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February 2011

2011.02.27

「すべて分析化学者がお見通しです!」刊行案内(4)堀野善司さんのこと

さて、著者紹介の最後は堀野善司(ほりのよしじ)さんです。

堀野さんは(株)西日本技術コンサルタント勤務で、環境調査・環境分析が専門の環境計量士です。この春で勤続30年、著者の中で一番の大ベテランです。

堀野さんといえば

水 琵琶湖 ワイン

この3つです。

執筆の打ち合わせをしていても、雑談をしていても、話はすべてこの3つのどれかにつながっていきます。滋賀県生まれの滋賀県育ち。琵琶湖の水を守るのが生涯の仕事―そう感じて今の仕事に就かれたそうです。

H2Oばかりでは面白みが足りないかもしれないところ、「ワイン」が加わっているのがポイントです。
単なる趣味でなく、堀野さんは(社)日本ソムリエ協会公認ワインエキスパートという希少な資格を持っておられます。

おかげさまで、この本の執筆会議の後は毎回すばらしいワインを楽しみました。
といっても、とりたてて高額なワインというわけではありません。ちょっとだけ贅沢なお店のこともありましたが、たいていは大衆的な居酒屋で、お店にある範囲の中で選んだものです。
それでも専門家が同じテーブルを囲んで、色々解説したり料理との相性を考えて注文してくれるわけですから、最大限においしくいただきました。
しかも!
堀野さんのワインの注ぎ方がプロ仕様です。一番年長なのに注いでもらってばかりでした。

Wine

そんな堀野さんですが、本では水のことだけでなく、温室効果ガスのこと、土のこと、PCBやフロンのこと、単位のこと・・・など色々書かれています。(社)日本環境測定分析協会の理事でインストラクターでもある堀野さんは、後進たちに向けた講習会の講師も勤めておられます。

堀野さんの文章をちょっと読んでみたい方は、会社のブログをご覧ください。「琵琶湖のソムリエ」が堀野さんの仮の名です。
環境問題の話もありますが、それは本で読んでいただくことにして、堀野さんが育てているブドウや、副館長をしておられるみずかん(滋賀県立水環境科学館)での様子をどうぞ。

西日本技術コンサルタント 環境調査員のヒトリゴト

私のブドウの木の収穫に行ってきました 2010年11月22日

ブドウの木 2010年02月22日

水とワインとテイスティング 2009年09月15日

水環境科学館 2009年11月02日

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2011.02.23

「すべて分析化学者がお見通しです!」刊行案内(3)高山透さんのこと

著者の二人めは高山透(たかやまとおる)さんをご紹介します。高山さんは住友金属工業(株)で鉄鋼材料の分析をしています。

やっぱり鉄はすごい!
住友金属といえば、新日鐵との経営統合がつい先日発表されました。数ある合併話の中でもこのニュースは別格といっていい注目を集め、その後も報道が続いていますね。
「鉄は国家なり」という言葉がありますが、やっぱり影響力が違うなーと思います。

分析というとppbとかマイクログラムとか小さいものを相手にしますので、大きな橋やビルや船など見るにつけ、世の中にはでっかい仕事をやっている人がいるなあ。自分はなんてこまかいことをやってるんだろ・・・と感じることがありました。

鉄の何を分析するか
しかし、あの鉄鋼の強さも分析屋が支えているんですね。

鉄といえば固くて冷たくて重い人工物というイメージがあります。鉄は鉄じゃん。何を分析するの?って思いませんか。

あの鉄も、原料は天然物。鉄鉱石です。
当然ながら鉄鉱石の品質は産地や採掘場所によってばらついており、鉄の含有量や共存する鉱物が異なっています。それらの分析値によって価格が決まるわけです。取引量は膨大ですから、すごい金額を左右する分析ということになります。しかもほとんど輸入されますので、国際的にお互いが納得する分析法で測らなければなりません。

また、鉄の原料としてはスクラップも利用されます。スクラップがどれほど雑多な物質で構成されるかは簡単に想像できますよね。

サンプリングは汗だく
それから、鉄はいろいろな成分元素が混入または意図的に加えられて鉄鋼となり、強さやその他のすぐれた性質を発揮します。何がどれだけ入るかによって性質が変わるため、製造過程でも分析は欠かせません。

鉄鋼の製造過程といえば、ニュースや科学番組でチラリと見ることがある、あの風景です。赤色や橙色に輝く溶鋼。それが流れていきます。半端でなく熱いそうです。
しかも溶鋼の上には、「スラグ」と呼ばれるもの(カルシウム、ケイ素、鉄などの酸化物)を生成させるのだそうです。これは通常は半溶融状態であるところ、たまに表面だけ固まっていてその固体層を突き破って溶鋼を採取する場合もあり、その作業たるや、熱いわ、力はいるわ、危険だわの大変な作業だそうです。そのリアルな様子も本に書かれています。今は自動化が進んでいるとか。

