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September 2009

2009.09.30

サラリーマンと商業出版(9)経費と印税

出版社の話では、原稿料は無く、印税のうち最低保証分が先払いされるとのことだった。つまり、出版後の早い時期に、本が売れても売れなくても一定の冊数分の印税が著者に支払われるということ。
この約束はありがたかった。執筆のために約60冊の参考書を購入した。中にはほとんど役に立たなかったものもあるけれど、そうとわかったのは読んだからこそだ。お金を惜しんでいては納得のいく仕事ができない。極端に専門的な本は購入していないが、それでも10,000円を超えているものがいくつかある。

分析機器の写真を撮るためのデジカメも買った。約4万円だった。あちこちのラボを見学させてもらって大量に撮影した。結局本に載せられるクォリティのものは撮れなかったが、取材メモの役割を果たした。
スキャナも買った。1万円程度の安いもの。書籍やパンフレットから画像を読み込んだり、手描きの図解原稿を出版社に送るためにフル稼働させた。

しかし、一番大きかったのは「時間」を買うための経費だった。
執筆には基本的に余暇時間を使ったが、もともと私にはそれほど多くの余暇時間があったわけではない。(6)で書いたとおり通勤時間(=英語の勉強時間)を使い、睡眠時間を削った。それでも足りなくて家事の時間を振り向けた。
家事に充当すべき時間は、ある程度お金で買える。具体的には、シルバー人材センターから人(「シルバーさん」と呼ばれる)を派遣してもらい、掃除や食事のしたくをしてもらった。また、惣菜を買ったり外食を増やしたりした。

私の職場の規定では、利害関係者からの依頼による場合、その報酬は講演で1時間当たり2万円、著述で400字当たり4千円を超えてはいけないことになっている。ちなみに私の本の「最低保証の印税」を計算してみたら、図表が多くて大ざっぱにしかわからないが、だいたい400字当たり千円程度になった。(利害関係者ならこういう依頼はしないだろう。)

本を書くには様々な作業が伴う。文章を書くだけでなく、全体の構成を考えたり、図版を選んで切り貼りしたり、図版掲載許可の手続きをしたり、査読の先生とやり取りしたり。それらを合わせたら、400字分の制作には1時間以上かかる。2時間以上かもしれない。すなわち私の仕事は時給千円以下だったことになる。いっぽう、シルバーさんには1時間当たり963円支払った。

これでは、仕事と考えるにはあまりに不合理だ。やはりサラリーマンは恵まれている。本を書くことを生業にしている人はたいへんだと思った。

それから、私のそもそもの目的は、現場向けの入門書を12冊入手することだった。著者はさぞかしたくさん本がもらえるのだろうと期待していたのに、提供されたのは5冊だけだった。足りない分は自分で購入した。


(今日は雨でした。)

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2009.09.29

サラリーマンと商業出版(8)職場への届け出

職場に対して届け出または許可をもらう必要があるか、どんな届け出をするか。それは当然職場によって違うだろう。会社勤めの人が執筆に当たって「兼業届」を出した例を聞いたことがある。

私の職場の場合、兼業届は必要ないとのことだった。また、「利害関係者からの依頼に応じて報酬を受けて講演・著述等をしようとする場合は、あらかじめ倫理監督官の承認を得なければならない」という規程があるが、私の依頼者は普通の出版社であり、「利害関係者」ではなかった。

つまり事前の届けは必要ないと考えられたが、無断でやるのは気が引けたので(サラリーマン根性?)、承認を得るための書式に記入して一応提出した。

はっきりした提出義務があるのは「贈与等報告書」。これは、「利害関係者」に該当しない事業者からのものであっても、「現在又は過去の職務に関係する事項に関する講演等の報酬」を受ければ提出しなければならない。一年に4回提出時期がある。印税が支払われた後の最初の提出時期にこの報告書を提出した。

ちなみに金額が2万円を超えるものについては公開されることになっているから、誰でも私の「贈与等報告書」を閲覧することができる。別に閲覧してほしくはないけど。


(彼岸花のつぼみは、もう少し伸びてから咲くつもりのようです。上から見ると他の花から遅れている様子がよくわかります。)

