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August 2012

2012.08.18

(旧)和歌山薬用植物栽培試験場にお別れ

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私が勤務していたころ、国立医薬品食品衛生研究所のパンフレットやホームページには日本地図が掲載され、7つの所在地が示されていました。東京の本所、大阪支所、5つの薬用植物栽培試験場でした。

現在では大阪支所は廃止され、薬用植物栽培試験場は独立行政法人医薬基盤研究所に移管されています。
5場のうち伊豆試験場は、移管前の2002年に既に廃止されていました。そして和歌山試験場が今年の3月に閉鎖されました。今日、元場長の野口衛さんら(野口薬膳研究会)の主催で「和歌山試験場報恩会」が開催されましたので、久しぶりにこの地を訪れました。

報恩会の会場は、試験場近くの「ふれあいセンター藤井」。企画内容はノートルダム清心女子大学 大西孝司教授の講演「レーダーグラフ法を用いた薬膳の効能効果の実証について」と、薬膳カレーの昼食会でした。薬用植物と薬膳と郷土を愛する地元の方が集まられて、この試験場が地元の期待を受けてきたことを感じました。
地元の方から「むかし、各地でケシを植えてみて、一番よくはえたところに試験場ができたと聞いている」「戦争中はここで作られたアヘンが陸軍に納められていたそうだ」といった話が出ました。

簡単に和歌山試験場の歴史を紹介し、最後の写真を披露します。貴重な植物の移植はほぼ終わっていました。現在も管理はされていますが、それも9月いっぱいで終了するとのことでした。

1939年10月 大阪衛生試験所薬用植物栽培試験部の圃場として誕生
1956年4月 国立衛生試験所和歌山薬用植物栽培試験場に改名
1998年3月 最後の専任場長が退任
2005年4月 (独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター和歌山研究部に
        その後和歌山研究部は廃止され、筑波研究部圃場となる
2012年3月 閉鎖決定
(以上、報恩会資料より)

JR紀勢線 道成寺駅から徒歩5分ほどのところです。
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道路から見ると、かなり奥行きがあって、むこうに庁舎が見えます。
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庁舎の玄関
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元は分教場だった建物だそうです。かつて職員室や保健室だった部屋で薬用植物の研究が行われました。
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大きな井戸らしきものがあります。
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この棟は分教場の雰囲気がよく残っていますね。
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こちらも・・・
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デイゴが咲いていました。
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大阪支所にもデイゴがありました。もしかしたら株分けされた?
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植物には名称のプレートが添えられています。
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百葉箱も・・・
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この花、名前をきいたけれど忘れました。
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少しもの悲しい、花の終わりの桔梗
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参考リンク
国立医薬品食品衛生研究所 沿革
(独)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター

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2012.08.06

「分析機器・科学機器遺産」の認定制度

日本分析機器工業会と日本科学機器協会が分析機器・科学機器遺産の認定制度を創設し、このほど20件が認定されたそうです。

「分析機器・科学機器遺産」認定事業において20件認定― 次世代に継承する“科学のちから” ―

どんな20件が選ばれたかは、リンク先を見てください。これらは来月開催のJASISで展示されるそうです。

私がこのプレスリリースを紹介したのは、実は4年も前に撮った写真をここに載せたいからです。
それは京都にある 島津製作所 創業記念資料館 で撮影した国産ガスクロ1号機の写真です。しかし何しろこの資料館は撮影自由なので、ちょっと検索すればたくさんの人が写真付きで訪問記を書いています。今さら下手な写真を追加しても・・・資料館ができたばかりというわけでもないし・・・と記事にしませんでした。

このほどこの装置も分析機器遺産に選ばれましたので、記念として載せておきます。

資料館の外観。科学機器が展示してあるように見えません。すぐそばを高瀬川が流れる、京都の風情がすばらしい場所です。
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資料館の入り口。ステンドグラスがしゃれています。
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国産ガスクロ1号機。昭和32年製作とのこと。手前のテレビ画面のようなところは、チャート紙が内蔵されていて、レコーダーになっているようです。
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長いカラム。ステンレス製でしょうか。
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この装置が来月は幕張まで旅するのでしょうか?多くの皆さんが楽しまれることと期待します。

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2012.08.05

「固相抽出ガイドブック」

今日は「買うかどうか判断できる」を目標に書評を書きます。ご紹介する本は、つい先日出た「固相抽出ガイドブック」です。

Speguidebook

 買うのを迷う本の価格は?

