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2004.02.25

「世間体」を気にかけながら書く

 ウェブで個人として情報発信する研究者は結構多いし、情報発信のための方法論に関するページもいくつか存在している。そういう面だけでとらえれば、私のウェブサイトは特に珍しいものではない。
 私のサイトが変わっているのは、組織の中の研究者・技術者のために情報提供したいと考えているところだ。「組織の中の」というのは、噛み砕けば「サラリーマン的な」とも言い換えられる。例えば自分の名前で論文を出すには出すが、その仕事の内容は組織として行ったもので、たまたま自分が担当者だったから筆頭著者になっているだけだとか、企業秘密に関わる研究内容が多くて、そもそも論文が出せないとか。名前が売れても何のトクにもならないサラリーマン専門家がウェブで何かを語るということについて、あれこれ考えている。
 これに対して、組織に縛られない研究者という立場がある。もっとも、完全に縛られない状態というのはないだろうが、個人として独自性を出すことに価値があると一般的に認められる立場にある人たちということ。そして、研究テーマの設定や時間の使い方について個人の裁量範囲が大きく、結果責任も大きい(次のポスト獲得や研究予算獲得にはね返る)、そういう立場を仮に「自営業的な」立場と呼んでおく。
 これら2つの立場は明確に二分されるものでなく、一個人に両面が同居する場合も多い。でも、たいていはどちらかの立場のほうが強い。

 サラリーマン的な人と自営業的な人では、いったいどこが違うのか。
 もっともリアルに表現する言葉が「世間体」だと私は思う。自営業の場合は、ウェブでの発言に大きな労力をかけた結果は自分に返ってくる。だから、人脈作りに役立つとか、新しい着想を得るとか、単にストレス解消になるとか、経路はさまざまだろうけれども、とにかく自分にとってプラスになると思うだけ時間を使えばよい。
 これに対して、サラリーマンは直接的な結果責任を負わない。仕事に真面目に専念しないサラリーマンにも給料が支払われ、雇用が確保され、損失を組織がかぶる比率が高い。こういう場合は、少なくとも人目に付く範囲においては、自分が納得するだけでなく他人も納得できるような時間の使い方というものを心がけておかないと、周囲の人にストレスを与えてしまうことになる。
 それから、自営業的な専門家は、組織とは独立した才能や個性とみなされやすいが、サラリーマン的な専門家のやることは、どうしても組織と一体とみなされてしまいがちだ。
 端的に言えば「インターネットなんかにあまり熱心になっているように見られたくない」「あの会社の社員がこんなことをしていると思われたらまずい」といった気兼ね。これを「世間体」と言う。

 こういうことを、もっと長い文章で書いたのが、組織の中の研究者・技術者がウェブで語るとき だ。これに対して、独立行政法人・農業環境技術研究所の 三中信宏さん が感想を書いてくださった。日録(2003年12月29日) にはこのようにある。

確かに「組織の中の研究者・技術者がウェブで語るとき」には人によって動機付けが異なるだろう.ぼくにとって?――それは「自分のため」です.少なくとも他人のためではありえない.そういう利己的なモチーフがあって初めて持続するパワーが生まれるのだと思います.津村さんは「自己研鑽の動機付け」と言っていますが,「研鑽」ということばはあえて外してもかまわないのではないですか? 「自分のため」だけで十分.

 「自分のため」だけでは不十分な人たちが大勢いると思う。「自分のため」と言い切れる立場を手に入れるのは非常に難しい。
(説明すると、筑波の国立研は2001年に軒並み独立行政法人化され、自由度が増すと同時に業績評価も厳しくなった。これに対して私の所属していた国立研は行政との関連が深いとして独法化されていない。また、私の現在の立場は前のポストよりももっとサラリーマン度が高い。)
 三中さんのコメントは2ヶ月前のもので、何か反応したいと思っていたが、本館 ではきっかけがなかった。今ごろこちらで書いてみた。
 そういうわけで、このblogのキーワードは「世間体」だ。ホンネでは自分の楽しみとしてウェブで発言したいサラリーマンのための「言い訳」を提案していく。

参照リンク
 研究者による情報発信に関するページ

追記 いただいたコメントを受けて、続編を書きました。続「世間体」を気にかけながら書く

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Comments

おはようございます。
「組織の中の研究者・技術者がウェブで語るとき」も併せて拝読しました。
tsumuraさんの立場、考え方を理解しました[つもり]
ただ、1点同意できないところがあります。
【「社会に役立つ」を判断する人は誰か】ということです
それは自分が決めることではなくて、tsumuraさん自身が言っているように、tsumuraさんのページを観た人が決めることだと思います。その判定基準は[公開の動機]や[公開の正当な理由]ではなく結果だけだと思います

>「自分のため」だけでは不十分な人たちが大勢いると思う。「自分のため」と言い切れる立場を手に入れるのは非常に難しい。>

ですから、「自分のため」と言い切ることの方が簡単だと思います。
逆に「自分のためだけでなく、社会の為になる[tsumuraさんはそれを否定していますが、私とは違う理由で]」などといったら、それを聞いた人は「こいつ、何様」と思うだけです。少なくとも私はそう思います
「自分のため」というのは、唯一自分が決められることですから。
このコメントのキーワードは「自分が決められること」です。

Posted by: it1127 | 2004.02.25 at 08:38 AM

ぴっくあっぷ。さん経由で来ました。
http://mobaio.cocolog-nifty.com/pickup/

このブログのテーマ取り
もちろん、タイトルも
めちゃくちゃ興味深いです。

たびたびおじゃまさせていただきます♪

Posted by: ono | 2004.02.25 at 11:44 AM

津村さんにコメントされてドキドキしている「みなか」です.
ども,はじめまして.「本館」もときどき読んでます.

私がウェブ公開に際して「自分のために」という点にこだわるのは,
「他人のために」という利他的なスタンスに個人的に堪えられない
という実にシンプルでパーソナルな理由からです.「他人」のため
にということを看板に出した時点で,その重荷をこれから担いでい
く自分を想像しただけで,ウェブ公開を持続していこうという気力
が萎えてしまいます.

だから,「貢献/有益/鍛錬/社会」というような想定される利他
的キーワードをすべてオフにして,あくまでも「自分のために」と
いうだけにとどめておきたいという意味です.個人的な動機づけが
何よりも重要なのだということは,過去10年に及ぶ学術系メーリン
グリストの運営を通して,私が学んできたことです.

もちろん,私のサイトに掲載してある情報や資料を見て,ひょっと
したら「役に立った」と言ってくれる他人がいるかもしれません.

しかし,それは私にとっては嬉しい「おまけ」であり,サイトを公
開したことに付随する「付加価値」みたいなものに過ぎません.そ
れを目的とするわけでもなければ,それを期待するわけでもありま
せん.

blogへの返信コメントというのは初の経験ですので,読みづらかっ
たらごめんなさいね.

Posted by: みなか | 2004.02.27 at 02:35 PM

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