意外にこまかい・・・
鋼材のさびや破断の原因を究明するための分析も重要な仕事です。

破断面を電子顕微鏡で観察するとき、電子線によって発生する元素特有のX線も観測して、どんな物質がミクロレベルで分布しているか調べます。そのとき、X線用の検出器は斜めの位置についているため、破断面のでこぼこの陰になってしまい、「X線が出ていません。検出器が壊れたようです。」と騒ぐ若い分析屋の話が・・・

鉄の男がでこぼこで騒ぐわけですね。大きなようで意外にこまかいです。

こんなお楽しみも
「火花試験」の話もあります。これは、分析機器も何もない現場で鋼材の種類を知りたいときに、ちょっとグラインダーで削ってみて、そのとき飛び散る火花の形40種類を見分け、鋼材の種類を判定するという、冗談のような試験法です。なんと日本工業規格になっていて国家資格もあるとか。

鉄だけでなく、女性が好きな金属の話もあります。光り輝くゴールドに18金とか24金とかありますが、あれはどうやって分析するのか。意外に古典的なその方法とは?

高山さんはまめな方で、担当部分は図版も脚注もひときわ充実しています。科学読み物として読み応え満点。固いばかりでなく随所に漫画やドラマからのネタ、自分のご家族も登場させての工夫が一杯です。硬軟取り合わせた語り口を堪能してください。

それから、本のプロローグには著者4名の仕事風景のイラストがあり、それなりに写実的ですが、高山さんだけは表紙カバーの怪しい(?)化学者の方が絶対に似ているという見方が優勢です。ご参考まで。

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2011.02.20

「すべて分析化学者がお見通しです!」刊行案内(2)立木秀尚さんのこと

まず医薬品分析の専門家、立木秀尚(たちきひでひさ)さんをご紹介します。
立木さんは東和薬品(株)の研究所勤務で、動物実験や臨床試験で得られた血液などに含まれる薬物や代謝物を主に分析しています。

LC/MS/MS(高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析)ユーザーの間ではたいへん有名な方です。MSMSメーリングリストを主宰し、医薬品業界のみならず、関連業界を巻き込んだネットワークを構築しておられます。
このメーリングリスト、ベンダーさんご禁制、ユーザーが本音情報を交換し合う、知る人ぞ知る秘密組織。オンラインはもちろん、オフラインで資料を読みながらお酒を飲む宴会兼勉強会という恐ろしい企画もあるとか。

さて、立木さんが書いた医薬品分析の世界。ひときわ文化の香り高い上質な読み物となっています。はるか昔の中国の伝説と現代の医薬品分析に通じるものとは? 錬金術が生み出した偉大な道具とは? そんな話もあって楽しめます。

私が立木さんと一緒に執筆活動して感じたのは
「医薬品分析ってリッチ!!」
です。
分析屋は、学会や展示会を回って見かけた新製品が自分の分析に役立てられないかと考えるものでしょう。
ところが医薬品業界の考え方は逆のようです。分析したいものがあるが既製品で不可能なら、莫大なお金を払ってでも分析できる製品(クロマトのカラムや前処理カートリッジなど)を作ってしまうのです。
機器の台数も桁違い。くわしくは本に書かれています。

LC/MS/MSはまだまだ高価ですが、残留農薬分析などにもかなり使われるようになってきました。それも医薬品業界でいち早く普及が進んで価格が下がったからという背景があります。
ある意味、私は医薬品業界の下流にいるんだなーとつくづく思います。
(ただし医薬品分析にも色々あって、リッチな分析ばかりというわけでもないようです。)

さらに、立木さんといえばあの「液クロ虎の巻」シリーズの共同執筆者の一人でもあります。立木さんによるクロマトグラフィーと質量分析の一般向け解説が読めるのはこの本だけ。

3年前に「分析力は医薬品開発のバロメータ」というエーザイの浅川直樹さんの言葉を紹介しました(日本薬学会第128年会)。そのリアルな様子をお伝えする本を出版できて、たいへんうれしいです。

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2011.02.17

「すべて分析化学者がお見通しです!」刊行案内(1)

分析に関する本を出します。今度はタテ書きの読み物系です。
Omitoshi
「すべて分析化学者がお見通しです! -薬物から環境まで微量でも検出するスゴ腕の化学者」
 技術評論社 知りたい!サイエンス
 著者:津村ゆかり、立木秀尚、高山透、堀野善司

 目次・ネット書店へのリンクなど (技術評論社)

発売予定日は2月23日で、現在予約受付中です。

著者4名が食品分析・医薬品分析・鉄鋼分析・環境分析の現場での仕事を語ります。これまでの本にない特徴は、特別でない、ふだん行われている分析にスポットを当てたことです。

