ノイズの話(9)分析機器工業会の液クロ規格
ノイズの話はしばらく続きそうだ。調べ始めると色々な資料が見つかって、たまっていく速度に書く速度が追いつかない。このブログの更新ペースでは、資料全部を紹介するには年単位の期間が必要かも。
毎年分析展を開催している 日本分析機器工業会(JAIMA) が主要な分析機器の性能表示規格を発行している。日本分析機器工業会規格(JAIMAS)という。それらはJAIMAのサイトで注文できる。クロマト関係では液クロ、ガスクロ、GC-MSの規格が出ていて、1冊500円。これら3冊を購入した。
この規格は、装置の出荷時または客先検収時における性能の表示方法と意味、試験方法について規定するもの。サービス時における目標性能でもある。
JISは液クロとガスクロでノイズの大きさの定義が違う。JAIMASはどうなのか?
というのが最大の関心事だが、結論から言えば、JISのガスクロ法流に統一されている。液クロ規格もガスクロ規格も、振れ幅を1/2にすることはなく、振れ幅そのものをノイズ幅としている。
ということは、液クロについては日本分析機器工業会規格が日本工業規格に沿わない定義を行っているということで、これが制定された経緯はどんな風だったのか興味がわいてくる。
この記事では、まず液クロ規格の内容を紹介する。
「高速液体クロマトグラフの性能表示方法(JAIMAS 0005-2008)」(平成20年5月15日改正)より。
「紫外・可視」「蛍光」「示差屈折(計)」の3種の検出器についてノイズレベルの測定法が規定されている。
液クロ装置は各パーツがバラ売りされるものだから、検出器のノイズはクロマトグラムとは関係なく検出器だけONにした状態で測定するのが本筋だろう。ポンプをONにして移動相を流しながら測定したら、ポンプの性能までノイズに影響してしまう。
JAIMASはもともと移動相を流さない測定法を採用していたらしい。しかし、ASTM (E685-93, E1657-98)でメタノールを通液して測定しているので、紫外・可視検出器の規格については平成20年の改正でどちらも採用できるようにしたと解説されている。
蛍光と示差屈折計については、移動相を流さない測定法のみ規定されている。(ただし示差屈折計のドリフトはなぜか移動相を流す。この検出器は温度依存性が大きいからか?)
移動相を流さない場合、分光光度計のノイズは2通りの描き方がある。波長を固定して記録計を動かす方法と、波長を走査してスペクトルを描く方法と。JAIMASでは、紫外・可視検出器は前者、蛍光検出器は後者を採用している。
同じ規格の中でずいぶん細かく微妙な違いが規定されているものだ。
しかし、ノイズ幅をそのままノイズとする点ではすべて統一されている。
規格冒頭にある「用語」ではJISの定義を多数引用しているのに、それ以外ではASTMからの引用が多い。JAIMAは外資系メーカーも多数会員になっているから、そのへんの事情があるのかもしれない。
「分析化学/化学分析」カテゴリの記事
- 「分析化学の基本操作」:3つのポイントに絞った入門書(2024.09.15)
- 分析技術で一人起業(8)起業して良かったことと今後の展望(2024.07.09)
- 分析技術で一人起業(7)宮崎という土地(2024.07.08)
- 分析技術で一人起業(6)経営者として(2024.07.07)
- 分析技術で一人起業(5)信頼性確保・法令対応・ラボ管理(2024.07.06)
The comments to this entry are closed.
Comments