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March 2011

2011.03.31

装置・試薬・学会・分析会社の更新情報をまとめ読みできるサイト

今までにも紹介したことがありますが、ぶんせきNET についてあらためて書いておきます。

ここでは化学分析に関連するサイトの更新情報をまとめて提供しています。対象は分析機器・実験器具・試薬メーカー、化学系学会、分析会社、業界団体等です。RSSリーダーに登録しておくとたいへん便利です。

2008年4月から「コンテンツ・マネジメント・システム(CMS)として、オープンソースのGeeklog」を使って提供されているようです。どういう意味か私にはよくわからないのですが、既に約3年間、安定してサービスが続いています。非常にありがたいです。

個人的にいちばん助かったのは、今年の1月のことです。「すべて分析化学者がお見通しです!」の著者校正も最終段階という頃、麻ひ性貝毒の国産検査キットが発売されたことをここ経由で知り、本の記述を少し変えました。

地震の直後も更新が止まることはなく、出荷遅延やイベント中止の情報が次々と流されています。最近は流通の正常化や定例イベントの復活の情報も増えてきて、業界の復旧の様子がわかります。

出てくるサイト名の多さから、化学系の仕事は特に様々な企業や団体の活動に支えられていることを実感します。ぶんせきNETのみなさんも、関連企業・団体のみなさんも、いつもどうもありがとうございます。

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2011.03.28

放射線取扱主任者ですが

私は放射線取扱主任者です。正確には第1種放射線取扱主任者免状を持っていて、7年程度の実務経験があります。今の仕事は放射線と関係ありません。

最近メディアやブログやtwitterで放射線に関する情報が飛び交っています。
でも残念ながら私には、一番だれもが知りたい疑問「現在や近い将来の福島原発周辺での放射線による健康影響は?」に答える知識がありません。

放射線取扱主任者は、放射線を扱う事業所が法律*に定められた色々な規制をきちんと守るために選任されます。私が主任者をしていたときには、放射性同位元素を使う実験計画が排気などの基準を満たすか計算したり、GM管で場の測定をしたり、液体シンチレーションカウンターで廃水の放射線量を測定したり、管理区域に立ち入る人たちに毎月バッチフィルムを配布して回収したりしていました。

国家試験には放射線の生体影響も出題されます。でもそれは、大線量を被曝した場合にどうなるかということと、小線量でも確率的な影響はあるということ程度です。基準を超えた放射線にどの程度被曝したらどんな確率でどうなるかについては詳しく勉強しませんでした。

それでも私にとっては最も苦労して取った資格です。大学入試・薬剤師試験・国家公務員試験はそれぞれ1回で合格しましたが、第1種放射線取扱主任者は3回受験してやっと合格しました。この試験の合格率はだいたい20%です。

そんな専門的な分野ですが、放射線に関する知識は、これから長期間にわたって日本に生活する上での常識になるのかもしれません。既にシーベルトやグレイが普通の言葉になってしまいました。

こんなことを書くとのんびりし過ぎていると思われるかもしれませんが、色々な測定・分析装置の中で私が好きなものの一つはGM管です。放射能汚染がない場所で測定したとき、GM管は「ザッ」「ザッ」という音を出します。その一つ一つは宇宙から来た放射線? それとも地面に含まれているカリウム40? GM管は、常に身近にある放射線を音にして聴かせてくれます。

もちろん、こんなイメージを描けるのは、1つ1つの音が聞き分けられる程度に放射線量が少ない場合だけです。私が測定していた程度の放射線とは桁違いの線量の中で原発の復旧作業を続ける人たち、ずっと避難している人たち、水や農産物の汚染・・・実験用の放射性物質の管理業務とは比べものにならない事態が現実に起こっています。胸が苦しくなります。

深く勉強している放射線取扱主任者の方も多いと思いますが、私の知識はわずかです。それを自覚しつつ、それでも何かあまり出回っていないことに気づいたら、ここに書こうと思います。

