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2009.04.18

HILICを「逆-逆相」と呼んでもいいか

「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」を読まれた皆さんからぼちぼち感想をもらっています。共通して言われるのが「取り上げた項目の幅広さ」と「誌面の親しみやすさ」。
面と向って言われるのは褒め言葉ばかりなので鵜呑みにできませんが、この2点の特徴を持つ分析の本が今まで無かったことは事実でしょう。

それから貴重な御意見もさっそくいただきました。たぶんこれから他にも出てくると思うので、このブログで順次書いていきます。

p.185の表「LCのさまざまな分離モード」の中にHILIC(逆逆相)と書いていることについて「逆逆相という言葉は学術用語でないし、使うべきでもない」と指摘されました。

「逆逆相」や「逆-逆相」の言葉はWatersが積極的に広めていて、資生堂も使っているようです。初学者には直感的にわかりやすい言葉と思うので載せましたが、ここにサポート情報として書いておきます。

「逆逆相」や「逆-逆相」は「順相」や「逆相」のように学術的に認められた言葉ではありません。少なくとも学会発表や公式な文書では使わないほうがいいと思います。

液クロをやらない人のために、ごく簡単に解説。

物質を液体クロマトグラフィーで分離するとき、大まかに言えば
 水やメタノールやアセトニトリルに溶けるもの→逆相
 ヘキサン等にしか溶けないもの→順相
という具合にモードを選びます。

液クロは、筒(カラム)の中に溶媒(移動相)が流れているところへ混合物を注入し、「さっと出てくるもの」「ぐずぐずするもの」の性質の差を利用して分離する方法。逆相系では親水性のものほどさっと出てきて、脂溶性のものほど遅く出てきます。

出てくるのが遅い物質は分析時間が長くなりすぎますが、それは移動相の中の有機溶媒の比率を高めることで解決できます。(有機溶媒が多いほど溶出が速くなる。)

困るのは速く出すぎる物質。物質Aも物質Bもさっと出てきてしまうと分離できません。移動相の中の水の比率を高めれば遅くなりますが、水100%でもさっと出てきてしまう物質はたくさんあります。

そういう物質を分けるために近年普及してきたのがHILIC(ヒリック)。
このモードでは溶出の順序が逆相とは逆になります。だから、出てくるのが速すぎて困った物質Aと物質Bは一転して遅く溶出し、その間に分離してくれる可能性が高いというわけです。そして移動相中の水の比率を変えることで分析時間の長さを調節できます。

要するにHILICも順相です。ただ、「順相」というと水を使わずにカロチンのような脂溶性物質を分離するモードとして定着しているので、区別するためにHILICと呼ばれるのでしょう。
HILICの代表的なアプリケーション例としては、最近中国の粉ミルクで問題になったメラミン(アミノ基が三つもあって逆相では超速で出てきてしまう)があります。

「逆相で対象とするような物質を分けられて溶出順序が逆」というわけで、「逆逆相」はHILICの特徴を瞬時に伝える言葉として便利です。しかし使い方には御注意を!(今後の動向によっては増刷分から削除する可能性もあります。)

もっと詳しく知りたい方のためのリンク

(2011/5/17 追記)何箇所か「逆相系」としていましたが「逆相」に訂正しました。

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Comments

個人的には逆逆相というワードは苦手でして・・・。
何故だか脳内でoil-water-oilの図に変換されてしまうのです(笑)。oil-waterが逆相なので、もう一個逆がつくとoil-water-oilかなと。違うとはわかっていますがどうしてもコレが浮かんできてしまいます。
ワード的に「逆相」の「逆順」の含みがあるのですね。改めて勉強になりました。・・・あ、でも必ずしも全て逆順にならないので、強調しすぎない方がいいような気も(細かくてすみません)。

Posted by: にわ | 2009.04.23 at 01:40 AM

にわさん、コメントありがとうございます。
「相」に着目すれば、そのとおり、oil-water-oilを想像してしまいますね。実際にはwater-water-oilですよね。

最初に命名した人が「逆相」の「逆順」のつもりだったのかどうか知りませんが、資生堂のHPではそのような解釈が書かれています。

順相・逆相は「相」の関係を示す言葉ですが、溶出順序のことを強調しすぎると「順番」を意味すると誤解する初心者がいるかもしれない・・・と他の方からも指摘されましたので、また独立した記事を書こうと思っています。

