「匿名か実名か」が意味を持つ条件
言うまでもなく、ネットでの発言すべてをいちいち「匿名と実名」に分けて考えるのは効率的でない。書き手が匿名でも実名でも別に関係ないと感じられる状況は非常に多い。
私のここまでの話も、「匿名か実名かが意味を持つ条件下」を想定した上での自説を述べている。個々のネット参加者によって、そういう条件が多かったり少なかったりして、その上で各自が匿名か実名かを選んでいる。
では、「匿名か実名かが意味を持つ条件」とはどんなものなのか、私なりの考えを整理してみる。番号は、私が重視している順。
1.単純に人間としての誠実さが問われる場合
匿名で他人を中傷することは人間として誠実でないと、一般に考えられていると思う。(たまたま現在世間的に関心を集めている問題があるが、私の匿名・実名の話は4月3日から始まっていて、この事件とは関係ない。事件以前から、「ネットの匿名性」で一番問題になるのはこの観点だ。)
2.情報内容の正確さが問われる場合
趣味的な情報なら、あまり厳密さは求められないだろう。
正確さが問われるのは、専門的な情報や、社会的混乱を引き起こしそうな情報の場合。人命に関わったり経済的損失が生じるかもしれない情報については特に。信頼性を判断する材料として、情報の提供者に関する情報は重要。
3.他人を批判する場合
これは1の「中傷」とは違って、「批判」。たとえば、相手と正常な対話が成立していて、批判することによって何かが生み出されそうな場合とか。対話する状況でないにしても、個人攻撃ではなく問題提起として価値がありそうな場合とか。
と言っても、本当に生産的な議論になるか、相手やその他の読み手がどう受け取るか、たいていは予測できない。1との境界があいまいなケースもありそうだ。どちらにしても、他者への否定的な評価を書く場合には、実名か匿名かが問われると思う。
4.本人の行動や責任が問われる場合
政治問題、各種市民運動、宗教や思想、倫理観、マナーなどに関わる議論の中では、しばしば「発言と行動の一致」「自分の発言に対する責任」が問われる。これらは匿名では証明のしようがない。
5.当事者であるか否かが問われる場合
たとえば、自治体の行政に対する意見を交換する掲示板などは、発言者がその自治体内の住民であるかどうかで発言の重みが違ってくる。特定の共通した立場で集まる場でも、本当にその立場なのかが問題視されることがあるだろう。匿名では自分の立場を証明できない。
6.自分が特別な立場にあることを前提に何かを主張する場合
高級官僚だとか弁護士だとか悪評高い組織の構成員だとか・・・つまり、社会的に注目を集めやすい立場であることを述べて、それによって自分の主張に説得力を持たせようとする場合。本当にその立場にあることが証明できなければ、砂上の楼閣みたいに思える。(でも、こういうタイプの個人サイトや掲示板内キャラクターもけっこう存在する。信じる気になれれば面白いのかも。)
主張をせず、単に職業にまつわる雑感をつづるサイトの場合は、実名・匿名はあまり気にならない。(ただし、自分の会社や業界の恥をさらすような内容となると別。こういう話は 前にも出ました ね。)
7.自分に能力や実績があることを前提に何かを主張する場合
たとえば、「ベストセラー本を書く方法」とか「莫大な資産を築く方法」とか・・・本当に当人がベストセラー作家や大金持ちであることが確認できなければ振り向かれないだろう。
でも、インターネット上で表現できる才能の場合は別。「しゃれたデザインのサイト」や「ページランクの高いサイト」などは、匿名でも十分に能力の証明ができる。このごろは公開できる情報量が飛躍的に増えているから、絵や写真にとどまらず、楽器の演奏やダンスなどの能力もネットで表現できる。
8.実名コミュニティ(非公開)へのフロントページ
というケースもあるだろう。非公開のコミュニティに実名のメンバーを集めたい場合には、誰かが実名で表へ出なければなかなか人が集まらないと思う。コミュニティに限らず、寄付や支援を求める内容のサイトの場合も、匿名では支持を得にくい。
番外:存在証明のしやすさ
実名を名乗っても、本当に実名だと証明するのが簡単な人も難しい人もいる。難しい人ほど、どうせ証明できない実名をわざわざ名乗っても仕方ないという考えに傾くだろう。