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2009.09.28

サラリーマンと商業出版(7)約60法人から図版

図解のページも本文と同時に作成しており、ほとんど原稿はできていた。ただ、書籍やデータ集やウェブサイトから勝手にコピーして貼り付けたものばかりだった。出版のための手続きは一つ一つこなしていかなければならなかった。

図版は大きく分けて3種類。私が下絵を描いたオリジナルなもの、書籍から転載させてもらうもの、企業や公的機関から提供を受けるもの。
オリジナルのイラストは編集者がプロに手配してくれた。書籍からの転載は出版社どうしで話すとのことだったので、書名・出版社名やページをリストにして渡した。従って、企業等から提供を受けるものについて自分で作業した。

やり始めたら予想外に手間がかかるとわかった。相手先は60ほどある。
まず、各社の広報担当者にコタンタクトを取らなければならない。ウェブサイトにメールアドレスが掲載されている場合は良いが、スパム対策のためかフォーム入力にしているところが多い。小さな枠にいちいち所属・所在地・郵便番号・電話番号・氏名・メールアドレス等々を入力していく。その程度ですめばいいが、氏名や所属のフリガナ、ファックス番号まで必須のフォームも多く、単調でいながら自動化できない作業にイライラした。

「お問い合わせ内容」の文字数を制限しているところも多い。その場合は概要のみ述べて「詳しくはメールでお話しますからご連絡を」と書いた。
文面はコンタクト法に応じて作成しなければならない。さらに、相手は会社だけでないので「貴社」を「貴機関」「先生」にし、何通りかの定型文を使い分けた。

こちらのメールに対して二つ返事で画像ファイルを送信してくださった企業もいくつかあった。それに対するお礼を含め一往復半で仕事がすんで、とても助かった。
一方、なかなか返事が来ない、担当者にたどり着くまでに何往復もする、こちらの意図が伝わらなくて説明しなおす・・・ことも多かった。
「データを他の目的に利用しない」等を規定の書式に記入して郵送しなければならないところも10近くあった。公的機関のほとんどと、一部の企業がそうだった。

本業としてやっているなら昼間に電話したりメールでリアルタイムにやり取りしたりできたろう。でも私の作業時間は夜間と週末。最大でも一日あたり一往復に限られる。まどろっこしかった。

それでもメールというものはありがたい。本業を持ちながら自宅で何十もの会社と連絡を取り合うなんて、メールが無ければまったく不可能だ。

このようにして集めた図版は貴重なものが多かったが、中には分析屋にとって身近すぎるほど身近なものもある。ロータリーエバポレーターやキャピラリカラムの写真とか、水と二酸化炭素のIRスペクトルとか。
機器の写真もデータも、自前で撮影または取得しようと思えば簡単にできる。でもそれらは所属先のものであって私物ではないので勝手に使うわけにはいかない。こういう制約はサラリーマンゆえだ。

しかし下手に自分で撮るよりもプロ中のプロたちから提供をいただいたお陰で質の高いものを載せられたと思う。
(とはいえ、最先端のアプリケーションデータがあるのに、よりによって水と二酸化炭素のIRスペクトルをお願いした某社様、すみません。)

(8)へ続く。勤務先への届出について。


(今日も彼岸花の写真です。このつぼみはこんな地べたで咲くの?それともこれからグンと茎が伸びていく?)

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2009.09.26

質量分析関西談話会&田中耕一さん

第118回 質量分析関西談話会 に参加しました。
「質量分析技術者の知恵袋」と題して、大学の技術職員の皆さんが、分析業務で遭遇する疑問やトラブル、測定や実習のノウハウなどを発表されました。日頃からメーリングリストで情報交換し、会合を開いておられるそうです。測定現場ならではの興味深い話を色々聞きました。
ただし講演内容は他に漏らしてはいけないことになっていますので、残念ながらここには書けません。

参加者は30名程度と小規模でした。島津製作所の田中耕一さんが来ておられて、最先端研究開発支援プログラム の採択研究課題「次世代質量分析システム開発と創薬・診断への貢献」への参加・協力を呼びかけられました。
報道されている通り、30課題に対して総額2,700億円を投じる計画ですが、政権交代により現在凍結中です。それでも今回のような準備は進めておられるそうです。

講演会終了後、十数名が会場近くの喫茶店で談話しました。私はたまたま田中さんと隣り合わせて、研究支援プログラムについてさらに詳しくうかがいました。研究課題の選考では、審査員から高度な質問が浴びせられたそうです。審査期間が短かったことを理由に審査の質を疑問視する報道が一部にありますが、期間だけでなく密度も重要だろうと思いました。

