「別冊化学 化学のブレークスルー【機器分析編】」
私の書籍紹介はいつも遅れがちです。常に読みかけの本を大量にかかえていて、つい新刊書を積んだままにしてしまいます。
この本「別冊化学 化学のブレークスルー【機器分析編】」は雑誌ですから、なるべく早く紹介したいと思っていましたが、やっぱり遅くなってしまいました。残念ながらもうAmazonでは取り扱っていません。とりあえず Twitter では5月に短く紹介しましたが。以下の文章を読んで買いたくなった方、入手できなかったらすみません。
分析化学の11の分野それぞれの専門家が、ここ10年の革新論文を5報ずつ選んで解説し、研究の進歩を概観しています。自分に関係のあるところだけさっと読むつもりでしたが、結局全部読んでしまいました。
各分野の最先端の分析、豪華俳優が競演する舞台といったところでしょうか。日頃関係のない分野については用語の意味さえさっぱりわからないのですが、各著者が熱をこめて紹介していますので、「とにかくすごいらしい」「だいたいこんな風にすごいらしい」ということはわかりました。ひいきの俳優の出番だけチェックするつもりが、ついつい最後まで見入ってしまったようなものです。
最初に読んだのは「高速液体クロマトグラフィー分野」と「質量分析分野」です。超高圧LC、コアーシェル粒子充填剤、オービトラップ質量分析計、DART。ユーザーなら少なくとも広告や学会発表でなじんでいる新技術が紹介されています。あれが最初に発表されたのはこういう論文か・・・ふむふむという感じです。既に市販されている技術の原点の論文は10年以上前のものが多いです。
なじみのない分析法も並んでいますが、これらも何年か後には普通になっているのかな?と思いながら読みました。
そして、少しは関連のある順に、X線分析、NMR分光法、生命科学・・・と読み広げました。
担当の著者によって「分析法そのもの」と「分析によって解明された事象」のどちらに着目するか個性があります。また、「特殊で難しいが斬新な分析」と「汎用性が高く広く普及した分析」のどちらに重きを置くかにも違いが出ています。
仕事上の情報収集としては自分が使う可能性がある分析法のテクニカルな側面に注目して読みましたが、個人的にワクワクするのはやはり生命現象やナノの世界の新しい知見です。
特に顕微鏡の進歩は驚くことばかりでした。ミクロからナノへ、三次元画像化、動画化、細胞を生きたまま観察、多色観察、非蛍光の分子も見えるように、ラマン分光や質量分析と組み合わせて化学種のマッピング。
中でもSTED顕微鏡は革新的なツールらしい。光学限界を超える解像度の顕微鏡。「エベレストに最初に無酸素で登ったりするのと同様、できるとわかれば次つぎにできるが、最初にやるのは難しい」、そういう技術だそうです。(STED顕微鏡の原理を私が説明するのは手に余りますから書きませんが。)
日頃から手法や装置の名前だけは数多く耳に入ってきますが、専門家から「すごい」と聞かなければ何がすごいか、どうすごいかわからないものです。11人もの専門家が語る特集号。これで1000円は安いと思いました。
なお、8月には理論化学・有機化学・機器分析を合わせて1冊にした書籍(5000円)が刊行されるらしいです。
■ 取り上げられている11分野
触媒表面分析、X線分析、生命科学関連、高速液体クロマトグラフィー、ナノバイオデバイス、レーザー分光分析技術、質量分析、同位体分析法・無機質量分析法、顕微鏡、NMR分光法、原子間力顕微鏡
■ 出版社の書籍紹介ページ
化学のブレークスルー【機器分析編】(化学同人サイト)
10ほどのネット書店へのリンクがありますが、入手可能かどうか不明。
大きな書店の店舗にはまだ当分あると思います。
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Comments
はじめまして。
昨日(2011年6月18日23時くらい?)の時点で、セブンイネットショッピングでは取り扱いしていたので注文しました!
ご参考までに。
個人的にはとても興味をそそられる本です。
液クロがあってガスクロがないのが、ガスクロが相棒の私にとっては少しさみしいですが・・・
Posted by: きよし | 2011.06.19 12:04 PM
きよしさん、情報ありがとうございます。
いまセブンネットショッピングを見てみました。残念ながら「品切れ」でした。きよしさんがゲットしたのが最後の1冊かも?
ガスクロは確立されていて、最近革新的な発展はないようですね。その分、安心感がありますが・・・例えばGC-MSのライブラリを構築すれば、LC-MSのライブラリよりずっと長期間使えることが期待できますよね。
Posted by: ここの管理人 | 2011.06.19 09:43 PM
このブログを見て、直接、化学同人から購入しました。
インタネットで注文できます。
ただし、代金引換のようです。
ザ~と読んでみました。
手ごわい。
最先端の機器分析で、応用機器分析技術でやっている残留農薬はまだそこに行くには、難しいだろうな。
分析に掛けるコストで食品が釣り合うかどうかです。
元の職場では使えそうなので、紹介しておきました。
Posted by: 廣田 政隆 | 2011.06.28 09:16 PM
廣田さん、こんにちは!
出版社から直接という手があるんですね。
食品分析に使えるかという視点で読むと、まだコスト的に割に合わない技術がほとんどで、役に立たない本ですね・・・
サイエンスとして楽しむのがいいです。
この本が使えそうな職場とは、なかなか高度な分析をしておられますね。
Posted by: ここの管理人 | 2011.06.30 06:47 AM