« September 2009 | Main | November 2009 »

October 2009

2009.10.15

「匿名のかたへの批判・反論はしません」宣言が役に立った例

このところネットでの匿名・実名論争がまた盛り上がっているらしい。きっかけはどうも「勝間和代のクロストーク」で「ネット上でも実名で表現を」(2009年10月04日)の提起があったかららしい。

それで私の 匿名のかたへの批判・反論はしません がスラッシュドット・ジャパンの ネットでも実名を使うべきか? のコメントからリンクされ、にわかにアクセスが増えた。

これだけなら新しい記事を立てるほどでないのだけど、思い出したことがある。
私は「匿名のかたへの批判・反論はしません」と書いたとき、現実に匿名の人から批判されたり批判したりする状況にあったわけではない。先回りしてこんな宣言をしたのは、要するに、匿名の人と議論をしていて途中から「アンタは匿名だから」という理由で態度を変えたりしてはいけないでしょ?ということだ。

世の中なにが起こるかわからないもので、大勢の(というほどでもないが)匿名の人がこのブログに批判コメントを付ける事態がその後実際に起こった。「ニセ科学」関連・本当の最終記事 に対してだ。このとき、私は「匿名のかたへの批判・反論はしません」宣言をしておいて良かったと心から思った。明らかに実名でない書き込みに対しては反論しないことによって、かなり負担を軽くできた。

もしこのとき「実名の人にだけ答えます」などと言い始めたら、本題とは違うところでひとしきりもめた可能性が大いにある。
(なお、apjさんは天羽優子さんの別名として広く知られているので実名と考えた。)

こういうこともあるので、実名ブロガーは「匿名による批判へのポリシー」を示しておいてはどうか の提案をもう一度くり返しておこう。これはニセ科学論争の一年半前のもので、天羽さんがトラックバックしてくれていた。(そういえばポリシーを示してなかったな [事象の地平線::---Event Horizon---])
ただ、元のブログが移転したので残念ながらトラックバック先はもう読めない。

それから、「ニセ科学」関連・本当の最終記事 の中で

これでニセ科学の話は終わるという意味ではなく、菊池さん・柘植さんからの書き込みをこれからもずっとお待ちします。
と書いたことを忘れてコメント受付を停止していました。どうもすみません。復活させました。
本への質問が多くて対応できないのではと考えての措置でしたが、大丈夫そうなので、他の記事のコメント欄も徐々に復活させていく予定です。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2009.10.10

第3刷が出ます

「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」の第3刷が発行されます。本館サイトに 第3刷での修正 を掲載しました。

増刷が出る予定です で書いたとおり、お盆休みの頃まで化学・薬学の専門家の方々への献本を続けました。そして何人かの方が、お忙しい中ご意見を寄せてくださいました。今回の修正はそれを反映しています。どうもありがとうございました。

出版素人の私は、本の初刷・2刷・3刷・・・は雑誌の1月号・2月号・3月号・・・のように順番に入れ替わっていくものと思っていました。でも実際はそうでないようです。出版という業界 で書いたとおり、商品としての本は出版社・取次・書店の間をグルグル回っており、必ずしも印刷された順番に売れていくものではないようです。
回転が速い書店の在庫はすぐに売れて増刷分が入荷しますが、回転が遅い書店には相変わらず増刷前のものが並んでいます。回転が速い書店にも絶対に増刷分が入荷するとまでは言い切れず、返本のカバーをかけ替えたものが入るかもしれません。

第2刷の発行前には、予想外に売れたことや私が修正箇所をなかなか決められなかったことから、在庫が薄い状態を招いてしまったようです。アマゾンで在庫切れが発生し、「コレクター商品」として定価の倍の価格で売り出されたのには驚きました。
第3刷は余裕を持って発行されるようですから在庫切れは起こらないと思います。

初刷で誤字が多いのがわかったときにはパニック状態に陥りましたが、本は増刷するときにどこか修正するのが普通であることを多くの実例とともに知って、やや落ち着きました。
何刷を買われた方にもできる限りの追加情報を提供するため、「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」のページ を更新していきます。

