めるということなので,JIS通則での規定はIUPACの勧告を逸脱するものではない.日本国内向けの文書ではこの通則に準拠することが望ましい.

というわけで、2番目の疑問「今後もこの方針を続けるのか?」については、「どうも続けるらしい」という予測ができます。

(上記の中で改定と改訂が混在していますが、引用したものは原文のままです。)

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2016.06.09

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(8)

世界的にはハイフンとスラッシュはどう使われているのか?最近の論文をチェックした結果、一つの文書中ではハイフンだけ、もしくはスラッシュだけを、装置の意味でも分析法の意味でも使うのが主流のようです。

国際純正・応用化学連合(IUPAC)の2013年の勧告の前文をもう一度読んでみましょう。和訳は(3)に書きました。

この勧告では、「複数の分析法の組み合わせはスラッシュで示すべき」の主張の例として2つの学術雑誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」「Journal of Chromatography」を挙げています。議論の段階で考慮されたらしい書籍「Mass Spectrometry Desk Reference」には触れていません。どうも、この書籍だけが「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けを推奨しているようです。

勧告が引用している雑誌J.Chromatog.の用語集は K. K. Murray. J. Chromatogr., A 1217, 3922 (2010) で買うことができますが、価格は41.95米ドル!
しかしありがたいことに、著者自身がResearchGateでPDFを無償提供しています。

 Glossary of terms for separations coupled to mass spectrometry

いっぽう、雑誌RCMの方は過去にスラッシュの使用を推奨したとされ、その文献の発行年は2003年です。過去はともかく現在はどうなのか?最新の 執筆者ガイドライン を読んでみましょう。

このガイドラインの「Use of abbreviations」の項には「全般的にはIUPACのガイドラインに従うこと」と書かれているのですが、それに加えて「執筆者は Rapid Commun. Mass Spectrom. 2014; 28: 1853-1854 に従うように強く勧める」とされています。

この文書は2014年発行で、「質量分析に関する刊行物で避けるべき用語と略語」というめちゃくちゃ気になるタイトルです。ネットに転がっていないか探しましたがありませんでした。仕方なく6ドルでレンタルしました。

読んでみて一番驚いたのがこの「避けるべき用語と略語」です。なんと

 GC-MSもLC-MSも避けるべき略語

なのです。そして注として「IUPACはGC-MSとLC-MSの使用も許容しているが、RCMの刊行物ではGC/MSとLC/MSを使用する」と書いています。
最近の論文例も確認しました。RCM掲載で無料公開されている新しいものから読んでいったところ、GC/MSまたはLC/MSを分析法と装置両方の意味で使用している論文がいくつもあり、5つ見つけたところでやめました。これに対してGC-MSまたはLC-MSの語を使用した論文は見当たりませんでした。徹底しています。

J.Chromatogr.の用語集の方は「2.2. Slashes and hyphens」で「複合した装置と分析法はGC/MSのようにスラッシュで示す」としながらも「ハイフンも同様に装置と分析法を示すために非常によく使われる」としており、両方を認めています。

J.Chromatogr.に掲載されている無料公開の論文をいくつかチェックしたところ、GC-MSやLC-MS/MSのように、すべてハイフンが使われていました。意味は分析法・装置、どちらもあります。用語集はスラッシュを勧めているのに、現状は圧倒的にハイフンのようです。

RCMとJ.Chromatogr.以外はどうか?
PubMedで「chromatography mass spectrometry」で検索をかけ、上位60位までにヒットした無料論文をチェックしたところ、RCM掲載分以外はすべてハイフンでした。

しかし共通しているのは、一つの論文の中で使われているのはハイフンのみもしくはスラッシュのみであり、違う意味を持たせて使い分けているものは見当たらないということです。

