将来もしかしたら実名を名乗るかもしれないかたへ
今回の話は、ハンドルネームと実名が結びつくことはないと決意して万全の対策をしている人には関係ない。将来、自分から実名を名乗る、あるいは不本意にも実名が知られてしまうことがあるかもしれないと考える人のための話。
私自身は、ほんの一年余り前まで、自分がインターネットで実名を名乗るようになるとは考えてもいなかった。ちょっとしたきっかけ から、それまで勤務先のサイトで公開していた内容を個人で公開するようになり、実名を名乗った。
このとき、あまり抵抗なく実名のサイトにできた理由として、過去にハンドルネームで発信した情報内容に、実名と結びついたら困るものがない、ことが大きい。
私のネット歴は1988年頃から始まっている。その頃のネットと言えば、個人宅にサーバーを置いて電話回線で結ぶ「草の根ネット」が花盛りで、私は日記を書くように気軽に色々なことを書いていた。しばらくして、@Niftyの前身のニフティサーブのフォーラムでも、よく書くようになった。
正直言って、あの頃に書いた内容が全部インターネットで検索できる状態だったら、今こうして実名を名乗ることはなかったと思う。
「ハンドルネームで書いたものをたまたま知人が読んだとしても、自分だとわかる可能性はほぼゼロ」と言い切れる人はどのくらいいるだろうか。また、「自分がネットで発言していることは、家族にも友人にも完全に秘密にしている」「メールでも決して実名を名乗らない」を実践している人はどのくらいいるだろうか。
何かのきっかけで、悪意を持つ人に、実名とハンドルネームの結びつきを知られてしまうことはないだろうか。そして、そのことをネット上のどこかで暴露されてしまう危険は皆無だろうか。
インターネットの「検索」という機能は、本当に怖いものだと思う。特に日本語の氏名は他言語の氏名よりも多彩で、同姓同名があまり多くない。
草の根ネットが消滅し、ニフティのフォーラムがパソコン通信からインターネットベースに移っていったのに応じて、私もネットでの発言は小規模なメーリングリスト等にシフトさせていった。
今からネットを始める人たちは、草の根ネットからでなく、いきなりインターネットから始めることになるが、それって大丈夫なんだろうかと思ったりもする。
悪意の人に晒される危険とは逆に、インターネットで思わぬ評価を受けてメジャーになっていく可能性もある。そんな場合も、リアルの自分との結びつきを完全に消しておけるのだろうか。(消すこともできるだろうが、そうすると、せっかくの評価を十全に活用できない残念さがきっと伴う。)
また、ネット環境だって、今後どのように変化するかわからない。これまでは、最も多数派であるハンドルネームの書き手を排除していたら面白いコミュニティは成立しにくかった。ネット人口の増加とともに、実名限定の面白いコミュニティの数は増えていると思う。つまり、現時点で匿名を選んでいる人も、将来実名を名乗りたくなる可能性がある。
たとえば、こんな方法も考えられる。ハンドルネームを2つ持って、一つは「将来実名と結びつくかもしれない自分 A」、もう一つは「実名とは決して結びつかない自分 B」を表現するとか。
こういう場合、私だったらBよりもAのほうがたぶんネット上で評価されると思う。(専門知識をバックに書けるから。)だったら、労力を分割するよりも、Aの自分だけ表現するほうがラクだし、内容を充実させられる。
Aの自分を表現していると自覚している人は、将来実名を名乗ることになったとしても困らないよう、今から気をつけるほうがいいと思う。(参考:ネットで実名を名乗るための危機管理)一方、Bで行くなら、訴訟にだけはならないよう、また、実名が割れることのないよう、細心の注意を払うということだろうか。
参考リンク
ハンドルネーム・ペンネーム・本名
短歌の創作をしておられる木村草弥さん(ネットと実生活で同じペンネーム使用)のblogより。ネットでの創作が評価されて「カミングアウト」する状況になったらどうするか?という話。
PC通信以下 某所以上 の 匿名性
上の記事からトラックバックをたどって。「ゲド戦記の世界。まことの名は隠し、本当に信頼できる相手以外にはもらしてはならない・・・似てるなぁ、といつも思ってました。」に共感。私も「ゲド戦記」が好きです。たしかに似ている。