* 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律

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2011.03.27

桜の季節は、長いから。

東北地方太平洋沖地震の被害に遭われたみなさま、ご家族や親しい方を亡くされたみなさま、改めてお見舞いとお悔やみを申し上げます。
Kimsakura
3月12日からブログの更新を停止していましたが再開します。
私がこの間できたのは、毎日ニュースを観続け、義援金を送ったことだけです。今も新たな被害と事態が報道されていて、気持ちが晴れることがありません。

そんな中、ささやかですがこのブログのタイトルバナーの画像とtwitterのアイコンの画像を桜バージョンにしました。

春のタイトルバナーは「菜の花」「桜」「銀杏の若葉」の3種を用意して毎年使いまわしています。
これまで自分の住んでいる近畿地方の桜を念頭に、4月10日を過ぎる頃には「若葉」に変更してきました。

でも日本の桜の季節は4月半ばでは終わらないのですね。
今年ほど日本が一つと感じたことはありません。
東北・北海道の桜が終わるまで、桜のアイコンを使おうと思います。

実は長い桜の季節。南から北まで広がる日本列島には、支える側になれる地域がたくさんあるのが救いだと思います。

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2011.03.12

大震災お見舞い&更新停止のお知らせ

まだまだ全体の状況はわかりませんが、信じられない規模の災害です。被災されている皆様に心よりお見舞い申し上げます。

私は被災地域に居住していませんし、当サイトは災害時に有用な情報提供をしていません。せめて電力などのリソース節約に協力することにします。
当面ブログとtwitterの更新を停止します。皆様ご無事で、一日も早く正常な生活を取り戻されますようお祈りします。

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2011.03.10

鋼の火花試験師

薬作り職人さん の感想

「鋼の火花試験」って、名前がかっこいいぞ。

しばらく笑いが止まりませんでした。何だかアニメになりそうな連想がわいてきて。
TsumuRiさんの感想 も鉄鋼分析のところがポイント高かったようです。

この本で一番オリジナリティが高いのは鉄鋼分析ですからねー。環境や食品や医薬品と違って極端に一般向けの情報が少ない。ほとんどの人にとって新鮮でしょう。

火花試験が何かについては、著者紹介・高山さん編 を見てください。

(タイトルは適当に付けたものです。火花試験師という資格はありません。)

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2011.03.09

「悪に巣くう業種」と呼ばれたこともある

製薬会社の品質管理部門勤務の分析屋 TsumuRiさん が、安全性の判断は分析屋の領分であるか否か というエントリーを書いています。畝山さん発「騒ぎを引き起こす分析屋」という業種イメージ関連です。

TsumuRiさんのエントリーには興味深い話題がいくつもありますからまた何度かリンクするつもりですが、今回は、分析屋へのネガティブな言及は別に珍しくない件について。

2年前に 分析屋と「誇らしげな態度」 で、某NPOの公式ブログに、食品検査業界をさして悪に巣くう業種と書かれていたことを取り上げました。

この記事には瀬戸智子さんがトラックバックを付けてくれまして(「技術系サラリーマンの交差点」から、ちょっと考えたこと。)コメント欄には技術開発者さんも書き込んでいます。「『過失による汚染などなどがあって商売が成り立つ分析稼業』の技術開発者」だそうです。

そのとき自分で書いたコメントが今の気持ちにもぴったりなので引用しておきます。

故意または過失による汚染などなどがあって商売が成り立つ分析稼業も結構多いわけですが、そういうものが全部無くなったら何を分析しようかと考えて楽しめる分析屋でありたいものです。

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2011.03.08

フタル酸エステルは環境ホルモンだから規制されたのではない

「すべて分析化学者がお見通しです!」の「第2章 食品を分析する」の中のフタル酸エステルと塩ビ手袋の部分に、小比良さん からtwitterで次のようなご指摘をいただきました。

私もあの部分については少し違和感のようなものを感じました。知らない人が読むと「環境ホルモン」は怖いもので、その使用が分析によってストップしたと読めそうな気がしました。

(twitterはページがいくつにも分かれてしまって全部をリンクするのはたいへんです。この他の部分はecochemさん作成のまとめ 「すべて分析化学者がお見通しです!」@Togetter の3月5日周辺を読んでください。)

