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2004.04.15

ネットでの匿名と実名

 実名のほうに少々肩入れした自説を書いてみる。
 私は、匿名で書かれていることは信用できないとか、匿名だと理性をなくしがちなどと一律に考えてはいない。現時点で、インターネットの世界で優勢な見解は「実名を名乗っていない人であっても、まとまった人格を継続的に表現していれば完全な匿名とは異なる。そういう人格は尊重されるべきである」だと思うし、これに私も同意する。実際、大勢の匿名の人たちが作り出したコンテンツを役立てたり交流を楽しんだりしてきた。自分自身が匿名だったこともある。

 では、匿名の人は実名の人と完全に対等に話ができるのか。「できる」と言う人もいるかもしれない。でも、私は「できない」と思う。といっても、匿名の人は実名の人を絶対批判してはいけないとか、そこまでではないはずだ。
 どこらへんまでなら許されて、どこから先は踏み込んではならない領域なのか。こういうことについて整理された議論は少ない。私が拾ったものをリンク集として下にまとめてみた。
 どの意見も「ネット上でのマナーとして」実名と匿名の違いをわきまえるべきだ、あるいは、実名でしないようなことは匿名でもするな、という話になっている。私も、それぞれの人たちが示している線におおむね賛成する。

 ただ、私が 前回の記事 で書いたように、「匿名で発言すると問題のある行為をしてしまいがちな人は、実名で発言することで自制できる」という観点から実名を勧めた意見は見つからなかった。
 考えてみれば当たり前のことで、「自分は匿名で発言していたときにキレてしまったことがあるので実名を名乗るようになった」とわざわざ告白する必要性は、たいていの人にはない。匿名の恥はかき捨てだ。黙って実名を名乗ればいい。
 このblogの場合は、普通のサラリーマンが自分の専門分野についてウェブで語るとき心理面で負担になりそうなことを検討して方法論を提案するのが目的なので、「世間体を気にかけながら書く」とか「小心なサラリーマン専門家に何が書けるか」とか、普通は話題にならないような楽屋裏のせこい話が多い。私が昔の体験を書いたのも、テーマに添ったものだ。

実名と匿名の違いに着目したリンク集
匿名サイトの気軽さと、はかなさ
 岡山大学文学部心理学講座 長谷川芳典さんのじぶん更新日記、98/10/20付け。この文章で、ほぼ集約されていると思う。

匿名でも情報的価値があればそれでいいじゃないかという人もいるだろう。しかし議論を求めるサイトとなるとまるで違う。
  • 匿名で批判を続ける人は、HPの存続に当たって自分を守る必要がない。イヤになったらヤメしまえばよい。いつヤメても私生活では何の不都合も生じない。気が向けば別のサーバーから別のHP立ち上げればよいだけ。いっぽう、実名で批判を受けた人は、枝葉末節な点に至るまで反論や追加の説明を加えなければ、実生活全般にわたって信用を失うおそれがある。極端に言えば自分のクビをかけて、発言の内容の社会的責任を負わなければならない。この点、匿名サイトはまことに気軽なものだ。

  • 匿名のサイトの主宰者は、そこに記されているコンテンツの範囲でしか批判されない。これに対して、実名のサイトは、HP以外のあらゆる著作物や発言を引用して批判される。

  • 匿名で批判する人は、じぶんの主張内容には何の体系性、何の一貫性がなくても、相手の主張をローカルな(つまり断片的な)理屈だけで反論することができる。違う基準(スタンダード)で反論する時には、別のハンドルを名乗ることだってできる。
 ざっと言えばこんなことになるだろう。

高木浩光@茨城県つくば市 の日記(2003年5月29日)
 下記の引用中、強調は津村による。的確なルールだと思う。

かれこれ2年半前になるが、Java Houseにおける匿名発言をめぐって議論になったことがあった。私の立場は「匿名発言をするな」というものであったが、一部でこれに対する反発があった。最終的に私の立場は「実名だったら投稿しないような内容の投稿は禁止」という表現で整理されることとなった。つまり、実際に実名を使っているか仮名を使っているかは重要ではなく、内容を書く際のスタンスを問うものであった。

