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2011.07.16

分析化学の読みもの本

学業や仕事や生活上の必要に迫られて何かを勉強するとき、私は読みもの的な関連本を探します。標準的な教科書を用意するのはもちろんですが、できれば、くつろぎながら読めて、生の手ごたえがあって、その分野の全体像がおぼろげにわかる・・・そんな本があれば教科書の理解が進みます。

分析化学の読みもの本は、そういったきっかけで手に取られるような気がします。分析化学そのものに興味を持つというより、食品や環境の問題に興味があったり、分析関連の資格や仕事をめざしていたりで、半分勉強・半分楽しみで読んでみようと思うものではないでしょうか。

そんな本の中では、分析化学会近畿支部の「はかってなんぼ」シリーズが不動の地位を占めていると言って良いでしょう。

最初の 「はかってなんぼ 分析化学入門」 が出版されたのは2000年。日本分析化学会近畿支部のメンバーが各章を執筆。科学史から説き起こし、ダイオキシン、環境水、表面分析、生薬などの分析を紹介。誤差・単位・濃度などについての解説も。レベルは高いですが各章が10ページ余にまとめられていて読みやすい本です。
続いて 「はかってなんぼ 学校編」 は、学校教育の面から分析化学を解説。「はかる」を哲学する話で始まり、小中高校での分析化学的な内容の取り扱われ方、実験例、実験を行う際の注意点などを紹介。
そして 「はかってなんぼ 環境編」 は、環境分析に特化した内容。CO2、エアロゾル、ダイオキシン、トリハロメタン、農薬、排ガス、海水などの分析について。
「はかってなんぼ 職場編」 は、産業の現場での各種分析を紹介。DNA鑑定によるウナギの産地推定、近赤外分光法によるミカンの味の測定、においの分析、美しい髪をつくるための分析など。田中耕一さんのノーベル賞受賞研究の紹介も。
2004年の 「はかってなんぼ 社会編」 は化学分析以外にも範囲を広げ、「はかる」の切り口で幅広い科学の分野を紹介。ルミネッセンスによる年代測定、地図の作製、心理学による心の測定、気象観測、地震、血液検査なども。ページ数としては海水や湖水の分析の章が多いです。

「はかってなんぼ」シリーズは以上5冊が刊行されています。シリーズではありますが、それぞれが個性的です。

いっぽう日本分析機器工業会は、2001年に 「よくわかる分析化学のすべて」 を刊行しています。専門外の人にも配慮した書き方でわかりやすい。第1章で分析概論(電気分析・光分析・分離分析・X線分析)、第2章で分析例紹介(考古学、南米での大気調査、科学捜査など)、第3章でデータの扱い方という構成です。

堀場製作所コーポーレート・コミュニケーション室の 「「はかる」と「わかる」 くらしを変える分析の話」 は、縦書き。美しいイラストが多数挿入され、親しみやすい誌面。シックハウス、pH測定、導電率測定、オゾン、フロン、ダイオキシン、排気ガス、血液、放射線、ナノテクノロジー、半導体など。分析への熱意が感じられます。

もう一つ、放送大学教材の 「分析によって知る世界」 があります。読みものとして読むのは苦しいかもしれません。かっちりして字が細かいです。考古学、犯罪捜査、食の安全など最先端を紹介。

このように並べると、分析化学の読みもの本は既に多数出版されています。ここにもう1冊増やそうとは、ニッチの中のニッチを狙うようなものでは? とも思えました。

ただ、ここに挙げた本は、個人でなく企業や団体が企画して出版されたものばかりです。私に連絡してきた編集の渡邉さんは、分析化学というより「分析屋」、つまり分析をする職業に着目したのでした。
それから、既刊本は最先端のトピックスを取り上げたものが多いですが、普通の暮らしに関わる分析は、技術としては既に確立したものが広範に繰り返し使われています。そういう分析は研究者にとっては興味が薄いでしょうが、一般の人にとっては身近に感じられるのでは。

すなわち、人を語る、普通の分析を(も)語る、自分の体験として語る―こういう本なら、既刊書になかった価値を生み出せるのではないかと考えました。

ちなみに、上記の本の中で私が気に入っているのは「はかってなんぼ 職場編」です。分析がどう役立つかダイレクトにわかります。放射性核種分析の章もあります。それから「はかってなんぼ 分析化学入門」も好きです。基礎的なことを思い起こさせてくれるからです。

(それぞれの書名は 分析化学のおすすめ本 にリンクしています。簡単な目次やAmazonへのリンクがあります。)

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