畝山さんの本「ほんとうの「食の安全」を考える」
畝山智香子さんの近著「ほんとうの「食の安全」を考える」を読んだ。内容が濃い・面白い・ためになるの三拍子。食の安全に関心のある方はぜひ一読を。
食品中の化学物質のリスク評価についての解説書。と言ってしまうと固い本のように思えるかもしれない。実際、縦書きの本にしてはカタカナの物質名や数字が多い誌面になっている。でも、それだけ妥協せずきっちり書かれているということ。
ADI、NOAEL、LOAELあたりの古典的な指標に始まり、ARfD、HERP、MOE、DALYs、PTWI・・・これでもかというほど多数の専門用語が登場する。けれども、近年ニュースになった中国産冷凍餃子、メラミン汚染ミルク等を例にとりながら解説されており、興味が持続して無理なく読める。ところどころに風刺のきいたイラストが入っているのも心にくい。
細部はわからなくても、残留農薬や重金属の基準値が大きな安全マージンをとって定められていること、私たちは通常の食品によるリスクを意識せずに受け入れていることなど、すんなり納得できる。
同じ内容を行政文書や専門書で読んでも、たぶんここまで明快には実感できない。畝山さん個人の意見や動物実験に携わってきた研究者としての知識が書かれていることで、ややこしいリスク評価の体系が生きたものに感じられる。
それにしても、膨大な文献情報を読みこなしてリスクを見積もるというのは、一般消費者の及ぶところをはるかに超えているとあらためて実感した。例えば学術雑誌を一つ講読するだけで年間数万円から数十万円、検索して必要なものだけ入手しても一報三千円前後かかるし、入手できたとしても読む時間と能力がない。
従って、行政が実施して公表するリスク評価報告を検証することが、普通の人にできる限界ではないか。でも、報告書に並んでいる論文の原文までは(お金を出さなければ)確かめられない。結局は、リスク評価の担当者を信じるしかない。
こういう状況では、リスクを評価する人たちの人となり、専門的な力量、どんな信念で業務をしているか・・・そういう情報があるかないかは、とても重要だと思う。
「顔の見えるリスクコミュニケーション」とでも言おうか?
畝山さんは 食品安全情報blog や うねやま研究室 で長らく情報発信してきた。今回の本は、さらに親しみやすい内容になっている。
個別の情報では、トランス脂肪酸と魚中メチル水銀の話がおすすめ。海外の事情を知る人たちが、これらに対する日本の規制がゆるいと問題視する場合がある。安全マージンの取り方は有用性とのバランスや各国の食文化等の様々な要因で変わってくるもの。そのへんの事情が解説されている。
本の目次等はこちらで。
書籍の詳細情報(化学同人)
(2009/12/15 追記)
畝山さん自身がリスク評価を主業務にしているように読めるかもしれないので補足。畝山さんが所属する国立医薬品食品衛生研究所安全情報部のミッションは「医薬品、食品、化学物質の安全性に関する情報の調査、解析、評価、提供及び研究」。それに対して内閣府の食品安全委員会はリスク評価に特化した機関。
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