2024.05.20

第84回分析化学討論会

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さわやかな5月の土日の京都で開催された学会。自分なりの視点で拾った話題を書き留めておきます。土曜の懇親会時点の発表では参加者数900人台で、盛況だったようです。会場にも活気がありました。

 スペクトルの塔
会場の京都工芸繊維大学は初訪問でしたが、討論会ウェブサイトのイメージにも使われているこの塔がひときわ目立っています。絶対「スペクトルの塔」という名前だろうと思って説明板を読んだところ、『大学の塔「時を超えて」』という名称で、「スペクトル」の語はまったく出ていませんでした。「虹」の語はありましたが…。分光器によるスペクトルなら分析化学会にぴったりなのですが。
キャンパス内は大きな木が多く、あちこちに木陰とベンチがあり、比叡山が近くに見えて、心地よかったです。

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 市民公開講演会「宇宙と分析化学」
太陽系内での生命探査、SPring-8による小惑星試料の分析、地球外文明SETIの探索、というテーマで3つの講演がありました。はやぶさ1と2についてはニュースでたびたび見聞きして、断片的な情報はいろいろ持っていました。イトカワとリュウグウがどう違うか、それぞれの試料から何がわかったか、二つの小惑星についてどのような成り立ちが推定されるか、まとめて聞いてよく理解できました。

リュウグウの試料(微小)は、コンタミや紛失を防止するために、カーボンナノチューブの毛で作ったブラシのようなものに載せて保管・運搬されたそうです。接着剤など使わなくても分子間力でくっつくそうです。こういう細かなノウハウの話が分析化学らしくて楽しかったです。

小学生から高校生までの若い人たちも聴きに来ていて、質問が多く出ました。

 市民公開講演会「文化財をはかる,なおす,まもる分析化学」
こちらは京都らしい企画でした。文化庁が京都へ移転したところでもあり、職員の方の講演から始まりました。
寺院などに使われる赤色顔料にはベンガラ(Fe2O3)、朱(HgS)、鉛丹(Pb3O4)の3種類があり、さらにベンガラにも6種類あるそうです。なるほど文化財を調べて修復するにも分析化学は必須だなと思いました。
分析手法としてはXRFが圧倒的に多いようです。XRDも一部使われているようです。非破壊分析となると、やはりX線が主役のようです。

 その他の発表で聞いたことメモ
○基盤技術が大切という話
コベルコ科研の方がものづくりを支える分析化学のテーマで話され、
「新人には前処理や重量分析や容量分析といった基盤技術をまずやらせる。それなしで最先端の分析をやってもわからない」
と言っておられました。物質量を体感できるのは、確かに重量分析や容量分析ですね。

○顕微FT-IRではウール1本も破壊分析
犯罪捜査で単繊維を分析する話の中で、赤外の透過測定では衣類の繊維もつぶさなければ測れないと言われてました。発表自体は放射光によるXRFの話でしたが、あんな細いものでも透過IRは無理なのかと、変なところで感心しました。

○定量NMRで使う同軸チューブ
ポスター発表より。NMRチューブの中にもう1本の細いNMRチューブを入れ、その中に定量用標準物質の溶液が入っているというもの。標準物質を試料と混合しないので、繰り返し利用でき、吸湿性の試料には特に有利。これは便利そう。

○HPLC用フェニル系カラム
ナカライテスクのポスター発表。フェニル系のカラムには芳香環が一つのものだけでなく二つとか四つのものがありますが、環が増えるほど芳香族化合物の保持が強くなるかと思いきや、環の数だけが影響するわけではなかったという話。環のつながり方も大事で、ナフチル基やピレニル基のように平面的なものと、ビフェニル基のように自由回転するものとでは違っていたとのこと。多置換ブロモベンゼンを使って実験し考察した過程が面白かった。

