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April 2008

2008.04.13

分析格言&川柳 第一集

短くエッセンスを伝える言葉が好きだ。俳句、川柳、標語、ことわざ、格言など。

分析の仕事はたいへん面白い割に、やっている人は寡黙な人が多い。書かれたものも固いものが多い。そんな中からきらりと光る言葉を拾っていくのは楽しい。

サイトを開設して5年、ふとした言葉 としてトップページに掲載してきた言葉の中に、分析に関するものが増えてきた。この中から格言といえるくらい短く凝縮されたものを集めてみた。ついでに私自身の作も発表してみる。(作者名がないのは津村の作。)

あいにく方法論はしばしば科学研究の中で最も弱い部分である。
─── M.S.Tswett

クロマトグラフィーの創始者ツウェットの言葉。分析化学は方法の科学だ。方法論は、弱いというより軽んじられることも多い。100年前もそうだったのか。


分析技術者は古くから、(1)うそをついてはならない、(2)依頼者の秘密は守る、(3)信頼を失う行為はしない、ことを徹底的に躾けられてきた。

─── 高田芳矩

この後には新しく分析技術者に求められるようになった「コミュニケーション能力」が強調されるのだけど、私はこの(1)(2)(3)に職人気質を感じて気に入っている。


つまり、分析をするということは、最先端の科学の知識を生かして行う謎解きにも似た知的なゲームという側面と、勘と経験を頼りに高度な技能を駆使して行う職人芸という側面がある。

─── 小島建治

これも「職人芸」の言葉に惹かれて書き留めた。元の文章には「分析のプロセスにおける腕のみせどころ」が図で示されている。ふつう図解しないような図を見て一層の熱意を感じた。


公定法、必ずしも真ならず

─── 黒田弘之

各分野で公定法を使って分析している人の多くがうなずくのではないだろうか。作者は37年間地方衛生研究所で分析をしてきた黒田さん。生あん中のシアン分析の公定法で漂白剤が分析を阻害することが判明してヒヤリとした経験を、この言葉と共に書かれている。
2008/4/20 追記 元の文章は書籍ですがウェブでも読むことができます。インターネット随想公定法、必ずしも真ならず

キャピラリーガスクロマトグラフィー(GCG)は落とし穴に満ちている。
─── Konrad Grob

GC注入口研究の大家、K.グロブの著書の中の言葉。GCの注入口というのは、その問題点を述べるだけで分厚い本が書けてしまうほど難儀なものなんだと、この本を手に取った時に嘆息した。


機械を見たら人と思え

機器に心があるかのように接する人は結構いる。私も(当然)その一人。例えば本人(機)の前では決して悪口を言わない。言うと必ず機嫌をそこねる。
自動車に乗りながらそのクルマを同乗者がけなしたら必死に止める。命を預けている最中に、とんでもない。


人を見たら機械と思え

自分の所属先にある機器だけであらゆる分析に対応できるだろうか。よそへ測定させてもらいに(あるいは測定してもらいに)行くことはないだろうか。また、新しい機器を導入するときは、先行ユーザーの話を聞いて機種選定の参考にしたい。特に自分と似たものを分析している人の話を。
というわけで、同業者と付き合う際には「どんな人か」だけでなく「どんな機器を持っているか」にも注意を向ける。


圧力の 単位はトルとパスカルと バールとアトムと ミリエイチジー

圧力ほど様々な単位が入り乱れているものもないのでは。この格言に挙げた以外にもkgf/cm2やpsiがあり、液クロやガスクロの圧力表示に長らく使われてきた。パスカルへの移行が推進されているにも関わらずまだよく見かける。
この格言は単位名を覚えるためのものでなく、こんなに数多いのだと注意を促すもの。


「頼むから、ワカレてくれ」が口癖に

これは格言でなく川柳かも。「別れてくれ」は人聞きが悪いが「分かれてくれ」が分析屋。
液クロ、ガスクロ、前処理で化学的に分離する場合だけでない。質量分析計でもNMRでも、およそスペクトロメトリーは分けるのが基本。化学種を特定できるだけの分解能で情報を取り出してこその化学分析だ。(わかれて、しあわせ


分けてなんぼ はかってなんぼが 分析道

関西弁で読む。ただし私自身は関西弁ネイティブでないので正しく発音できない。
「はかる」は分析の花形だけど、化学分析以外でも「はかる」は数多い。長さ、重さ、時間、速度、圧力、温度、電流、明るさ・・・などなど。だから化学分析の醍醐味はむしろ「分ける」のほうにあるのではと思っている。


分析格言・分析川柳を集めてみませんか。引用でも自作でもかまいません。この記事へのコメントか私へのメールでお知らせください。いくつかまとまったら第二集を発表します。


引用元
・M.S.ツウェット(Engelhardt,H., J.Chromatogr.B., 800, 3-6 (2004)内の引用より。訳:津村)
・高田芳矩「信頼の回復」(「ぶんせき」誌2004年2月号)
・小島建治「分析のメカニズム」日本分析機器工業会編「よくわかる分析化学のすべて」(日刊工業新聞社、2001)
・黒田弘之「精緻なるロマンを求めて」(衛生化学研究会、2002)
・Konrad Grob 著、日本分析化学会ガスクロマトグラフィー研究懇談会訳「CGCにおける試料導入技術ガイドブック」(丸善、1999)

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2008.04.05

化学オリンピック日本大会(2010年)

Photo母校への寄付、慈善活動への寄付など、特に積極的でも消極的でもない。人並みにそこそこやっていると思う。そんな私が、この協力依頼には即座に応じる気になって寄付金を振り込んだ。

2010年7月に東京で第42回国際化学オリンピックが開催される。それに対する協力・募金のお願いのパンフレットが薬学会の会誌に同封されてきた。たいへんよくできている。A4版、8ページ、オールカラーで、今まで断片的にニュースを読んでいた程度だった化学オリンピックの概要がよくわかった。

・世界の高校生が集まって化学の実力を競うコンクール
・約70ヶ国が参加している。
・日本は2003年から参加しており、毎年入賞者を出している。
・日本で開催されるのは初めて。
・一次選考は全国50会場での筆記試験(約2000名)
・二次選考は東京での実験試験
・20名程度の代表候補が選ばれ、参考書や準備問題を受け取って勉強。合宿やレクチャーもある。
・最終選考で4名の代表を決定
・代表は実験を主としたトレーニングを受ける。
・7月に約10日間の大会に臨む。(実験試験と筆記試験)

パンフレットには鮮明な写真がふんだんに掲載されており、実験に励む高校生の姿がさわやかだ。日本大会の主催団体には日本薬学会、日本化学会、日本分析化学会、日本化学工業協会などが名を連ねている。各団体の構成員にパンフレットが行き渡れば、寄付をしたいと考える人は大勢出てくると思う。

ウェブではパンフレットほどの強い印象はないかもしれないが、できるだけ多くの人が協力して成功するよう願う。

 第42回国際化学オリンピック日本大会」開催に対する寄付のお願い (化学オリンピック日本委員会)
 国際化学オリンピック
 全国高校化学グランプリ
 「全国高校化学グランプリ2008」の申込受付期間
 WEB  5月19日(月) 10:00 から 6月20日(金) 18:00
 郵送 5月19日(月)~6月13日(金)の間の消印有効
(グランプリ2008に参加した高校1・2年生の中から2009年イギリスで開催の第41回国際化学オリンピック代表候補が選ばれる。)

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