「医薬品ができるまで」突然の閉鎖
製薬会社に勤務するホーライさんによる「治験」に関するサイト 医薬品ができるまで が突然閉鎖された。ほぼ日刊ベースで更新され、記事の量も多い精力的なサイトで、昨日まで何も変わった様子は感じられなかったのに、いったいなぜ?
閉鎖の挨拶に「僕が4年間、ここで発言し続けたことが全て無意味だったということを痛感させてくれたできごとがあったためです」とある。
もしかして、私がこのblogで 2週間ほど前から書いてきたこと(実名と匿名に関すること)が原因では・・・そうならばたいへん残念なことだ。私は、匿名での発言がすべて無意味だなどとは考えていない。それどころか、ホーライさんのサイトは非常に有意義だ。閉鎖は思いとどまってほしい・・・という内容のメールをホーライさんに送信した。
ホーライさんからのお返事には
> サイトを閉じたのは、津村さんとは全然、全く関係の無い理由ですので、ご安心のほどを!
と書かれていた。何かわからないが、よほどのことがあったのだろう。あまりに突然すぎる。
「医薬品ができるまで」は、治験(新薬が世に出るために必要な臨床試験)に関わる製薬会社の社員向けで、専門的なことの解説や業界情報が主な内容だった。また、交流を重視しており、架空の会社「ホーライ製薬」にはハンドルネームの「社員」が多数登録し、「支店」まである。患者さんや家族による手記も掲載し、交流の幅は広かった。
匿名ならではの本音トークが多く、語り口はくだけていたが、よりよい薬や医療を作り出したいという願い、患者さんへの思いやりが常に感じられた。他者への批判を展開するようなサイトではなく、同じ分野の人たちが仕事にまつわる喜びや悩みを共有することが目的だったと私は思っている。
「匿名による専門情報サイト」に関する私見
ホーライさんは、私が書いたことはサイト閉鎖と関係ないと言っておられるので、「医薬品ができるまで」とは切り離して、一つの機会として、ここで「匿名による専門情報サイト」について私見を述べておく。
匿名では、情報内容の信頼性という点では、確かに評価は低くなる。責任を持って文章を公表したいと考えたとき、「匿名のサイトXでこう書かれている」と引用することはできない。
しかし、「考えるヒント」や「必要な情報を発見する手がかり」として匿名サイトが役立つことは大いにある。そういう場合、私は、引用自体は発信者が明示されているサイトからしかしないけれども、手がかりを与えてくれた匿名の方への敬意も表明したいと思っている。
たとえば、キャピラリー電気泳動に関するメモ では、 KITORAさんのblogの記事 がきっかけで書いたことを明らかにしている。
また、ネット上で表現されている個人の人格・人柄は、たとえ匿名であっても真実のものだ。だから、農薬分析への熱意を表している人として私は グレガリナさん を紹介したこともある。
このように、匿名による専門情報の提供であっても価値はあるのだ。特に、交流や共感が主目的ならば、匿名はほとんど障害にはならないだろうし、むしろ匿名だからこそできることもあるのではないか。
名残惜しいですが・・・
私のblogの一番の願いは、技術系のサラリーマンが誇りを持って働くために、ネットでの情報発信が役に立つのではないか、そのための方法論を提案していこう、ということだ。ホーライさんの活動は一つのユニークなスタイルであり、いずれここで紹介したいと思っていた。まさか閉鎖と同時に紹介することになるとは。たいへん残念だ。
でも、ホーライさん自身が、深く考えた末に決められたことだろうと思います。今までありがとうございました。お疲れさま。
私は他業界の人間だが、製薬業界内のみなさんも、突然のことに驚き、惜しんでいるようだ。見つけた範囲内のblogにリンクしてトラックバックさせていただきます。
僕を支え続けてくれていたいもの
今週のモニタリング報告書 より(4/17)
「医薬品ができるまで」と「ホーライ製薬」の終焉
今週の監査 より(4/17)
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