分析法と装置の両方の意味で使っている論文例をいろいろな雑誌から5つ挙げておきます。

Rapid Commun Mass Spectrom. 2016 Apr 15;30(7):1001-10
 使用語:LC/MS/MS
J Chromatogr A. 2016 Mar 18;1438:216-25
 使用語:SHS-MCC-GC-IMS(MSでなくイオンモビリティースペクトル分析)
J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 2015 Nov 15;1005:30-8
 使用語:UPLC–MS、UPLC–MS/MS
J Anal Toxicol. 2016 Jun;40(5):323-9
 使用語:LC–MS/MS、GC–MS
BMC Complement Altern Med. 2016 Jun 3;16(1):167
 使用語:GC-MS

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2016.06.08

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(7)

昨日引用した「カラムのコラム」の矢澤到さんにメールでおききしました。
矢澤さんも、ハイフンとスラッシュで装置と分析法をそれぞれ表す用法には否定的とのことです。そして、

「私はハイフネイティッド技術というからには"-"で装置をつなぐことに合理性があると思っただけで,GC/MSのような伝統的使用方法を否定したつもりはありません。
論文などで使用する当人,もしくはカタログなどに記載する際に組織単位で使用方法を統一すればよいことかと思います。」
だそうです。

さて、引き続き Slashes and hyphens を読んでみます。

クロマトグラフィーと質量分析の結合を表すためにスラッシュを使うのは、米国英語の指針「シカゴ・マニュアル」には反しているようですが、専門性の高い雑誌や書籍はスラッシュを使いたいようです。

まず米国化学会のガイド。これには特に規定がなく、略語の例が色々と挙げられています。その例があまりにバラエティが多く、どれを推奨しているのかよくわかりません。スラッシュもハイフンも○のようです。

次に米国物理学協会のマニュアル。こちらは用語の組み合わせにはハイフンだけを使っているそうです。

そして書籍「Mass Spectrometry Desk Reference」、この中で著者の David Sparkman は「スラッシュ:分析法、ハイフン:装置」の使い分けを推奨しているそうです。

最後に雑誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry (RCM)」はかつて、例えば2009年の執筆者ガイドで、

 2つ以上の分析法が直列に結合されたとき、略号をsolidusで結んで表す。例:Py/GC/EI-MS, CZE/TOFMS

と述べたそうです。solidusって何!?検索してもスラッシュとの違いがよくわかりませんでした。どう見てもスラッシュです。

Sparkmanと雑誌RCMはスラッシュ派と言えそうですが、RCMは分析法を表すのにスラッシュを推奨しているだけで、Sparkmanのようにハイフンと使い分けることまでは主張していないようです。

スラッシュを使うことのメリットは、複雑な組み合わせをわかりやすく伝えられることでしょう。
例えばガスクロマトグラフィーと電子イオン化質量分析の組み合わせは、ハイフンを使うと

 GC-EI-MS

となりますが、スラッシュを使えば

 GC/EI-MS

となり、EIがMSのモードを示していることが直感的に伝わります。
シカゴ・マニュアルや米国化学会や米国物理学協会が保守的にハイフン使用に傾いているのに対し、質量分析に特化した雑誌や書籍ではニーズに応じてスラッシュの使用が広まっているのかもしれません。

なお、Sparkmanという人はよほど使い分けが好きな人らしく、

 飛行時間質量分析 TOFMS(分析法)
 飛行時間質量分析計 TOF-MS(装置)

という使い分けまで推奨しています。
さらに!イオン化法は「スペース」で表すべきだとして

 電子イオン化飛行時間質量分析 EI TOFMS(分析法)

と書くのを推奨しています。私には覚えきれません…

以上で、Slashes and hyphens の本文の主要な内容は解説しました。さらに各雑誌のガイドライン最新版をたどっていくと、どうも主流派雑誌の姿勢は日本質量分析学会及びJISのルールとは違う方向であることが見えてきました。

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2016.06.07

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(6)