 女性研究者ネットワークカフェ みんなのキャリアデザイン交流会
お弁当を食べながら、たまたま着席した場所が近い4人ずつが話す、というシンプルな企画でした。特にテーマは設定されておらず、各グループに運営側が入って話題提供するといったこともなく、完全に自由なおしゃべりの会でした。
私のグループはM1の学生さん2名と理研の研究者の方でした。こういう機会が無ければ話をすることなどないと思われる方々でした。
当然それぞれの仕事や研究の話をして、それが一とおり済んだところで理研の方が
「いま若い人たちには何が流行ってるの?」
と言われました。ゲームやSNS?と私は勝手に想像していましたが、意外に「麻雀」という答えでした。オンラインではなく、全自動卓でもなかったです。徹夜の測定の待ち時間中に行う麻雀で、誰が寝られるかを賭けて勝負するので、真剣だそうです。

 京都なのに「大阪締め」
懇親会は分析化学会近畿支部のいつもの雰囲気が色濃く、多くの種類の地酒の提供と紹介、「うーちまひょ」で始まる大阪締めと、にぎやかで和やかでした。
討論会を運営されたみなさま、お疲れさまでした。ありがとうございました。

参加者に配布されたバッグ。「おもしろおかしく」は堀場製作所の社是。字体が味わい深い。

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各プログラムの発表者名や所属は討論会ウェブサイトで見ることができます。
第84回分析化学討論会

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2024.04.21

資格について~実はTOEICが好きです

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化学分析に携わる人は、統計とパソコンと英語のスキルもある程度持つ方が良いと思います。統計については、通信講座の受講体験を書いたことがあるのでリンクしておきます。→ 現代統計実務講座を受講して(2004/6/20)) パソコンについては、私自身は業務上の必要に応じて基本ソフトの使い方を身につけてきただけで、特に書くことはありません。 今回は英語について書こうと思います。ただし、思い切り趣味的な視点からです。

私の場合、はるか昔に英検2級までは合格しましたが、一番力を入れてきたのはTOEICです。TOEICの悪評は世の中にたくさん出回っていますから、ここには書きません。検索すればいくらでも出てきます。悪評はさておいて、趣味嗜好として私はTOEICが好きです。
なぜ好きかというと、試験に集中する120分間の緊張感が良いのです。45分間のリスニング、続く75分間のリーディング。雑念をいっさい振り払って問題に集中する時間、終了時刻が迫って来る最後の10~20分間、相対的に丁寧に考える問題と直感だけでよしとする問題を見極める緊迫感、終了と同時に精神がゆるんで脳がどっと汗をかくような感覚、こういう濃密な時間が好きです。
試験自体は受検料がかかるので気軽には受けられませんが、公式問題集を何冊も買い、自宅で時間を計って解いてきました。問題内容を忘れた頃に、また1冊目に戻って解きました。
120分間といえば映画を1本観る程度の時間ですが、映画にも他の娯楽にも無い独自のエンタメ性がTOEICにはあると思います。

それから、TOEICのスコアは自分の英語力を周囲に示す指標として強力に働きます。指標として適切か疑わしいとは誰でも言うところですが、今のところ、TOEICのように低コストで代わりになるものが無いので仕方ありません。私はかれこれ10回近く受検し、最高スコアは950です。流暢にしゃべれるようなレベルではありませんが、職場内で英語ができる人として認められるにはこの程度で十分です。

また、TOEIC受検は世間の悪評ほど英語学習の役に立たないわけではないと私は考えています。公式問題集の音声を繰り返し聴くうちに、ある時点で急に耳から入る英語をそのまま理解できるようになりました。ただし発話はできるようにならないので、レアジョブも2年間くらいやりました。

以上は完全に私の趣味嗜好の話です。そんな嗜好はまったく無いという方には何の役にも立たないと思います。しかし、実は自分がTOEICが好きなことに気づいていない人がもしいれば、参考になるかもしれないと思って書きました。

画像はPixabayから。Image by Markus Winkler from Pixabay

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2024.04.14

資格について~LC分析士の出現は予想されていた?