雑談にも花が咲きました。島津の情報誌 LC talk に登場する博士と女性助手のイラストの描き手は誰か、富山県の魅力、ホンダが開発した電動一輪車はすごい・・・などなど。周囲の席には若い女性が多く、にぎやかに一時間あまりお話しました。
(私は田中耕一さんの講演は聴いたことがありますが、話をさせていただいたのは今日が初めてです。)


彼岸花の写真は本文とは関係ありません。思いがけず身近なところに咲いていたので、うれしくなって撮影しました。

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2009.09.24

分析展 行けなかった人は今が旬

一年に3日間だけ幕張メッセが化学分析のテーマパークになる分析展、残念ながら今年は行けませんでした。
私のように行けなかった皆さんは、今の時期が分析展の刈り入れ時でしょう。各社が開催した新技術説明会やブース内セミナーの資料の公開準備がだいたい整うからです。

新製品のPRに終始している資料も多いですが、中には分析原理や測定上の注意点をきめ細かく解説したものがあります。そのまま新人教育に使えそうなものもあります。プログラムはこちら。

新技術説明会

ブース内セミナーについては各社のサイトにプログラムがあります。(日立ハイテクなど)

資料の公開の仕方は各社さまざまです。例えばWatersが開催した9タイトルの新技術説明会資料は、会員制サイト(無料)に登録すればPDFとしてダウンロードできます。一番多いのは、希望するセミナーの主催会社に電話またはメールやフォームで請求すると、最寄りの代理店や営業所の営業マンが持参してくれて、機器の保有状況や更新予定をきかれる・・・というパターンでしょう。
分析展の直後は営業マンも忙しいので、資料だけ先に郵送されてきて、忘れた頃に訪問したいと電話がかかってくることもあります。

私の場合、同僚が行ってきたので厚さ10cmほどの資料の束を見せてもらいました。島津の資料でじっくり読みたいものがあったので担当の営業さんにお願いし、今日持ってきていただきました。どうもありがとうございます。

注1:文中に挙げた企業名は私がたまたま思いついたもので、推奨というわけではありません。
注2:分析展ではJAIMAコンファレンス、東京コンファレンスが併催されますが、これらは有料のものが多いです。

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2009.09.23

サラリーマンと商業出版(6)進まなかった執筆

執筆のためには広大な範囲の復習が必要だった。その勉強には通勤時間を利用した。電車内でまあだいたい座れるという時間が片道約30分間、往復で1時間ある。この時間を勉強にあてた。もともとは英語学習に使っていた時間だから、英語力を削って分析化学の勉強をしたと言ってよい。英語力は今でもあまり回復した気がせず、まだTOEICを受けていない。

通勤電車での勉強は寝てしまうこともしばしばだ。それでも耳から聴く英会話の勉強なら、睡眠学習とやらで何か頭に入ったかも?と期待できないこともない。しかし、1ページも進まない専門書を膝の鞄の上に広げたまま降車駅が来るたびに、またやってしまったと思った。

勉強がある程度進んだら、書けるところから執筆を始めた。その時間は休日や就寝前だった。これがまた何故か進まなかった。1項目の文章量は800字程度、内容は決まっているからネタに困るわけではない。1日に1項目は書けるはずだ。全体では約100項目。3ヶ月もあれば書き上げられるはずではないか。
このような単純計算による予測を裏切って、3行も進まない日が続いた。調子よく書けたと思っても通読したら項目間の関連や章の組み立てがうまく行っていない気がして、目次の構成を当初案からごっそり変えたりもした。

出版社というものはもっと原稿の督促をしてくるのかと思っていたが、意外に何の音沙汰もなく放置された感じで、一人で作業していると自分の気持ちの中で本を出すことへの現実味が薄らぐこともあった。
後で知ったが、出版の契約書はほとんど本の形が完成した時点で作成する場合が多く、それまでは口約束で進むものらしい。そんな事情を知らなかった私は、PCに向かっても考えがまとまらないままマウスが遊んでWindows付属ゲームの「ソリティア」を延々プレイすることもあり、履歴に残っている回数は471回だ。
また、執筆に関係ない方向へ興味が向いて精力をつぎこんだりもした。ノイズの話 は最も深入りした例で、ブログに10回も書いてまだ完成していないほどの分量調べたのに、本に反映されたのは