このあたりで私の個人的な立場を明らかにしておきます。

好みで言えばハイフン派です。
インタクト社の矢澤到さんもハイフン派だそうです。カラムのコラム (13) LC/MS?それとも LC-MS? で「装置の連結技術を "Hyphenated Techniques"という以上,LCとMSを連結する場合,"LC-MS" というHyphen (-) を使用する表記が妥当ではないか」と書かれています。2002年のコラムですから今はどうお考えかわかりませんが…

私の好みの理由はもっと単純です。まずハイフンはファイル名に使える。文書の題名の全部や一部をファイル名にすることも多いわけですが、ファイル名にスラッシュが入っているとエラーになります。ハイフンはそのような面倒がありません。
それから入力する時にも「ー」と同じキーですから打ちなれていて負担が少ない。

ですから、何の制約もなく使えるなら、分析法も装置もGC-MSそしてLC-MSと書きたいわけです。

しかし仮に世の中がGC/MSとLC/MSに統一されるなら喜んで従います。ハイフンとスラッシュが混在している現状は、やっぱり落ち着きません。統一されるなら、ファイル名でエラーが出ることくらい我慢しましょう。調べていくほどスラッシュのメリットもわかってきました。

これに対して「GC-MSは装置、GC/MSは分析法」の使い分けには、渋々というか、いやいやというか、仕方なくというか、あまり積極的でない従い方になります。

それはなぜか。GC-MSとGC/MSのように紛らわしい用字に異なる意味を持たせて記憶・識別させるということに無理を感じるのです。
自分自身はこれをなりわいにしているので何とか覚えることもできますが、専門外の人向けにGC-MSとGC/MSが混在する文章を読んでもらう時など(例えば装置購入予算の話し合い)説明が必要になり、非常に面倒なのです。

また、GCもLCもMSも分析法と装置の両方の意味があるにもかかわらず不便を感じていないので、GC-MSやLC-MSだけ特に使い分けが必要とは思わないのです。区別したいときには「GC-MS装置」「GC-MS法」のように書けば明らかなので。

しかし (1) で書いた通り日本質量分析学会とJISの用語は「使い分け」ですので、GC-MSやLC-MSのユーザーの皆さんはくれぐれも忘れないようにしてください。

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2016.06.06

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(5)

GC-MSとGC/MS、どちらも装置の意味でも分析法の意味でも使える──とするIUPACの2013年勧告の背景と考えられる Slashes and hyphens を読んでみます。

この文書では5つのガイドラインの立場が主に説明されています。

  • 「シカゴ・マニュアル」によればハイフンの使用がふさわしい。スラッシュは「and/or」の意味を持つ場合が多くあいまいになる。
  • 米国化学会のガイドには特に規定がないが、例としてはスラッシュ、ハイフン、スペース、スペースなしを挙げている。
  • 米国物理学協会のマニュアルには特に規定がないが、スラッシュの使用例はない。
  • David Sparkman(Mass Spectrometry Desk Reference の著者)は「スラッシュ:分析法、ハイフン:装置」を推奨
  • 学術雑誌 Rapid Communications in Mass Spectrometry は「スラッシュ:分析法、ハイフン:イオン化法などの構成要素」を推奨

最初の「シカゴ・マニュアル」って何?
The Chicago Manual of Style (CMS または CMOS)
Wikipediaの日本語版には現時点でこの項目はなく、「シカゴ大学出版局」の項目があります。その解説には「シカゴ大学が運営する出版局。1892年に創設。大学が運営する出版局ではアメリカ合衆国でもっとも大きなもの」と書かれています。そして、「シカゴ・マニュアル」については「英文作成上の規範的スタイルを規定した」出版物として紹介されています。
Wikipediaの英語版では「米国英語のスタイルガイド」「米国で最も広く使われ尊重されるスタイルガイドの一つ」と書かれています。

そのシカゴ・マニュアルがどう言っているのか。「Slashes and hyphens」にはこう書かれています。

CMOS 16版は、スラッシュは通常「and/or」の形で選択肢を表すために使われるとする。例えば「ハーキュリーズ/ヘラクレス」のように。CMOSはまた、スラッシュは場合によっては「ジキル/ハイド」のように「及び」の意味も表すとする。「毎」と「÷」の意味もまた掲載されている。
CMOSのハイフンに関する大きな表には、2つの機能を表す2つの名詞(最初の名詞が2番目の名詞を修飾していない)は、名詞及び形容詞の形でハイフンでつながれると書かれている。

