アクセス解析の話は一応終息していたかのようでもあったが、話題にしたら予想以上のコメント・トラックバックをいただいた。この根底には、繰り返し議論になってしまう(しかもしばしば扇情的な議論に)システム上の問題があるような気がする。どこに問題があるのか、また、解決策はないのか、私なりの考えを書いてみる。
最初に、私自身のネットコミュニティでの経歴を少し。私は1988年頃、「パソコン通信」という言葉があった時代に初めてPCとモデムを買い、同時にニフティサーブのIDを取得した。フォーラム、草の根ネット、クローズドのグループ内でのネット、インターネット時代になってからの掲示板、大小のメーリングリスト等、その時々の関心と必要に応じて、ネットを通じたコミュニケーションを楽しんだり役立てたりしてきた。
「アクセス解析」に対する反応
「自分のアクセス記録を取られるのがイヤか、別にかまわないか」という点に議論の取っ掛かりは集中する。最大公約数的な反応は、次のような感じではないか。(かなり大ざっぱ。)
- 商用サイトや公的サイトにアクセスログが残るのは全然気にならない。
- ただし娯楽的な内容のサイトに職場からのアクセスログが残るのは(個人が特定されなくても)まずいと思う。
- 個人サイトにアクセスログが残っても、自分と特定されない場合には気にならない。
- 個人サイトにアクセスログが残り、かつ、ログの取得者に自分を特定する情報も同時に渡る場合、気になる可能性がある。
人によって考え方が分かれていて議論になるのは、主に4番だと思う。「アクセスログはどんなサーバーでも取られているではないか」とか「職場からアクセスする奴が悪い」といった話は1番から3番に属することで、論点の中心ではない。
「個人と個人が互いを認識して人間的な交流をする際に、アクセス解析が何らかの障壁になるのではないか」というのが問題の核心だ。
個人を特定できるアクセスログ
ではこの「個人サイトにアクセスログが残り、自分を特定する情報も同時に渡る場合」について、もう少し詳しく見てみる。
私が書いた中で最も刺激的だったのは、「アクセス解析しません」宣言は、はた迷惑? の中のこの部分だったようだ。
よそのblogにコメントやトラックバックを付けたら、自分のIPアドレスが相手に通知される。その相手がアクセス解析データを持っていたら、通知されたIPを手がかりに、自分のこれまでの閲覧履歴を抽出することができる。最初に来訪したのはいつ頃で、どのリンクまたは検索語をたどってきて、どのくらいの頻度で、どのくらい時間をかけて読んでいたかまで、全部わかる。また、訪問時間帯は夜だとか昼間だとか、生活パターンもなんとなくわかる。
色々な反応が出たが、集約すると「自分を含めアクセス解析を行っている人たちは、自身の良心に基づいて、そんなことはしない。そんな想像をされるだけでも不愉快だ」ということだった。
つまり、アクセス解析を行う人たちにも、
IPアドレスで抽出して特定の個人の閲覧履歴を読むような行為は良くないことだという認識があるらしい。以後の話は、このことを前提に書く。もしも「個人の閲覧履歴を抽出しても全然かまわない」という反論があれば、以下の話は無意味だ。
(念のため。この場合の「個人」はネット上の人格として特定されている個人であって、誰かわからない適当なIPアドレスをサンプルとして取り出して閲覧行動を調べてみるような行為は問題にしない。)
ログを取る人の良識に任されている部分
ここまでの話で明らかになったのは、アクセス解析に関して、暗黙のルールとしてやってはいけないコトがあって、それをするかしないかが全く各人の良識に任されているということ。そして、その行為をするのは、特に難しいことでもなんでもなく、解析画面でちょっと操作するだけで、こっそりとできてしまうということ。
こういう状況で「自分はそんなことはしない」と言う人も、アクセス解析をしている人全員の良識までは保証できないだろう。また、「ログを取っている人にはこういうことができる」と言われるだけで、自分が疑われているような気がして不愉快になってしまう。不愉快な気持ちはわかる。でも、「できる」ことも事実だ。アクセス解析する人としない人が混在している以上、似たような話は繰り返されるに違いない。この状況って、何とかならないのだろうか?