ノイズ幅はこの図のように振れ幅そのものとする場合と振れ幅の2分の1とする場合とがある。
だけ。

本の企画が通ったのが昨年の4月で、半年もあれば本文ができると考えていたのに、御縁のある先生方に査読していただいて全部を入稿したのは今年1月だった。しかし何しろ「図解入門」なので、本文だけでは完了しなかった。

(過去記事にさかのぼって小タイトルを付けました。)

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2009.09.21

サラリーマンと商業出版(5)対象読者は?

執筆を引き受けたものの、編集者と私とでは一つだけ大きな考えの相違があった。それは「どんな層を対象読者として想定するか」という点。編集者は学生も含めたいとしていたのに対し、私は社会人に絞りたいと考えた。

まず私の考えの根拠。大学の分析化学の授業の副読本として本を作るとなると、平衡や滴定のややこしい計算問題を丁寧に説明しなければならないが、それにページ数を取られすぎるのは困る。今どきの分析現場で平衡や滴定の計算問題が必要なシーンはあまり多くない。それに対して、前処理や信頼性保証について大学ではほとんど教えないが、これらをはずしては現場の分析の全体像は語れない。

いっぽう、編集者が学生も対象にしたいと考えた理由は明快だった。「学生は絶対数が多いから」だった。「分析化学の入門書を必要とする社会人はそんなにたくさんいるんですか?」という至極当然な疑問を編集者は口にした。

そこで私は、分析の現場では、必ずしも化学系の大学を出た人ばかりが従事しているわけではなく、部門の統廃合で全然関係ない部署から異動してきたり、理系というだけで配属されたり、ときには文系卒だったり、化学系を出たものの卒後10年以上も経っていたり、雇用形態も派遣やパートが増えてなかなか技術が継承蓄積されにくかったり・・・といった事情を説明した。
それから、計算問題が多い分析化学の本は既に山ほど出版されていて、それら以上にわかりやすい本を私が書けるとは思えないのに対し、前処理や信頼性保証までカバーした入門書は既刊書が見当たらない・・・とも述べた。

結局、対象読者は社会人とすることになり、著者名(私)を確定した新たな企画書が作成されて出版社の会議で了承された。

ただ、発刊後の評判を聞く限りでは学生にも読まれているようだ。授業の参考にすると言ってくださった大学教授もおられる。もしかしたら大学の側に、もっと現場を知りたいという潜在的なニーズがあるのかもしれないと思う。

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2009.09.20

サラリーマンと商業出版(4)私に書けるか

私は 津村ゆかりの分析化学のページ という個人サイトを開設している。このサイト名は「分析化学全般をカバーする」という意味ではなく、「あれこれ分析してきたのでこの言葉以外に自分の専門を表す言葉がない」という、いわば消極的な事情から付けている。(このサイトと作成者について

そんな自分に、入門書とはいえ分析化学全般についての本が書けるだろうか?
あらためて自分の分析歴を振り返ってみた。大学4回生時の分属先は薬品分析学講座で、HPLCを使った。大学院では有機合成が専攻で、毎日NMRを使いTLCをやっていた。IR、HPLC、旋光度計も使った。質量分析と元素分析は分析室に試料を提出するだけだったがデータは読んだ。国立衛研ではHPLC、GC、MS、IR、UV-VIS、原子吸光、ICP-AES、TOC計、イオンクロマト、カールフィッシャー水分計、液体シンチレーションカウンタ、ガイガーカウンタといった装置を使っていた。(全部自分自身が使ったわけでなく、同僚が使うのを見たり実験報告会でデータについてディスカッションしただけの装置もある。)
今の職場ではHPLC、GC、MS、IRを主に使う。TLCもやる。

こうしてみると結構いろいろな分析手法を使ってきたものだ。

それと、昨日書いたとおり今いるのは実に幅広い装置を使う分野で、前職で使ってきた装置に加え、NIR、テラヘルツ光、XRF、XRD、SEM-EDX、CE、IR-MSなどなど、自分では使わないが論文や学会発表で接している。ただし定量や信頼性保証に関してはあまり進んでいると言えない分野だ。でもそれは前職で取り組んできたことだし、今でも大きな課題だ。

