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March 2008

2008.03.29

日本薬学会第128年会

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桜が咲き始めた横浜で薬学会の年会が開催された(3月26~28日)。主な会場は近接しており、大規模な商業施設もあって、移動や昼食場所探しの苦労は例年より少なかった。

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 シンポジウム「新領域を切り拓く分析化学 -質量分析とクロマトグラフィー-」の中でエーザイの浅川直樹氏の講演が印象に残った。「オンライン前処理LC(LC/MS)システムによる生体試料中の薬物分析」のタイトルで医薬品開発現場での分析の話。
「近年はMSの性能に依存した分析法開発を指向する傾向がある。LC/MS/MSを何台持っているかで勝負するようになっている。私たちは分離指向。LCをいかに駆使するかを考えている」として、演者らが開発した浸透制限型前処理カラムとカラムスイッチングによるLC(LC/MS)が紹介された。
「分析力は医薬品開発のバロメータ」と言い切る浅川氏の語りに、分析技術者の誇りと情熱を感じた。

 医薬品開発における分析では、LC/MS/MSが唯一無二といってよい地位を占めるようになったようだ。別の製薬会社に勤務する同窓生と中華街で飲みながら話をした。「LC/MS/MSは30台以上保有している。GCはもう全部廃棄した。揮発性のものは分析しないから」と言っていた。LC/MS/MSの価格がかなり下がって入手しやすくなったのも、このように大量に購入するユーザーがいるおかげなのだろう。
また、医薬品を製品化することがいかにたいへんかも聞いた。自分が手がけた物質が一度も世に出ないまま定年を迎える社員が少なくないそうだ。候補物質は何万、何十万とある。開発の上流で化合物合成を担当する人たちもいる。動物実験を経て第一相試験にまでこぎつけた候補医薬品の中でさえ、第三相までクリアするのはわずか5%だという。いかに多数の分析を効率よくこなすかが重要になるのもうなずける。

 日本化薬の丹羽誠さんと初めて会って昼食を御一緒させてもらった。先日刊行された 「これならわかる 化学のための統計手法」 の執筆の背景、ブログが増えた割に科学技術情報を提供する個人サイトが増えないことなど話す。ちなみに丹羽さんのポスター発表のテーマもLC/MS。

 機器展示の中でマイクロ化学チップとそれを使う自動ELISA装置が目に付いた。電子部品や配線や配管がぎっしり並ぶ中にチップをセットする手作り感あふれる装置。チップも装置も日本製。なんだかわくわくする。

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 超純水製造装置ミリQの新しいモデル。本体は実験台の下等に置き、採水場所にはディスペンサーのみを置く。ディスペンサーに顔があって驚いた。ユーザーの好みで付けられるようシールを配布しているそうだ。標準で付いているわけではない。(付いていたら購入をためらう、たぶん。)

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2008.03.17

正しくデータを扱うための本2冊(化学系)

よく似たテーマの本が2冊、相次いで化学同人から刊行された。どちらも良い内容だ。化学系の研究や分析をしていて類書を持っていない人は、ぜひどちらか(または両方)座右に置くことをお奨めする。

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「実験データを正しく扱うために」化学同人編集部/ 出版:化学同人/ 発行年月:2007.12/ 税込価格:¥1,575 (本体:¥1,500)

「これならわかる 化学のための統計手法 正しいデータの扱い方」丹羽 誠/ 出版:化学同人/ 発行年月:2008.3/ 税込価格:¥2,730 (本体:¥2,600)

まず「実験データを正しく扱うために」について。
化学同人が発行しているあのおなじみのシリーズの新刊だ。「実験を安全に行うために」「続 実験を安全に行うために」「機器分析のてびき」1~3、「化学文献の調べ方」・・・長く化学に携わっている人なら1冊くらいは持っているのではないだろうか。小ぶりで低価格なのに中身の濃い、おトク感のある本が多い。

この本はまず物理量と国際単位系の解説から始まり、単位の記述のしかた、濃度の表し方など、初歩の初歩から懇切丁寧に書かれている。定規、ピペット、ビュレット、ノギス等の目盛りの読み方、ガラス体積計の正しい扱い方・・・学生実験や研究室で指導される内容ではあるが、こうしてハンディにまとめられて再確認できるのは便利だ。
そして次は、採取したデータの扱い方が具体的に解説される。有効数字の桁数を決める手順、繰り返し測定における平均や標準偏差について、誤差法則、検定と異常データの棄却法、最小二乗法による回帰、実験結果のグラフ化。

