2018.09.22

分析化学会&質量分析学会 合同講演会

Godosympo
9月12~14日に仙台で開催された日本分析化学会第67年会に行ってきました。

部分的にしか参加できませんでしたが、聴講した一つは14日の日本質量分析学会との合同講演会です。私は両方の学会の会員になっており、両者がどのような関係を持とうとしているのか興味がありました。

時間は1時間で、両学会の歴史や研究領域などについて、質量分析学会の高山光男会長及び分析化学会の岡田哲男会長が、それぞれじきじきに講演されました。そして最後に産総研の津越敬寿さんが両学会の組織や学術集会の開催方法、用語の違いなどについて講演されました。

どちらの学会も会員数が減っているとのことで、合併の話題も上がりました。しかしそれはうまく行かないだろうとのことで、雑誌の編集やイベントの共同開催などで協力していくそうです。また岡田会長によれば、分析化学会には現在21もの研究懇談会があるのに質量分析研究懇談会が無いので、設立を模索したいとのことでした。研究懇談会は外部への窓口の役割も持っており、無いと不都合だそうです。

意外だったのは、質量分析学会の設立が分析化学会のわずか1年後、1953年だったということです。失礼ながら、そのように歴史のある学会とは知りませんでした。私が日常的にGC/MS装置を使い始めたのは1980年代後半。質量分析は数ある分析法の中でも新しい手法だと思っていました。

しかしよく考えてみれば、質量分析そのものの始まりは100年以上前と教科書に書いてあったような・・・

質量分析学会の歴史が長いというより、むしろ分析化学会の歴史が短いと言えるかもしれません。なにしろ分析化学の歴史は化学の歴史と言ってもいいくらいなのですから。

日本化学会の設立は1878年だそうです。分析化学会は、日本化学会会長であり日本学術会議会長でもあった亀山直人氏の強い要請により1952年に設立されたそうです。
翌年に質量分析学会が設立されたわけですが、いずれも日本で戦後の復興と発展が加速しつつあった時代のニーズに応じたものだったのでしょう。
これまで知らなかった学会の歴史を学べた講演会でした。

なお、コーディネーターの津越敬寿さんは両学会でご活躍で、当ブログでもそのユニークな御意見を3回も記事にさせていただいています。

「技能試験」「標準物質」の用語に疑問(2017.05.27)
GC不要論!?(2017.06.18)
質量分析(計)のことをマスと呼びたいっ!(2018.01.10)

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2018.09.11

分析化学会の女性Analyst賞をいただくことになりました

公益社団法人 日本分析化学会が今年から「女性Analyst賞」を新設し、最初の2名の受賞者の一人に選んでいただきました。たいへん光栄で恐縮しています。
明日から東北大学で開催される第67年会で授賞式があります。
表彰内容は ぶんせき2018年8号 に掲載されていて、ウェブでも読むことができます。
これまで一緒に仕事させていただいた皆様、推薦してくださった分析化学会近畿支部の皆様、その他たくさんの関係者の皆様に深謝します。

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2018.03.04

電子書籍を自著で初体験

私が書いた本の電子書籍版がAmazonから発売されました。前々から電子書籍に興味を持っていたので専用リーダー(Kindle)と共に購入して開いてみました。

この写真はKindleと本を並べたものです。

Ebook1

Kindleが届いて手に取った感想は「軽い!薄い!小さい!」
重さは161グラム。デザイン的には気に入りました。どこへでも気軽に持って行けそうです。

でもKindleの画面がモノクロだと知りませんでした。本の表紙がカラーでないだけで何やら漂うレトロ感・・・

ページを開いて比べてみましょう。

Ebook2

文字はかなり小さく、しかも荒いです。解像度は167 ppi。二色刷りなのにモノクロの表示。これを1冊読み通せと言われたら苦痛かもしれません。

実はこのKindleは一番安いモデル。今後も使うかどうかわからないのでこれを選びました。
定価は8,980円で、Amazonプライム会員なら2,000円割引。400円の会費を払って1か月だけ会員になりました。つまり実質8,980-2,000+400=7,380円(税込)で購入しました。
保護フィルムも保護カバーも高価なので買いませんでした。

Kindle Paperwhiteというモデルなら300 ppiなのでもっときれいなのでしょうが、5,300円高くなっています。しかもモノクロという点も画面の大きさも同じです。