ハンドルネームと匿名。ネットではどちら
  イー・ウーマン のサーベイリポートデータベース、2000/10/9 - 2000/10/13の話題。一読者の投稿だが、ごく常識的な意見が素直に述べられていて、端的にまとまっている。

「善意での匿名発言なのか、悪意での匿名発言なのか」によって全然議論の本質が違いますよね。楽しいおしゃべりを匿名でするのは全然かまわないですけれど、他人の誹謗中傷や、告発といったトーンの投稿を匿名で行うのは問題だと思います。以前、とあるメーリングリストで、実名で発言している人の本業での仕事ぶりや人間関係などの誹謗中傷を、匿名で発言し続けた人がいました。そんなとき、実名発言している人がどんなに理路整然とやりとりしても、絶対に負ける。匿名の人は、自分が誰かも明かさず一方的に実名の人の実際の人間関係を傷つけるのですから……。当たり前ですが「悪意の匿名だけは絶対に止めて」と強く強く願います。

99/01/07 02:23 RE: 青酸カリを提供したネット・コミュニティ
 HotWired Japan のNews Watchers' Talk バックナンバーより。船田戦闘機(メディア技術者)さんの発言。「・・・風潮はあっていい」という言い回しが、私の感覚にもぴったり来る。

まとめると、ぼく的には、
・匿名で発言する自由は認められるべき
・でも実名でのコミュニケーションのほうが信頼される風潮はあっていい
といったところです。

blogの未来は参加者が創る[ゴーログ]
 週刊!木村剛 2004.03.16 付け記事。ココログ内で3月に匿名vs実名が話題になった発端記事。木村剛さんの社会的な御主張は、新聞、雑誌、インターネットでよく読み、著書も1冊は買っていますので、ひととおり知っているつもりです。しかしここでは実名のブロガーどうしという立場でトラックバック。

 個人的には、匿名性というセーフティネットに護られたネットにおける言論活動であったとしても、「殴られるかもしれない至近距離においても、面と向かって言うことができる内容、もしくは言わなければならないという覚悟を持った内容であることを望みたい」と思っています。目の前ではとても言えないような誹謗中傷を赤の他人にぶつければ、コミュニケーションが途絶えるのは当然の帰結です。それを「アイツは逃げて行った」などと嘲笑の対象として仲間内だけで盛り上がるというのは、あまり生産的な活動とは言えないように思います。
  気に食わないのであれば、そのBlogを読まなければよい――それだけの話です。わざわざアラシにくる必要はどこにもないはずです。実生活でも、嫌いな人とは付き合わないでしょう。でも、よほどの変人でない限り、嫌いな人であってもその人が大事にしているプライベートな人間関係を壊しにはいかないはずです。でもネットでは、それが簡単にできてしまうし、やってしまう人たちがいます。

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Comments

私の場合、その高木さんのお話に関連する議論にリアルタイムで参加していたということもあり、結論は「実名だったら出来ないようなことはするな」に概ね寄っています。
だから、「匿名だから」といった考えには心情的に同意したくない気持ちがあるわけですが、結局匿名になると自制がきかない確率が高まるというのは自明なので、正面から反論は出来ないですね~。

「実名でのコミュニケーションのほうが信頼される風潮はあっていい」

そうですねぇ。このとき二元論的に見えないように、常に、「匿名だからこそ言える説明しにくい感情に基づく感想」と「それを発露する場」も重要ではあるけれど、という形で言えればいいなぁ、などと思ったりします。
参考:
http://shin.txt-nifty.com/philosophical/2004/03/post_15.html#c142919

あと、ちょっと違う視点でこういうことも考えています。
http://shin.txt-nifty.com/philosophical/2004/03/post_15.html#c155348
要するに
>人は自分の味方を逃したくないがゆえ、細部まで主張をしたがらない。
ということですが、実名/匿名に関らずこういう方も多いと思います。実名が推進された場合、(保身感情が強まるので)この問題が顕著になっていく可能性もあるかもしれないですね。
もちろん読む側の能力次第ですけれど…。