ニュースや書籍で目にする分析は、最先端・貴重な試料・科学法則の発見・論争の争点・・・といったことに関係するものがほとんどです。それに対してこの本では、みなさんが飲む水、食べる野菜、服用する薬、乗る自動車の鋼材・・・などなどが日々どのように分析されているかをお話しています。

宇宙から持ち帰った微粒子の分析などではありません。ノーベル賞級の分析でもありません。著者はそれぞれの業界で実務一筋、そのかたわら新人研修の講師をしたり技術解説を書いたりする立場のサラリーマンばかりです。
分析するということは、対象のものと日々接し、愛着を持つということでもあります。そんな分析屋の目から、一般の人にも親しみやすく書いています。写真やイラストも豊富です。

また、分析は意外に就業人口の多い分野ですから、これから進路を決める人、決める人に助言したい人にとっては職業案内としても読んでもらえます。ただし仕事の内容は書いていますが勤務条件や応募方法などは別途調べてください。

ブログとホームページでは非公開としている、私自身の現在の業務についても書いています。すみませんがこれは書籍限定ですので、ここに質問など書きこまれてもお答えできません。

著者は分野だけでなくそれぞれ性格や文章のクセも違っていて、章ごとにガラリと違う分析の世界を楽しんでもらえます。私以外の著者のみなさんについて、このブログで順番にご紹介していきます。

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2011.02.02

ヘリウムがなくなる?

最新情報:ヘリウム不足はいつまで続くか (2012/12/5)

ガスクロマトグラフィーの利用者にとっては気になる記事です。ナショナルジオグラフィック日本版 2011年2月号に、次のように書かれています。

しかし、米国学術研究会議(NRC)によれば、ヘリウムは枯渇しつつあるという。現在、世界中で利用されているヘリウムのほとんどが米国産だ。米国は1960年代にヘリウムの備蓄を始めたが、96年になって、備蓄している全てのヘリウムを2015年までに売却することを決めた。

その後は、ロシアやアルジェリア、カタールといった産出国が、世界の市場を支配することになるだろう。ただし、こうした国々のヘリウムも40年ほどで底をつくと言われている。

今日もガスクロのキャリアガスとしてヘリウムを使っている私は焦りました。
ヘリウムって、空気の中に無尽蔵に含まれているんじゃないの? 備蓄とか底をつくとかどういうこと?

この記事にはヘリウムの生産法が書かれていない。ネットで検索して、次のようなページを見つけました。

ヘリウムのつくられ方(一般社団法人 日本産業・医療ガス協会)

「ヘリウムは空気中にはごく微量しか含まれていないため、空気から分離することは経済的ではありません。天然ガスの井戸から採取される成分は主にメタンですが、時々ヘリウムを0.5%~1%程度含むガスが出る井戸があります。このガスを分離してヘリウムをつくる方法が、商業ベースで行われています。」だそうです。

ヘリウムって地下資源だったんですか! それは知りませんでした。

液クロでは2年ほど前にアセトニトリル不足が起こって難儀しました。ヘリウムの枯渇はそこまで差し迫った問題ではないようですが、気になります。

ヘリウムを消費する分析装置はいくつかあります。NMRでは超伝導磁石を液体ヘリウムで冷却します。液体ヘリウムは価格が高いので、その外側を液体窒素で冷却する仕組みだったと思います。
それから、かつて液クロの移動相の脱気のためにヘリウムガスでバブリングする方法がありました。もったいない使い方です。あれが出回った時期はそんなに長くなかったような。今ではデガッサーが普通です。

それにしても、なぜ天然ガスの井戸からヘリウムが出るのでしょうか。天然ガスの起源が古代の生物であるならば、生物がヘリウムを蓄積したりするものでしょうか?
と思って検索したら、天然ガスには「無機起源説」もあるようです。
地球深部に大量の炭化水素があるそうですが、それは地球創生期に隕石によって取り込まれた、あるいは地球深部のマントルの中で岩石と水が反応して生成された、といった説のようです。隕石に起源があるならヘリウムが含まれるのも不思議でない気がします。

天然ガスができるまで(財団法人天然ガス導入促進センター)

宇宙から来たのかもしれないヘリウム。ガスセーバーを確認ながら大事に使いましょう。将来的には、キャリアガスは水素への代替がさらに進むのかもしれません。

2011/2/3 追記

y_ohtaさんからコメントをいただきました。放射性の元素も起源だそうです。そういえばα線はヘリウムの原子核ですね!

「HeはUやThなど放射壊変によるα線起源の4Heと、地球形成時に地球内部に取り込まれた3Heの2種類が地下に眠っています。地下資源としてどちらが多いのか知りませんが、同位体分析によって4が多ければ前者、3が多ければ後者が集まったものだと思います。
天然ガスと一緒に、というのは単純にガスが溜まる場所に一緒にHeが濃集されただけなのかなという気がします。」

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