先週 化学分析にかかわる資格(1)(2)(3) を書きましたが、実際に資格取得ってどの程度お勧めできるものなんだろう?とあらためて考えました。
私としては、あくまでどんな資格があるか紹介しただけで、個別の資格取得の価値については個人が判断すれば良いとの立場です。とはいえ、世の中には「資格ビジネス」「資格商法」「資格マニア」といった言葉が悪い意味で出回っている現実もあります。資格取得に当たって注意しなければならないことがあるならば、それも書いておこうと思い立ちました。

個人で大したことができるわけではないですが、図書館で資格に関する本を借りて読んでみました。次の6冊です。(刊行年の新しい順)

①『THE21』編集部『会社に頼れない時代の「資格」の教科書』PHPビジネス新書 (2019)
②佐藤留美『資格を取ると貧乏になります』新潮新書 (2014)
③高島徹治『40歳からは「この資格」を取りなさい』中公新書ラクレ (2013)
④須田美貴『資格ビジネスに騙されないために読む本』鹿砦社 (2012)
⑤佐々木賢『資格を取る前に読む本: 資格社会の秘密』三一新書 (1996)
⑥今野浩一郎・下田健人『資格の経済学: ホワイトカラーの再生シナリオ』中公新書 (1995)

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大雑把に言って、①③は資格取得を推奨、②④⑤は資格ビジネスや資格礼賛に批判的、⑥は経済学部の先生による資格研究です。

 「資格商法」について
一番気になったのは、「資格商法」なるものが、私が紹介したような化学系資格にも存在するのか?という点でした。これについては、②④⑤を読む限り、どうも無さそう、または、あっても目立ってはいないようだと感じました。
④『資格ビジネスに騙されないために読む本』に書かれていることですが、資格取得のための学校が
「資格を取れば開業できる」
と宣伝して生徒を集め、合格者に対しては「開業講座」を勧め、実際には修了者が開業しても一向に顧客がつかない・・・という事例があるそうです。開業講座は俗に「ヒヨコ食い」と呼ばれており、特に社会保険労務士と行政書士向けが多いと書かれています。「ヒヨコ食い」の語は②『資格を取ると貧乏になります』でも紹介されています。

このような話がどの程度本当なのかはわかりませんが、こういう商法が成り立つためには、資格取得そのものは超難関というほどでなく、目指したいと考える人(客)が多く、開業できそうな期待感がある・・・という条件が必要でしょう。私が紹介した資格はほとんど開業につながるようなものではありません。例外は技術士くらいですが、技術士は難関資格なうえに、受験資格として実務経験が必要です。というわけで、化学分析にかかわる資格は、商法のネタに向かないものばかりだと思います。
2024/4/16追記 なんと自分自身が統計の資格に関連して「資格商法」にはまっていたことを思い出しました。現代統計実務講座を受講して (2004/6/20)

 資格の分類
化学分析にかかわる資格(2) で資格を「国家資格」と「民間資格」に分けました。⑥『資格の経済学』によれば、もう一つ、「公的資格」に分類されるものもあるそうです。これは「資格付与の一定の基準を所管庁が認可し、それに関わる業務を外部の財団法人等の団体に実施させているもの」で、具体的には実用英語技能検定、消費生活アドバイザー、秘書技能検定などが該当するそうです。知りませんでした。
さらに、資格は「職業上、どのような機能をもっているか」という基準から「業務独占資格」と「能力認定資格」に分類できるそうです。
「業務独占資格」は資格がないと当該業務に従事できない資格。これはさらに「職種型」と「職務型」に分かれ、職種型は税理士、公認会計士、弁護士など、職務型は危険物取扱者、毒物劇物取扱責任者などです。
「能力認定資格」は一定の技能・知識を有していることを認定する資格で、技術士、技能士などです。世の中の資格の大多数は能力認定資格だそうです。