考えてみれば、定性中心の分析と定量重視の分析の双方に身を置いた経験がある分析屋は意外に少ないかもしれない。私の知識は決して深くはないが、幅広いとは言えるのではないか。

こうして私は執筆を引き受けることにした。

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2009.09.19

サラリーマンと商業出版(3)欲しかった本

私は自分のサイトでは所属先を書いていない。それは、秘匿するためではなく、完全に個人の立場で作成していることを明確にするため。(運用方針
現在の職務内容についても極力触れない方針なので、以下、かなり大まかに述べてみる。

出版社から執筆依頼があったちょうどその頃、私は分析化学の全体像が親しみやすく書かれている本を12冊ほしいと思っていた。(冊数だけやたら具体的。)
(追記:12種類の本という意味でなく、同じ本を12冊)

近年、たとえば「液クロ虎の巻」シリーズや「ガスクロ自由自在」などが出版され、個別機器ユーザー向けの手引書はますます充実してきている。でも、それらの機器をどう選択するか、また、試料採取・前処理やデータ処理まで含むトータルな分析はどう組み立てられるのか、初学者向けに解説した書籍がなかった。

そんな本を必要とする層があまり存在しないから・・・とも考えられた。ひとことで分析と言っても、主に利用される機器は分野ごとに限られており、初学者が網羅的に学習する必要はまずない。

ところが私が属するのは幅広い機器を扱う分野で、「分析化学の基本と仕組み」に載せたものの中でほぼ無関係と言えるのは表面分析関係の機器(XPS、AES)のみ。ほとんどの機器は、自分は使わなくても同業者の分析で使われるから、論文や学会発表の概要がわかる程度には知っておく必要がある。
そういう目的にかなう機器分析の教科書は多数出版されているが、だいたい字が細かく堅苦しい。業務の空き時間にパラパラと眺める気になる本はないものかと思っていた。

このような事情だったので、出版社が持ちかけてきた書籍を私としては買いたいと思った。しかし、依頼内容は「買ってほしい」でなく「書いてほしい」だった。

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2009.09.18

サラリーマンと商業出版(2)ことの始まり

発端は、秀和システムの編集者が私に送ってきたメールだった。いきなり「分析化学入門書執筆依頼」の件名で送信されてきた。
コンセプトは
「実学分野での入門書シリーズ」
「一般的な読者も読むことのできる雑学情報系のテイストを含んだ図解書籍」
「分析化学の現場での状況を体感できる内容」
とのことで、企画書が既にできており、著者を探している段階だった。

著者としてなぜ私に着目したのか、先方から説明はなかったし、こちらも質問しなかった。きくまでもないと思った。
秀和システムという出版社の名を聞くのは初めてだったが、少し調べたら同じシリーズで「物理化学」「有機化学」「高校化学」などの本が出ていることがわかった。「有機化学」の著者は@Nifty化学の広場【高分子】世話役、「元素」の著者はChem‐Station代表、という具合にネットで活躍する人が選ばれる傾向が見て取れた。

私は他の著者の方がたのような活躍は全くしていないけれど、分析化学というのは極端に個人のウェブ活動が低調な分野で、私のようにほそぼそと続けているだけでも十分に目立ってしまう。
きっと誰が探しても同じ結果になったと思う。「分析化学」で検索して当たるのは私のサイトか各大学の分析化学研究室のサイトばかりだから。そして、本のコンセプトとして編集者は大学でなく現場の分析担当者に執筆を依頼したかったのだから。

これが編集者側から見た経緯だと思うが、私が引き受けたのにもそれなりの背景があった。

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2009.09.17

サラリーマンと商業出版(1)本を出した経緯

今日から何回かに分けて、「図解入門 よくわかる 最新分析化学の基本と仕組み」を執筆・出版した経緯を書いてみる。ときどききかれることがあるのと、このブログの元々のテーマにも一致するから。

元々のテーマとは、「サラリーマン専門家がウェブで自分の専門分野を語るときに役立つかもしれない方法論」。語る媒体がウェブから商業出版に広がったらどんな感じになるか、ありのままを書こうと思う。