というわけで、「シカゴ・マニュアル」に従えばスラッシュを使うのはかなりまずそうです。
このマニュアルは文系・理系問わず学問を行う上での英文の作法を示したものらしいので、相当普遍性があります。一方で、個別の専門分野の事情にはあまり構ってくれないのでしょう。

「シカゴ・マニュアル」を説明するだけで長くなってしまいました。

ハイフンかスラッシュか問題は、GCとMS(またはLCとMS)だけの問題ではないのです。GCにもLCにもMSにも色々なバリエーションができているので、それらをハイフンでつなぐのかスペースでつなぐのかということとも関連してきます。そういうわけで、他の4つの説明はさらにこまかい話になります。

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2016.06.04

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(4)

クロマトグラフィーと質量分析の複合を表す際にハイフンを使うかスラッシュを使うか。IUPACの2013年勧告の著者らの意見は真っ二つに分かれました。
それぞれの意見にはそれぞれの根拠があったはずです。なぜハイフン?なぜスラッシュ?

質量分析用語プロジェクト(IUPAC) のページには、2004年3月に議論のためのウェブサイトが開設されたと書かれています。しかし、そのURLは現在リンク切れになっています。

検索したらそれらしきウェブサイトが見つかりました。ルイジアナ州立大学のドメイン内にあります。
 Mass Spectrometry Terms
IUPACの質量分析用語プロジェクトを支援するために開設され、2004年から2006年の間、コメントを募集したそうです。
このサイトの中に、そのものずばりのタイトルのページがありました。
 Slashes and hyphens
ここには、様々なマニュアル、ガイドライン、学術雑誌、書籍などの立場が書かれています。分量はそれほどないですが孫引きをたどるとかなりの情報量になるので、なるべくコンパクトにまとめてからまた書きます。

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2016.06.03

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(3)

ハイフンとスラッシュの使い分け。国際純正・応用化学連合(IUPAC)の2013年の勧告では要するに「どっちでもいい」ということになっています。まあ、こまかいことですからね。GC-MSかGC/MSかなんて・・・というわけではないようです。「どっちでもいい」の裏に長い論争があったようです。

2013年の勧告はいきなり出てきたわけではありません。2004年から始まった、質量分析に関する用語を整理・統一するためのプロジェクトでした。まとめページがあります。

 質量分析用語プロジェクト(IUPAC)

Wikiを利用したインターネット上の議論や学会の場での議論、9年間の成果が2013年勧告というわけです。

勧告は用語集なので、アルファベット順に用語と定義などが並んでいるページが大部分ですが、冒頭に特記事項が色々書かれています。ハイフンについては1518ページにあります。下の和訳で、改行や空行挿入は私が行っています。元の文章は改行なしの1パラグラフで、ちょっと読みにくいです。

複合分析法の略語

ハイフンまたはスラッシュは、ガスクロマトグラフィーによる分離と質量分析による検出など、組み合わせた分析方法の意味で使うことができる。したがって、この組み合わせならgas chromatography-mass spectrometryとも書けるし、gas chromatography/mass spectrometryとも書ける。対応する略語はGC-MSまたはGC/MSである。

分離法と質量分析の組み合わせの意味でハイフンが最初に使われたのは1960年代の初めであり、スラッシュの使用は1970年代からだった。「ハイフネーティッド テクニック」の語は1980年に作られた。現在ではハイフンとスラッシュは相互に交換可能な使われ方をしている。
学術雑誌「Rapid Communications in Mass Spectrometry」はかつて、2つの分析法の組み合わせはスラッシュで示すべきだと推奨した。最近の「Journal of Chromatography」の用語集もまたこの用法を支持している。
IUPACは、ハイフンは分離法の種類を示すために使われるべきだと推奨する。例えば、gas-liquid chromatographyやpyrolysis-gas chromatographyのように。

