2012.05.12

「分析化学のべからず171」

最近、実務的な分析化学の本がちょくちょく出版されるようになりました。そんな中でも「ついに出た!」という感じの本です。
Bekarazu
日本分析化学専門学校 編
「分析化学のべからず171 準備から実験までの“やってはいけないこと”がわかる!」
JIPMソリューション
A5判、192ページ、定価1,890円(税込)

 主要目次(出版社のサイト)
 せんせのブログ(4/18)
 せんせのブログ(4/28)

編者の日本分析化学専門学校は、我が国で唯一の分析化学の専門学校で、桜の通り抜けと分析化学 でご紹介したように、校舎は大阪・造幣局にほど近いところ。一度訪問したことがあります。見学の高校生も白衣を着て、1セント硬貨を金ピカにしたり、きれいな炎を作る実験を体験していました。実験を重視する学校だと思います。

この本は、1項目が1ページにおさめられ、本文は簡潔で文字は大きく、下半分はイラスト、という構成です。イラストは執筆者(10名)の一人が描いておられます。漫画風のユーモラスな絵です。だいたい1時間もあれば楽に全部読めます。

「基本の所作」「実験操作」「器具の扱い」「試薬の扱い」「機器の扱い」の5章で構成されています。
機器の章で取り上げられているものは、液クロ、ガスクロ、分光光度計、原子吸光、赤外分光光度計、pH計、NMRです。

どんな「べからず」が挙げられているか、ふんだんに例を挙げながらご紹介したいところですが、これらの「べからず」の選び方こそがこの本の核心ですので、ほんの少数にとどめ、ネタバレなしにしておきます。

レベル的にはごく基本的なことから書かれており、特に安全面の注意が多いです。分析化学だけでなく化学実験一般の事項がかなり入っています。私にとっては、デシケーターのフタの閉めかた、アセチレンガスのボンベの内部がどうなっているか等の項目が新しい知識でした。また、あいまいになっていた事項の再確認が色々できました。

面白いのが「ティッシュをキムワイプ代わりに使うべからず」です。内容は「キムワイプをティッシュ代わりに使うべからず」だと思いますが・・・。いずれにしても、化学・バイオ系ならニヤリとしてしまう「べからず」ではないでしょうか?

対象読者は、社会人よりは学生向けのように思います。「実験室で大きな声を出すべからず」「実験室で走るべからず」といった項目があります。ガスバーナーがしばしば登場します。一方、手順書の順守・サンプルの取扱い・納期を守る・試薬や消耗品の在庫や交換時期確認といったことは書かれていません。機器については、オートサンプラーに関することと質量分析計に関することは触れられていません。

新人が試験室に配属されてくるこの時期、それぞれの職場で気になることが何かとあるのではないでしょうか。
わかりやすく親しみやすいのが本書の特徴です。心がけたい項目のページを拡大コピーして、月替わりでラボの壁に貼るといった使い方もできそうです。

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2012.04.18

お詫びと訂正:セシウム137の記事

前の記事 に間違いがあったので訂正しました。セシウム137の濃度の基準を一桁小さく書いていました。お詫びして訂正します。

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2012.04.14

1万Bq/kg以下のセシウム137は「放射性同位元素」でない

記事に間違いがありました。太字が訂正した部分です。申し訳ありませんでした。(4月17日訂正)

放射性の廃棄物について、香川さんという方から コメント をいただきました。

100bq/kgという、放射能汚染取扱い基準についてお尋ねします。
このレベルを超えるものを無資格の者に対処させる事は、法律違反なのではないでしょうか?

結論から言えば、137Csについては、1万Bq/kg以下の濃度なら放射線障害防止法の「放射性同位元素」に該当しません。ですから、この法律による管理対象になりませんし、放射線取扱主任者の選任も必要ありません。

 放射線障害防止法で定める放射性同位元素

私たちの身の回りのほとんどの物、また、私たち自身の身体も、放射線を放出しています。放射線の害を防止するためのいろいろな法律では、どの程度以上のものを放射性物質として扱うか線引きしています。

放射線障害防止法放射線障害防止法施行令 では「放射性同位元素」の定義をしていて、その具体的な要件は 放射線を放出する同位元素の数量等を定める件 の第一条と別表第一に書かれています。

ややこしいですが少し辛抱して読むと、137Csについては数量で1×104Bq、濃度で1×101Bq/gとされています。つまり、絶対量が1万Bq以下または濃度が1万Bq/kg以下なら、この法律で定める放射性同位元素でないということです。

科学的には137Csはたとえ原子1個でも放射性同位元素ですが、法律では少量のものは該当しないんですね。法律の言葉は時として科学的に不合理です。

 100Bq/kgの基準とは

ところで、香川さんがお尋ねの「100Bq/kgという放射能汚染取扱い基準」が何をさすかがわからない・・・という方のために。
おそらく、原子炉等規制法に基づくクリアランス基準のことだろうと思います。これについては環境省がわかりやすい文書を出しています。
100Bq/kgと8,000Bq/kgの二つの基準の違いについて
この中では100Bq/kgは「廃棄物を安全に再利用できる基準」と書かれています。原子炉の廃材等であっても、建築資材やベンチ等として再生利用可能なレベルということです。また、8,000Bq/kgは安全に焼却したり埋め立て処分したりするための基準です。

 焼却・埋め立ての基準は「放射性同位元素」の基準より低い

まとめると
100Bq/kg 再利用できる基準
8,000Bq/kg 焼却や埋め立てができる基準
10,000Bq/kg 放射性同位元素として特別な管理をする基準
ということになります。

焼却・埋め立ての基準は「放射性同位元素」の基準の8割になっており、2割の余裕幅をもって放射線障害防止法に抵触しない数字になっています。

それから、香川さんは環境省のパブリックコメント募集について私の意見をおたずねですが、このブログでは事実関係の解説だけにとどめていますので、すみませんが回答はひかえさせていただきます。

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2012.01.21

壷から出てきたヘビの正体は?