小比良さんにダイレクトメッセージでより詳しくご意見をおききしました。たしかに、次のように間違って読まれるかもしれないと思われました。私の見解とともに書いておきます。

A DEHP(フタル酸エステルの一つ)は環境ホルモンだから規制された。
 → 違います!従来どおりの毒性試験の結果から規制されました。
 DEHPの環境ホルモン作用(内分泌かく乱性)は、環境省の報告書でも否定されています。(本の脚注及び参考文献に挙げた 化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応― EXTEND 2010

B やっぱり環境ホルモンは怖いんだ。
 → 違います!人に対して内分泌かく乱性による害が証明された物質はありません。

C (環境ホルモン問題に詳しい人)無用の騒ぎや研究費や製品忌避を生んだ環境ホルモンの規制をいまさら肯定的に取り上げるなんて・・・
 → 前半には賛成しますが、後半は正確でありません。環境ホルモン問題はDEHP溶出発見のきっかけではありましたが、規制そのものは内分泌かく乱性とは無関係です。

このような誤解を生んだのなら私の筆力不足です。ブログでの補足には限界がありますが、誤解があるなら少しでも解いておきたいので強調します。DEHP規制の根拠は、従来の枠組みでの毒性試験です。環境ホルモンとは全然関係ありません。

小比良さん、ご指摘ありがとうございました。

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2011.03.06

分析屋 vs 毒性屋2

twitterやブログで本の感想や意見を書いてくださったみなさん、ありがとうございます。
通常のこのブログの更新ペースは月に1、2回ですが、できる限り頻度を上げてお返事書いていきます。twitterの速度と比べたら亀以下になりそうです。すみません。

前記事「分析屋 vs 毒性屋」にuneyamaさん、Nameさんからコメントをいただきました。
それを読んで、ちょっと書いておきたいと思いました。
もしかしたら、広い世の中には次のような専門家が存在するかもしれません。

  • とにかく論文を出したい。研究業績を出したい。
  • 手持ちの実験機材は各種分析装置のみである。
  • (大学の場合)学生に分析技術を身につけさせるのは有意義である。
  • 何らかの毒性があるもので、環境や食品から検出されるものを分析する。
  • 検出したものの危険性を述べる。(論文でにおわせる程度からマスコミ発表するところまでレベルは様々)
はっきりおことわりしておきますが、このような専門家については、私たちの本でいう「分析屋」とは全く考えません。
分析屋はそれぞれの分野で必要とされて、プロとして分析を行っています。化学分析をする人すべてが分析屋というわけではありません。分析は化学の広い範囲で行われます。例えば合成屋さんも様々な分析をやりますが、あくまで合成屋さんです。

上に挙げたような目的で分析をする専門家は、そもそも目的が「研究(成果)」の方にあるので、分析屋と呼ばれたくないでしょう。たぶんもっとかっこいい○○学者を名乗ると思います。
とにかく、「分析しか実験手段を持っていないから必要性は適当にこじつけて分析する」という専門家を「分析屋」の範疇に入れて考えないでいただきたいです。

ただ、本当に人々の幸せにつながると考えて、必要なことを分析する研究者もたくさんいると思います。見分けるのはなかなか難しいかもしれません。

以上のことはNameさんご紹介のリンクを読んで考えました。
2009-12-22 環境リスク研究の周辺に関する私的考察
この「K」というブログは記事が一つしかなくて背景がまったくわかりませんので、これを根拠にして何か言うのは控えますが、「大いにありうる話」と思いました。

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2011.03.05

分析屋 vs 毒性屋

やや挑発的なタイトルですが・・・
食品安全情報blog の畝山さんが 「すべて分析化学者がお見通しです!」を紹介 してくれました。ずいぶんほめていただいて、感謝・感謝です。

