私がネットで実名を名乗る理由1
気の小さい雇われ専門家の私がなぜ実名を名乗るようになったのか。ほとんどの人にはどうでもいい身の上話をしてみる。これは3記事にまたがる予定の、長い話。
単純な成り行き上の理由
一番単純には、私が個人ページを公開した経緯 で書いているとおり、もともと前の職場のページ内で公開していたコンテンツがあって、それをインターネット上に残したくてサイトを開設したからだ。ちょっと前まで実名で公開していたものを、急に匿名になって公開し続けるのも不自然かと思った。
二番目に単純な理由は、私が論文を書いているから。それらの論文について書くとき、もし匿名だったら、自分の仕事なのに他人の仕事であるかのように引用することになってしまう。それは、ウソとまで言えないかもしれないけれど、ウソに似た行為だと思う。
情報の質向上のため
私は、誰かに利用してもらえることを励みにしてサイトを作成している。そして、各ページの内容は一般向けではなく同業の専門家向けだ。最初は仕事上の必要から検索で見つけてもらい、役に立ちそうであれば、学会誌や業界紙を読む感覚でときどき再訪してもらえればうれしい。
こんな感じで利用されることを想定したとき最も重要なのは、私の提供する情報の利用価値が高いかどうかだ。
情報内容そのものの質を高めることは、そう簡単でない。でも、情報の提供者についてできるだけ詳細に明らかにすることは、最も簡単に実行できる利用価値向上の方法だ。そういうわけで、実名と共に、略歴など、差し支えない範囲で明らかにしている。
最高の個人情報流出対策として
実名を名乗るのは、個人情報の流出を防ぎたいからでもある。それは変だと思われるかもしれない。個人情報を流したくなければ匿名でと考えるのが普通かもしれない。
でも、実名を名乗ることによって、流出してもかまわない情報しか流さないよう強く自己規制できる。私の経験では、匿名(ニックネーム)で書いていると、実名では書けないことまでつい書いてしまう。そのニックネームがある日もし、不本意にもいきなり実名と結びついてしまったらどうなるか。そういう事態に備える方法の一つは、絶対に実名がわからないように防御することであり、もう一つは、いつ実名と結びついても困らない情報しか流さないことだ。
実名と結びついても困らない情報だけを流すなら、いっそ実名を出してもあまり差し支えないと思う。
身の丈に合った自分を表現する
主に他人と議論になってしまった場合にありがちなことだが、自分のバックグラウンドを示して自分の主張に説得力を持たせたいと考える人がいる。周囲から高く評価されているとか、こんな成果を上げたとか、有力者と知り合いだとか、学歴があるとか。
でも、匿名でそんなことを書いても確かめようがない。そんなことを持ち出して相手を説得しようとするのは、見苦しい態度だと思う。
では、ネット上で表現できるだけの材料で自分のバックグラウンドを示すならどうか。議論になっている分野に関して深い知識があることを掲示板やホームページで日頃から示している人は、その周辺の常連から篤い信頼を得ているものだ。そういう人たちは貴重な存在で、大勢の匿名の人格者がネットを豊かなものにしている。ただ、そこまでの信頼を形成するためには、分野にもよるけれど、だいたい年単位、少なくとも月単位の時間がかかる。
そんな時間をかけずに、ネット上で急速に存在感を出すことも可能だ。単純に、ネットにつぎ込む時間と手間を増やせばいい。でもそうすると、ある矛盾が生じる。それは、ネット上に高密度に現れることは、リアル社会では必要とされていない(ヒマな)人物であることをうかがわせるということだ。
熱い議論の中で、前述の「確かめようがないバックグラウンド」と「ヒマさがうかがえる高密度な書き込み」をセットでやっている人を見かけるたび、私は何ともいえない見苦しさを感じてきた。正直に言うと自分自身、匿名で発言しているときに、ついこれに類することをしてしまったことがある。
大多数の人は、そんな見苦しいことはしない。でも、私はしてしまう性格だと思う。実名で時間をかけて作成したネット上のコンテンツがあれば、そういうことを避けられる。
一番根本的な理由
最後に、私の名前は私のものという気持ちがある。自前で分析機器が買えるわけでもないし、給料がもらえなくなったらたちまち困窮するような身分ではあるけれど、自分の名前は自由に使いたい。論文その他の文書用として貸すことがあるにしても、だからといって名前が組織のものになってしまうことはないだろう。・・・という単純で根本的な理由。
以上が私が実名で書くようになった理由だが、転機となった重要なエピソードが二つある。それについてはまた。
(ココログ内では1月末ごろ ネットで実名を名乗らない危険性について へのコメントとして実名・匿名の議論がありましたので、トラックバックさせていただきます。)
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