 資格重視は事務系より技術系?
「資格商法」など負の側面から資格を取り上げた書籍ではもっぱら事務系の資格が挙がっていました。資格といえば事務系がメジャーなのかなと思いましたが、『資格の経済学』では、技術系こそ資格が重視されていると述べています。
その理由は受験者の多さで、この本のまとめによれば、技術系主要資格の受験者数は事務系のそれを上回っているそうです。古い本なので1992年の数字ですが、技術系の受験者数は約92万人、事務系は約31万人だったそうです。
ただしその内容は、技術系は危険物取扱者41万人、情報処理技術者39万人など、事務系は宅地建物取引主任者約20万人、行政書士約3万6千人などなので、技術系VS事務系というより、危険物取扱者と情報処理技術者の受験者が際立って多いことを示しているだけかもしれません。
それから、挙げられた資格から気づいたのは、技術系は会社に言われて受験するような資格が多く、事務系は本人が独立開業できるような資格が多いということです。この点からも、技術系の資格は資格商法のターゲットになりにくそうだと思いました。

 これからの技術系資格を担うのは学会や専門機関?
『資格の経済学』は30年も前に出版された本ですが、興味深いことが書かれています。ちょうどバブルが崩壊して日本型の年功序列や終身雇用が変化し始めた頃で、新しい資格体系の整備が必要だと書かれています。そして誰がそれを主体的に進めるかについて、次のように書いています。
「当該の資格に直接関与する業界団体やホワイトカラーの職能団体が重要な役割を果たすことが期待される。」
「ホワイトカラーの分化した高度な専門能力は、その道の専門家集団しか評価できないからである。」
「技術者の場合には、幸いなことには、学会という一種の専門分野別の職能団体がある。」
「技術系ホワイトカラーの資格制度の整備は、専門家が集まる学会等の機関に任せてはどうであろうか。」
化学分析にかかわる資格(2) で紹介したとおり、日本分析化学会などの学会やその他の専門組織がいろいろな資格制度を運用しています。紹介した中では2006年に開始された環境測定分析士が最も早く、次いで2007年に検査分析士、2010年に液体クロマトグラフィー分析士が始まりました。
学会等が認定する資格制度・・・その必要性を訴える本が1995年に出ていたとは。制度を支えるみなさまに、あらためて敬意を持ちました。

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2024.04.09

化学分析にかかわる資格(3)関係がある国家資格

今回は、化学分析と何らかの関係がある国家資格を紹介します。これが3回シリーズの最終回です。

 公害防止管理者(国家資格)
公害防止管理者は「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」という長い名前の法律に基づく国家資格で、経済産業省と環境省の管轄、一般社団法人 産業環境管理協会が指定試験機関です。歴史的な背景など、詳しい紹介や受験案内がこちらに書かれています。
公害防止管理者(産業環境管理協会)
法律で定められている「特定工場」では公害防止管理者の選任が義務づけられています。公害防止管理者には大気関係第1種~4種、水質関係第1種~4種、騒音・振動関係・・・など13種があり、公害発生施設の区分ごとに選任できる資格者の種類が決まっています。国家試験の試験区分も13種類です。試験科目数は18で、13種類の区分ごとに18の中から必要な科目を受験します。試験科目は「公害総論」「大気概論」などで、直接化学分析を意味する科目名はありません。
ぶんせき誌2012年3号の解説では、公害防止管理者が行う業務が色々挙げられていますが、その中には「使用する燃料や原材料の検査」「排ガスや排出水等のモニタリング及びデータの管理」が含まれています。このあたりが化学分析に関係すると思われます。

 技術士(化学など)(国家資格)
化学分析にかかわる資格(1) で紹介したとおり、ぶんせき誌2012年5号の解説によれば、技術士の21の技術部門の中で環境部門にだけ「環境測定」という化学分析の比重高めの選択科目があります。この他にも化学、金属、資源工学、衛生工学、農業、林業、応用理学、生物工学、原子力・放射線、技術総合監理の10部門に化学系及び分析技術者・研究者に関わりの大きい選択科目が含まれるとのことです。
ミニファイル 分析がかかわる資格 技術士
受験方法などは 化学分析にかかわる資格(1) の技術士(環境)をお読みください。

