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2004.07.15

ただの匿名よりずっと不気味な匿名

 ネットの暗がりに魔物を見たような気がした。そんな怖い体験を書いておく。私の15年ほどのネット歴の中で、あれほどゾッとしたことはない。

 私がネットで実名を名乗る理由2 で書いた事件の裏側で起こっていたことだ。読みに行ってもらう必要はありません。以下の文章だけで全貌がわかるよう、かいつまんで書きます。
 この一件は、私が所属していたある専門家団体でのできごと。会員Bさん(女性)が、ある医薬品に深刻な害があるという内容の小論を書き、団体がホームページで掲載した。その小論を問題視した匿名の女性Aさん(個人ページの開設者)が、団体の掲示板に、討論を申し入れる書き込みをしてきた。団体はメーリングリスト内で激しい議論をした末、掲示板を閉鎖し、「時間が経過した文章は削除する」という方針を急に作ってBさんの小論も削除した。結局、団体からAさんへの公式な回答は最後までなかった。Aさんが匿名だからという理由だった。

 発端から終息まで約1ヶ月半もかかったこの一件の間、団体のホームページ管理者がAさんにメールで応対した。その中でAさんは、団体の意思決定をする会議(オフライン)で話し合われた内容を知っていることをほのめかした。
 このことが、団体内でのAさんへの印象を決定的に悪くした。
 ただの見ず知らずの匿名と、オフラインでこちらを見ることができる立場の匿名とでは、まったく意味が違う。団体の会議は役員10名程度で構成されていて、そこでの内容がわかるということは、10名のうち誰かと直接、または家族や同僚を介して知り合いである、ということを意味する。そんな近いところにいる相手が、まったく名乗らずにメールをよこしてくる、これは非常に不気味なことだ。こちらからは相手の姿が見えないのに、どこからか見張られているような気分。

 リアル社会で近い場所(物理的な距離だけでなく人間関係も含む)にいる相手にネットで接触するとき、匿名はものすごい圧迫感を与える。こういう匿名はただの匿名ではない。何倍も不気味な匿名だ。

 これは憶えておくほうがよい。(圧迫感を与える目的で利用する人がいませんように・・・)

 ところでさて、ここで終わってしまったら普通のマナー論だ。怖いのはここから。

 私は団体のMLで発言する一方、Aさんへの個人的なメールも実名で書いた。団体が最初から「匿名の人と対話しない」方針だったらすっきりしたのだが、当初は団体側も討論を受けて立つ姿勢を示していたのだ。それなのに、Bさんの小論は団体として擁護できる内容でないことがだんだんわかるにつれて、「匿名」が問題視されていった。これはダブルスタンダードだ、と私には思えた。
 私はAさんの主張の正当性を評価し、団体の対応は不誠実だと思うと伝えるとともに、「オフラインでこちらを知っているようなことを書いたらマナー違反だ」という苦言をメールした。

 Aさん(メールでも匿名)からの返事には、奇怪で驚くことが書いてあった。
 団体掲示板へのAさんの書き込みは長らく放置されていて、管理者が気づいて対応が始まるまでに2週間以上かかっていた。その間に、Nと名乗る男性らしき人物からメールが来たという。
 メールは「忠告」というタイトルだった。Nはありふれた姓で、「団体関係者」を自称していた。NからAさんへ何度も届いたメールには、
・団体の力は大きく、提供している情報は確実な資料的裏付けを持っている。
・あなたのホームページの内容には問題がある。被害が出たらどのような責任をとるのか?
・名誉毀損で告発されることになる。
といったことが書き連ねられ、団体の力を誇示するとともにAさんを脅す内容だったらしい。

 Nという名は、団体の名簿にはないものだった。その他いろいろな状況から、Nは団体とは関係のない人物で、団体の一員を名乗ってAさんを陰で刺激していたという事実が浮かんできた。それだけではない。Nがハッタリで書いたらしきことが、たまたま団体の会議で話し合われた内容と符合する部分があったために、Aさんが団体へのメールで言及し、Aさんが会議の内容を知っていると誤解された。つまり、Nは、Aさんを「ただの匿名」から「不気味な匿名」へと変身させた。

 Aさんは、Nが本当に団体の会員だと固く信じていて、私が否定してもなかなか納得してくれなかった。しかし、各メールの日付けを丹念に照合したり推理する作業の結果、最後にはNが会員でないことを信じてくれたようだった。

 Nが誰だったのか?それは謎のままだ。
 推測できるのは、Aさんまたは団体に対して悪意を持つ人物であるということ。医薬品に関する知識を持っていたし執拗だったから、面白半分のいたずらでなく、おそらく標的はAさんのほうだったと思われる。(Aさんのホームページは影響力が大きく、敵も多いとのことだった。)だとすれば、Nは頻繁にAさんのハンドルネームや関係キーワードで検索してネット上での追跡を行っていたと推定される。
 ・・・と想像するだけでゾッとした。ネットの世界には、こんな悪意が入り込めるすき間があるらしい。

 この一件で私が得た別の教訓。
 ちゃんと管理できない掲示板は開かないほうがよい。
 文字列だけで対話する難しさ。何か重大な事実が隠されていないか?

 今ごろこの話を思い出して書く気になったのは、竹中明夫さんの 様子(7/13付け) を読んだからです。

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Comments

興味深く読みました。
とちゅうを吹っ飛ばしてしまうとウェディング問題を考え会でわたしが提言した「ネットだからといってリアルな交渉をしないで良いことは無い」という話と同列だと感じました。

一方で、ネットを非常に重要視する人(Aさん)と匿名性を逆手にとって、リアル社会をネットに持ちこんでいたぶる人(Nさん)という構図は、程度を変えても年中、掲示板で論争になっているもので、わたしが常駐している悪徳商法系では法律の話しが出ると「弁護士でも無いのに」と簡単に反発する人がいます。
もし弁護士が書いていたら「匿名でずるい」とか言うんでしょう。
しまいには「顧問弁護士に相談してきます」なんてのや「会社の・・・」といった権威(?)を持ち出す人も多いです。

ネットワークを全面的に肯定する人にはこの手の圧力は対抗出来る余地が無いので効くのです。
これは匿名であるからネットワークにとどまれるという人はリアル社会での対抗手段を封じられているから、追い込まれるわけです。

匿名はシリアスな論議にはリスクが高い、というのがわたしの結論です。

Posted by: 酔うぞ | 2004.07.15 at 05:47 PM

 酔うぞさん、こんにちは。次の記事に、コメントへのコメントを書かせていただきました。

Posted by: ここの管理人 | 2004.07.17 at 11:04 PM

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