« GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(8) | Main | GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(10) »

2016.06.10

GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(9)

113番元素の名称候補ニホニウムが発表され、いま、国際純正・応用化学連合(IUPAC)の名がTVや新聞で流れています。元素の名前を決める権限があるIUPAC。そのIUPACの勧告とも主要な学術雑誌の方針とも異なるルールを日本質量分析学会(以下MS学会)とJISが決めています。
自然に2つの疑問が浮かんできます。

1.なぜハイフンとスラッシュを使い分けることにしたのか?

2.今後もこの方針を続けるのか?

時系列ではこのようになっています。
2004 IUPACの質量分析用語プロジェクトが始まる
2009 MS学会の最新の用語集出版
2013 IUPACの質量分析用語プロジェクト完了、勧告発表
   JISの分析化学用語(クロマトグラフィー部門)改訂
2015 JISのLC/MS通則改訂

JISのLC/MS通則はIUPAC勧告の2年後に出ていますから、勧告を踏まえたうえで、あえてMS学会の用語集の方針を守ったと考えられます。

2009年刊行のMS学会「マススペクトロメトリー関係用語集」の最初のページには「改定第3版の出版にあたって」という文章があり、その中で、この用語集はIUPACの勧告にできる限り準拠させる方針で作業を進めてきたと書かれています。「しかし」と続く説明を引用します。

しかし、IUPACの作業の遅れにより、出版のタイミングをIUPAC勧告の更新に合わせることができませんでした。用語の過渡期での出版になってしまいましたが、IUPACの最新の作業結果に基づいておりますので、新しいIUPAC勧告を先取りした内容としてご理解ください。

IUPACのプロジェクトは2004年に始まり、この時点で既に5年経過していました。結果的には2013年に勧告が出たので、待たずに用語集を出したのは賢明な判断だったと思います。

この文章から察するに、2009年の時点では、用語集の編纂者はIUPACの勧告が「ハイフン:装置、スラッシュ:分析法」の使い分けを推奨すると予測していたのでしょう。これがたぶん、1つめの疑問への答えです。

ところが実際にはIUPACの勧告はハイフンとスラッシュ双方を装置・分析法の意味で使えるという内容になりました。これに対するMS学会の対応は、2015年6月の通常総会における事業報告に書かれています。学会の機関誌に掲載された2014年度事業報告中、用語委員会の部分には、
 本会用語集第3版に掲載された用語(見出語)のうちIUPAC Recommendations 2013で定義等が変更された用語の改訂定義文とその解説を学会誌に掲載した。

とあります。今年の総会における2015年度の事業報告ではもうこの件に触れていないので、「改訂定義文とその解説を学会誌に掲載」が学会の対応のすべてと考えられます。掲載された解説とは、

「ハイフンとスラッシュの使い分けについて」J. Mass Spectrom. Soc. Jpn., 62(5), 61-64 (2014)

のことでしょう。これは個人執筆のコメンタリーという形をとっていますが、総会で用語委員会の事業として報告されていますので、質量分析学会の公式な見解に近いと考えてよいと思います。

この中で今後の学会の対応を示すと思われる部分を引用します。

本稿で解説してきたハイフンとスラッシュの問題についてIUPAC recommendations 2013では最終的に使い分けを行わない方法を勧告したが,近々改定される日本工業規格(Japanese Industrial Standards: JIS)「高速液体クロマトグラフィー質量分析通則」 (JIS K 0136) では装置はハイフン,分析法はスラッシュを使用することが明記される予定である.(中略)IUPAC recommendations 2013ではいずれの方法も認めるということなので,JIS通則での規定はIUPACの勧告を逸脱するものではない.日本国内向けの文書ではこの通則に準拠することが望ましい.

というわけで、2番目の疑問「今後もこの方針を続けるのか?」については、「どうも続けるらしい」という予測ができます。

(上記の中で改定と改訂が混在していますが、引用したものは原文のままです。)

|

« GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(8) | Main | GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(10) »

分析化学/化学分析」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/9170/63756087

Listed below are links to weblogs that reference GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(9):

« GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(8) | Main | GC-MSかGC/MSか(LC-MSかLC/MSか)(10) »