 エックス線作業主任者(国家資格)
エックス線作業主任者は、労働安全衛生法及び労働安全衛生法施行令の規定に基づく「電離放射線障害防止規則」に定められている国家資格です。厚生労働省の管轄で、指定試験機関は作業環境測定士と同じ、公益財団法人 安全衛生技術試験協会です。
エックス線作業主任者(安全衛生技術試験協会)
この資格はX線を発生する機器を安全に使用するための資格です。つまり、分析をする資格ではなく、分析に使う機器の安全のために必要な場合がある資格、ということです。
ぶんせき誌2012年10号の解説によれば、X線を発生する装置としてX線透過試験装置、X線回折装置、蛍光X線分析装置、X線マイクロアナライザー、X線応力測定装置が挙げられています。ただし、これらの装置で必ずエックス線作業主任者の選任が必要というわけではないようです。

 放射線取扱主任者(国家資格)
放射線取扱主任者は「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づく国家資格で、文部科学省が管轄、公益財団法人 原子力安全技術センターが指定試験機関です。受験案内はこちらです。
放射線取扱主任者試験(第1種、第2種)(原子力安全技術センター)
放射性同位元素(RI)や放射線発生装置を使用する施設では、放射線取扱主任者(国家資格保有者)を選任しなければなりません。放射線取扱主任者には第1種~第3種があります。大雑把に言えば、第1種は密封線源も非密封線源も放射線発生装置も管理でき、第2種は密封線源だけを管理でき、第3種は小さな密封線源だけを管理できます。第1種と第2種は試験がありますが、第3種は講習の受講のみです。
化学分析との関係ですが、ラジオイムノアッセイや同位体希釈分析など、RIを使って高感度に分析する手法があります。また、放射性物質の分析を行う際に標準物質としてRIが必要です。
私は第1種放射線取扱主任者の資格を持っていますが、取得した目的は研究所の生物部門で使われるRIの管理のためでした。自分自身はRIを利用する分析をしたことはありません。ただ、ガスクロマトグラフの電子捕獲型検出器(ECD)には63Ni線源が使われていて、古い装置で第1種または第2種の資格が必要だったため、これも管理していました。
第1種放射線取扱主任者の試験は物理・化学・生物(放射線の生体への影響)・測定技術・管理技術・法令と盛りだくさんで難しかったです。試験には2回落ちて3回目にやっと合格しました。
30年以上前には生物の実験でRIを使うのは珍しくないことでしたが、他の技術への置き換えが進んでRI利用は減っていると思います。免状交付数を調べてみました。
放射線取扱主任者免状の公布状況(昭和33年度~令和元年度)(原子力規制委員会) (平成15年度までは5年ごとの合計であることに注意。また、「公布」は「交付」の誤りと思われる)
長期的には減少傾向ですが、平成24年度(2012年度)に第1種が急に増えました。2011年に福島第一原子力発電所の事故が起きたことによると思われます。

 危険物取扱者(国家資格)
危険物取扱者は消防法に基づく国家資格で、指定試験機関は一般財団法人 消防試験研究センターです。甲種、乙種、丙種があり、乙種には第1類から第6類があります。受験方法などはこちらです。
危険物取扱者試験(消防試験研究センター)
一定数量以上の危険物を貯蔵し、または取り扱う化学工場やガソリンスタンドなどには危険物取扱者を置かなければなりません。
危険物取扱者は身近な資格で、私の以前の勤務先では同僚に複数の資格保有者がいました。研究所で扱っていた危険物はたいした量ではなかったため危険物取扱者が必要というわけではありませんでしたが、資格を持っているだけで化学系としてカッコ良くていいな~と思いました。私の危険物取扱者に関する知識はこの程度です。ぶんせき誌の連載「ぶんせきがかかわる資格」で危険物取扱者は取り上げられなかったので、薄い内容になりすみません。