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Comments
何とお呼びかけしたらようのか判りませんので、失礼します。
5/8付けの古いBLOGに反応していただきTBしていただき有難うございます。
私はすでに歌集などを刊行し、本名もペンネームも公開していますが、実生活上、何らの障害も今までは起っておりませんが、考えてみれば怖いことです。まして、ネットの世界は「匿名性」に隠れて、考えられない中傷や非難を受ける恐れもありましょう。いろいろのケースを想定してお書き下さいまして、一応読んでみました。あなたとは住んでいる世界が違うようですが、どうぞ、お気をつけて頑張って下さい。
では、また。
Posted by: sohya | 2004.06.22 09:37 AM
sohyaさん、コメントしに来ていただいて、どうもありがとうございます。津村と申します。
実際のところは、実名を名乗ったために怖い目にあったという話は稀なようです。危機管理のための情報収集は今後もしていきたいと思いますが・・・。sohyaさんも少しだけ気をつけられて、独自の豊かな世界をこれからも作り出していってください。
Posted by: ここの管理人 | 2004.06.23 06:56 AM
私は89年からフォーラム・マネジャー(SYSOP)をやっていたので、ネット上での実名は公開していました。
2ちゃんねるとかは名無しさんですが(^_^;)
だいぶ前から、酔うぞ=山本洋三であったわけで、自分では「公開ハンドル」などと言っています。
一方固定ハンドルというのも使っていて、悪徳商法?マニアックスでは酔うぞでは無い固定ハンドルでした、ところがウェディング問題を考える会・会長になってしまったので、実名がでてしまい2ちゃんねるでも「山本洋三と何者か?」と書かれたら、一発で「この人は・・・」とコメントした人が居ました(^_^;)
結局、実名をネットで公開するか?という問題も他の多くの問題と同じく、トレードオフの関係にあって、私について言えば、悪徳商法系の話しでは原則として固定ハンド・実名非公開でやっていたのが、周囲の事情で許されなくなった。という例だと思います。
理念としては、ネットでの発言の自由のためには実名を隠してハンドルでというのは理解出来ますが、この考え方の根源は「ネットは実社会とは別なモノ」というのがあるのだと思います。
ところが、ネット利用が拡大して実社会とネットがどんどん一致する方向に来たから「ネットだから」という話が許されない場面が増えてきて、自明じゃないと相手にされないネット活動もあるということでしょう。
それでもネットで実名を出すのはイヤだ、という人は居ると思いますが、その場合は実社会のその部分から撤退することになります。
こういう考え方をする人は、実社会の経験が長くその後にネットに参加したいわば旧世代の人なのではないか?と思います。
生まれたときからネットがあった世代がもうじき実社会に出てきます。たぶん、この世代の人たちは、ネットでの実名・ハンドル(匿名)ということを、もっと柔軟に扱うだろうと思います。
Posted by: 酔うぞ | 2004.06.23 11:02 AM
酔うぞさん、こんにちは。
固定したハンドル名で継続的に表現されている人格は尊重します・・・と私は何度も書いていますが、やはりそれはネット内だけで通用することなんですよね。いざ実社会と対峙する場面となると、実名と同等に扱うことはできないでしょう。
酔うぞさんは二つのハンドル名で「実名と結びつく自分 A」と「実名とは決して結びつかない自分 B」を表現しておられたわけですね。事情はよくわかりませんが、会長にまで推されるほど周囲からの期待があったということは、酔うぞさんが表現しておられた B の人格は、相当存在感があったんでしょう。それと、結果としてカミングアウトできたのは、B の人格で致命的に困る振る舞いはしておられなかったということですね。
でも、もう一人の自分を表現する楽しみはなくなったんですね。もしかしたら、こっそりと次の人格 C をどこかで作っておられるとか・・・。
Posted by: ここの管理人 | 2004.06.25 06:31 AM