私が商業出版書籍に書いたのは初めてではない。これまでにも「食品添加物公定書解説書」とか「食品衛生検査指針 残留農薬編」といったいかにも固い本で分担執筆したことがある。でもそれらは職場の人間関係を通じて依頼されたもので、通常業務の延長のような感覚だった。
それに対して「分析化学の基本と仕組み」は勤務先とは全く関係なく、完全に個人的なウェブ活動の延長として執筆した。

本を出して何ヶ月か経ってから知ったのだが、「セルフブランドを作る」「著書を名刺代わりに」といった題目があり、自己実現またはキャリア形成の手段として商業出版を目指すサラリーマンは少なからず存在するらしい。ただ、その場合の分野はビジネス書や自己啓発本と呼ばれるものが多く、理工系ではめずらしいようだ。だから私がここで語っておけば、参考にしてくれる人がいるかもしれない。

なお、私の文章やブログのタイトルで「サラリーマン」という言葉は、組織に所属して給料をもらいながら働く人一般を指しており、男性のみを指していない。男女を問わず使える適当な言葉がないので仕方なく使っている。私は 実名公開・性別非公開 なので、男女どちらかの立場から書くことはない。

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2009.09.16

Googleブック検索の画質に不満・続

昨日Googleブック検索に掲載されている自著のデータについて不満を書いたとき、作成者は出版社と考えていた。実はどうも違うようだ。

Googleが出版社向けに パートナープログラムの案内 を公開しているのを見つけた。この中で、書籍内容の提供法は「書籍を郵送」または「PDF ファイルとしてアップロード」とされている。
出版社は全ページについて精細なPDFを作っているから、仮にPDFをアップロードするなら手持ちのファイルの解像度を落として利用するだろう。わざわざ書籍からスキャンしたりしないと思う。だから、現在Googleブック検索で公開されている私の本のデータは、出版社が送付してGoogleがスキャンしたものだろう。

世界中から送られる膨大な本を、いったいどんな働き手がスキャンしているのか?
完全な想像だが、低い賃金で雇われた何十人かが、ホコリの立ち込める中で黙々と単純作業を続け、スピードを要求され、仕上がりのチェックもしない・・・といった光景を思い浮かべてしまう。

Googleは 和解について説明するページ

Google と、著者、図書館、出版関係のパートナーシップによって、人類の知の資産をこのような方法で守ることができるということを大変嬉しく思います。
などと美しい文句を書いている。
Googleがもうけ主義でやっているのか人類の知の資産のためにやっているのか、本音の在りどころを推し量るのはなかなか難しいが、デジタル化作業という最前線をどれだけ大切にしているかを私は判断材料に入れてしまう。

ついでに自分の名前で「すべての書籍」を検索したら、前の職場の年報が収録されているのも見つけた。(衛生試驗所報告, 第 111~113 号)これはカリフォルニア大学でデジタル化されたらしい。画像そのものは悪くないが、共著者の名前はことごとく誤って読み取られていることがわかった。

伊藤誉志男 ==> 伊茸告志男・伊募首志男・伊辞告志男
外海泰秀 ==> 外梓秦勇・外洋秦秀
中村優美子 ==> 中村伍美子・中村侵美子・中村仁美子

これはOCRソフトの問題だろう。試しに「伊辞」で検索したら、多数の伊藤さんが伊辞さんに化けてしまっていることがわかった。
どうも、日本語の書籍に関しては、Googleブック検索が満足の行くレベルに達するまでにかなり時間がかかるのではないかという気がしてきた。(書籍点数に関してもデータの質に関しても。)
国立国会図書館は独自に資料のデジタル化を進めている。当面は(永遠に?)そちらに期待しておくほうがいいかもしれない。

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2009.09.15

Googleブック検索の画質に不満

絶版本を含む膨大な数の書籍をオンラインで検索・閲覧できる Googleブック検索 についてのニュースが続いている。

著作権を侵害するとして、米国Authors Guild、米国出版社協会等が4年前にGoogleに対して訴訟を起こしていたが、昨年10月に和解した。和解案に沿った全文公開は米国内のみだが、Googleがデジタル化した書籍には日本で発行されたものも多数含まれている。

つい最近著者になったばかりの私にも、8月初旬、出版社(秀和システム)から書状が送られてきた。内容は要するに
「当社は和解に参加します。和解拒否または異議申し立てを行う場合は著者ご自身で行ってください。その場合8月末までに連絡を。異議申し立ての無い方全員を和解参加者とみなします。」
というものだった。

