サラリーマンと商業出版(10)急ぎすぎた仕上げ
本文にも図解にも当初の思惑の倍以上の時間がかかり、私は焦っていた。今振り返れば、焦る必要などなかった。特に期限があったわけでないし、すぐに古くなるような内容の本でもないから。
ただ、編集者に対して私が約束した「期限」があった。それは何らかの必要性があって決まったものではなく、「いつまでにできますか?」と問われて「○○頃には・・・」と希望的観測を答えていたものだ。答える時点では最も順調に作業が進んだ場合の見通しを言うから、むしろ遅れて当然だ。
・・・と今では思えるけど、その時の私は自分が約束した期限に強く縛られた気分になった。最初「10月頃には」と言ったのが「年末には」になり、「1月中には」になっていた。
仕事でも私生活でも、普通の人は約束した期限を守るだろう。間に合わなくて少し延長してもらうにしても、それは一回までだろう。
・・・というのが私の道徳観だ。何度も先延ばししたことで、編集者に対する負い目が膨張していった。
そしてやっと図版のほぼすべてを入稿したのが2月中旬。
いったん原稿がそろうと、打って変わって作業は急ピッチになった。それまではどちらかというと放置されている感じだったが、にわかに編集者ペースになった。
期限の決め方も、「いつまでにできますか?」ではなく、「年度内に出版するためには○○日までに校了する必要がある。できますか?」になった。
本文の版組みは入稿のつど確認できていたのであまり不安はなかった。でも、図版のほうは手書きのキャプションや見出しが多い上、私が開けないプロ仕様のファイルで提供されたものもあり、誤植が起こる危険性が高かった。
冷静に考えれば年度内の出版は無理だった。「できますか?」に対して「できません」と答え、版組みとして整った形で査読の先生方や図版提供元の皆さんにも見てもらえばよかった。後で知ったが、校正というものは同じ人が何回も見てもダメで、違う目で見なければ間違いを発見しきれないらしい。
こうして、初刷はかなり誤字・ミスが多いものになってしまった。詳細はこのブログと本館サイトでお詫びし説明したとおり。
無理な作業期間を決めたのは私自身だ。必死に編集者の要望に応えたつもりだったが、結果的には編集者にも読者の皆さんにも申し訳ないことをしてしまった。最後の仕上げを急ぎすぎたことは悔やんでも悔やみきれない。
(地べたで咲くかと思えた彼岸花は日ごとに伸びて、他の花より少し低い程度になりました。つぼみもふくらみました。緑色のがくが早めに剥けたために目立っていたのでしょう。他にも次々と遅咲きの花が伸びてきています。これは昨日の様子。)
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