それでも、できればソフトウェアのバージョンアップのように、既に読者の皆さんの手元にある本の内容を修正できればよいのですが。
新旧の版が混在して流通することへの割り切れない気持ちがよく表現されているブログを見つけたのでリンクしておきます。こう書房の編集者さんのブログです。
増刷はうれしいのだけど(やっぱり未公認なんですぅ)

| | TrackBack (0)

2009.10.05

咲きました。

私が特別に好きな花は三つ。タチアオイ、ヒガンバナ、ネジバナだ。

咲く季節も色も雰囲気も違う三つ。共通しているのは、人が世話をしなくても勝手に生えてくること、切花に向かないこと、一本ずつすっと立つところ・・・だろうか。

子供のころ「彼岸花を持って帰ると家が火事になる」と聞かされ、近寄るのも怖かったものだ。こうして間近に観察する機会を得て、たった一週間でみるみる伸びて花開く変化(へんげ)ぶりに驚いた。

アルバムで振り返る:ヒガンバナ

| | TrackBack (0)

2009.10.03

サラリーマンと商業出版(11)出版という業界

本は誰にとっても身近なもの。でも、自分が出版に関わってみたら、意外に知らないことがたくさんあった。そんなあれこれを思いつくままに書き留めておく。
ただし私が知らなかっただけで、実は周知のことかもしれない。また、話で聞いたこと、ニュースの聞きかじり、ネットで読んだものなので不確かかもしれない。そのつもりで読んでください。素人の感想文です。

出版不況だから膨大な数の新刊が発行される
書籍の年間新刊発行点数は約8万。すごい数だ。それは出版不況のせいで、かつては年間発行点数は1万点程度だったという。不況で売り上げ総額が減少しているのに発行点数が増えるなんて不思議な話だ。どうも、新刊でなければ売れないとか書店に置いてもらえないといった事情があるらしい。また、経営が苦しい出版社は取次からつなぎ資金を得るために出版点数を増やすそうだ。(相次ぐ出版社破たん、出版不況を抜け出す術はあるか

増刷される本は2割にすぎない
初刷分を売り切る見込みがあると増刷されるが、そうなる本はわずか2割という。また、本は初刷を売り切って収支トントン、売れ残れば赤字・・・というラインで初刷部数を決めるらしい。そして、どんな本が売れるかは、(当たり前だが)出してみないとわからない。出版は賭けのような側面があるんだなと思った。

書籍の返品率は約4割
これに一番驚いた。環境保全とか省資源と言われている時勢に、印刷・製本・流通の末、4割が返品され裁断されてしまうそうだ。

書店の本の大部分は書店のものでない
「本は委託販売」ということを頭では知っていた。でも出版社の人が自社にある本を「倉庫在庫」「社内在庫」と呼び、取次や書店にある本を「流通在庫」「社外在庫」と呼ぶのを聞いて、なるほど全部出版社のもの(在庫)なのだと感じた。
本は出版社・取次・書店の間をグルグル回っていて、出版社に返ってきたとき傷んでいればカバーをかけ直してまた出荷されるという。
私の本の第2刷が発行される直前には倉庫在庫がほとんどカラになっており、まとまった数の著者購入を依頼すると「確実とは言えませんが来週返本される予定ですから」などと待たされた。どこかへ出払っているものを在庫として当てにするのか?この業界は・・・と内心思った。
増刷部数を決めるにも、返本がどれだけ見込めるかを考慮しつつ、会議を開いて慎重に決定するようだ。印刷すれば何冊でも生産できるのに、「在庫」は他業界と同様にリスキーなものらしい。

編集者は熱心に企画を探している
出版社の人や設備を効率的に使うためには、常に出版企画がまわっていなければならない。だから、世の中が必要とするとか、作家が創作意欲を持つといった事情が無かったとしても、出版社が積極的に本のネタを探しているらしい。ただし、言うまでもないけれど、探しているのは「売れる企画」。