項目名だけ並べたら普通の統計の本と同じように見えるかもしれないが、化学に即した題材が取り上げられていてわかりやすい。例えば、低濃度の溶液を調製する場合、いきなり少量の試料を溶媒に溶かすのでなく、まず高濃度の溶液を調製して何段階かの希釈を行うほうが正確に調製できる理由。それから、吸光光度法において濃度に比例するのは吸光度であるが、直接測定される物理量は透過度であることから起こる問題(だから吸光度は0.2~0.8の範囲で測定すべきである)など。
これらも学生が指導されることだが、なぜそうなのかが数式で説明されて納得できる。同時に、誤差や回帰についての理解が深まる。

次に「これならわかる 化学のための統計手法 正しいデータの扱い方」について。
こちらはデータの採り方については書かれていない。統計のことだけが解説されている。一方、ページ数は多い。それだけ内容が濃い。
著者の丹羽さんは日本化薬の研究員で、丹羽誠の分析化学・薬物動態学ホームページ を開設している。

この本の特徴は、「分析をする人のための統計」を強く意識している点だろう。取り上げている項目は「実験データを正しく扱うために」とかなりオーバーラップしているが、試験室の分析能力をテストする技能試験で使われる統計や、産地特定や犯罪捜査での異同識別に応用される多変量解析の基礎など、分析化学分野に登場する統計は網羅していると思う。

それから、一つ一つの項目の解説が極めて丁寧だ。
およそ実験を始めたばかりの学生でも、繰り返し測定の標準偏差を求めること と 検量線を引くことにはすぐにでも直面する。
標準偏差の求め方について、「実験データを正しく扱うために」では、標本標準偏差と標準偏差を簡潔に解説している。母集団からN個の標本を取るとして、前者は各標本と標本平均の差の二乗の総和を「N」で割ったもの、後者は「N-1」で割ったものである。
しかし、この本の説明と例題だけを読んでNとN-1の使い分け方、なぜN-1で割るのか等が理解できる学生はあまりいないと思う。
「これならわかる 化学のための統計手法」には、Nで割るのは特殊な場合(工場における全数検査等)であること、同書の中ではN-1で割る方法のみ扱うこと、N-1で割る理由などが書かれていてよくわかる。

また、検量線について、「実験データを正しく扱うために」では「最小二乗法は、ほとんどの表計算ソフト・グラフソフトに標準的に組み込まれているので容易に計算できる」とした上で、解説のほとんどは重み付け回帰の方法になっている。
最近の学生実習では早い段階で重み付け回帰した検量線を引くのだろうか。私の学生の頃は方眼紙に定規を当ててプロットしていたから人間の感覚で自然に重み付けしていたとも言える。しかし、関数電卓やPC(当時は贅沢品だった)を使って最小二乗法による検量線を引いた学生も合格点をもらっていた。

「これならわかる 化学のための統計手法」では、まず5ページ使って最小二乗法による検量線の引き方を説明している。(なぜ横軸を濃度、縦軸をレスポンスにするか、逆にしたらどうなるかも実例付きで説明。)その後に、シンプルな最小二乗法の問題点、重み付け最小二乗法の必要性や具体的な手順が詳しく説明される。

その他の項目についても同様だ。「実験データを正しく扱うために」では科学的に最も妥当であると考えられる結論が簡潔に書かれているのに対し、「これならわかる 化学のための統計手法」ではやや不正確であるが実用的あるいは古くから繁用されてきた方法を一通り解説した後に、その限界を指摘してより正しい方法へと進むスタイルである(※注)。前者はハンディなマニュアル、後者はじっくり読む解説本であるから、この違いはそれぞれの出版目的に合っていると言えるだろう。

また、各著者の専門分野と立場も投影されているかもしれない。前者の著者は膜・界面・電気化学といった方面の研究者、後者の著者は医薬品開発という目的のもとでの生体試料中の薬物濃度分析の専門家。
対象物として前者のほうがより理論値に適合したデータが得やすいと思う。生体試料の組成は複雑であり、解釈が難しいデータが得られる場合も多い。また、研究目的の実験では科学的な厳密さが最優先であるが、データを得るための分析では、時間や費用との兼ね合いから目的に反しない範囲での妥協をする場合がある。医薬品業界はそのような基準整備が最も進んでいる分野である。

