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2008.12.27

ノイズの話(1)こんな基礎的なことが不統一

「検出」か「不検出」か?
分析に縁のない人にも、両者が大きく違うことはぼんやりわかると思う。検出限界ぎりぎりの「検出」とぎりぎりの「不検出」、実際の物質量としてはほとんど同じでも、与える影響の大きさが天と地ほど違う場合がある。

残留農薬、環境汚染物質、品質管理・・・機器分析では、この図のようなデータ(クロマトグラムまたはスペクトル)を使って「検出」か「不検出」かを決めることがよくある。

Noise1

では問題。AからCの中で「検出と不検出の境界」を表すピークはどれでしょう。つまり、一般的に「この大きさ以上のピークが現れたら『検出』、これ以下なら『不検出』」と合意されているのはどの図でしょう。(S/N=3を検出限界とする。)

こんな図なんか見たこともないという人は、直感的にどれか考えてみてほしい。
ある程度化学分析の経験を積んだ人は、正解と思う図を選んだだろう。

私はずっとAが正解だと思ってきた。自分の使っている装置のデータ処理ソフトがそうなっているからだ。ところが「ぶんせき」12月号に掲載された山下博教さん「スペクトルデータ、クロマトグラムデータの取り扱い」にBの方法のみが書かれているのを読んで、おやっと思った。そしてさらにCの方法もあることを知った。つまり、AからCのいずれも正解らしいのである。

これらの図の違いはノイズの大きさNの定義の仕方だ。
ある時間範囲におけるベースラインの最小値と最大値を「振れ幅」と呼んでおく。振れ幅そのものをNと考えるのがA法、振れ幅の1/2とするのがB法、同じく2/5とするのがC法である。
(少し説明を簡略化している。)

科学の世界では、同じ言葉に対して複数の定義があることは珍しくない。しかし、そのように混乱しやすい事項については教科書に「○○の定義と××の定義がある。その経緯は・・・」といった解説が書かれているものだ。
ところがこのノイズの求め方については、今のところ見つけた限りではどの解説も唯我独尊状態で、それぞれAからCのうち一通りしか書かれていない。これでは、どんな場合にどれを用いるのが適当か判断ができない。

S/N=3または2を検出限界とする方法は厳密なものとは言えないが、使いやすさとわかりやすさから広く普及している。それなのにこんな不統一があったとは驚きだ。日常的にクロマトグラフィーを使う身としては、それぞれの背景くらいは知っておきたい。
例年よりも長い年末年始の休暇を使って、この問題について私が集めた情報を整理してみようと思う。

各方法の代表例
 Aの求め方を採用
 JIS K 0114 ガスクロマトグラフ分析通則
 IUPAC オレンジブック
 アジレントのGCデータ解析用ソフト
 島津のLCデータ解析用ソフト
 ASTM規格

 Bの求め方を採用
 JIS K 0124 高速液体クロマトグラフィー通則
 第15改正日本薬局方第一追補 一般試験法 液体クロマトグラフィー
 ヨーロッパ薬局方 液体クロマトグラフィー

 Cの求め方を採用
 環境省「要調査項目等調査マニュアル」

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分析化学/化学分析」カテゴリの記事

Comments

はじめまして、キャサリンです。
TBありがとうございます。

分析にご興味あるというより、専門家とお見受けいたしました。

こういったブログもあるのかと楽しく拝見いたしました。

私は、現在は主にVOCの分析をしております。
また立ち寄らせていただきますので今後とも宜しく
お願いいたします。

Posted by: キャサリン | 2009.01.13 at 12:37 AM

キャサリンさん、コメントありがとうございます。VOCということはガスクロ使いですね。私もメインはガスクロです。

このブログは最近あまり更新していないのですが、ノイズの話はちょっと小まめに書いて情報の整理をしようと思ってます。

キャサリンさんのブログは話題が広くて、社会問題への視点をしっかり持っておられますね。こちらこそよろしくお願いします。

Posted by: ここの管理人 | 2009.01.13 at 06:29 AM

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