「すべて分析化学者がお見通しです!」刊行案内(3)高山透さんのこと
著者の二人めは高山透(たかやまとおる)さんをご紹介します。高山さんは住友金属工業(株)で鉄鋼材料の分析をしています。
やっぱり鉄はすごい!
住友金属といえば、新日鐵との経営統合がつい先日発表されました。数ある合併話の中でもこのニュースは別格といっていい注目を集め、その後も報道が続いていますね。
「鉄は国家なり」という言葉がありますが、やっぱり影響力が違うなーと思います。
分析というとppbとかマイクログラムとか小さいものを相手にしますので、大きな橋やビルや船など見るにつけ、世の中にはでっかい仕事をやっている人がいるなあ。自分はなんてこまかいことをやってるんだろ・・・と感じることがありました。
鉄の何を分析するか
しかし、あの鉄鋼の強さも分析屋が支えているんですね。
鉄といえば固くて冷たくて重い人工物というイメージがあります。鉄は鉄じゃん。何を分析するの?って思いませんか。
あの鉄も、原料は天然物。鉄鉱石です。
当然ながら鉄鉱石の品質は産地や採掘場所によってばらついており、鉄の含有量や共存する鉱物が異なっています。それらの分析値によって価格が決まるわけです。取引量は膨大ですから、すごい金額を左右する分析ということになります。しかもほとんど輸入されますので、国際的にお互いが納得する分析法で測らなければなりません。
また、鉄の原料としてはスクラップも利用されます。スクラップがどれほど雑多な物質で構成されるかは簡単に想像できますよね。
サンプリングは汗だく
それから、鉄はいろいろな成分元素が混入または意図的に加えられて鉄鋼となり、強さやその他のすぐれた性質を発揮します。何がどれだけ入るかによって性質が変わるため、製造過程でも分析は欠かせません。
鉄鋼の製造過程といえば、ニュースや科学番組でチラリと見ることがある、あの風景です。赤色や橙色に輝く溶鋼。それが流れていきます。半端でなく熱いそうです。
しかも溶鋼の上には、「スラグ」と呼ばれるもの(カルシウム、ケイ素、鉄などの酸化物)を生成させるのだそうです。これは通常は半溶融状態であるところ、たまに表面だけ固まっていてその固体層を突き破って溶鋼を採取する場合もあり、その作業たるや、熱いわ、力はいるわ、危険だわの大変な作業だそうです。そのリアルな様子も本に書かれています。今は自動化が進んでいるとか。
意外にこまかい・・・
鋼材のさびや破断の原因を究明するための分析も重要な仕事です。
破断面を電子顕微鏡で観察するとき、電子線によって発生する元素特有のX線も観測して、どんな物質がミクロレベルで分布しているか調べます。そのとき、X線用の検出器は斜めの位置についているため、破断面のでこぼこの陰になってしまい、「X線が出ていません。検出器が壊れたようです。」と騒ぐ若い分析屋の話が・・・
鉄の男がでこぼこで騒ぐわけですね。大きなようで意外にこまかいです。
こんなお楽しみも
「火花試験」の話もあります。これは、分析機器も何もない現場で鋼材の種類を知りたいときに、ちょっとグラインダーで削ってみて、そのとき飛び散る火花の形40種類を見分け、鋼材の種類を判定するという、冗談のような試験法です。なんと日本工業規格になっていて国家資格もあるとか。
鉄だけでなく、女性が好きな金属の話もあります。光り輝くゴールドに18金とか24金とかありますが、あれはどうやって分析するのか。意外に古典的なその方法とは?
高山さんはまめな方で、担当部分は図版も脚注もひときわ充実しています。科学読み物として読み応え満点。固いばかりでなく随所に漫画やドラマからのネタ、自分のご家族も登場させての工夫が一杯です。硬軟取り合わせた語り口を堪能してください。
それから、本のプロローグには著者4名の仕事風景のイラストがあり、それなりに写実的ですが、高山さんだけは表紙カバーの怪しい(?)化学者の方が絶対に似ているという見方が優勢です。ご参考まで。
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