商業出版したい人を顧客にするビジネスがある
「自費出版」という言葉は誰でも知っているだろう。私はこれまで、個人で本を出したい人は自費出版するのだろうと思っていた。でも、「共同出版」という形態もあるらしい。それは、著者が出版社に数百万円のお金を支払って出版し、その本は一応全国の書店に並ぶというもの。
また、共同出版でなく、無名の著者の原稿を出版社の企画として通すことを目指すセミナーや個人指導(有料)もあるようだ。出版点数が膨大になっているから、出版への垣根は以前よりも低いらしい。

やっぱり本が好き
わずかな期間とはいえ接してみて、出版業界はなかなか厳しそうだと思った。書店に並ぶ華やかな新刊本の山を見ているだけではわからなかった。
それでも私は本が好きだ。ネットとどこが違うのだろう?突き詰めれば、一冊というまとまりが好きなのかもしれない。一ページ目を開いて最後のページを閉じるまで、著者が作った世界に浸れるのがいい。その世界をどこへでも持ち運べるところもいい。

出版業界の皆さんには、これからも良い本を作っていってほしい。

続き:サラリーマンと商業出版(12)最終回:一番うれしかった話

| | TrackBack (0)

2009.10.02

サラリーマンと商業出版(10)急ぎすぎた仕上げ

本文にも図解にも当初の思惑の倍以上の時間がかかり、私は焦っていた。今振り返れば、焦る必要などなかった。特に期限があったわけでないし、すぐに古くなるような内容の本でもないから。

ただ、編集者に対して私が約束した「期限」があった。それは何らかの必要性があって決まったものではなく、「いつまでにできますか?」と問われて「○○頃には・・・」と希望的観測を答えていたものだ。答える時点では最も順調に作業が進んだ場合の見通しを言うから、むしろ遅れて当然だ。

・・・と今では思えるけど、その時の私は自分が約束した期限に強く縛られた気分になった。最初「10月頃には」と言ったのが「年末には」になり、「1月中には」になっていた。

仕事でも私生活でも、普通の人は約束した期限を守るだろう。間に合わなくて少し延長してもらうにしても、それは一回までだろう。
・・・というのが私の道徳観だ。何度も先延ばししたことで、編集者に対する負い目が膨張していった。

そしてやっと図版のほぼすべてを入稿したのが2月中旬。
いったん原稿がそろうと、打って変わって作業は急ピッチになった。それまではどちらかというと放置されている感じだったが、にわかに編集者ペースになった。
期限の決め方も、「いつまでにできますか?」ではなく、「年度内に出版するためには○○日までに校了する必要がある。できますか?」になった。

本文の版組みは入稿のつど確認できていたのであまり不安はなかった。でも、図版のほうは手書きのキャプションや見出しが多い上、私が開けないプロ仕様のファイルで提供されたものもあり、誤植が起こる危険性が高かった。
冷静に考えれば年度内の出版は無理だった。「できますか?」に対して「できません」と答え、版組みとして整った形で査読の先生方や図版提供元の皆さんにも見てもらえばよかった。後で知ったが、校正というものは同じ人が何回も見てもダメで、違う目で見なければ間違いを発見しきれないらしい。

こうして、初刷はかなり誤字・ミスが多いものになってしまった。詳細はこのブログと本館サイトでお詫びし説明したとおり。
無理な作業期間を決めたのは私自身だ。必死に編集者の要望に応えたつもりだったが、結果的には編集者にも読者の皆さんにも申し訳ないことをしてしまった。最後の仕上げを急ぎすぎたことは悔やんでも悔やみきれない。

(地べたで咲くかと思えた彼岸花は日ごとに伸びて、他の花より少し低い程度になりました。つぼみもふくらみました。緑色のがくが早めに剥けたために目立っていたのでしょう。他にも次々と遅咲きの花が伸びてきています。これは昨日の様子。)

| | TrackBack (0)

« September 2009 | Main | November 2009 »