軸足は非公開のネットに置く
「ネット上で何かを表現したい」という強い欲求を持つ人たち--- ネットな人 ---が、ある程度の比率で存在するらしい。一方で、ウェブで何かを発信すれば大なり小なりリスクを負わなければならない。リスクを支払って欲求の充足を買うのがネットな人たちの日常とも言える。
どうせ買い物するなら賢く買いたい。マネジメント法について考えてみる。
リスクを減らすには、主に三つの方法があると思う。
1.匿名を守り、絶対にリアルな自分と結びつかないよう心がける。
2.非公開の場で書く。
3.リスクを招きそうなこと(仕事・個人の情報や他者への批判など)は書かない。
これらには、それぞれ限界もある。
1---匿名とはいえ、固定ハンドルネームを長く使うほど、リアルの自分との結びつきを消しておくのは難しくなる。(参考:将来もしかしたら実名を名乗るかもしれないかたへ)2---非公開の場で書くのは、それだけ「表現した自分」が届く範囲を狭めるわけで、欲求の充足という面では不満かも。3---リスクを招きそうなことを避けてばかりいると、実際なにも書けない人も多いと思う。それに、全くリスクを取っていない個人サイトなんて、よほど内容が充実しているとか親しい間柄でなければ、わざわざ読む気にならないのでは。
結局、ゼロリスクで満足感だけ得ようというのは、かなり虫がいい考えかもしれない。公開の場で書く人の多くは「匿名」という道を選んで、書く内容に関してはある程度リスクを取っている。
急速に普及してきたソーシャルネットワークは、「非公開の場」でありながら未知の人との出会いも容易らしいから、リスクを減らして満足感はあまり損なわない選択肢として合理的なように見える。(参加していないから本当のところは知りません。)
以上は一般的な話。
ここからは、「組織に属する専門家が専門分野について語る」という主題に関して。
仕事のことを書くのが前提だから、3は最初からかなり限定される。専門性が高ければ高いほど、1も難しい。となると、2しか残っていない。非公開の場で書くこと。
私について言えば、日頃書いているものの全体量の中で公開の部分はほんの一部だ。このブログを始めてからはかなり公開の比率が増えたが、それでも半分を超えたことはない。
非公開の部分を書いている場は、いくつかのメールグループと掲示板、何人かのメル友。日記・つぶやき・思いつき は、それらの場で書いている。でも私は、日記・つぶやき・思いつきだけでは飽き足らない。長めの文章でまとまった知識や考えを表現したいこともある。そういうことをするとなると、小さなコミュニティはかえって不自由だ。話の流れというものがあって、独立した長文は読まれにくいし、たぶん迷惑だから。
私が公開するのは、そのような文章。インターネットで公開すると、まったく知らない人からのコンタクトもあったりして面白い。
でも、あくまで軸足は非公開の部分のほう。日記・つぶやき・思いつきを書いていくかぎり、たぶんネタは一生尽きない。読んでくれる人がいなくなる心配もない。私だって他のメンバーの日記・つぶやき・思いつきを読んでいるんだから、持ちつ持たれつだ。そういう付き合いができる程度の人数としか交際しない。
まとめると、私のリスク管理はこんな風になっている。
・自分に「ネットで自己表現したい」欲求があることを認識する。
・表現したいものを「公開」「非公開」に仕分けする。
・公開は実名で。かなり吟味してから。
・非公開のものは、どのコミュニティへ出すかそれぞれ考える。
(非公開コミュニティを複数持っておく。)
・公開するのはネタが尽きやすい部分であることを認識する。
無理やり公開を続けようとはしない。
なお、以上の話は、ネットで自己表現しても個人的な満足以外に実益がない人の場合です。
比較的組織に縛られていない研究者・教育者は組織からの制約というリスクが少ないし、さらに個人事業主・文筆家・タレント・政治家などは、ネットで自己表現することで実益がある場合が多いでしょう。そういう人たちはリスクを多めに取ることができるし、実名で情報発信する動機もあります。
学生というのは微妙な立場ですね。将来自分がどちらの立場になるか未確定ですからね。> 鈴木聡さん
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Comments
興味深いのでコメントさせて頂きます。
上述のような話を聞くと、津村さんにとってWeblogってWebPageと違う何かがあるのだろうか…と考えさせられます。
津村さんのように「長めの文章でまとまった知識や考えを表現したいこともあ
る」場合はWebPageでキチンと分類して読者を意識したサイトを作った方が良
い(読者が見やすい)のでは?
実際、分析化学についてはそのようにされてるようですが、ネットでの表現や
リスクの問題についてはWeblogでされてますよね。
何か、Weblogを使用する積極的理由があるのでしょうか?
