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2012.11.20

「実務に役立つ! 基本から学べる分析化学」

ずっと待っていた本が出版されました。いつもの書評よりマニアックにご紹介します。
Kihonkara_3
実務に役立つ! 基本から学べる分析化学
平井昭司 編著
ナツメ社 2012年11月29日 初版
A5判 248ページ
2,100円(税込)

上記リンク(出版社サイト)でサンプルページと総目次を読むことができます。

 「よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」と同じスタイル
私は4年ほど前に「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」(秀和システム、2009年)を執筆しました。「実務に役立つ! 基本から学べる分析化学」は、書籍スタイルが私の本とよく似ています。
二色刷り・横組で、各項目が見開き2ページずつにまとめられ、左ページが本文、右ページが図解。コンピュータ関連書が主力の出版社から刊行され、対象読者は入門者、語り口はですます調で柔らかめ。
このスタイルの本は幅広い分野のものが多数出版されていますが、分析化学では私の本(以下、「基本と仕組み」と略します)が初めてでした。
「基本と仕組み」は出版社が予想していた以上に売れ行きがよく、発売以来Amazonの分析化学ジャンルでずっと上位をキープしてきました。需要があることが判明したわけで、2冊目、3冊目が必ず発行されるに違いないと思っていました。それが冒頭に書いた「ずっと待っていた」の意味です。

 充実の内容・買いやすい価格
「実務に役立つ! 基本から学べる分析化学」(以下、「基本から学べる」と略します)を手にとってパラパラ眺めてすぐにわかるのは、内容の充実ぶりです。まず6ページ分のカラー口絵で、電子天秤、ろ過や溶解、原子吸光分析装置の化学炎、地震対策された分析機器など、本全体のイメージを写真で伝えています。
本文ページは、本文と図解に加えて、左端に「キーワード」と「メモ」が隙間なく書き込まれています。また、図解ページの下欄に「現場活用のポイント」という枠があり、実際に分析操作をする際の注意事項がリアルに書かれています。
本文と図解を通読した後、さらに勉強したければ左端だけを読んでいけば、1冊の本で2段階のレベルの学習ができそうです。
執筆陣はベテラン12名。図や写真も丹念に製作されています。これで2100円は、専門書としては破格と言って良いでしょう。

 レベルはやや高め
「基本から学べる」は用語の使い方などが厳密で、その分、レベルは高めだと思います。
例えば、「純物質系標準物質」の項目は次のような書き出しです。

「標準物質は、測定装置の校正、測定方法の評価または材料に値を付与することに用いるために1つ以上の特性値が十分に均ーで、適切に確定されている材料または物質といえます。」

すべての項目がここまで難しいわけではありませんが、入門者がすんなり読めないかもしれない部分が若干あります。
「pH」は「ピーエッチ」と読むことがJISで定められていますが、出てくるたびにふりがなが付けられています。「ペーハー」と読む人が今でも多い現状を改めようという意志を感じました。

「専門用語を避けずに密度の高い情報を伝える」と「かみ砕いた表現で少ない情報を伝える」はトレードオフの関係にありますが、どちらかというと前者の立場を重視した執筆姿勢だと思います。

 親しみやすさの工夫も
このようにちょっと固めではありますが、親しみやすい誌面の工夫も見られます。
「萌えキャラ」ではないですけど、白衣に防護ゴーグル・マスク・手袋着用の男性キャラクター1名が随所に登場します。
そんなバリバリ防護スタイルの男キャラで親しめるのか?と思われるかもしれません。しかし、このキャラクター、遠心分離のために自分で試験管を振り回して目を回したり、実験時の装備の図解ではアップになり、ネクタイをしめて(その他のイラストはTシャツ)シリアスな上目づかいでポーズを取ったり、なかなか味わいがあります。

 無機分析中心
化学分析で扱う対象物質は幅広いですが、「基本から学べる」が前提としているのは主に無機分析です。マトリックスとしては金属・土壌・水など。分析対象は重金属やヒ素・無機イオンに重点が置かれています。
私は食品や薬品を対象としてきましたので、バックグラウンドの違いをあちこちで感じました。例えば
「Si、Al、Fe、Ca、Na、K、Mg、C、Ti、Cl、Sなどの元素は、一般的に大気浮遊粒子中に存在しています」
と書かれていて、「そうなのか!」と思いました。これらの元素を測ったことがないので気にしたことがありませんでした。実験室環境から常に混入してくる物質としては、フタル酸エステル類が真っ先に思い浮かびます。
また、フローインジェクション分析では「使用した装置は十分に純水を流して洗浄」とありますが、有機化合物を扱うラボではイソプロパノールを先に考えるのではないでしょうか。

 幅広い分析の実務に役立つ
ただ、対象分野の違いを感じるのは前処理の章と分析機器の章だけで、分析データの取り扱い、分析の品質保証、安全・環境への配慮の章などは、化学分析全般に共通しています。「基本から学べる分析化学」は、幅広い分野の分析実務者に役立つでしょう。きわめてコストパフォーマンスに優れた一冊です。

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Comments

書評に同感です。
技術指導に行っている分析機関にも、全体が網羅されており、全体を把握するには非常に良い。価格も、ポケットマネーで容易に購入できる価格なので、若い方に読んでほしいと、紹介しました。

津村さんの「よくわかる最新分析化学」もそうですが、最近は、相次いで、イラストを多用した本が多いですね。

若い方々は、TVゲームなどのせいか、本の文面を読むのが苦手なようです。

私も、技術指導には、できるだけイラストを使って説明しています。

(今思い出しました。忘れていました。書きます)

Posted by: 廣田 | 2012.11.23 at 06:39 AM

ビジュアルを多用した本は増えてますね。単にイラストを使うだけでなく、マンガ化したり擬人化したり、美しい写真集だったり、化学の本も多彩になりました。

Posted by: ここの管理人 | 2012.11.24 at 08:07 PM

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