 薬剤師(国家資格)
薬剤師は薬剤師法に基づく国家資格で、厚生労働省が試験を行っています。受験案内はこちらです。
薬剤師国家試験(厚生労働省)
薬剤師という職業はヨーロッパでは歴史が古く、街の化学者という性格があったようです。現代の日本でも「薬局等構造設備規則」というものがあり、薬局にはビーカー、メスピペツト、メスフラスコまたはメスシリンダー、ロート(または、それぞれ同等以上の性質を有するもの)を備える必要があります。薬剤師と分析化学にどのような関係があるかは下記の解説に詳しく書かれています。
向日良夫「話題 資格試験から見る分析化学」ぶんせき, 2007, 145 (2007)
国家試験では滴定やクロマトはもちろん、原子吸光、NMR、熱分析、旋光度、導電率などなどが出題されます。薬剤師資格は2006年度から6年制に移行し、2012年度からそれに対応した国家試験になっています。それでも薬学部のコアカリキュラムを見る限り、分析化学の幅広い分野を履修することに変わりはないようです。
薬学教育モデル・コア・カリキュラム-令和4年度改訂版-(文部科学省)
薬剤師といえば医療職であることは間違いないですが、薬剤師なのに病院にも薬局にも勤務せずに化学分析に携わっている人は多いです。私もその一人です。健康に関わる分析においては、化学がわかって生物もわかる人材が重宝されるからではないかと思います。

 臨床検査技師(国家資格)
臨床検査技師は「臨床検査技師等に関する法律」に基づく国家資格で、厚生労働省が試験を行っています。「臨床検査技師等」の「等」がどういう意味か気になりますが、「衛生検査技師」が入っているようです。「衛生検査技師」は既に新規免許が廃止されている資格ですが、この資格を持って業務をしている資格者が引き続き業務をできる条項が「臨床検査技師等に関する法律」に含まれているようです。
臨床検査技師国家試験の受験案内はこちらです。
臨床検査技師国家試験の施行(厚生労働省)
ぶんせき誌2012年7号の解説によれば、民間資格で「臨床検査士」「緊急臨床検査士」があるようです。また、2007年3号の解説 によれば、国家試験では確認試験、各種分光法、クロマトグラフィー、免疫測定法、電気泳動法、画像診断法が出題されるそうです。

 診療放射線技師(国家資格)
診療放射線技師は診療放射線技師法に基づく国家資格で、厚生労働省が試験を行っています。受験案内はこちらです。
診療放射線技師国家試験の施行
ぶんせき誌2012年7号の解説によれば、X線写真撮影や造影検査のほか、放射線治療や核医学の分野で診療放射線技師が活躍しているとのことです。また、2007年3号の解説 によれば、国家試験では放射線測定、画像診断法、イムノアッセイ、クロマトグラフィー、電気泳動法が出題されるそうです。

以上、3回にわたって化学分析にかかわる資格をご紹介しました。私自身の知識に偏りがあるため、いずれの資格についても最適な解説にはなっていないと思います。興味のある資格が見つかったら、自分で調べてみてください。
なお、国家資格の場合、資格の名称で検索すれば非常に行き届いた解説も見つかりますが、有料で通信教育などを提供しているサイトにはリンクしませんでした。私がお勧めしているように受け取られたら良くないと考えたからです。ただし指定試験機関は有料のサービスがあってもリンクしました。

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2024.04.08

化学分析にかかわる資格(2)関係が深い民間資格

化学分析と関係が深い民間資格について書きます。
国家資格にはそれぞれ根拠法令があって、
「この資格を与えるのは○○大臣」
「この業務はこの資格がある人しかやってはダメ」
「この資格名を勝手に名乗ったらダメ」
などときちんと決まっています。これに対して、国家資格ではない資格が多数あります。「民間資格」という名称がどの程度正確かはわかりませんが、国家資格に対して民間資格と呼んでおきます。