Posted by: きの | 2004.07.24 02:25 PM
きのさん、こんにちは。
「Weblogを使用する『消極的な』理由」が出発点でした。私は、フォーラムを読むためと、長年使っているメールアドレスを維持するためという理由で、@Niftyにずっと加入しています。昨年暮れ頃から@Niftyは、そういう会員全員に無料でココログの開設権と30MBの容量をサービスするようになりました。以前から私のサイトに掲示板を作ってほしいという要望を受けていましたから、掲示板代わりとしてココログを開いてみることにしたのが始まりです。
しかし、掲示板を作ってほしいと言っていた同業者(3人くらいはいました)は全く書き込みに来てくれず、専門が違うブロガーからのレスポンスが多いことが判明しました。その後は流れに任せてやってきています。
「WebPageでキチンと分類してサイトを作る」のは理想的ですが、ものすごく集中力や労力を要します。少しずつ更新を続けていくとなると、結局は読みきりか続き物を日を追って書いていくスタイルが一番ラクです。私の本館でも、現在のメインの更新は「分析化学/化学分析を延々と語る」というコラムになっていて、本当はここをブログでやりたいです。(更新が簡単だから。)しかし無料のココログはスタイル等が限られていて、あまり読みやすいページにならないと思われるので、HTML手書きで続けています。有料のサービスを利用してまでブログ化するほどの記事数は無いですし。
Posted by: ここの管理人 | 2004.07.25 07:11 AM
初対面で失礼ながらトラックバックさせていただきました。
いつも興味深く拝見させていただいております。
ひとまずは、トラックバックのお礼です。
私も、ニフティーサーブ時代からのアドレス維持のため@niftyを使用し続けています。
では
Posted by: やまだ家亭主 | 2004.07.25 07:50 AM
>でも、あくまで軸足は非公開の部分のほう。
>日記・つぶやき・思いつきを書いていくかぎり、たぶんネタは一生尽きない。
>読んでくれる人がいなくなる心配もない。
>私だって他のメンバーの日記・つぶやき・思いつきを読んでいるんだから、
>持ちつ持たれつだ。そういう付き合いができる程度の人数としか交際しない。
>
> まとめると、私のリスク管理はこんな風になっている。
>・自分に「ネットで自己表現したい」欲求があることを認識する。
>・表現したいものを「公開」「非公開」に仕分けする。
>・公開は実名で。かなり吟味してから。
>・非公開のものは、どのコミュニティへ出すかそれぞれ考える。
> (非公開コミュニティを複数持っておく。)
>・公開するのはネタが尽きやすい部分であることを認識する。
> 無理やり公開を続けようとはしない。
書き手自身の社会的な立場や肉体的にも家庭的にも(ネットワーク活動に対する)環境の変化があるから、上記の考え方は例えば「ただいま現在の瞬間における方向性」といったものでないかと思います。
例えば、毒にも薬にもならない独り言を書いていたとしても、社会的な地位や年齢などで「今頃、こんな事を書いて、歳を考えろ」とか言われる可能性はあります。
辻井喬こと堤清二氏はこのバランスを高度なところで取っている方だと思いますが、誰にでも出来ることでない。
将来バランスがどちらに傾くかもしれない、というリスクは残るわけです。
つまり「今、リスクを避ける」ことと「将来のリスクがある」ことはなかなか両立しません。
一方で、個人的に何かを発表したいというのはかなり本能的な部分に直結していて人によっては政治家になってしまったりするわけです。
「社会的な体面を考えたらネットワーク活動などしない方が良い」と言うのは簡単ですが、実際にやりたい人を止めるほどの力があるのか?となると多分無い。
結局、その時々でリスクの軽減を図るという勘の良さのようなものも求められることの一つなのでしょう。
Posted by: 酔うぞ | 2004.07.25 01:35 PM
やまだ家亭主さん、トラックバックとコメント、ありがとうございます。やまださんのココログとホームページ、訪問させていただきました。パソコン通信を始められてから12年ですか、長いですね。作業療法士としてホームページを開設されているんですね。職業テーマの個人サイトには、とても親近感がわきます。私もネット歴は長いですが、個人サイト歴は1年ちょっとですから、色々と模索中です。これからもどうぞよろしく。
Posted by: ここの管理人 | 2004.07.27 05:51 AM
酔うぞさん、こんにちは。いつも重厚なネット遍歴を感じさせる書き込みをありがとうございます。
将来の環境の変化はわからないから、リスクを避けるといっても「ただいま現在の瞬間における方向性」を考えることしかできない・・・本当にそうですね。これはネットだけでなく、人生のあらゆる行為について言えることでしょう。ただ、ネット上での言動は痕跡が残っていくから、他の行為よりもずっと慎重になる必要がありますね。
「社会的な体面を考えたらネットワーク活動などしない方が良い」は真実です。それでも、ネットで発言することが自分の人生を豊かにすると思うなら、できるだけ体面を保ちながら発言する方法を考えてみようと思っています。「勘の良さ」がある人だけでなく、万人が参考にできるマニュアルを作っていきたいです。
Posted by: ここの管理人 | 2004.07.27 06:05 AM
コメントへのお返事有難うございます。
ホームページも見ていただき感謝です。
これからも色々参考にさせていただきます。
Posted by: やまだ家亭主 | 2004.07.27 08:59 PM