この勧告の著者らは、ハイフンとスラッシュのどちらを使うべきかについて真っ二つに意見が分かれた。これまでの勧告との一貫性を保つため、我々は複合分析法の意味でハイフンを使うことにしたが、スラッシュも同様に使用可能であることを注に書くことにした。

「真っ二つに意見が分かれる」を英語でどう表現するか、勉強になります。

The authors of this document are evenly split in their preference for hyphen or slash.

ガスクロの議論だけにスプリットか?とくだらないことを連想しました。なお、著者の人数は6名です。

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2016.06.02

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(2)

GC-MS(LC-MS)とハイフンでつなげば「装置」の意味、GC/MS(LC/MS)とスラッシュでつなげば「分析法」の意味。これが日本質量分析学会用語集と最新のJISに書かれているルールです。
ところが国際的に合意されたルールでは、このような使い分けを定めていません。

IUPACの2013年の勧告 を見てみましょう。

GC-MSとGC/MSの項目は1546ページにあります。

gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS)
gas chromatography/mass spectrometry (GC/MS)
(略)
注1:ハイフンもスラッシュも、装置を表すためにも使用できる。
(略)
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)、超臨界流体クロマトグラフィー質量分析(SFC-MS)、薄層クロマトグラフィー質量分析(TLC-MS)の項も見よ。

LC-MS、SFC-MS、TLC-MSの項目を見ると、LC-MSの項は同じ書き方になっています。つまり、項目名としては「分析法」を掲げ、注に「装置」を表すためにも使用できると書かれています。SFC-MSとTLC-MSの項は最初の2行は同じですが、「注」がありません。

ハイフンとスラッシュはどう違うの?という疑問にはいっさい触れていないシンプルな内容ですね。しかし別のところに詳しく書かれています。そこからは激論の片鱗がうかがわれます。

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2016.06.01

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(1)

クロマトグラフィーと質量分析の複合分析法でハイフンとスラッシュのどちらを使うか。関係ない人にとってはどうでもいい話でしょう。その筋の人にとってはちょっと食傷気味というか、百年戦争のような話題かもしれません。

長い論争には現在、一応の決着が付いています。

日本質量分析学会用語委員会編「マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)」 には

gas chromatograph-mass spectrometer (GC-MS)
 ガスクロマトグラフ質量分析計
 ガスクロマトグラフと質量分析計とを結合した装置

gas chromatography/mass spectrometry (GC/MS)
 ガスクロマトグラフィー質量分析
 ガスクロマトグラフと質量分析装置とを結合した装置を用いて行う分析方法

と書かれています。明快です。この用語集は2009年に冊子版としても発行されています。PDF版は無料公開されていますのでダウンロードしておけば何かと便利です。
質量分析学会の使い分け方と同じ使い分けは

 JIS K 0136:2015 高速液体クロマトグラフィー質量分析通則
 JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)

でも規定されています。一方、

 JIS K 0123:2006 ガスクロマトグラフィー質量分析通則

は2006年の規格ですから、すべてスラッシュを用いて「GC/MS法」「GC/MS装置」としています。おそらく次の改訂の時には他の規格に合わせられるのではないでしょうか。

こんなにはっきりしているなら、意味深に「一応の決着」と書く必要はなさそうなものですが・・・

実は国際的にはこのように明快にはなっていなくて、国際純正・応用化学連合の2013年の勧告ではGC-MSとGC/MS、LC-MSとLC/MSを装置・分析法のどちらの意味でも使ってよいことになっています。

この勧告はPure and Applied Chemistryという雑誌に掲載されていて、無料でダウンロードできます。こちらも用語集ですから便利でおすすめです。

 Definitions of terms relating to mass spectrometry (IUPAC Recommendations 2013)

この話は長くなりますから今日はこのへんで。

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