 液体クロマトグラフィー分析士
分析士とは、公益社団法人 日本分析化学会 が認証している資格です。分析全般というわけではなく、特定の分析手法に対応する分析士の称号があります。また、初段から五段の段位があります。手法と段位を組み合わせて「液体クロマトグラフィー分析士初段」のような称号となります。
日本分析化学会には分析手法や分野に応じて研究懇談会が設置されており、その数は現在19です。液体クロマトグラフィー分析士の認証試験は、研究懇談会の一つである液体クロマトグラフィー研究懇談会が担当しています。受験案内などはこちらです。
分析士認証試験(液体クロマトグラフィー研究懇談会)
初段は誰でも受験可能ですが、二段以降はそれぞれ前の段を合格し、登録されていなければ受験できません。また、同じ年度内には一つの段位しか受験できません。つまり、五段を取得したい場合には一年に一段ずつ、最低5か年度にわたって受験する必要があります。
五段ともなると「論文の査読・指導、学位論文の審査、国際会議において存在価値が評価される質疑応答ができる」ことが求められ、論文発表実績、講習会・講演会における講師実績、国際会議における座長・依頼講演実績などなどを申告するというすごい資格です。
どんな問題が出題されるのか、初段だけサンプル問題が分析化学会のサイトに掲載されています。初段は極めて簡単な問題が出るようです。五段までどのような階段になっているのか・・・相当の高低差がありそうです。
分析士会・分析士認証試験(日本分析化学会)
液体クロマトグラフィー分析士試験が初めて実施されたのは2010年10月で、その試験では約300名が合格したそうです。この資格を取得する意義などは下記を参照してください。
ミニファイル 分析がかかわる資格 クロマトグラフィー分析士
なお、分析化学会の組織として「分析士会」があり、ウェブサイトには分析士の名簿や行事案内が掲載されています。
公益社団法人 日本分析化学会 分析士会

 LC/MS分析士
LC/MS分析士も分析化学会が認証している分析士資格の一つで、液体クロマトグラフィー研究懇談会が担当しています。「液体クロマトグラフィー質量分析分析士」とは書かれておらず、「LC/MS分析士」が正式名称のようです。
受験案内はLC分析士試験と同じページにありますが、当面の実施予定は現時点では掲載されていません。
分析士認証試験(液体クロマトグラフィー研究懇談会)
初段のサンプル問題もLC分析士試験と同じページにあります。LC分析士初段よりは少し難しいですが、簡単な問題です。
分析士会・分析士認証試験(日本分析化学会)

 イオンクロマトグラフィー分析士
これも分析化学会が認証する分析士資格で、イオンクロマトグラフィー研究懇談会が担当しています。概要説明や過去の試験問題はこちらにあります。
イオンクロマトグラフィー分析士
イオンクロマトグラフィー分析士試験の当面の予定は掲載されていません。

日本分析化学会の研究懇談会は19もあるので、今後他にも「○○分析士」ができるのかもしれませんが、現時点では上記3分析士だけです。LC分析士があるならGC分析士も期待してしまいます・・・

 医用質量分析認定士
エックスのコメントで教えていただいた資格です。医用質量分析認定士は一般社団法人 日本医用マススペクトル学会が認定する資格で、2013年度に始まったそうです。資格取得の条件は、学会会員であることと、学会主催の医用質量分析認定士講習会に参加して同時に行われる試験に合格することの二つだそうです。規程には
「本制度は先天代謝異常症の診断、医薬品のTDM、薬物中毒診断、臨床化学、臨床微生物等、質量分析技術の医療応用に従事する者および従事予定の卒業見込み者を対象とする。」
とあります。これが資格内容も表していると考えられます。5年ごとの更新が必要です。詳しくは学会ウェブサイトをご覧ください。
一般社団法人 日本医用マススペクトル学会

 医用質量分析指導士
経歴10年以上の医用質量分析認定士に対して「医用質量分析指導士」の称号が付与されるそうです。ただし、医用質量分析認定士の資格が取り消されたときは医用質量分析指導士の資格を喪失するとのことです。
一般社団法人日本医用マススペクトル学会医用質量分析認定士制度規程