ではタブレットならどうでしょうか。無料のKindleアプリをインストールすれば好きな端末でKindle版書籍を読めます。手持ちの8.1型タブレットで表示したらこんな感じ。カラーです。

Ebook3

文字は本より小さいですが読むには支障のない大きさです。しかしこの本は見開きの左のページに本文、右のページに図解という構成なので、1ページずつの表示では価値半減です。

ではノートPC。このディスプレイは16インチです。見開きで表示してもまあ読みやすい大きさ。これならいいかも。

Ebook4
さらにデスクトップPC。20インチです。この大きさは必要ないですね。

Ebook5

さて、この電子書籍バージョン、紙の本と比べてお勧めなのでしょうか?

Kindle(リーダー)で読むという方には正直なところお勧めできません・・・お勧めできるとすれば、既に紙の本を持っていて、ときどき確認のために手軽に参照したいという方くらいでしょうか。
この本のコンセプトは「通読して分析化学の全体像をざっくり把握できる」なので、見開きにできず文字も絵も小さいのでは学習効率が上がる気がしません。
それにこのリーダーに表示される姿だけを見て「こういう本だ」と思われてしまうのは悲しすぎます。

ではKindleアプリを使って好きな端末で読む場合は?
比較した中ではノートパソコンが一番いい感じでしたが、携行性で劣ります。となると大きめのタブレットが最適かもしれません。小さめのタブレットでも、必要に応じて見開きで表示すれば良いかもしれません。

書棚に増え続ける本のことを考えると、百冊でも千冊でもタブレット1台に収まる電子書籍は確かに魅力です。しかもKindleはアプリだけでなくウェブバージョンもあって、ひとたび入手した本は世界中どこへ行っても読むことができます。モノクロのKindleリーダーだって、小説などに没頭する場合はシンプルで手になじむ良い端末でしょう。

結局どちら?紙か電子版か。

電子書籍のメリットは間違いなくあるのですが、好みで選ぶならやっぱり私は紙派です。紙の本への思い入れを 分析化学の入門書を出版 に書いています。でもKindle(リーダー)を入手したことですし、小説などもこれで読んでみたいと思います。

2018/3/6 追記
Amazonの販売サイトをよく読んだら次のように注意が書かれていました。Kindle(リーダー)購入は早まった行いだったようです。

※この商品は固定レイアウトで作成されており、タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。

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2018.01.21

pHをペーハーと読むのは誤り(JISでは)

Ph
個人的には「ペーハー」が好きです。
発音しやすい、響きが美しい、紛らわしい類似語がない、言うことありません。

しかし2012年の環境計量士(濃度関係)国家試験でこんな問題が出題されました[1]。

「JIS Z 8802 pH測定方法」に規定されているpH測定方法に関する以下の記述の中から、正しいものを一つ選べ。」

回答の選択肢は5つ挙げられていて、その一つが
「pHはピーエッチ又はペーハーと読む。」
でした。実はこの選択肢は間違いです。JIS Z 8802には
「pHはピーエッチ又はピーエイチと読む。」
と規定されています。

つまり2012年以降に環境計量士試験を受験した方たちは、過去問として「ペーハーは誤り」と勉強しているわけです。

MSをマスと読まないことについては、質量分析学会の用語集(最新版)[2]でもMS/MSの項目でエムエスエムエスの読みを付けるに留まっており、マスを直接否定する文言はありません。

しかしペーハーに関しては国家試験の選択肢で誤りになっているわけで、さすがに抵抗できない気がします。私が「ペーハー」の読みを使うことで、それに慣れた人が将来JIS関係の国家試験を受ける場合不利になる可能性だってあるからです。

そういうわけで、私は業務上はできるだけピーエッチと言うようにしています。

しかし分析の新人が「ペーハー」と聞いて理解できずに困る場面も考えられるので、入門書[3]の執筆ではJISの説明をした上で、
「ドイツ語読みのペーハーも一部で使われています。」
と書きました。表現に非常に気を使いました。

よく見ると冒頭の環境計量士試験の問題文でもJIS規定の範囲内と絞った書き方です。JISを離れればペーハーは間違いではありません。私の好みはペーハーの方ですから、他の人がペーハーと言うのは心地よく聞いています。

[1]日本計量振興協会 "環境計量士(濃度関係)国家試験問題 解答と解説 2.環化・環濃 平成24年~26年", コロナ社 (2014)
[2]日本質量分析学会 "マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)"
http://www.mssj.jp/publications/books/glossary_01.html
[3]津村ゆかり "図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版", 秀和システム (2016)

画像はPd4Pic Clipartより

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2018.01.10

質量分析(計)のことをマスと呼びたいっ!

