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January 2009

2009.01.31

分析の仕事は4K

仕事が見つからない人が増える一方で慢性的な人材不足が続いている職種もある。
いわゆる3Kは不人気な仕事の指標となっているけど、化学分析の仕事には全部のKが当てはまる。

「汚い」
工場廃水、汚泥、廃棄物、焼却残灰、血液、尿、吐瀉物、臓器・・・想像もしたくないサンプルがけっこうある。私は食品を多く分析してきた。ましな部類とはいえ、前処理のためにホモジナイズした食品(とくに魚類・肉類や弁当類)はけっこう気持ち悪いものだ。

「危険」
健康に悪影響があるからこそ分析する物質も多い。感染性の試料もある。用いる有機溶媒、試薬に有害なものがある。化学分析業務の担当者に健康診断が義務付けられているのも健康被害の可能性があるからこそ。私は皮膚が弱くて、ちょっと油断していると手に皮膚炎が起こる。

「きつい」
実質的に季節労働・期間労働・臨時労働に近いところがある。緊急の分析が大量に発生する場合だ。そういうときは本当にきつい。食品や環境に関する問題が発生するたびに、あのサンプルは前処理にどのくらい手間がかかって検体数はどのくらい必要だろうかと、分析現場に思いをはせてしまう。価格競争によるサービス残業も横行しているようだ。

でも、この3Kよりももっと重圧になるKがある。それは・・・

「怖い」
分析結果に伴う責任の大きさ。分析値に基づいて製品が廃棄されたり工場が操業停止されたり医療上の判断が下されたりする。補助的な立場の分析技術者でも、ピペット操作一つ、コンタミ1滴で誤った結果を出す可能性がある。もし試料をこぼしたり紛失するようなことがあれば取り返しがつかない。扱うデータには個人情報や企業情報も含まれている。
3Kは本人の我慢やがんばりでなんとかなっても、分析のミスや情報漏洩の「怖さ」は質が違う。私はこの4Kめが一番大きく感じる。

世の中のどんな仕事もそれぞれにいくつものKがあり、求職する人によって絶対にゆずれない線があるだろう。色々書いたけど、分析の4Kは私にとってはまあ許容範囲。

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2009.01.24

サラリーマン分析屋ブログ用RSSリーダー

つむら@分析化学のRSSリーダー というページを作った。サラリーマン分析屋ブログの更新情報をまとめてチェックするためのもの。他にも該当ブログはたくさんあると思うので、知っている人は教えてください。

 サイドバーのリンク集を中止
5年前にこのブログを開設した頃は、まだブログという仕組み自体があまり知られていなくて、当然同業者のブログはほとんど見つけることができなかった。
徐々にブロガーが増えるにつれて発見するようになった同業者ブログを、ドリコムの「ブログリスト」を使って更新情報付きリンク集にしサイドバーに入れた。

同業者でない、いろいろな縁で知り合った人のブログはBlogPeopleを使って同じようにサイドバーに入れた。

この二つのサービス、当初は広告付きでなかったけど、利用者が増えた段階で広告が入るようになった。
私はこのブログと 本館 は有料サービスを使って維持しており、広告を一切入れたくないと思っている。ドリコムとBlogPeopleの配信してくる広告をうっとうしく思ったが、他の方法に切り換えるのも面倒で放置してきた。

でもそろそろなんとかしたいと、先週からこの二つをサイドバーからはずし、かわりにはてなを使って公開RSSリーダーを作成し、リンク情報を移した。

 このRSSリーダーの概要
私が5年前からはてなで開設している アンテナ は結構利用されているらしい。(PV数が公開されている。)はてなのサービスは無料で広告付きだけど、本館・ブログとは別のURLなので特に気にならない。RSSリーダーも同じように使えると思う。

はてなRSSリーダーはブログをグループ分けして更新情報を集めてくれる。今のところ「サラリーマン分析屋」「いろいろつながり」「食品安全情報ブログ」「分析の言葉検索」の4つのグループを作った。
「サラリーマン分析屋」はドリコムのリストに入れていたもので、RSSリーダーの表紙ページで表示される。これがこのリーダーのメイン。
「いろいろつながり」はBlogPeopleのリストに入れていたもの。
「食品安全情報ブログ」は畝山さんのブログだが、一日あたりの記事数が多いので独立したグループにした。
「分析の言葉検索」は、分析関連ネタを探すためのキーワード検索。