Posted by: Shin | 2004.04.15 at 03:17 PM

 実名では言いにくいことがたくさんあるのは本当ですね。
 実際、私も、「技術的・学術的な話題に絞る」という方針でやっています。政治的・制度的なことには言及しないようにしています。論争になって手間がかかるのがいやだからです。
 ネット上の発言がすべてこうなってしまったらつまらないですよね。だから、もちろん匿名での発言も重要だと思いますし、匿名のかたとも真摯にコミュニケーションしていきたいと思っています。

Posted by: ここの管理人 | 2004.04.16 at 05:07 AM

はじめまして。
自分はネットを通した人間関係と会社やその他私生活の人間関係をある程度区別しようと思ってハンドルネームを使ってます。
 それはそうとして、自分も技術系サラリーマンなので、リンク張らせてもらっていいですか?

Posted by: ちぶさん | 2004.05.08 at 05:52 PM

 ちぶさん、はじめまして。リンクはどうぞ御自由になさってください。(張るのも、はずすのも。)
 ちぶさんは半導体技術者とのことですが、化学の話題がおおむね半分以上のblogはMyblogListでリンクさせていただいています。そのようなblogを開設される場合があれば、お知らせください。(って自分のblogでは化学の話題は出さず、本館ページだけでやってますが。)

Posted by: ここの管理人 | 2004.05.09 at 07:38 AM

こんばんは、はじめまして。ハンドルネームで犬笠と申します。

私はハンドルネームを使用しています。いわゆる「社会的弱者」の一人であるからです。そのような人間にとって、インターネットのような「匿名で直ちに公に対して発言できる」場があるというのは、マイノリティーな境遇にある人間としては非常にありがたいことです。

「実名で発言しないことは匿名でもするな。」ーーー確かに、この主張はある意味で的を射ています。実名と匿名では、実際に発言をした際に負う社会的責任に明らかな差が出るからですね。

ただ、見方を変えてみれば、こうも言えるのではないでしょうか? つまり、匿名だからこそ、初めて立ち上がれる人もいるということです。この世には、実名やリアルな生活空間では他人と会話をすることが出来ない人が沢山います。対人恐怖症の人、過去に受けたいじめや虐待が原因で PTSD を患った人、、、そういった本人に過失はないものの、何かしらの原因でリアルな会話を出来ない人がいる。そういった人たちの日常の不満のはけ口として、コミュニケーションを取る、ある意味での「救済手段」として、匿名で発言をする人がいたり、発言をする場があっても良いのではないでしょうか?

また、実名だからといって、必ずしも直ちに社会的信頼性が上がるとは限りません。偽名を使ってサイトを開設することも技術的には可能ですし、他人の「なりすまし」もあり得るからです。実名の場合であっても、読み手が注意しなくてはならない時はあります。(勿論、匿名の時も同様。)

結局、情報の「受け手」のメディアリテラシーの育成に力を入れていく、というのが地道ながらも最善の策であると思います。今日のニュースでは総務省が「ネットの実名での利用を促そう」などとまたいらんことをしようとしているようですが、「小さな政府」を目指しているはずの政府がこういったことに首を突っ込むのは論理的に矛盾しています。

このことに関しては、私のサイトでも一筆書いておきました。(「徒然なる雑筆」2005.06.27) お暇なときにでも、ご一読下さい。

それでは、失礼します。

Posted by: 犬笠銀次郎 | 2005.06.27 at 11:39 PM

ま,メディアもすべて実名の署名記事にすればいいんじゃないでしょうかね.

情報源もすべて実名で公開.

ネットだけ,実名を出せなんておかしいですしね

Posted by: yu | 2009.03.13 at 09:55 PM

yuさん、コメントありがとうございます。
「新聞記事も署名入りにすべき」との論は最近増えてきているように感じます。一般人がネットで発言する場合よりもずっと影響力が大きいですからね。
そんな新聞記事でさえ匿名が基本なのに、ネットで匿名実名がうんぬんされるのは何故なのかということですね。何故なんでしょうね。

(犬笠さんのコメントに気づかずすみませんでした。もう4年も経ってますね。)

Posted by: ここの管理人 | 2009.03.16 at 11:43 PM

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