今週届いた「ぶんせき」の表紙を見て、思わずほっこりうれしくなりました。
分析機器を一通り勉強した人なら、この絵が何を表わすかわかるでしょう。
答えは下のほうに、スクロールすれば見えるようにします。ヒントはインド人。

Bunsekishi
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
では答え。表紙の説明を「ぶんせき」1月号から引用します。

表題「光ぶんせきスネークショー」
グラフィックデザイン:松本堅太郎(株式会社堀場製作所)
この作品は、粘土製作から撮影、編集、そしてレイアウトまで、すべての作業を松本堅太郎氏が一人で行いました。
今回のデザインは、ノーベル物理学賞受賞者であるチャンドラセカール・ラマン博士が、ラマン効果を発見した時の博士の驚きがテーマです。ラマン分光の原理をスネークショーに見たてました。インド人であるラマン博士が笛を吹くと(入射光をイメージ)、壷が振動して(分子振動をイメージ)、3色のヘビ(ストークス散乱、レイリー散乱、アンチストークス散乱をイメージ)が出てきて、博士が驚く(新たな発見)というストーリーです。

ラマン分光の絵なんですね。分子と光と思えば、壷もヘビもかわいいこと!
ヘビのクネクネが短波長の光ほどこまかくちゃんと作られているのも心にくいです。
「ぶんせき」の表紙は一年間同じですから、この表紙の冊子が12回届くことになります。
毎月、こちらで記事の一部のPDFが公開されています:日本分析化学会「ぶんせき」

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2011.10.31

○×問題、誤報はどれか(キログラム原器後の新標準)

昨日、キログラム原器に関する朝日新聞(2011/10/22)の報道が正確でなかったと書きました。(キログラム原器に替わる新標準は?
他のメディアはどう伝えたか気になったのでチェックしてみました。
並べたらなかなか面白い問題集になりました。どれが○でどれが×でしょう? 1号決議に照らして・・・。

日本経済新聞 重さの国際基準、120年ぶり見直しへ 「キログラム原器」から(2011/10/22 10:04)
現時点では記事は削除されているのでGoogleのキャッシュより。

新たな基準には複数の案が浮上しており、加盟国は今後、協調して調査研究を進める。日本の産業技術総合研究所(茨城県つくば市)が研究を進めているレーザー技術を用いた手法も有力案の一つ。早ければ4年後の総会で新基準が採用される。

読売新聞 キログラムの定義、120年ぶり見直しへ

そのため定義の見直しの必要性が指摘されていた。今後は、質量の単位を原子の数、エネルギー量など普遍的な形で定義し、それをもとに分銅を作製する。

産経新聞 「重さ」120年ぶり新基準 高精度測定へ複数案

新たな基準には技術的に異なる複数の案が浮上しており、加盟国は今後、協調して調査研究を進める。日本の産業技術総合研究所(茨城県つくば市)が研究を進めているレーザー技術を用いた手法も有力案の一つ。早ければ4年後の総会で新基準が採用される。

NHK キログラムの定義を見直しへ(10月17日 20:50更新)

それでは、今後検討されている新たな基準とは、どのようなものでしょうか。
これまでのように分銅に頼るのではなく、物理現象に基づいた、より普遍的な国際基準となります。もう少し具体的に言いますと、物理定数に基づいて、物体の原子の数から重さを決める方法などが検討されることになっています。

NHK 「キログラム」国際基準見直し(10月22日 4時6分)
現時点では記事は削除されているのでGoogleのキャッシュより。

今後は、日本の独立行政法人の産業技術総合研究所が進める最先端の研究に基づいた物体の原子の数から重さを決める方法などを用いることで3年後の次の総会に向けて、「キログラム」の新たな基準作りを急ぐことになりました。

答えは(ちょっと甘い採点ですが)
正確:日経、産経、NHK
不正確:読売

ポイントは、「定義」と「基準」のどちらの言葉を使っているか。
今回の総会では、キログラムの定義はプランク定数によることが決議されました。ただし、プランク定数を正確にどんな数値にするかはまだ決まっていません。今後何年もかけて多くの科学者が実験をして値を決めます。
さらに、その値を実験的に求めるためには、原子の数を数えるアプローチも重要です。つまり、産総研の研究も基準作りの一翼を担います。

ついでに言えば、CGPMのプレスリリースで、今までの総会は4年ごとに開催してきたけれどこれからは3年ごとに開くと書かれていますので、「4年後」と書いている産経の記述は間違い。NHKの「3年後」が正しい。

それにしても、新定義はプランク定数に基づくとする決議を明確に書いたのは、四大紙とNHKの中では毎日新聞だけのようです。プランク定数6.62606… ×10-34 Jsの最後のほうの数字がどうなるかよりも、これがキログラム原器にとって代わることのほうが、よほど大事件だと思うのですが。

プランク定数という言葉が難しすぎるなら、「(質量とエネルギーは等価なので)キログラムは光子のエネルギーとして定義されるようになる」でも良いと思います。

検索した中で、シェーマさんが作られたまとめページが光っていました。毎日新聞の記事を的確に選んだ引用。さすがです。
キログラム原器とプランク定数(Togetter)

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«キログラム原器に替わる新標準は?