「マス」という言葉。質量分析をやっている人なら聞いたことがあるはずです。普通に使っている人も多いでしょう。
質量分析(mass spectrometry)または質量分析計(mass spectrometer)を表すMSの読みとして使われます。
単独で使われるだけでなく、他の略語と組み合わせても使います。

GC/MS → ガスマス または ジーシーマス
LC/MS → 液マス または エルシーマス
MS/MS → マスマス
TOF-MS → トフマス

MSと関係が無い人も、これらの語で「エムエス」でなく「マス」と発音するとどんなに便利で聞き取りやすいか想像がつくのではないでしょうか?

こんなに有用なのですが、「マスという言葉を使ってはいけない」と言われたことがある人、聞いたことがある人もいるはずです。
私が知っている最も詳しく強力な主張は、2007年に日本質量分析学会の機関誌に掲載された文章[1]です。

確かに禁止論にも一理あるのですが、非常に便利な言葉ですし、分析の新人が聞いて理解できるほうが良いだろうと考え、2016年執筆の入門書[2]ではコラムとして「マス」を紹介しました。
しかし一抹の後ろめたさのようなものを抱いてきたのも事実です。

ところが昨年の記事(5/276/18)でも引用させていただいた津越さんが、非常に興味深い意見を日本分析化学会の機関誌に書かれました[3]。

日本質量分析学会用語集では,MSをマスと読まないようにとしているが,mass spectrometryの略がMSであるように,日本語でのペクトロメトリーの略であるから,マスは真っ当な略語である。

「マス」の語に市民権を与えようと主張されているのです!
この心意気に私は大いに共感しました。ご本人に確認したところ、この説は津越さんのオリジナルで今回が初出だそうです。

感動のあまり、このブログで紹介すると共に、私の意見も付け加えたいと思います。

率直なところ、日本語の略語の作られ方としてマとスの組み合わせでマスになるかといえば、ちょっと無理があるような気がします。

ナス型コルベン → ナスコル
メスフラスコ → メスフラ
パーソナルコンピュータ → パソコン

のように2音節を組み合わせて4音節にする略語が典型的であり、1音節を組み合わせた略語はかなり特殊ではないでしょうか。

一方で、日本語では頭文字の組み合わせでなく冒頭部分を抜き出す略語も一般的です。

スーパーマーケット → スーパー
携帯電話 → 携帯
コンビニエンスストア → コンビニ
リハビリテーション → リハビリ

ですから、「マス」は「マススペクトロメトリー」の冒頭を抜き出した語と考えるほうが自然な気がします。
分析化学に関連する語でも、あくまで口語ですが、

ラマン分光分析(装置) → ラマン
赤外分光分析(装置) → 赤外
エバポレーター → エバポ

といった使い方がされています。
どの程度公式な場面まで認められるかは議論の余地があるでしょうが、少なくとも日常語として「マス」を使うことに支障は無いのではないでしょうか。

津越さんの一文に大きな勇気をもらいました。さて、今日もガスマスを使って仕事してきます。

2018/1/12 追記
MSをマスと読まないとの記述が日本質量分析学会用語集のどこにあるか探しましたが、第3版のウェブ版[4]、冊子版[5]とも見つけられませんでした。第2版以前の記述かもしれません。

[1]吉野健一 "目から鱗のマススペクトロメトリー 第10回 「マス」と「MS」? 「マス」って何ですか??", Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan, 55(4), 298-309 (2007).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/massspec/55/4/55_4_298/_article/-char/ja/
[2]津村ゆかり "図解入門 よくわかる最新分析化学の基本と仕組み 第2版", 秀和システム (2016).
[3]津越敬寿 "入門講座 分析機器の正しい使い方 熱分析", ぶんせき, 2017(12), 568-574 (2017).
http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201712nyuumon.pdf
[4]日本質量分析学会 "マススペクトロメトリー関係用語集第3版(WWW版)"
http://www.mssj.jp/publications/books/glossary_01.html
[5]日本質量分析学会 "マススペクトロメトリー関係用語集(第3版)", 日本質量分析学会 (2009)

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