また、証明がしやすい状況というのもある。参加者が地域的に限定されていたり、特殊な層が集まっている掲示板などだ。このblogのテーマのように専門性の高い仕事内容を語る場合も、実名の確認はしやすい。
存在証明のしやすさは、実名を名乗る動機付けの強さに影響すると思う。
番外:法律に抵触する行為
誰かから訴訟まで視野に入れた抗議を受けた場合は、プロバイダが相手に実名を明かすだろう。本人が名乗りたいかどうかとは関係なく。そこまでの事態は、ここで考える範囲を越えている。
以上、たくさん並べたけれど、私がまず念頭に置いているのは2番の「情報内容の正確さが問われる場合」だ。本館の内容については、実名を名乗りながら書いていることを強く意識している。
ただしコンピュータ関連の知識については、自分は素人だと随所で断りながら書いている。匿名のかたのコメント・トラックバック・ホームページの情報も、ありがたく引用させてもらっている。私が書くコンピュータ関連の情報は、実名とか匿名とかうんぬんするレベルでないから。(素人なりに情報の正確さに気をつけてはいますが。)
次に身近に考えている観点は、3番の「他人を批判する場合」だ。blogをする人(主に固定ハンドル)にとっては、おそらくこれが最も意識されることだろうし、ネットでの匿名と実名 で集めたリンク先で述べられている意見も、ほとんどがこの観点だった。私のblogで問題になる状況もあり得ると思う。
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Comments
先ほど、「実名ウザい。」にトラックバックさせていただいた者です。今までの管理人さんの一連の投稿に少しだけ関連するお話なのですが、私は実名でWEBサイトを開設して、訪問者による匿名での掲示板の投稿を認めています。
実名でサイトを開設しているのは私にとってそうすることによるメリットが多かったためですが、掲示板での名無しさんの投稿に時々ヒヤリとさせられることがあります。
詳しくは先にトラックバックした、
http://www.mirai-city.org/blog/archives/000021.php">http://www.mirai-city.org/blog/archives/000021.php
に書かれてありますが、掲示板が企業と私人(赤の他人の匿名投稿者)の割と私的な内部告発などの争いに巻き込まれた場合に、運営者の私自身が裁判などで微妙に関係してくる可能性があるかなと考えたためです。
掲示板で情報が流されることを快く思わない人は、私の実名を知ることができるし、タウンページを使えば連絡先も分かります。匿名よりもより容易に圧力をかけることができますし、より容易に裁判までの関与を要求されることもあるでしょう。また、その際に、まったくの匿名で私の掲示板に企業に対する内部告発を書いた人を、どこまで信じ、どこまでサイトとして運営者の私個人として守るかも重要になってくるかと思います。
これは匿名管理者で匿名掲示板を開設している場案も重要事件ならば同様でしょうが、実名掲示板ならば簡単に裁判沙汰も含めた紛争に巻き込まれやすいし、それを意識して行動する必要性が出てくる。
参考にならないかもしれませんが、実名・匿名の問題で最近私が考えていたことを書かせていただきました。
Posted by: 齊藤貴義 | 2004.04.30 01:30 AM
齊藤さん、はじめまして。
ウェディング問題は、実名・匿名にからんで最近話題になっているもう一つのテーマですね。
私のサイトは、専門情報に関しては硬派でやっていますが、それ以外については超軟弱です。内容が真実か否かは関係なく、私以外への批判コメントはすべて削除する方針です。小心な勤め人が実名でネットに出てくるためのせこい知恵です。
実名で掲示板を管理して匿名による批判も認めるというのは、たいへん覚悟がいることだと思います。でも、やりにくいこともやる方たちがいてこそ、世の中は進歩していくのでしょうね。
Posted by: ここの管理人 | 2004.04.30 09:15 PM