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November 2007

2007.11.28

分析機器メーカー社員の南極出張

今日の朝日新聞朝刊経済面で「堀場製作所社員、南極へ」の記事が目に留まった。asahi.com にも掲載されている。(堀場製作所の社員が南極へ 大気中の微粒子など観測

 分析・計測機器メーカー堀場製作所(京都市)の社員、青山朋樹さん(26)が第49次南極観測隊の越冬隊員に選ばれ、28日に日本を出発する。12月下旬に昭和基地に入り、09年春まで駐在して大気の観測などにあたる。分析装置を開発してきた青山さんの技術力や「若さ」が買われたという。
 青山さんは現地で、自社製のエックス線分析装置を使い、空気中の微粒子の成分を分析し、南極の大気の様子などを調べる。これまでは大気のサンプルを日本に持ち帰っていたが、現地調査でより精度の高いデータ収集が期待できるという。
 南極調査の中心となる国立極地研究所(東京)によると、企業の社員が越冬隊で研究観測を担当するのは珍しいという。青山さんは「南極は大気中の微粒子がとても少なく、技術的にも貴重な蓄積になる。オーロラなども見てみたい」と話している。

分析に携わっていると、機器メーカーの社員にラボへ来てもらって共同でデータ取りをする機会がときどきある。サンプルを持ち出せないとかリアルタイムでの分析が必要とか、理由は色々考えられる。それが何週間、何ヶ月に及ぶ場合もある。

青山さんの場合は行き先が南極、期間は一年半と、遠さも長さも一流だ。元気に活躍して成果を挙げられることを期待する。

ところで南極観測隊については「なぜかNHKの紅白歌合戦の中継でいつも出てくる」ということ以外よく知らなかった。今回の観測隊の目的については 【特集】 第49次観測隊 出発間近(岩手日報) に詳しい。やはり地球温暖化関連の観測が重視されているようだが、地質や生物等幅広い観測が行われるそうだ。国立極地研究所の 南極観測のホームページ で観測隊の動きが逐次報告されている。
25年間働いてきた観測船「しらせ」は今回が最後の航海となり、後継の観測船「しらせ」の建造が始まっている。

今年の紅白歌合戦で南極観測隊が登場したら、毎日使っている堀場のpHメーターを思い出して、これまでとはちょっと違う親しみを感じることだろう。

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2007.11.09

「蓑脇の時水」とピペット洗浄器

今日の日経朝刊に 蓑脇の時水 の話が載っていた。福井県越前市の山の中腹にある間欠泉だそうだ。

私が見たことのある間欠泉は別府温泉の「竜巻地獄」だけだ。蓑脇の時水は、あのような温泉場で見られる間欠熱泉とは異なる「間欠冷泉」だという。全国でも5ヶ所しか確認されていない珍しいものとか。

ふだんはチョロチョロと水が湧き出している洞穴。それが数時間ごとに(間隔は一定していない)突如流れる水量が増える。そのとき響く滝の音によって時刻を計るという言い伝えから「時水」と呼ばれるらしい。

間欠冷泉の原理については諸説あり、はっきりしたことはわからないが、有力視されているのはサイホンの原理だそうだ。

 確認されている国内5カ所の間欠冷泉はいずれも周辺が石灰岩質で、大なり小なり鍾乳洞が存在していると推測される。空洞に一定の地下水がたまるとサイホンの原理が働き、大量の水が噴き出すのではないだろうか。サイクルが不定期なのは、複雑な機構の結果としかいえない。

これを読んだら化学系の人には「あっ」と思いつくものがあるはずだ。
そう。ピペット洗浄器。

身のまわりにサイホンの原理を利用したものは多い。コーヒーメーカー、水洗トイレ、流し台や洗面所の排水管・・・しかし、ピペット洗浄器ほどわかりやすくサイホンの原理を見せてくれる道具はあまりない。
しかもピペット洗浄器は、ふだん水がチョロチョロと流れていて一定水量になると排水するという点で、他のどんな仕掛けよりも「蓑脇の時水」に似ている。

緑濃い山の内部に巨大なピペット洗浄器が仕込まれている。なんと胸の躍る自然の造形ではないか。
このピペット洗浄器の大きさはどのくらいなのだろうか?流れ出る水の量からある程度見積もることができそうだ。

 洞穴の入り口は幅80センチ、高さ130センチ。奥行きは140センチほどで奥の左側に小さな穴がある。岩盤にV字形の亀裂が入っていて、そこから冷泉が湧き出す。毎分10~30リットルの湧水量が一定時間続いた後、予告もなしに増水を始めて、5~8分で湧水量は最高になる。
 一例を挙げれば、毎分約15リットルの湧水量が続いた後、増水を始めてから7分で毎分450リットルに達する。その後、小幅な増減を繰り返しながら、90分ほどで増水開始時の水量に戻る。毎分10リットルから750リットルと75倍に跳ね上がったのが、増加率では過去の最高記録だ。

直線的に水量が増加して直線的に減少するならば、90分間かけて15L/min → 450L/min → 15L/minのパターンで排出された水(定常分以外)は約20トンと計算できる。いっぽう、水量の増減が急カーブを描くならばもっと少ないと考えられる。仮に10分の1とすれば2トンだ。

2トンか20トンか。いずれにしても実験室のピペット洗浄器よりもずっと大きい。(画像:ピペット洗浄器ピペット洗浄機

こんな大きさの空間が山の内部にあり、しかもこれだけの重量の水を支えるだけの密閉系が非常に長期間保たれていて、毎日毎日水をためては吐き出している。
内部は一つのまとまった空間なのだろうか?それともこまかく枝分かれした亀裂のようなものだろうか?たまる水の最高点は吐出位置よりどのくらい高いところにあるのだろうか?サイホン内部に空気が入る瞬間の「ゴボゴボッ」という音は起こっているのだろうか?

見ることのできない仕掛けへの想像が膨らむ。ぜひ一度は現地へ行ってみたいものだ。
そして「どんなサイズのピペットを何本くらい洗えるんだろう?」という、大部分の人にとってどうでもいい興味もまた抑えることができない。

(引用は日本経済新聞2007年11月9日付け朝刊「間欠冷泉 周期は水物」川上一馬 より)

追記(2008/5/5)
実際に訪れて 訪問記 を書きました。

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