各記事の更新情報はタイトルのみ並ぶようにしてあり、タイトルにポインタを置くと概要が表示される。最新記事順なので更新頻度の低いブログの記事は見つけにくいが、サイドバーにある「サラリーマン分析屋 のフィード」に並ぶブログ名をクリックすれば、それぞれのフィードページでそのブログの記事だけを拾える。
ただし長期間更新のないブログの場合は記事が表示されないから元のブログまで読みに行くしかない。(サイドバーのアイコンOutsiteをクリックするか、またはフィードページのリンクから。)

 サラリーマン分析屋とは
ところで、何を基準にしてサラリーマン分析屋ブログを集めているか、ちょっと書いておく。
まず、化学分析に関わる仕事をしていること。
次に、その分析が他者から依頼されて行うものであること。つまり、化学分析をしていても、メインの業務が研究とか有機合成とかで、分析するものを自分で決める立場の人は含んでいない。
そして、化学分析についての記事を少しでも書いていること。

でも、この基準は厳密なものでなく、ちょっと違うけれど近そうなブログも私の考えで含めている。

私のこのブログはあまり更新頻度が高いとは言えないし、固めの話題しか書いていない。他のサラリーマン分析屋の皆さんのブログはもっと活発で親しみやすい。
それぞれのブログに対して、特にリンクのお知らせはしていない。不都合があれば津村まで御連絡を。

 関連する過去記事
半年に一回書くblogをめざして

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2009.01.18

ノイズの話(8)日本薬局方は第十五改正第一追補から定義掲載

ここまで見た限りでは、「振れ幅をノイズ幅」にする方法が多数派で、「1/2」にするのはJISの液クロ通則だけではないかと思われたかもしれない。

ところが、平成19年9月28日 厚生労働省告示第316号の第十五改正日本薬局方第一追補から状況が変わったようだ。(「日本薬局方」ホームページ

第十五改正日本薬局方(平成18年3月31日)の一般試験法「2.01 液体クロマトグラフィー」「2.02 ガスクロマトグラフィー」では検出限界の求め方について言及されていない。しかし参考情報の「8. キャピラリー電気泳動法」に次のように書かれている。

シクナル-ノイズ比
 検出限界値及び定量限界値はそれぞれS/N比3以上及び10以上に相当する。S/N比は次式を用いて計算する。
  S/N = 2H/h

H:規定の標準試料溶液で得られた電気泳動図中の目的成分に相当するピークの高さ、ピークトップから半値幅の20倍に相当する範囲から推定できるベースラインまでの距離を測定する。

h:ブランクの注入後に得られた電気泳動図で、規定の標準試料溶液から得られた泳動図中のピークの半値幅の20倍に相当する時間範囲で、かつこのピークが現れる位置の前後の範囲を観察したときの、バックグラウンドの幅。

図は掲載されていないが、「2H/h」の係数2によって、「バックグラウンドの幅を1/2にしたもの」をノイズ(N)とみなすことが明確にされている。

そして第一追補では液クロ、ガスクロについても検出限界の求め方が規定された。液クロの項で上記キャピラリー電気泳動法と同様の記述に加え、下記のように書かれていて、図も付いている。(イメージを伝えるための津村によるスケッチ。)

 なお、基線及びバックグラウンドノイズは対象物質のピーク高さの中点におけるピーク幅の20倍に相当する範囲で測定する。また、溶媒ブランクを用いる場合、対象物質が溶出する位置付近で、上記とほぼ同様の範囲で測定する。
Nosekyokuho
そして、第一追補のガスクロの項においては「液体クロマトグラフィーの用語の定義を準用する」としている。

つまり、現在の日本薬局方においては、液クロ・ガスクロ・CEのいずれにおいてもS/N比を規定するノイズ幅は振れ幅の1/2ということになる。そして重要なのは、JISもASTMもIUPACも任意規格であるのに対して、薬局方は強制規格であるという点だ。現在日本国内で使われているガスクロ・液クロのデータ処理ソフトは少なからずASTM法を採用していると思われるが、医薬品分析の現場で不都合は起こっていないのだろうか。