 検査分析士
検査分析士は、 特定非営利活動法人 分析産業人ネット が認定する資格です。初級、中級、上級、特級があります。
ここまでご紹介した資格はすべて分析手法に対応していましたが、検査分析士は「機器分析技術」が対象なので、範囲は広めのようです。初級の受験を申し込むと「初級検査分析士資格試験テキスト」が配布され、この範囲内で出題されるようです。下記から例題を読めますが、その限りでは吸光光度法、蛍光光度法、LCの3つが出ています。
2024年度検査分析士認定試験(一斉試験)について
検査分析士上級は、初級の範囲に加えて、16手法から2手法を選択して試験を受けるそうです。16手法が何かは上記リンクに書かれていて、LC、GC、LC-MS、GC-MS、UV/VIS、FT-IR、NMRなど一般的な機器分析手法が挙げられています。
検査分析士特級は、上級試験に合格した人だけが受験でき、論述試験と面接試験があるそうです。論述試験では出題された課題を自宅で10日間以内に作成して提出するとのことで、上記サイトにはどんな課題か書かれていませんが、ぶんせき誌2012年12号の解説によれば、「後継者の教育が可能なテキストの制作」だそうです。また、同解説によれば、検査分析士の試験は2007年に始まったそうです。
面白いのは、初級・上級・特級が世阿弥のいう「守、破、離」に対応しているという理念です。分析化学会の分析士が「段位」になっていることといい、何だか古風です。なお、中級は上級の受験者が1科目だけ合格した場合に与えられる級です。
資格認定基準
検査分析士会があり、継続的な教育制度が用意されているそうです。
検査分析士会

 シニア検査分析士
検査分析士資格を保持し、満60歳以上で、一定の条件があれば、「シニア検査分析士」の称号が付与されるそうです。ボランティア活動として機器分析を通じて社会への貢献をする時に役立つようです。
シニア検査分析士

 環境測定分析士
環境測定分析士は一般社団法人 日本環境測定分析協会が認定する資格で、1級から3級があります。2006年に開始されたそうです。こちらに詳しい説明があります。
環境測定分析士、環境騒音・振動測定士
パンフレットによれば、大阪府や鳥取県では入札の際に必要な業務責任者等の資格として環境計量士(濃度)、技術士(環境等)と並んで環境測定分析士が挙げられているそうです。環境計量士(濃度)と技術士(環境)、この2つの国家資格は 化学分析にかかわる資格(1) で取り上げましたが、どちらもかなり難度が高いと思います。これらに並ぶ資格とは、評価が高そうです。
試験範囲を確認したところ、環境計量士(濃度)と重なっているように見えます。しかし2級は3年以上、1級は5年以上の実務経験が必要であり、実技試験と面接試験もあります。3級はそのようなことはなく、選択式の筆記試験のみです。
以下は私の想像ですが、3級は環境計量士(濃度)にチャレンジ中の人が一定の実力を証明するため、2級と1級は環境計量士(濃度)では試験されない実務経験や実技スキルを証明するために利用されているのかなと思いました。
(間違っていればご指摘をお願いします。)

 食品分析士
食品分析士は 一般財団法人 食品分析開発センターSUNATEC が運営する認定制度で、2023年に始まったばかりの新しい資格です。詳しい受験案内などはこちらです。
食品分析士/食品品質管理士
栄養成分表示のための高含量成分の分析や、極めて低含量の有害物質の分析などに必要な法令、基礎的な分析操作、機器分析まで、幅広く体系的に学ぶことができるそうです。現時点では3級の案内だけが掲載されており、試験範囲は基礎的な化学や前処理に加えてGC、LC、原子吸光、ICP、ICP-MSの5つの機器分析です。受験はオンラインでいつでも可能(90分間)、不合格の場合には申し込みから180日間はもう1回だけ再受験可能だそうです。2024年度には2級も実施されるとのことです。

以上、化学分析と関係が深い民間資格をご紹介しました。
民間資格は国家資格とは異なり、法令によって特定業務と結びついているわけではないので、技能を客観的に証明したり個人の研鑽の目標にしたりといった利用法が中心になります。受験する場合は、目的と資格内容をよく検討してください。また、せっかく取得した資格は価値を持ち続けてほしいものですから、継続性も重要です。主催団体についてもよく調べてください。

個人的な感想ですが、どの主催団体の説明にも、日本の科学技術レベルを高めたい、後進を育てたい、との熱意を感じました。また、それぞれの資格は他にはない役割を持っていると思いました。国家資格でない資格を維持していくことには困難もあるでしょうが、資格者の方々への責任もありますから、主催者のみなさまには、対象の技術が必要とされる限り制度を続けていただきたいと思いました。

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