結論として、これらの本はそれぞれこんな人にお奨めする。
・単位や計測操作についてきっちり再確認したい。
・統計については既に一通り理解しているから、便利に参照できるコンパクトなマニュアルがほしい。
・逆に統計のことはほとんど知らないけれどとりあえず正しい手順を知りたい。
・自分の研究のための実験をしている。
 → 「実験データを正しく扱うために」

・きちんと統計の勉強をしたい。
・今まで統計の本を読んでも理解できなかった。
・分析を目的とする機関(または部署)に勤務している。
・特に環境・食品・医薬品業界の人にお奨め。(技能試験にまで言及した類書は非常に少ない。)
 → 「これならわかる 化学のための統計手法」

なお、丹羽さんと私とは、似たサイトを開設している縁で5年前にメールさせていただいて以来の知己です。そして「実験データを正しく扱うために」の執筆者の一人前田耕治さんとは、20年以上前に京大の宇治キャンパスで一緒に大きなクリスマスパーティを企画した仲間です。
偶然にもお二人が同じ時期に本を出されたことにちょっと感激しました。
(前田さんの共同執筆者 山本雅博さん、加納健司さんにも分析化学会近畿支部でお世話になっています。)

※注 この書き方だと「揺るぎなく正しい検量線の引き方」があるかのような誤解を与えるかもしれない。重み付け回帰にも色々なやり方があり、どんな場合にも適用できるような方法はない。これらの本で提示されているのは、現時点での状況(フリーの計算ソフトが簡単に入手できるようになった等の社会状況も含む)で使える、現実的でより正しい方法である。

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2008.03.11

「5年考えて解けなかった問題」の問題

三角形ABCはAを頂点とする二等辺三角形。赤い印を付けた角の角度は?

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この問題を出したのが4年前。(5年考えて解けなかった問題

回答募集・正解発表中のアクセス数は一日2万PV以上を記録、コメント 91、トラックバック 113、このブログ随一の看板記事になった。(分析化学にも技術系にもサラリーマンにも関係ないのがちょっと寂しいところ。)

今でもこの問題へのリンクをたどっての訪問者が多い中、群を抜いているのがこのページからの訪問。

コラム: 「問題」の問題

「本当の中学生にこの問題を解かせないでほしい。この問題はあくまでパズルであり、本当の数学の問題ではない」との主旨。まったくそのとおり。きちんと正統派の(三角関数を使った)解法が示してあるから懇切丁寧だ。パズル的な解法は書かれていない。だから気になった読者が私のブログを訪問することになるらしい。

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このコラムを書いているのは 議論のしかた の岩田宗之さん。「議論のしかた」はネット掲示板の議論が紛糾したときなどによくリンクされるページだから見たことのある人も多いと思う。

「議論のしかた」は昨年10月に新潮新書で書籍化された。何かの縁だから私も買って読んでみた。タイトルは「議論のルールブック」、内容はすっきりまとめなおされている。縦書きで読みやすい。ネット掲示板だけでなく議論一般に適用できることが多い。

私だけかもしれないが、本になった文章には引用文献がないと気になる。この本には引用文献がまったく書かれていない。ウェブの文書に引用文献がなくても気にならないのに、なぜだろう。ウェブ版の「議論のしかた」には4冊の参考文献が示されている。

ところで、この三角形の問題を中学生にも意味のあるものにするため、こんな問題を考えてみた。

三角形ABCはAを頂点とする二等辺三角形。赤い印を付けた角の角度は中学生の知識だけを使って求めることができる。しかしそれはこの三角形が特殊だからである。どんな特殊性のためにこの角度が求められるのか説明せよ。

もとの問題が紙と鉛筆だけで何時間でも考えられるように、この問題もふと空いた時間で考えられる。私の場合、最もシンプルな説明に至るまでにまた何年もかかるかもしれない。

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2008.03.06

Google News「分析 化学」を表示

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ときどき「化学関連株の価格動向分析・・・」のようなニュースも表示されてしまう。でも「クロマトグラフィ」の語で試してみたらニュースの頻度が低くて面白くなかった。当分「分析 化学」でやってみるつもり。

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