読み応えのある元素本「スプーンと元素周期表」
また出遅れた書籍紹介です。
一か月前に読み終えて、ここに書こう書こうと思いながら忙しさに取り紛れていました。
もう今さらなので、身辺雑記の一つとして数行だけ書こうか?
と思いながら読書メモを読み返してみたら、面白い!
読書メモが面白いなんて自画自賛ですけど、これをこのまま載せれば手間もかからないし、これ以上遅れるよりは良いでしょう。
書き方はぶっきらぼうですがご容赦ください。
(以下読書メモより)-----------------------------
2011年08月23日
スプーンと元素周期表: 「最も簡潔な人類史」への手引き
サム・キーン著、松井信彦訳(早川書房)
予想以上に厚く字が細かい。でもそれだけの価値がある。雑事をこなす合間の時間を工面して、私にしては速く読み切った。
本文と注の合計が440ページほど。図表は少なく、章扉に1ページ使うこともなく(扉も半分以上本文)、びっしり文章が詰まっている。読むには時間がかかる。それだけの分量の中に、人類と元素の歴史が網羅されている。
よくある元素本のように元素順でない。年代順でもない。
「毒」「戦争」「貨幣」「泡」のように、興味を引かれる切り口で、人と元素が語られる。テンポが良い。飽きない。
完結しないまま次へ行く感じはあるが、興味を持ったことはネットで調べられる時代。
読みながら何度も検索した。動画も出てくる。
原題は"The Disappearing Spoon"、ガリウムで作られた消えるスプーンのこと。
検索すれば動画が見られるそうなので検索した。いくつかある中の一つはこれ。
http://www.youtube.com/watch?v=kIbYiO5BRYk
スプーンを自作できるDIYキットの宣伝らしい。
邦訳タイトルは、注意しなければ何のことかわからない。読んでいる途中では、ガリウムのスプーンのこととわからなかった。「消える」がタイトルにないから。
このタイトルは成功しているのだろうか。まあ、「元素周期表」を除くわけにいかないだろうから仕方ないか。
やはり自分は量子力学がまるでわかっていないと感じた。
特に驚いたのは、微細構造定数αと元素の限界の関係。(p.399)
知らなかった。
αは約1/137であり、原子の陽子の数とこの定数との比が1に近づくについて、内核電子の速さは光速に近づくため、137番元素が限界で、それ以上では内核電子は光速より速くなる計算になるそうだ。
元素がこんな制約を受けていたとは知らなかった。
<その他の面白かったところ>
p.155
サマリウムの語源
おべっかだった
p.217
才能がつぎ込まれる動機としての敵意を侮ることなかれ
p.282
アメリカでしか使われていない aluminum
国際つづり aluminium
p.290
「科学史とは科学そのもの」
著者が世話になった実習担当氏の言葉らしい
p.334
人類が力ずくで化合物にするのに最も苦労した元素のチャンピオンはアルゴン
p.342
超微視的スケールでの不確定性が巨視的スケールの何かに影響を及ぼすという事例はほぼ一つしかない。ボース=アインシュタイン凝縮である。
p.358
ラザフォード「科学には物理学しかない。その他すべては切手集めのようなもの」
のちにノーベル化学賞を受賞して言えなくなった。
p.379
オクロ
存在が知られている唯一の天然核分裂反応炉
p.391
地球を構成する元素の中で最も希少な天然元素 アスタチン
総量1オンス(約30g)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「分析化学の基本操作」:3つのポイントに絞った入門書(2024.09.15)
- 本の紹介「人生は化学反応・化学変化」(2023.09.21)
- 「ゼロから学ぶ 分析法バリデーション」(2023.08.07)
- 元同僚の中村優美子さんがエッセイ集を出版(2021.10.30)
- 「すぐ身につく 分析化学・機器分析の実務」(2020.08.22)
Comments