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2009.06.29

さよなら、amu(原子質量単位)

(第2刷修正箇所の解説を含みます。)

分子1個とかイオン1個の質量はきわめて小さいわけですが、どんな単位を使って表すか知っていますか?
uとDaのどちらかがすっと頭に浮かんだ人は、日頃質量分析のデータを見慣れている人でしょう。
uはいいけれどDaは何やら後ろめたい・・・と思う人は、少しだけ勉強している人。
uもDaも国際単位系(SI)で許容されているからOK。これが一番正確な答えです。

SIで許容されているのはuとDa


uもDaも同じ意味で、12Cの12分の1の質量を表す単位です。SI単位ではありませんが許容されています。
実はDaのほうは2006年まで許容されていませんでした。ですから、質量分析の入門書としてよく読まれている「これならわかるマススペクトロメトリー」(志田保夫他、化学同人、2001)では、「uはお墨つきだけどあえてDaを用いる」という立場です。また、本日時点のWikipedia 原子質量単位 ではuのみがSIで許容されているとされ、「 生化学など一部の分野では今でもダルトンが使われることがある。」と書かれています。

そういうわけで、「これならわかるマススペクトロメトリー」のように2006年以前刊行の教科書またはWikipediaだけで勉強した人は、DaがSIで許容されたことをまだ知らないでしょう。「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」では、2006年の改訂を踏まえて「1-5 国際単位系(SI)」と「8-4 質量の単位と同位体」の2箇所でuとDaを同等に解説しています。どちらの単位も堂々と使ってください。

amuは使用しない


ところで、amuという言葉もあります。amuは「原子質量単位 atomic mass unit」の頭文字から作られ、かつてuやDaのように単位記号として使われていました。また、原子質量単位の略語としても使われてきました。「よくわかる分析化学」ではp.156で
炭素原子の中で中性子数が6個の同位体12Cの質量の12分の1を原子質量単位(amu)と呼んでいます。

と書いています。amuも依然として見かけるので、書いておくに越したことはないだろうという考えでした。しかし、昨年12月発行の日本質量分析学会の雑誌に「amuを使用しないことを薦める」という主旨の解説(1)が掲載されていると教えてくれた方がいます。
この解説によれば、近々IUPACからamu を使用しないよう勧告される予定(2)とのことです。また、amuにまつわる混乱した歴史が書かれています。全文がPDFで読めるし、とてもわかりやすく勉強になる解説ですから、ぜひ読んでみてください。

「原子質量単位」も使用しない


IUPACはオレンジブック(3)という分析化学の用語集を公開しています。この中の第12章が質量分析で、Atomic mass unit (u)の語が記載されています。しかし、現在公開されている勧告のドラフト(2)ではこのAtomic mass unit(原子質量単位)を積極的に排除し、代わって unified atomic mass unit, u (統一原子質量単位)が記載されています。
「統一原子質量単位」という言葉は突然出てきたわけではなく、これまで「原子質量単位」と同じ意味で使われてきました(4,5)。考えてみれば、これは混乱の原因になっていたのかもしれません。

第2刷での修正


IUPACの勧告案は今の時点ではまだドラフトですが、近い将来正式なものになるのでしょう。そういうわけなので、「よくわかる分析化学」第2刷では次のように記述を改めました。
炭素原子の中で中性子数が6個の同位体12Cの質量の12分の1を統一原子質量単位(u)と呼んでいます。

この修正を決める直前にも、私が参加している海外のメーリングリストで米国の分析技術者がAMUという言葉を普通に使っているのを見かけました。それで少し未練を感じたりもしたのですが、やっぱりここはキッパリ「amu」にも「原子質量単位」にもさよならすることにしました。amuを覚えていて損はないので第1刷を買われた方にも不都合はありませんが。

さて今後「amu」と「原子質量単位」はIUPACの思惑通り消えていくのでしょうか?

参考文献
(1) 吉野 健一 (2008) 用語を通して学ぶ質量分析基礎の基礎 第3回「イオンや分子の質量の単位,u, Da, amu, mmu」 . J. Mass Spectrom. Soc. Jpn. 56, 269-274.
(2) K. K. Murray, R. K. Boyd, M. N. Eberlin, G. J. Langley, L.Li, and Y. Naito, “Standard Definitions of Terms Related to Mass Spectrometry (IUPAC Recommendations 2006),” Draft, 31 Aug. 2006; p. 24; URL: http://old.iupac.org/reports/provisional/abstract06/murray_prs.pdf (867KB)
(3) International Union of Pure and Applied Chemistry, Analytical Chemistry Division, Compendium of Analytical Nomenclature:The Orange Book - 3rd Edition
(4) 日本質量分析学会用語委員会編 マススペクトロメトリー関係用語集 (1999年4月30日第1版第2刷発行)
(5) 志田保夫 他「これならわかるマススペクトロメトリー」(化学同人、2001)

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