個人で米国の訴訟に関わるなんて考えられない。私は何も連絡しなかったから和解に参加したことになったのだろう。

現時点での和解案に対してはEUやAmazonが強く反対しているらしい。良い本が出版されない状況を招いては本末転倒だから、そこはちゃんとしてほしい。
個人的には、子供の頃読んだ児童版のSFや推理小説をもう一度読めないか期待している。古典的な作品はリメイクされて出版されるが、最近の挿絵はマンガ風のものが多くて味わいが少ないと思う。昔は児童向けシリーズにも大人向けと同じ画家が挿絵を描いていて、陰影が豊かで渋かった。怖いシーンは本を思わず閉じてしまうくらい心底怖かった。あの挿絵付きでまた読めたらうれしい。

しかしGoogleブック検索に収録されている私の本のデータはひどい。(「書籍のプレビュー」をクリック)
「よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」概要ページ

どんなデータをもとに作成したのか不明だが、目次には現物に無い下線が多数あり、青色と緑色のまだらで(現物は緑色)、本文にはスキャナーがすべった(?)かのような流れた文字が多数ある。(21、23、27、31、33、35、37、39、47、51、55、271ページの上部)

秀和システムはGoogleのパートナープログラムに参加しているから、このデータを提供したのは秀和システムだろう。どんな事情があったかわからないけれど、もう少し普通のやり方はできなかったのだろうか。また、提供されたGoogleの側は文句を言わないのだろうか。(*)

他の本のプレビューもいくつか見てみた。解像度がおしなべて低いのは仕方ないが、許容範囲を超えて雑に作られたものもある。たとえば この本 のp.12あたりでは斜め・重複のあるスキャンが放置されている。
このプロジェクトがGoogleの構想どおり動き始めれば、全文へのアクセス権を有料で提供するサービス(ただし絶版後)も始まる。この品質のまま売るの?著者としては耐えがたい。

ともかく収載データが増えてくれば業務にも利用できるだろうが、少なくとも化学系の書籍はまだあまり収録されていないようだ。紀伊国屋書店のウェブストアではGoogleブック検索ページへのリンクを付けている。どれだけ少ないか一目瞭然。

紀伊国屋書店BookWeb(分析関連の売れ筋本)

(最近このブログは自著のサポートページとして「ですます」調になっていたが、しばらく「技術系サラリーマンが自己表現するには?」という開設当初のテーマで書くつもり。その間は「である」調に戻る予定。)

* どうも出版社がスキャンしたのではないみたい。続編 参照。

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2009.09.12

CASレジストリーに5,000万件目の物質を登録

ケミカル・アブストラクツ(通称ケミアブ)は化学物質情報のデータベース。そのレジストリーナンバーは化合物の背番号のようなもの。9月7日に5,000万件目の物質が登録されたそうです。

「CAS REGISTRY」に5,000万件目の物質を登録(共同通信PRワイヤー)

米国化学会(American Chemical Society)の一部門であり,世界最大の科学情報データベースを保有するCAS(Chemical Abstracts Service/ケミカル・アブストラクツ・サービス)は2009年9月7日,化学物質データベース「CAS REGISTRY」に5,000万件目の物質として鎮痛作用のあるarylmethylidene heterocycleを登録したと発表しました.CAS REGISTRYに4,000万件目の物質が登録されたのが2008年11月末,その後わずか9ヶ月で1,000万件の物質が登録されたことになります.1957年の収録開始から1,000万件目の物質登録(1990年)まで33年かかったことに比べ,今回の登録は,新しい科学知識の蓄積のスピードが一段と加速している事を物語っています.

4,000万件目と5,000万件目の間がわずか9ヶ月とは。
漫画「ドラえもん」で、22世紀の世界から20世紀の世界へやって来たセワシ君が、のび太君と学校の勉強について愚痴をこぼしあい、「ぼくたちは歴史だって200年分多く憶えなきゃならないんだよ」と言っていたのを思い出しました。

私が就職した頃はまだ冊子体のケミアブが図書室にぎっしり並んでいて、重いめをしながら引っ張り出しては調べ物をしたものです。最近はほとんどPubMed(無料)で用が済んでしまいます。

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