結論的にはほめてくれているのですが、素直に喜べないくだりがあります。

 分析という仕事は従事している人が比較的多く、何をやっているのかも一般の人からは比較的わかりやすい仕事だと思います。
 ただ動物を使って安全性の研究をしている人達からの評判は実はあまり良くありません。分析屋は、なんだかよくわからないものを「検出」しただけでその生物学的意味などお構いなしにとにかく危険だと騒ぎたがるし、自分が検出した物質は最大限に悪いまたは良い影響があると誇大宣伝してはばからないし、なんらかの「基準値」違反があったらそれだけで「手柄」として大々的に騒ぎたがる・・・そういうイメージがあります。分析屋が騒ぎを引き起こすとそのせいで訳のわからないものの「毒性試験」をやらされる。あまり意味はないと思いつつもたくさんの動物を殺さなければならないのが安全性試験担当部門の役割なわけです。

そうだったんですか!?

分析を仕事にしている人がこの部分だけ読んだら頭に来るかもしれません。
ここに述べられている「分析屋」の範囲は、かなり限られます。
まず、人の健康に関わる(可能性がある)物質を分析していること。それから、自分が検出したものに関して騒ぎを起こせるだけの発言力(社会的地位や発言手段や自由さ)があること。

そういう方々は絶対数の割に目立つのは確かです。でも、圧倒的多数の分析屋は、環境や食品や様々な製品の安全や品質を守るために、一般市民の目に触れにくいところで地道にデータを出し続けています。
ほんの一例として食品の栄養成分の分析を挙げます。膨大な食品の分析にどれだけ多くの人が携わっているか、このページを下までスクロールするだけでも想像できます。→ 五訂増補日本食品標準成分表 [付記]

市民のみなさんと大多数の分析屋のみなさんへ
そういう日頃あまり表に出ない分析屋の姿を紹介したのが今回の本です。科学読み物として、興味を持った人が気楽に読んでくれたらいいなと思います。

依頼されて人の健康に関わる物質を分析するみなさんへ
いま食品分析会社ではトランス脂肪酸の検体がたくさん来て忙しいそうですね。業界の偉い方が「そこまでしてはからないといけないものなんですかねえ」と漏らすのをききました。顧客が依頼するものを断るわけにはいかないでしょうが、どうぞ不安をあおるような宣伝は抜きで、分析値の正確さでの勝負をお願いします。

調査や研究として人の健康に関わる物質を分析するみなさんへ
毒性屋さんに不本意な実験をさせられるほど影響力のある分析研究者がここや私の本を読むかどうかは疑問ですが、どうぞ畝山さんの貴重なコメントを心に留めて研究結果を発表してください。
国立衛生研究所にしても大学にしても、分析屋と毒性屋が同じ建物にいる場合が結構ありますので、情報交換しながら良い仕事をしてください。

「分析屋」という言葉
畝山さん的には「分析屋」は蔑称で「分析化学者」がまともな専門家を表すようです。
人それぞれに解釈がありますけど、「分析屋」という言葉に込めた著者たちの思いは、また後日書く予定です。

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2011.03.03

「すべて分析化学者がお見通しです!」刊行案内(5)本のタイトル

出版社は、著者が言いわけしたくなるような書名を付けるものなのかもしれません。そういうことばかりではないのでしょうが、少なくとも私はまた言いわけしたくなりました。(前回の言いわけ:「分析の常識」!

「すべて分析化学者がお見通しです!」・・・って・・・
そんなはずないです。分析でわかることはほんの一部。同業者が見ればしらじらしいと思うタイトルです。

今回の出版社の場合、書名は編集者にすら権限がなく、もっと上の方で決まる不可侵なものらしいです。著者は全く関わっていません。

それでも一面の真実があります。
私は、同じ業界の別の職種の人から「分析結果はウソをつかないからいいですね」と言われたことがあります。私の今いる業界は、よく相手にウソをつかれる宿命の業界です。
そんな中でも分析は客観的なデータを提供します。ゆえに、「すべて」ではないですが、「お見通し」に間違いはありません。

もっとも、自分の技術や分析装置を過信することなく、二重三重の確認をした上での「お見通し」です。事実は一つですが、人間はウソもつくしミスもします。

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