Posted by: ここの管理人 | 2009.04.24 at 06:48 AM

「水が使える順相」
と安易に説明してしまっています…。
使いこなしに逆相とは違ったコツがありますね。
LC/MS/MSのマトリックス効果も逆相とは相関しませんし。

Posted by: もっさん(大陸の検査屋) | 2009.04.26 at 06:03 PM

もっさんさん、はじめまして。大陸の検査屋さんとは、何やらロマンを感じます。
「水が使える順相」は的確な表現ですね。
私はまだHILICモードを使ったことがないのですが、普通の順相は有機合成をやっていた大学院生時代によく使いました。「絶対に水分を入れるな。カラムがおかしくなる」と先輩に厳しく言われ、念入りに脱水した試料だけ注入するようにしていたのを思い出します。

Posted by: ここの管理人 | 2009.04.27 at 12:14 AM

津村様、
いつもブログを楽しく拝見させていただいております。
ウォーターズの佐々木と申します。

ずいぶん前のものですが"HILICを「逆-逆相」と呼んでもいいか"のブログについて。実は日本で「逆-逆相」という言葉を広めた張本人は私です。

これは弊社米国本社資料をはじめ欧米でHILICを分かりやすく表現でするために"reverse reversed-phase" あるいは "aqueous normal phase" chromatographyと呼ばれているのを日本語に訳し命名いたしました。

当時学会等でいろいろな議論を受け、また同業他社のY澤様(津村様も良くご存じの)からもご意見をいただいたりいたしました。

「逆-逆相」はHPLCの分離モードとして現在主流となっている逆相を起点としてつけられたもので、「順相」を良く知らないクロマトグラファー(これが実は多数派です)にわかりやすく解説するための用語です。もちろん学会でオーソライズされているものではなく、私もカタログやセミナーなどで HILICとはなんぞやを説明するために使用していたものですが現在同業他社も同じ言葉を使用されるところがありびっくりしています。「極性基内包型官能基(これも私が作った造語です)」も同様です。

アカデミックには順相と逆相の定義は固定相と移動相の極性の比較によるものでそれ以上でもそれ以下でもありません。
流す移動相がなんであるかは使用上の分類になり固定相の極性が移動相よりも高い場合は順相になります。SFCが順相の分離手法といわれるのは移動相(超臨界流体)の極性が低いためです。

ただ「順相」「逆相」という用語も歴史的には1970年代にKirkland等によってそれまでに使用されていた吸着クロマトグラフィーと反対の特性を持つクロマトグラフィーが開発され「逆相」と命名された折に従来のモードをさかのぼって順相と定義命名されたもので、今ではオーソライズされていますが、本来は吸着クロマトグラフィーと分配クロマトグラフィーに分類され、分配クロマトグラフィーがさらに逆相分配クロマトグラフィーと順相分配クロマトグラフィーに分類されるべきものだと思います。

長々と書いてしまって申し訳ございませんでした。まとめますと「逆-逆相」は学術用語ではなくマーケティングターム(MT)です。マーケッターとしては自分がつくったMTが一般化するというのは嬉しいもので、反対意見を含めて多くの人にディスカッションしてもらうことは至上の喜びです。

今後ともよろしくお願いいたします。

日本ウォーターズ 佐々木俊哉

Posted by: 佐々木俊哉 | 2011.05.17 at 11:08 PM

佐々木さん、詳しいコメントどうもありがとうございます。(御意見送信用ページからこちらにコピペしました。)
「逆-逆相」の語の生みの親に書き込んでいただけるとは感激です!

「図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み」は短い言葉で多数の事項を解説して全体像をつかんでいただく本ですから、最も短くHILICを説明する言葉としてを使わせていただきました。
液クロの世界は、ユーザー・メーカー・アカデミックのすべてに一家言のある方がおられて、私のようなライトなユーザーがあれこれ書くのははばかられるというのが本音です。
せめてご紹介役をつとめて行きたいと思いますので、よろしくお願いします。

Posted by: ここの管理人 | 2011.05.17 at 11:14 PM

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