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2009.01.13

ノイズの話(7)IUPACのオレンジブックも「振れ幅」

(3)から(6)でJISとASTMのノイズの定義を紹介した。これらはどちらも工業製品の規格だ。工業製品や技術というものは、学問の体系の上に築かれるものではないか、学術の世界ではどうなっている?と思う人も多いのでは。

化学の国際学術機関IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry, 国際純正・応用化学連合)は化合物のIUPAC命名法でなじみ深いが、命名法以外にも主要な専門分野の手引書を発行している。それぞれは表紙の色が愛称になっている。物理化学はグリーンブック、有機化学はブルーブックなど。分析化学はオレンジブック。

オレンジブックの初版は1978年、第2版は1987年、第3版は1998年に刊行された。第3版は全文をネットで読むことができる。

Compendium of Analytical Nomenclature  (オンライン版。壁紙がオレンジ色で気分が出ている。)

簡単な説明(英文)

IUPAC Nomenclature Books Series (用語集シリーズの紹介)

第3版第9章「分析分離法」の中に「クロマトグラフィー>検出に関する用語>ノイズとドリフト」の項目がある。その中ではこのように書かれている。

ノイズ (N) (図 9.2.4を見よ)
ボルト、アンペア、または吸収の単位で表現されたベースラインの包絡線の振幅であり、1分間に1サイクル以上のオーダーの周期を持つ検出器信号のすべてのランダムな変化を含むもの。光学的な検出器の場合は振幅は単位セル長当たりの吸収で表されるかもしれない。

ドリフト (図 9.2.4を見よ)
1時間当たりのボルト、アンペア、または吸収の単位で表現されたノイズの包絡線の平均的な傾き。実際には0.5時間の測定から1時間当たりの値を推定できるかもしれない。
(訳:津村)

図 9.2.4はこのようになっている。(略しているので完全なものは元のページで見てください。)また、S/N比から検出限界を求める際の係数は2としている。

Noiseiupac

ASTM法の図と大きな違いがある。「ワンダー」もノイズに算入している点だ。しかし「ドリフト」はノイズに算入していない。
ワンダーの扱いという違いはあるものの、振れ幅をノイズ幅としている点で、オレンジブックの方法はASTM法及びJISのガスクロ法と一致している。

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2009.01.10

ノイズの話(6)ASTM法は「振れ幅」がノイズ幅

前記事ではドリフト・ワンダー・短期ノイズの三拍子がそろった模擬クロマトグラムを載せた。

Nosewonderred

こういうものを見ると「ガス配管が汚染されたのでは」「イオン源を洗浄しないと」「カラムの履歴は?」などの考えが浮かんでソワソワし、ノイズの定義どころでなくなるのがクロマトグラファーというものではないだろうか。(作り物のクロマトとわかっていても。)

実際、ノイズの大きさが「振れ幅」であろうと「振れ幅の半分」であろうと、装置のメンテナンス状態の影響に比較すればたいしたことではない。

でも、だからといって何の注釈もなく「S/N>3」だけで検出限界を表すデータが横行しているのはおかしいと思う。Nの定義の違いは確実に2倍の差を生み出す。

で、本論のASTM法の解説。繰り返すけれど、ASTM規格原文は入手していない。

まずアジレントの文書(URLは前記事)より。
ここに書かれている方法は、ドリフトを除去した7つのセグメントのピーク to ピークノイズを測定するというもの。具体的な手順は次のとおり。

(1) ピークの半値幅の約10倍をノイズ測定のセグメント期間とする。
(2) バックグラウンドピークや試料成分ピークの出ていないベースライン領域を選択し、7つのセグメントを決める。
(3) 一連のセグメントは連続的で、互いの両端で10%が重複していることが推奨される。
(4) それぞれのセグメントの線形回帰線を描く。
(5) この線形回帰線から得られる最大偏差と最小偏差の差がそのセグメントにおけるピーク to ピークノイズとなる。
(6) 7セグメントのノイズの平均値を検出器のノイズとする。

Noseastm

一方、島津のHPLCデータ処理ソフト(LC solution Ver 1.11)のヘルプには次のように書かれている。
「ここでのノイズレベルは、以下のようにASTM法で求めています」とした上で、上記アジレントの解説書と類似の方法が述べられている。ただし、セグメントの長さは半値幅から求めるのでなく0.5分刻みとする例が示されているし、それぞれの両端は重複していない。また、セグメントの数は決まっていないようだ。