必要十分なアクセス解析
私の提案を先に言ってしまうと、「個人を特定できず、かつ、サイト管理者が知りたい情報は手に入るアクセス解析」そういうものを@Niftyが提供すればいいのではないか?ということだ。
ココログをする人にとって、IPやドメイン名は必要だろうか。私はビジネス向けのサイトを運用しているから、どんな会社からの訪問が多いかは確かに重要な情報だ。常に訪問者の仕事の内容を意識して記事を書いてきた。でも、自宅からの訪問者がYahoo!BBを使おうがぷららを使おうが、サイト作成にとってはどうでもいいことではないか。(ADSL、ISDN、ダイアルアップ等の比率は知りたいかも。)
なまじ個人を特定できるデータを持っているから嫌な思いをするのだ。リンク元ごと、ページごと、検索語ごとのアクセス数など、サイト作成者にとって知りたいことだけを統計的に示してくれるアクセス解析はどうか。これを付けているサイトには「訪問者にやさしいアクセス解析」という感じのバナーが表示されるとか。
ココログにもいろいろなblogがあるから、全部のblogにとは言わない。でも、そういう解析サービスがあれば使いたいという人も多いのではないだろうか。
ココログだからこそ
ココログ内には、今までのインターネット的常識の範疇外の議論が多いとも言われる。私は、これはむしろ当然だと思う。
ニフティサーブ時代からの@Niftyが提供してきたネット空間は、端的に言えば2ちゃんねる的な世界とは対極を成すものだ。一方に、ネットにおける匿名性や統制の掛けにくさを最大限に利用して、瞬間的なコミュニケーションを楽しむ空間がある。それはそれでいいと思う。
でも、私はフォーラム的な場所に居心地のよさを感じてきた。普通の人間関係並みの礼儀や気遣いが守られて、わずらわしさも温かみも同居する、継続的な人間関係のほうに。そういう人間関係を結んでいくのに、互いの手元にアクセス履歴が残っていくようなシステムは、なにがしかの障害になるのではないか。
「それがネットの常識だ」といった言葉に丸め込まれる必要はない。目指すところが違えば、最適なシステムだって違って当然なのだ。自分にとって居心地が悪いなら、表明すればいい。フォーラムのようなコミュニティはフォーラムにしかないし、ココログだってonly oneだ。日本の住宅には必ず「玄関」がある。自分の私生活に他人を踏み込ませたくない気持ちが強い国民性だと思う。こういう国のblogが、気になるところをそっと隠す仕組みを工夫して発展させていくのも、面白いのではないか。
こういう議論では、どうしても「アクセスログを気にするなんて意識しすぎ」という声の方が大きくなりがちだ。でも、気にする側の人たちは、そもそもネット上で発言すること自体をためらうだろう。アクセス記録を気にしなくてもいい環境が少しでも整えば、そういう無言の人たちがココログの世界に入ってきやすくなるかもしれない。「IPやドメインを特定しないアクセス解析」、@Niftyに要望します。
関連リンク
JavaScript ON/OFFの割合 --- Books by 麻弥 より。麻弥さんはインターネット歴が長いかたで、初心者向けの安全講座も書いておられる。この記事で述べたことについては、既にこんな文章が。
私は自分の足跡が知られては困るようなサイトは閲覧してませんが、それでも統計データならともかく自分の閲覧履歴の生ログをチェックされていたらちょっと嫌。
逆にアクセス解析を行う側は、必要以上の情報を知ろうとしないことが大切なんだろうなあと思います。物理的に可能なことを、モラルだけで押さるのは無理かもしれませんが…
ココログスタッフルーム 「BLOG」を広める方法 ネットは怖いと感じる初心者のために、システム面にも気を使っては・・・ということで、トラックバック。
追記
麻弥さんのページのMEMOに関連した記事 six olq: JavaScript を無効にしているユーザ が掲載されたので、トラックバック。
続編あり コメントへのお返事(アクセス解析)
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