金銭感覚は人によって違いますが、2,000円程度までの本なら、心を惹かれた時にパッと買えば?というのが私の立場です。他のものを少し我慢すれば工面できるお金だし、読んでみてハズレだったとしても、好奇心は解決されます。図書館で借りられるならそれもいいですね。

逆に10,000円を超える本は、個人で買うのは特殊な場合でしょう。そういう本は専門書であり、おそらく業務に関連しているはずですから、職場で買ってもらえるように努力して、無理なら諦める・・・というパターンが多いのではないでしょうか。

問題はこの中間の価格帯の本です。個人で買えないことはないけれど、迷ってしまいます。
しかも大きな書店が近くになくて、実物の立ち読みができず、ネット書店で買うしかないとなると、賭けのようなものです。
職場で購入を検討する立場の人にとっても、中身がわからなければやりにくいですね。
この書評では、そのような方たちのために判断の材料を書きます。

 本の概要

編・著者: ジーエルサイエンス固相抽出ガイドブック編集委員会
発行所:ジーエルサイエンス株式会社
発売所:まむかいブックスギャラリー
発売日: 2012/07/18
価格:6,300円
A5判 344ページ

何が新しいといって、アマゾンで入手できる本でタイトルに「固相」が入っているものが出るのはこれが初めてです。化学分析に携わる人なら、「固相」をキーワードに本を探した経験が一度や二度はあるのでは?勉強したいと思ってもまとまった本はなかなか無い、というのが固相抽出でした。
1986年発行の「固相抽出法ハンドブック」(K.C.Van Horne編集、久保博昭日本語版監修、加藤肇翻訳、ユニフレックス発行、4500円)という本がありますが、現在では入手困難です。

私は「固相」という言葉だけに反応して購入ボタンを即押ししました。

Spehandbook

 経験に基づくノウハウ、丁寧な作り

届いて通読した結果、本の内容は期待を裏切りませんでした。ユーザーが固相抽出のテキストに望むことはほとんど盛り込まれていると思います。

取り上げられている分野は、目次(発売所サイト) を見ればわかる通り、広範です。医薬品、食品、環境(水だけでなく土壌も)、バイオ、放射性核種の分析に対応。ターゲット物質は有機化合物だけでなく無機物質にもわたります。

分離剤は古典的なものから最新のものまで取り上げられ、化学構造、特性、分離メカニズム等が解説されています。具体的な分析例も豊富です。実務経験に基づくノウハウや留意点が書かれ、用語集・官能基別pKa参照データ等の資料も充実しています。

さらに、「第1部 固相抽出法の基礎」はフルカラーで、色のついた成分を分離する様子を写真で見せるなど、工夫と労力がこらされています。第2部以降も2色刷り、しかも紙質が良く、モノクロ写真の解像度も高いです。つまり、ハード面でも妥協のないスペックとなっています。

 制作に1年半

発行を知ってすぐ、たぶん当事者と思われた 前処理仕事人さん にメールでお話をうかがいました。本そのものに表れているとおり、並々ならぬ制作スタッフの努力によって編まれたようです。

実行委員会を立ち上げてから発行に至るまでに約1年半。途中で急きょ、放射性核種の章を追加せざるを得ない状況になり、全体の構成も結果的に2回ほど見なおしたとのことです。

 このへんはネガティブ評価

さて、書きにくいですがネガティブなことも率直に挙げなければ、購入を検討する人への情報提供として片手落ちです。

おそらく最初に誰でも気づくのは、取り上げられているのがジーエルサイエンス製品とエムポアディスク(住友スリーエム)ばかりだということです。
固相抽出になじみのない人のためにあえて書きますと、ジーエルサイエンスは長らく固相抽出製品を扱っていますが、自社製品は今のところ決してメジャーと言えませんし、歴史も浅いです。

しかし、だからといってこの本に書かれている内容が普遍性を持たないというわけではありません。固相抽出製品は、各社とも共通の名称(C18、SAX、PSA等)を付けていますから、この本で勉強したことは他社の製品にも役立ちます。また、他にどんな供給元があるかは、自分の分野で使われている分析法、学会発表、展示会、カタログ等で簡単に知ることができます。

むしろ、無理に一般化した表現で書かれているよりも、「ジーエルサイエンスの製品ではこうだ」という事実がはっきり述べられているほうが誠実で応用がきくとも考えられます。

それよりも私が思ったのは、「もしかしたらこういう本は無料で配布されるのでは?」ということです。期待できるかたは、買う前に、取引のある代理店等にきいてみるほうが良いかもしれません。

次に目についたのは、事例で採用されている分析機器がやや古いという点です。HPLCが多く、UPLCやLC-MS(/MS)は少ないです。ただ、分析機器の進歩は前処理を省略できる方向へと進みますので、HPLCで可ならUPLCやLC-MS(/MS)にもほぼ可でしょう。

その他、欲を言えば代表的なつまずきポイントについてQ&Aがほしいと思いました。また、冒頭に挙げた1986年刊「固相抽出法ハンドブック」の記述がベースになっていると思われるところがあるので、参考文献として記すべきではないかと思いました。(どこかにあるのかもしれませんが、私には見つけられませんでした。)

 固相抽出ユーザーなら一度は手に取るべし

読み進みながら、前処理の話は楽しいと感じました。なかなか分かれないものを分けることは面白い。豊富な応用例の中で、私もヒントをもらいましたので試してみるつもりです。

いかがでしょう。固相抽出ユーザーなら、少なくとも手に取ってパラパラめくってみたくなったのではないでしょうか。
書店で見つからない場合も、折よく来月幕張メッセで開催されるJASIS(ジャシス、旧 分析展/科学機器展)で展示・販売されると思います。それでも実物を確かめられない皆さまに、この書評が役立ったら幸いです。

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