S/N比から検出限界を求める際の係数の例としては、アジレントの解説では2、島津のヘルプでは3または3.3を挙げている。

両者を合わせると、ASTM法は振れ幅をノイズ幅とする方法と考えられる。JISの液クロまたはガスクロ通則の方法よりも、ベースラインのドリフトを想定している分、念が入っている。
単に「振れ幅か振れ幅の1/2か」だけでなく、ノイズの定義には色々ありそうだ。

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2009.01.08

ノイズの話(5)ドリフト・ワンダー・短期のノイズ

昨年からLCユーザーの間で懸念されてきたアセトニトリルの品薄問題。年が明けてもやはり見通しは暗いことを取引の試薬屋さんから聞いた。試しにメタノールで代替してみて、その背圧の高さに、あらためて感じるアセトニトリルのありがたさ。

さて、液クロやガスクロのデータ処理ソフトに採用されているASTM規格の原文は有料で提供されている。ASTMのウェブストアでは1規格30~50ドル程度。わざわざ買う気にはなれないので、孫引きになるがアジレントの文書から引用する。

原文(PDFファイル)
A Guide to Interpreting Detector Specifications for Gas Chromatographs: Technical Note

日本語訳(PDFファイル)
ガスクロマトグラフ用検出器の仕様についての解釈と解説 技術概要

この内容を紹介するつもりだったけれど、図を描いたら疲れてしまったので今日は図の説明だけ。

異なる周期のノイズが複合して表れる場合がある。比較的周期の長いものは「ワンダー」という。さらに長い周期のノイズは「ドリフト」という。詳しくは上記文書を参照してください。

これはExcelで描いたドリフト・ワンダー・短期のノイズの合成画像。3枚とも同じ計算条件でできた。ベースラインが下がっていくドリフト、データポイント20の周期のワンダー、そしてデータポイントごとのノイズから成っている。

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2009.01.05

ノイズの話(4)ASTMとは

前の記事で、JISの分析通則の液クロとガスクロのノイズの定義が違うことに触れた。
では、液クロvsガスクロという図式なのか?
しかしそういうわけでもないようだ。

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私が使っているのはアジレントのガスクロと島津の液クロ。どちらのデータ解析ソフトも「振れ幅」をノイズと定義している。そしてその定義は「ASTMの方法による」とマニュアルに書かれている。

ASTMの方法を紹介する前に、ASTMとは何かを解説しておく。といっても、私もこの組織についてこのほど初めて知ったので、ごく限られたことしか書けないけれど。

 ASTM Internationalのウェブサイト より
ASTMはもともとAmerican Society for Testing and Materials の略称。
現在の正式名称はASTM Internationalらしい。
100年以上前に鉄道の規格を作るために結成され、その後守備範囲を広げていったとのこと。対象とする工業分野として、消費者向け製品・建築基準・安全で健康な環境基準・金属工業・燃料・ヘルスケアと医療技術が挙げられている。
ASTM規格の作成には、120以上の国から生産者、ユーザー、消費者、政府、及びアカデミーを代表して集まる3万人以上のASTMメンバーが携わっているとのこと。

 ぶんせき2003年11号 生明清「ミニファイル 公定分析法 石油」より
ASTMが主題の文章ではないが、たまたま見つけたので引用。

ASTM規格は強制規格ではなく任意規格であるが、国防総省の規格として採用され強制規格となっているもの、またANSI(米国規格協会)により米国標準規格として公認されているものが多数あり、米国家技術移転振興法の施行(1996年)により政府による採用は一段と進みつつある。ASTMはISOの活動にも積極的に関与し、大きな役割を果たしている。

 日本語による解説
 ASTM規格 ~製品仕様や試験方法に関する世界的な規格~(国立国会図書館)
 米国ASTMについて (日本貿易振興機構:ジェトロ)

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 総合すると、「ASTMは世界最大級の民間標準化団体であり、その規格は任意規格ではあるが国際的に広く通用している」と言えるようだ。ASTM規格を有料で入手できるサイトも複数見つけることができる。

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